今回の無人機は、前回と比べて全ての面に置いて強化されている。
しかし一番の特徴はISの絶対防御システムを阻害するジャミング機能だ。
こればっかりは、ISの弱点と言っても良い。
ISは大抵、絶対防御システムがある事を前提に作られているため、生身が剥き出しの所が生まれる。
そこにシールドが展開できないなどという異常が起これば、操縦者の安全面は大幅に下がってしまう。
攻撃をまともに受ければ命の危険がある。
だが、まだこの時点では未完成なのか、あえてそうしてあるのか、完全にシールドを張れなくするようにはなっていない。
『やっほー、アミちゃーん』
「博士……」
オレが上空に辿り着くと二機の無人機うち一機が、篠ノ之束の声で話し掛けてきた。
『やっぱり邪魔しに来てくれちゃったねー』
「当たり前だ。まったく……こんな事をするから、オレは最初アンタが戦争を起こしたんじゃないかと思ったんだぞ」
『それは違うよ、断じてね。寧ろ私は戦争には反対だよー』
「なら何故、こんな事をする?」
『束さんのひ、み、つ♪ とにかくアミちゃんは私の邪魔だから、この子と戦って貰いまーす♪』
「────!」
次の瞬間、斬りかかってくる無人機。
よく見ると両方とも他の無人機とは形状が異なっていた。
下の方にいるのは右腕に巨大ブレード、左腕にエネルギー砲を携えた物だが、オレの相手は片方がよりコンパクトになっていた。
ハッキング機能が付いているのはさほど変わっていない。
しかしもう片方と言うと、ジャミング装置は取り外され、両腕とも細く、肩と腰と腕に計八本のブレードを携えている。
『この子は対アミちゃんように改造した無人機、ゴーレムⅢa。この前みたいに甘くはないからね♪』
ジャミング装置が付いている方は防御の姿勢のまま動かず、八剣の無人機は素早く斬りかかってくる。
機械仕掛けとは思えないほど滑らかな動きで繰り出される斬撃は、的確にオレの急所を突いてくる。
オレと戦うように設計されたと言うことは、アヴニールの性能を調べ尽くしてあるのだろう。
あの天才が作り出した物だ。目的が何なのか気になる所ではあるが、それを気にしていられるほど甘い敵では無いだろう。
それに戦っている間は、それに集中しているお陰で嫌な事が忘れられ──
『そうそう。アミちゃん、最近元気が無いらしいね』
──いや、忘れられそうもない。
『私がアミちゃんが消えちゃうなんて言ったからかな?』
「…………」
オレは無人機の攻撃を凌ぎながら、いつか博士に言われた言葉を思い出した。
──タイムスリップの技術は作ったことないからまだ分かんないけど。
──例えば、未来が変わったときにアミちゃんが消えたり、
──もしくは決して未来は変えられないんじゃないかな♪
その言葉の後に、天才なりの理論を聞いて思ったのだ。
もし未来が決して変わることが無いのなら、オレのやっている事は無意味なのだと。
そしてもし未来が変わった時、オレという存在が消えるかもしれないと。
どちらもオレには受け入れがたい未来だった。
決して変わらないのは自分が否定されたようで嫌だし、消えるのが嫌だと思うのは、オレが自分で思ってた以上にここの生活が気に入っていたのだと知った。
オレの頭の中はぐちゃぐちゃだ。
『そもそも、この束さんの邪魔をしようというのが間違いだよ』
ぷんぷん。と付け加えてぶりっ子前回の声が、無機質なISから聞こえてくる。
『アミちゃんの話を聞いて、それから束さんなり考えたんだ。変えられないのなら、IS戦争を即終わらしてしまえば良いじゃないと』
それは違う。IS戦争は、何者かの手によってコアの製造法が明かされ、ISの製造技術が急速に発展したが故に起こった物だ。
