「やはり読んでいたか。アニエス・アロン……」
ゼフィルスのパイロットは、高速で向かってくる小さなISに悪態をついた。
何となく予感めいた物を感じていた彼女だったが、まさかレース途中にコースアウトして武器を持ってくるとまでは思っていなかった。
ロックキャノンをランス形態にして突っ込んでくるアニエスを、ゼフィルスのビットで迎え撃つ。
しかしアニエスの勢いは衰える事なく、あっという間に目の前まで矛先が迫る。
「ぐっ!」
辛うじてブレードで受け止めたが、重い一撃で後方へ吹き飛ばされる。
体勢を立て直し、敵を睨み付けようとするパイロットだったが、既に目の前にアニエスの姿は無かった。
「上っ!?」
「はぁぁぁあああ!!」
センサーが教えてくれた方向に視線を向けると、ブレードを振りかぶるアニエスがいた。
目は見開き、以前は感じられなかった明らかな殺気がゼフィルスのパイロットを貫く。
そのせいか、ゼフィルスのパイロットはワンテンポ遅れて防御の姿勢を取った。
鍔迫り合いながら、アヴニールの出力で地面へと押し付けられる。
「織斑マドカだ」
「はっ?」
「亡国企業の織斑マドカ。織斑一夏を殺し、織斑千冬を越える者の名前だ。覚えておけ!」
「――――っ!?」
ゼフィルスのパイロット『マドカ』の名乗りの直後、アニエスはスラスターを逆方向に使ってその場から逃げる。
その瞬間、弧を描いたレーザーがマドカの目の前――アニエスがいた場所を通過した。
「織斑、マドカだと?」
「お前の名前を今一度聞きたい」
「アニエス・アロンだ」
「(では……こいつが?)」
アニエスの名前を聞いて、マドカは小声でブツフツと一人問答をし始める。
「アロンさん。下がってくださいな!」
突然、セシリアの声が響く。
一夏と箒は避難誘導に行っているらしく、それ以外の全員がアニエスとマドカの所へやってくる。
「サイレント・ゼフィルス、逃がしませんわ!」
アニエスが離れると、四機による多角攻撃がマドカを襲う。
が、マドカはそれを軽々と避けて見せた。
「皆、オレも――っ!?」
自分も加勢に入ろうとした直後、アヴニールのセンサーが新手を捉える。
「もう、オレたちを放って置いてくれ……」
喉の奥から発せられた悲しい響きを持ったその声は誰にも届かなかった。
アニエスはマドカを睨み付けてから、新手の方向へ向かっていく。
新手は四機。その中の二機は大型であるとの反応あり。
残りの二機は重なるように移動しているため、片方は支援機かそれに準ずるものだろう。
「見えた。また新型か……」
まず目についたのは、やはり大型の二機。
六本の脚と人型の上半身がくっついた、アグリッサと表示が出るもの。
もうひとつは甲殻類のような概観のザザムザー。
残りの二機にはどちらも『unknown』と表示が出ているが、望遠機能が捉えた様子は黄色のIS二機だった。
「アニエス、援護は――」
楯無からの通信に対し、アニエスは重い口調で先回りした。
「いらん。お前の方にも敵がいる筈だ。そっちに行け」
「わ、わかったわ」
気圧されなから通信を切られ、アニエスは少しだけ罪悪感を覚えたが、すぐに目の前の敵に意識を向ける。
先攻はアグリッサとザザムザー。
プラズマキャノンとエネルギー砲がアニエスに襲い掛かり、アニエスがそれを避けると、ザザムザーがバルカンで応える。
アニエスはロックキャノンをザザムザーへと向け、カートリッジをチャージショットにして放つ。
ところが、ザザムザーの上面にエネルギーシールドが張られ、弾が弾かれてしまう。
「エネルギー質のシールドか。遠距離攻撃じゃ効果は無さそうだ。ならっ」
遠距離がダメならゼロ距離で直接攻撃を。とアニエスはブレードで斬りかかる。
するとアグリッサが六本の脚でそれを遮り、プラズマフィールドを展開する。
アニエスは一瞬だけフィールドに囚われ、即座に脱出するがかなりのシールドエネルギーを失ってしまった。
それにしても、とアニエスは小さな二機を見た。
ザザムザーとアグリッサの攻撃の隙をフォローするくらいならできそうなものを、その二機は全く動こうとしない。
「この二機のデータ採取という訳か……」
ザザムザーはクローがついているものの、やはり本領を発揮するのは遠距離戦闘。
