IS-インフィニット・ストラトス- 欠けた歯車   作:生そば

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Episode.29

 

 ~SIDE:Agnes Alon~

 

「全員、動くんじゃねえ!」

 

 ドアを破らんばかりの勢いで雪崩れ込んできた男が三人、怒号を発する。

 何が起こったのか理解できなかった店内の全員だったが、次の瞬間に発せられた銃声で絹を裂くような悲鳴が上がった。

 

「きゃあああっ!?」

 

「騒ぐんじゃねえ! 静かにしろ!」

 

 オレはいち早く状況を把握して物陰に隠れる。

 シャルロットも同じように身を隠すが、ラウラだけは無反応でその場に立ち尽くしていた。

 

「何をしているんだ、バカめ」

 

 男たちはおそらく銀行強盗だろう。

 ジャンパーにジーパン。顔には覆面、手には銃。背中のバッグからは何枚か紙幣が飛び出している。

 三人のうち一人が天井に向かって銃を発砲する。

 威嚇であろうが、店内の客たちは悲鳴をあげた。

 

「大人しくしてな! 俺たちの言うことを聞けば殺しはしねえよ。わかったか?」

 

 すぐ後にパトカーのサイレンが聞こえる。

 それに気付いたその男は、扉を開けて再び銃を発砲。

 

「おい、聞こえるか警察ども! 人質を安全に解放したかったら車を用意しろ! もちろん、追跡車や発信器なんかつけるんじゃねえぞ!」

 

 幸い、弾丸はパトカーのフロントガラスを割っただけだったが、周囲の野次馬がパニックを起こすには十分だった。

 

「へへ、やつら大騒ぎしてますよ」

 

「平和な国ほど犯罪はしやすいって話、本当ッスね!」

 

「まったくだ」

 

 ショットガンに、サブマシンガン、リーダーがハンドガン。

 金を持っているのは子分二人のようだが、なぜリーダーはハンドガンだけなのか。

 明らかに札束の重さではない何かがリーダーの服を下に引っ張っている。

 

「はんだ、お前。大人しくしてろというのが聞こえなかったのか?」

 

 案の定、ラウラに気がついたリーダーがやってきた。

 

「おい、聞こえないのか!? それとも日本語が通じないのか!?」

 

「まあまあ兄貴、いいじゃないッスか! 時間はたっぷりあるんスから、この子に接客してもらいましょうよ!」

 

「あぁ? 何言ってるんだ、お前」

 

「だって、ホラ! すっげー可愛いッスよ!」

 

「お、オレも賛成っ。メイド喫茶って入ったことなくて……」

 

 二人揃ってテヘヘと嬉し恥ずかしな表情を浮かべる手下に、リーダーは眉間にしわを寄せながらソファにどかっと腰を下ろす。

 

「ふん。まあいい。ちょうど喉が渇いていたところだ。おい、メニューを持ってこい」

 

 ラウラはうなずくでもなく男たちを一瞥すると、カウンターの中にスタスタと歩いていく。

 と、オレは苦笑いをしていたシャルロットを発見する。

 向こうもオレに気付いたのを確認すると、オレは手話で『ラウラが仕掛けると同時に出るぞ』と合図する。

 すると、シャルロットはうなずいてくれた。

 やがてラウラが戻ってきて、テーブルに氷が満載された水を持ってきた。

 

「……なんだ、これは?」

 

「水だ」

 

「いや、あの、メニューを欲しいんスけど……」

 

「黙れ。飲め。──飲めるものならな」

 

 ラウラは突然トレーをひっくり返す。当然、氷水が宙に舞うが、それらを回転するような動作で掴み──弾いた。

 

「いってええっ!? な、なっ、何しやがっ──」

 

 氷の指弾。

 それをトリガーから離れていた人差し指に、突然の出来事に反応できずにいた瞼に、眉間に、喉に、一瞬で当てる。

 そして犯人の怒号より早く、男の一人の懐へと膝蹴りを叩き込んだ。

 