オレが使っていた愛機は第三世代型だったが、オレの知るISは既に第四世代型が量産されていたんだ。
絶対数を増やした保有ISで、ひとつの企業がテロを起こしたのが戦争の始まり。
オレはその企業が、コアの製造法を暴いたのではないかと思っている。
その企業さえ突き止めれば良いんだと、あの時天才にも相談したというのに。
その天才はどういう思考回路を持ってか、戦争を即座に終結させてしまえと思ったらしい。
『もしかしたら君のせいかもね。アミちゃん』
「オレの……せい……?」
『もしかしたら、アミちゃんがきっかけで戦争が起こるかもしれないねって言ったんだよ』
「馬鹿な」
『あれれ、そうかい? でも、アミちゃんの意見で束さんはISの開発を急ごうかと思っているんだけどな?』
「それが戦争に繋がると思うなら、今すぐ止めればいいだろう!」
『天才の考えは凡人には理解できないんだよ』
「ふざけたことを────っ!」
その瞬間、八剣の無人機が、背中から新たに六本の腕を伸ばし、剣を取って斬りかかってきた。
八本の剣を同時に扱うのは、人間には難しい。
複数のビット兵器を扱うセシリアでさえ、空中で停滞しなければならないのに、それを激しく動く近接戦闘中に使おうというのは至難の業だ。
天才が手掛けたシステムによる制御がもたらす、人間には出来ない動き。それが無人機の利点でもある。
「ぐっ────」
次第に劣勢となり、ついには上空からアリーナのシールドに叩き付けられ、更にそこへレーザーによってアリーナの中に押し込められた。
それとほぼ同時に、複数のピットから爆発と共に織斑、簪、楯無、箒の四人と、まだ稼働中の無人機が現れた。
『アミちゃん。私が何故ISを作ったか分かる?』
他の人間に聞かせないためか、プライベートチャンネルを通して束が話す。
『力の無いものに力を。救われないものに救いを。不条理ですら吹き飛ばしてしまうほどの力を、そんな人たちに与えるため。とりわけ、自分が自分であるために戦おうとする子には胸を打たれるよ』
「…………?」
『分からなくて結構。でも、IS戦争に関してはアミちゃんに一任しまーす。頑張ってね♪』
「なん、で……」
『アミちゃんがいなかったら、私はずっと目的のために行動すると思う。で、その結果戦争が起きちゃったとしても、私は目的の方を優先するかな。でも、戦争には反対だから、アミちゃんに任せるの』
何て人任せな。
いや、そうだった。篠ノ之束という人物は家族と織斑姉弟以外は殆どどうでもいい、取るに足らない存在だと思っている。
例えそれが何億人だったとしても、自分の興味の外であれば見向きもしないのだ。
『そもそもなんでアミちゃんはこんな所にいるの? 戦争を起こした引き金となる人を探すなら、寧ろ裏側から探した方がいいんじゃない?』
確かにそうだ。
ISのコアの製造法を暴くのなら、公の組織ではない。
篠ノ之束に見付からないような所でなくてはならない。
『何回も言うけど、ハッキリ言って邪魔だよ。君』
「…………」
『前回はゴーレムのテストだから良かったけど、今回はダメだよ。それでも邪魔をすると言うのなら、この子を倒してから行くんだね!』
ビシィィィ! と無人機がポーズを取った。
遠隔操作もできるのか、この無人機は。
「邪魔、か……」
『さっさと間違いに気付いた方がいいよ。今なら、その筋の企業に入れてあげるから』
そんな中、凄まじい爆発が起こった。
視線を向けると、さきほどの四人が無人機を破壊したところのようだった。
お互いの健闘に、親指を立てる四人。
オレはあの輪の中にいたかった。
死を確信した時、来世は普通の人間として生きたいと夢見た。
そうだ。これは夢(来世)じゃない。現実(今)だ。
