生徒会主催の演目、観客参加型演劇『
「楯無、白式の反応が舞台裏に向かったぞ」
『了解。行ってくるわ』
「気を付けろよ」
『あら、心配してくれるの?』
「さっさと行けっ」
『釣れないわねぇ』
通信機からの楯無の残念そうな声を無視して電源を切る。
カーリーや五反田弾という少年も、学園中の生徒が一ヶ所に集まったせいで過疎化した校舎から帰った頃だろう。
ちなみに何故生徒たちを一ヶ所に集める必要があるのかについては、亡国企業が白式の強奪を目論んでいるとの情報があったからだ。
「織斑は楯無が何とかするだろう。オレは別動隊の警戒……の、つもりだったんだがな」
オレが学園の屋上から周囲を警戒していると、見知らぬISの反応をレーダーがキャッチした。
「速いな。しかもこの反応は……」
即座にオレもアヴニールを纏う。
ISの望遠システムが敵と思われる影を鮮明に写してくれる。
「BT二号機」
一見蝶のように見えるシルエットはブルーティアーズ搭載ISの二号機、サイレント・ゼフィルスに間違いない。
オレはロックキャノンを放つが、向こうは避けようともしなかった。
どうせ威嚇だと分かっていたのだろう。
「よぉ。何しに来たんだ?」
「…………!?」
サイレント・ゼフィルスのパイロットの顔は、そのほとんどがバイザーによって隠されているためよく分からないが。
何やらオレの顔を見た途端に驚いたようだった。
「お前の仲間の所へは既に生徒会長様が向かってるぞ」
「…………」
「だんまりか。ま、いいさ。バックアップとして来たんだろうが、ここから先へは行かせないから、なっ!」
スラスターを吹かしてゼフィルスに斬りかかる。
ゼフィルスのパイロットは無口なのか、それとも声を出さないようにしているのか。恐らくは後者だろう。
一言も発することなく、オレから距離を取りブレードを展開した。
「初めての実戦だ。ひとっ走り付き合えよ」
ちなみにこれは簪に影響されて、ただ言いたかっただけ。
「カートリッジ、ガトリング!」
ロックキャノンが変形し、ガトリングに変わる。
「────!?」
もう一度キャノン砲だと思っていたのか、変形した瞬間にまたも驚くゼフィルス。
高速でばら蒔かれる弾丸を避けながら、ゼフィルスはライフルを構える。
「悪いな。こっちは簡単に間合いを詰められる」
トリガーが引かれる前に、ゼフィルスに接近する。
ブレード同士で鍔迫り合いの中、そこで初めてゼフィルスのパイロットが声を発した。
「お前は、誰だ」
「フランス代表候補生、アニエス・アロンだ」
目の前にいるゼフィルスを、ロックキャノンをこん棒代わりにぶん殴る。
そして距離が離れた所に砲口を向ける。
「カートリッジ、スナイプ」
ロックキャノンが変形し、スナイパーライフルに変わる。
すかさずトリガーを引き、ゼフィルスに命中させる。
「たかが単発のライフルだ。威力もそこまである訳じゃない。だが──」
「────!?」
ゼフィルスの異常にパイロットが気付く。
「──これは只の弾丸じゃない!」
ロックキャノンのカートリッジのひとつ。
その名は『G-1スナイプ』といい、このライフルの弾丸には高性能なISのシステムを短い時間だけ混乱させる効果がある。
ゼフィルスはその場に停滞して、オレがルミエールで切りかかっても動かない──否、動けないのだ。
戦闘に置いて身動きが取れないのは致命的な物。
ルミエールの刃でゼフィルスの頭部を切りつける。
シールドで防がれないように、頭部のバイザーを叩き割る。
「なっ!?」
驚いたのはオレ。
何故ならバイザーの下から現れたゼフィルスのパイロットの素顔が、織斑千冬にそっくりだったからだ。
織斑千冬ではない。しかし、顔はそっくり。
織斑は千冬と一夏だけではなかったのか。
ドカァン!
「なんだ?」
「おい、ガキ!」
ボロボロになったスーツに毛先が焦げたロングヘアーの女が、爆発に紛れて第四アリーナから出てきた。
と、ゼフィルスのパイロットはオレにレーザーガトリングを浴びせながら、その女の所へ降り立つ。
「迎えに来たぞ、オータム」
「てめぇ……、私を呼び捨てにするんじゃねぇ!」
ゼフィルスはオータムを掴み、ビットで牽制しながら飛来した方向へと離脱していく。
「くそっ、待て!」
アヴニールの速さなら追い付ける──と、思ったのも束の間。
ビームが弧を描いて曲がり、オレの行く手を阻む。
(偏光制御射撃だと!?)
現在のBT適性の最高値のパイロットはセシリアのはず。
そうこうしている内にゼフィルスと女性の影は遠く離れていってしまい、ビットは用済みとばかりに自爆した。
「逃がしたか……」
「~♪」
楯無は学園祭の後、鼻唄を歌うほど機嫌が良かった。
聞いてみると織斑と同室になる権利を手に入れたらしく、更には織斑を生徒会に引き込むことに成功したらしい。
しかしこれでは生徒会に不満を持つ者が続出するので、織斑の生徒会での仕事は各部活にマネージャーとして派遣されるというもの。
「ところで、楯無」
「ん、何?」
「織斑姉弟の他に、もうひとり織斑がいると思うか?」
「……どういうこと?」
「織斑先生にそっくりの人物を見た気がしたんだ。裏社会に通じている楯無家なら何か分かるんじゃないかと思ってな」
「確かに表向きじゃあの二人だけよね。でも、そういう事なら先生か一夏君に直接聞いた方が早いんじゃない?」
「社会に知られてはいけないから、裏の事実になるのだろうが」
「まあ、それもそうね」
千冬はともかく、一夏は家族思いな性格だ。
もうひとり家族がいると知ったら放っては置かないだろうし、千冬に関しても同じ事が言える。
いや、千冬なら何か知っているのかもしれない。
「さて、これから学園長に話があるから。アニエスは自分の部屋に帰ってなさい」
「そうするとしよう」
「あっ、そうだ。アニエス」
「どうした?」
「簪ちゃんは最近どんな感じ?」
「最近は、専用機を完成させようと頑張ってるぞ。オレと本音も手伝ってはいるが、難関なのは荷電粒子砲とマルチロックオンシステムだな」
アヴニールには生憎と荷電粒子砲は付いていないし、近くにそんなサンプルデータがあるとすれば織斑の白式か、楯無に直接頼むしかない。
しかし簪は楯無に手伝ってもらう事を嫌がるだろうし、織斑が気に入らないらしい。
どっちかというと織斑の方が解決しやすいのだから、何か対策を練ってみるとしよう。
オレが過去に来なければ、織斑が打鉄弐式の整備を手伝ったという話であったし。
「そうなの。ありがと」
「オレの目的にも必要な事なんだ。どうってことないさ」