対してアグリッサは近から中距離戦闘を想定されているようだ。
「手こずらせてくれるっ」
アニエスに向けて、大型二機による一斉砲火が行われる。
それをブレードだけを持ち、ビームや弾丸の間を塗って接近し、アグリッサの下半身を切りつける。
今度はダメージを負おうが構わない。
次にザザムザーにブレードを突き刺し、その巨体を蹴ってアグリッサの上半身を切り飛ばす。
更にスラスターを吹かし、黄色い二機に急迫してブレードを振るうが、相手はわかっていたかのように避けた。
(見たことのない機体だ。しかもデカイ方は全身装甲ときた)
色は同じでも見た目が対照的なアニエスの知らないIS。
小さい方は王冠のような黒い頭飾りをつけていて髪は黄色くポニーテールのように後ろで1 つに束ねているが、バイザーのせいで顔は見えない。
また三本のロングソードを携え、黒のロングコートの上に黄色い西洋甲冑に似た鎧を着たような外見をしていて、どこかアヴニールと似た雰囲気を持っている。
もう片方は巨体と地面に簡単に接触してしまうほどの長い腕、イカを連想させる流線型の黄色い鎧に身を包んだような姿だが全身装甲のため、例によって顔は見えない。
小さい方は鎖を大きい方に巻き付けて手綱のようにして扱っている。
回避や突進などの動きは大きい方が担当していて、その巨躯のわりに機敏に動くため、高い素早さと防御力を合わせ持っている。
その上に小さい方が乗っているため死角が少ない上に、ロングソードによる連撃が可能だ。
連携がものを言うだろうが、目の前の二人はさきほどのアグリッサとザザムザーなど比べ物にならない程のコンビネーション能力を持っている。
(亡国企業に新型を開発する技術も資金も、ましてやISのコアがあるとは思えないな。なら、バックにどこかの企業がついている可能性もある……いや。だとしても、コアごと提供する所があるのか?)
ISのコアはどの国も喉から手が出るほど欲しい代物だ。
いくら金を積んでもコアを拝借できるとは考えにくい。
そうなると、亡国企業はどこかの国の回し者ということだ。
(なるほど、そう考えれば戦争が起こっても不思議ではないか)
ある国が他の国にISで侵攻したとなれば、世界中の国々を敵に回したこととなり、その国は報復の対象となる。
奪われたコアやISはもとの国へ戻されるか、行方不明という建前のもとで別の国がネコババするのだろう。
亡国企業は首謀者となる国を悟らせないために作った、もしくは取り込んだか。
どちらにしろ、亡国企業の壊滅はアニエスの目的に必要であると判断できた。
すると、アニエスの動きが止まる。
「オレは……どうしたいんだ?」
その場から動かないのが好機と見たのか、黄色い二機はアニエスに突撃してきた。
ロングソードがアニエスの頬を掠め、お返しと言わんばかりにアニエスは小さいISを大きいISから引きずり下ろし、代わりに自分が乗る。
当然大きいISは振り払おうと無茶苦茶に動き回るが、アニエスは相手の装甲を掴んで離さず、その隙間にブレードを滑り込ませた。
ビリビリと紫電が走り、更に大きく動くことでようやくアニエスを降り下ろすことができたが、大きいISの方はかなりのダメージを受けてしまった。
仲間を心配して再び二機が寄り添うようにして集まるが、そこに現れた隙をアニエスは見逃さず、ロックキャノンを向けた。
「ロック……」
キュゥゥゥン…… という音とともにロックキャノン内部のエネルギーが溜まる。
「ファイア!!」
引き金を引くと、収束したが一気に放出され黄色い二機を襲う。
位置の関係で小さい方が的になっていたのだが、それを大きい方が身を呈して小さい方を守り、真っ正面からロックキャノンのチャージショットを受けてしまう。
するとエネルギーが危険値に入ったのか、大きいISは重力に従って地面へ真っ逆さまに落ちていった。
それを追う小さいISをアニエスは逃すまいと砲口を向けるが、それに気付いた相手は煙幕を放出し始めた。
アニエスは苛立ちを覚え、やたら目ったらにロックキャノンを撃ちまくる。
やがて煙幕が晴れるがそこに敵の姿はなく、アニエスは仕留められなかった事に舌打ちをしてから踵を返して帰って行った。