何も成し得なかったオレが、四十年という時を遡り、そして今何を成すか成さないかで迷っている。
「アニエス?」
織斑がこっちに気付き、エネルギーが殆どないまま、装甲もぼろぼろのまま、オレと無人機の間に立ちふさがる。
「大丈夫か、アニエス!」
「そんなんで戦う奴があるか、逃げろ。この馬鹿」
「アニエスだってボロボロじゃないか」
篠ノ之束からの通信はない。
織斑が来た事で一度通信を切ったらしい。
「一夏!」
織斑を追って、箒までもがやってきた。
簪は戦闘で負傷した楯無を運んでいる。
簪が正解だ。織斑も箒も間違い。
こんな身勝手な事で戦争を止めるべきか否かを悩んでる奴なんか放って置けば良い物を。
あっ、こいつらはオレの事は知らないんだったな。
「箒、織斑を連れて逃げろ」
「俺は逃げないぞ、アニエス」
織斑が敵に向いたまま言った。
「アニエスはいつも、何かがあると一人で片付けようとするだろ」
「そんな事はない」
「いや、あるね。夏の時だってそうだった。そして今もだ。アニエスは何かに悩んでいるけど、俺に相談したのはあの意味の分からない問答だけだった」
あれその物がオレの悩みでもあるんだが。
「この戦いが終わったら、それが何なのか聞くからな」
「オレが言わなかったら?」
「言うまで聞き続ける」
「勝手にしろ。オレは絶対に言わないからな」
「ほら、そうやって抱え込む」
「…………」
「俺には千冬姉や楯無さんみたいな強さも無ければ、束さんみたいな天才でもない。男でISを動かせるっていうだけの俺かもしれないけど、友達が目の前で苦しんでたら、力になりたいって思う」
「馬鹿め。そんなんじゃ早死にするのがオチだ」
「セコく長生きするくらいなら、その方がいい」
あぁ、そうか。
「俺は俺を誤魔化したくない」
こんな馬鹿がいたんだったな。
見ていたら、大抵の悩みなどどうでも良くなるくらいの馬鹿が。
俺は俺を誤魔化したくない。
オレはこの学園の生活が好きだ。
未来を変えることも、学園生活を満喫することも、両方ともしたいと思いながら、どちらかが危うくなっただけでどちらを選ぶべきか迷って。
世界と自分、どちらかで迷っている自分が嫌で、誤魔化して。
「アヴニールの、状況は……?」
シールドエネルギーはまだある。
が、ウィングスラスターにダメージがあるせいで機動性に難あり。
だが、瀕死の状態の白式よりはマシだ。
「箒、もう一度言う。織斑を連れて逃げろ」
「えっ、私は……」
「アニエス、いい加減に──」
「オレも!」
直後、ふわっとオレの頬を風が撫でる。
その一瞬の間で、首についたプレートから声が聞こえた気がした。
――まだ、戦うの?
勿論だ。オレにできるのは、戦うことだけだから。
――それがどんな結末を招く事になっても?
未来の事なんて誰にも分からない。
だから人は、ただ己の信じる道を突き進むのだ。
その結果、何も変わらなかったとしても、その過程で己を突き通せたのなら。
たが、オレは違う。変えるのだ。絶対に。それ以外は許さない。
「オレも、オレを誤魔化したくなくなった」
「アニエス?」
スラスターへの負荷を承知で、瞬時加速を使用。
バンッ! と鋭い加速と、剣の突きを繰り出す。
ゴーレムはそれをシールドで防ぎ、間髪を入れずに八本の剣がオレを襲う。
「…………ない」
オレはこの学園を、織斑たちを守ると決めた。
オレがいたふざけた未来から。そうであったクソッタレな運命から。
なら、オレは叫ぶ。
「……じゃない」
その行為が、己を消し去るような事であっても。
オレがここに居ることは、絶対に──
「間違いなんかじゃない!」
ぱっと光の粒子が、オレの体に集まる。
固い決意を胸に、相棒の新しくなった名前を呼ぶ。
「来いっ──
──ブラック★ロックシューター!」