「ッざけやがって! このガキ!」

 

 いち早く痛みから復帰したリーダーが、さっそくハンドガンをぶっ放す。

 火薬の炸裂音を連続して響かせるが、しかしラウラには届かない。

 ソファを、テーブルを、観葉植物を、ドリンクサーバーを、店内のあらゆるものを盾にして、ラウラはその細身からは予想もつかないスピードで駆けていく。

 

「あ、兄貴っ!? こ、こいつッ──」

 

「うろたえるな! ガキ一人、すぐに片付けて──」

 

「──一人じゃないんだよねぇ、残念ながら」

 

 マガジンを切り替えたリーダーの、その背後に迫っていたのは見目麗しい執事服の美少年──もとい、美少女のシャルロットだ。

 

「なっ!? このっ──」

 

「あ、執事服でよかったかな。うん。思いっきり足上げても平気だし」

 

 そんなことを口にしながら、シャルロットはリーダーの拳銃を手ごと蹴り上げる。

 そしてそのままの勢いでショットガンの男の肩に、今度はかかと落としを叩き込んで無力化する。ゴキッという嫌な音がして、ショットガンを構えていた腕はだらりと垂れた。

 

「そんな、ガキ二人に──」

 

「いや、三人だ」

 

 リーダーは背後の声に振り返り、子分の一人が床に伏せているのを見つける。

 それをやったのは勿論、このオレ──アニエス・アロンだ。

 

「アニエス」「シャルロット」

 

 次の瞬間にはオレとシャルロットの回し蹴りがリーダーの頭部に直撃する。

 前後から挟むようにして叩き込んだそのコンビネーション技は、タフそうなリーダーを気絶させるには十分だった。

 

「ふぅ、終わったな」

 

 しばらくの間、しーんと静まりかえる店内。ジェットコースター展開に呆然としていた店内の客とスタッフは、のろのろと頭を上げはじめる。

 

「お、終わった……?」

 

「助かったの、私たち……」

 

「い、一体何が……」

 

 そしてオレは、気絶したリーダーの服をまさぐっていた。

 どうも顔の肉付きと腹周りの太さが合わないのだ。

 と、そこでようやくその謎が解けた。

 

「アニエス、何をしている?」

 

 ラウラが気になって近付いてきた。

 オレは何か切る物を探したが見つからず、仕方がないので拳銃で代用することにした。

 オレは拳銃をリーダーに向ける。

 

「ちょっ、アニエス何を──!」

 

 ダダダダダンッ!

 

 シャルロットが止めようとした時には、オレは全ての起爆装置と爆薬の信管、そして導線『だけ』を撃ち抜いていた。

 

「爆弾だ」

 

 リーダーが来ていた革ジャンの中には、軽く四〇平方メートルは吹き飛ばせそうなプラスチック爆弾の腹巻きがあった。

 

「び、びっくりさせないでよ。も~」

 

「ふむ、流石の腕だ」

 

「さて、二人とも。早く退散しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、危ない事しちゃダメだよ」

 

 寮に帰るなり、どこかで情報を得たのか簪にしかられてしまった。

 

「アニりんの執事服はちょっと見たかったかも~」

 

 と、隣で本音がお菓子を食べながら言う。

 三人でそれぞれ用意したものだが、オレが用意した物の中の@クルーズのクッキーはとりあえず好評だった。

 

「もう、本音。アニエスがまた怪我したらどうするの?」

 

「心配無用だ。アレくらいの敵、シャルロットとラウラがいたお陰で掠り傷ひとつ無かったぞ」

 

「それでもっ……。はぁ」

 

 どうやら反論するのをやめたらしい。

 オレが傭兵だったという事を思い出したのだろう。

 事件の件だが、寧ろオレがいなくても同じ結果だった筈だ。

 

「ところで、もうそろそろじゃないか?」

 

「うん。そうだね~」

 

 もうすぐ学園祭である。

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