織斑の放課後稽古が始まってから二日後、オレは織斑勢力の一角『セシリア・オルコット』に接触を試みた。
それは以外と簡単だった。
何故なら同じ一組で、その上向こうからも話し掛けてきたからだ。
時刻は昼休み、セシリアと共に食事を取りながら話をする。
「織斑さんの稽古に付き合っていると聞きましたわ」
「織斑には強くなってもらいたいからな」
「貴女も彼にご執心ですの?」
「オレは色恋で心揺らぐ程、乙女ではないのでね」
「そういう事にしておきますわ」
オレが織斑を好いていると誤解させて奥のもひとつの手かもしれない。
そうすれば自然と織斑勢力のメンバー全員に接触できるからな。
案外この間の道場での出来事で箒にはそう思わせられたかもしれない。
「ところで、貴女は何か武道の経験がおありなのですか?」
「? なぜそんなことを?」
「先日、篠ノ之さんと織斑さんが稽古をしていた時のことを聞いたのですわ。その時のアロンさんの教え方が適切だったと。実は剣道部だったことが?」
「竹刀は握ったことすらないが、ナイフならある」
「ナイフ? サーカスでもやっていたんですの?」
「まあ、そんな所かな」
サーカスなんて見たことすらない。
オレがやっていたのはサーカスなんて見せ物ではなく、
「では、今度はこちらから質問をさせてもらおうか?」
「どうぞ。よろしくてよ」
「代表候補生なのだから、セシリアも毎日訓練をしているのだろうな?」
少し間があって。
「……も、もちろんですわ!」
こいつ、嘘だ。
「顔に書いてあるぞセシリア。そうだな、お前もこれから放課後は毎日訓練をするといい。射撃能力やビット制御だけでなく、近接格闘戦における技術も磨くべきだ。オレも付き合ってやる」
セシリアは近接格闘戦闘に弱かったと『未来の織斑さん』からの情報である。
「し、素人の貴女に言われる筋合いはありませんわ!」
「近接格闘術においては知っての通りだし、実は射撃にも覚えがあるのでな。それにオレはお前にも強くなってほしい」
「私が弱いとでも?」
セシリアにはオレの言葉が挑発に聞こえたのか、眉をつり上げる。
「そうは言ってない。ただ、油断しているようでは織斑に出し抜かれるぞと言いたいのだ」
「ふんっ。素人に出し抜かれる程弱くはなくってよ」
「ほら、それが油断だというのだ」
「むっ。いいでしょう。では訓練に付き合っていただきましょう。そこで貴女の手など借りる必要のないことを証明して差し上げますわ!」
場所は第三アリーナ。放課後。
「ところで、よかったんですの? 貴女は織斑さんの稽古につきあっていたのでは?」
オレは訓練機の使用許可を貰い、ラファール・リヴァイヴを纏っている。
「織斑には毎日稽古をしろと言ったが、オレは毎日稽古に付き合うとは言ってない。クラス代表決定戦までは一日置きにふたりともの訓練に参加するつもりだ。心配するな。贔屓なんてするつもりはない」
「貴女にはそれで何のメリットが?」
「代表候補生の技術を目の前で見ることができるからとでも思ってくれて良いさ。さて、始めるか」
アリーナの反対側に的が出現する。
「まずセシリアの技術が見たい。次々と出現する的を撃ち続けてくれ」
「そんなことでいいんですの?」
そう言って専用機ブルー・ティアーズを纏うセシリアはスナイパーライフルのスコープを覗き込む。
だが、甘く見てはいけない。
この射撃訓練は、的を撃ち続けていくと的が動きがす仕組みになっている。
しかも的には番号が書かれていて、その数が大きくなるほど狙いにくくなっていくのだ。
遠距離射撃型のブルー・ティアーズと、その操縦者セシリア・オルコットで、果たして何処までクリアできるだろうか?
「こんなの楽勝ですわ」「むっ、なかなか……」「ちょっとキツいですわ」「あぁ、もうっ。ちょこまかと!」「そんなのありですの!?」
と、こんな風にセシリアのイライラゲージは溜まっていった。
記録は『56』。この射撃訓練システムは命中率が三割を切った所で強制的に終了させられる。
声からも分かる通り、初めは簡単でも難易度が上がっていくにつれて命中率が下がっていったのだ。
「射撃特化型にしては低めの成績だな」
「うるさいですわっ。50番目から急に難しくなるんですもの!」
まあ、候補生にしては優秀な方か。
では次に近接格闘術だ。
「セシリア、近接武器を展開しろ」
「えっ、……むむっ」
「…………」
セシリアが近接格闘戦が苦手だった理由は、近接格闘用の武器を即座に展開出来ないからか。
「まだか?」
「うるさいですわっ。ええいっ、インターセプター!」
セシリアは武器の名前を呼んで強引に展開する。
展開に時間がかかりすぎだ。
せめて一秒台にまでは縮めたいものだ。
「では、これから近接武器だけを使って模擬戦をしよう」
「き、近接武器だけですの?」
「織斑のISが近接戦闘型だったらどうする? 残念だが接近されたらお前は逃げるしかないぞ」
「そんなもの。懐に飛び込ませないようにすればいいのですわ」
「では、それをオレで試してみろっ」
オレはリヴァイヴのスラスターを吹かし、セシリアに斬りかかる。
予め近接武器を展開させておいた為防がれてしまうが、候補生ならそれくらいでなくてはならない。
「いきなりではありませんの!?」
「実践では意表を突かれるのは珍しくないだろ」
セシリアは距離を取り、近接武器を解いてライフルを構える。
「では、行くぞっ」「いきますわっ」
オレが地面を蹴ると同時にセシリアが射撃を開始する。
それを地表近くで躱しながら、機会を伺う。
「セシリア、お前の射撃能力は確かに高い。だが、それ故に読みやすい!」
一射ごとの間は極短いが、セシリアの苦手な動きは先程の射撃訓練で見ている。
「これは、先程の──っ!?」
気付いたらしいが、さてどう対応する?
「行きなさい、ティアーズ!」
背部の装甲から、ブルー・ティアーズの名前の由来にもなったビット兵器が飛び出す。
その数、四。
こちらも訓練機、オレが未来で使っていた愛機の先代機であるが行けるか?
いや、──
「そうする必要があると見た!」
そのレーザーの量はまるで弾雨。
それを掻い潜って、セシリアに近づこうと試みる。
「本当に近接武器だけで戦うつもりですの!?」
「当然だ」
ブルー・ティアーズのエネルギーが切れ、本体へ戻ろうとする瞬間に合わせて、
一気に最高速まで加速したリヴァイヴの装甲を叩き付けて、セシリアの姿勢を崩す。
さらにそこへブレードで斬りつけ、ブルー・ティアーズのシールドエネルギーを削り取る。
セシリアはそのまま地面に落下する。
ISがあるから怪我はあるまい。
「ブルー・ティアーズを撃っている時もそうだが、撃ち終わった後、本体に戻ろうとする時にも動けないのが難点だな。近接格闘型のIS乗りなら今のような戦法はすぐに考え付く」
地面に落ちたセシリアのもとへ、ゆっくりと滑降する、
「貴女、本当に一般生徒ですの?」
「もちろんだ。少し優秀なのは認めよう」
「少しどころではありませんわ」
そう言えばセシリアは『女子の中だけでは』首席入学だと言っていたな。
オレが試験を受けた時期が遅かったからな。
そして今日も簪のカタカタ音を聞きながら──と、その前にココアを差し入れた。
すると少しカタカタ音が小さくなった気がした。