IS-インフィニット・ストラトス- 欠けた歯車   作:生そば

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Episode.42

 

『アハハハハッ! 本当にそっくりだぁ!』

 

 連絡としてBRSを纏った写真と一緒に報告した。

 するとナフェが大爆笑。画面の前にいない社長と副社長を除いて他の社員も全員が笑いをこらえていた。

 

「で、どういう事なんだ。これは」

 

『総督と瓜二つなのは……まあ、偶然だろう』とマズマ。

 

『それよりも、ブラック★ロックシューター……装備の名前だけでなく、機体の名前まで変わるとはねぇ』とミー。

 

『ねぇねぇ、アニエス。今度、この姿で総督の歌を歌ってみてよー』

 

 アハハハハ! とナフェはまだ笑いが止まらない様子。

 いい加減ムカついてきた。

 

「断る」

 

『あぁ、待て。アニエス』

 

 通信を切ろうとすると、マズマが引き留めた。

 

「何だ?」

 

『一応、アヴニール用に用意して置いた新装備だが。来週送る予定だったが、第二移行をして調整が必要になった。だから遅れる。もしかしたら、一度こっちに戻って貰うことになるかもしれないから覚えておけ』

 

「分かった」

 

『ねぇ、アニエ──』

 

 通信終了。

 終始ナフェが五月蝿かったな。

 社員の中で一番幼い容姿だが、あれで社員の中では開発員としてとても優秀らしい。

 自由奔放な様は、どこかの天才と被る。

 

 ……コンコン

 

 部屋をノックされた。

 

「誰だ?」

 

「私、そろそろ身体測定」

 

 簪に指摘されて、立ち上がる。

 

「む、もうそんな時間か」

 

 一緒に行こうと言うことで指定された場所に向かっていく。

 

「そう言えば、今日は織斑が体位を測るらしいぞ?」

 

 体位、つまりスリーサイズ。

 女性ならそう簡単に男には教えない大変貴重な情報を、織斑は腐るほど入手することが出来るというわけだ。

 更にこれはISスーツの為の測定でもあるため、下着姿で測る。

 ただでさえ男一人に女大勢の中にいるだけでなく、それも加わって世の男たちが織斑を羨ましがるのが更に倍。

 

「たい……え?」

 

 おそらく楯無の仕業だろう。

 楯無のしてやったり顔と、織斑の狼狽する様子が容易に想像できた。

 と、保健室の前にやってくるとなにやら騒がしくなっていた。

 

「どうした?」

 

「専用機持ちが、織斑君を……ね?」

 

「なるほど。把握した」

 

 奥の方で一組の女子達が黄色いような桃色のような雰囲気を醸し出して話し合っていた。

 聞くところによると、測定の際に織斑が相川の胸を揉んだとか。

 目隠しをしていたらしいから、織斑も男なりに配慮と無理をして、結果専用機持ちに成敗されたと。

 

「胸……」

 

「羨ましいか?」

 

「そんな事……ない」

 

 頬を染める簪。

 と、織斑の代役が決まったのか測定が再開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 俺は熱を出して倒れたらしい。

 鈴に測定して貰ってその時に一度記憶が飛んで。

 次に目が覚めた時は皆が揃っていた。

 その時に色々あって、今日はその翌日。

 放課後、俺が自室で寝ていると、昨日は顔を出さなかった人物がやってきた。

 

「織斑、起きてるか?」

 

 自室の扉の向こうから声が聞こえる。

 

「……アニエスか?」

 

「そうだ。入るぞ」

 

 そう言って、赤い短髪のアニエスが現れる。

 すると同時に、前に見た黒髪のアニエスを思い出した。

 

「寝てたのか。起こして悪かった」

 

「いや、ちょうど起きた所だった」

 

「そうか。様子を見に来たんだが、何か食うか?」

 

「そう言えば腹減ったな」

 

「食欲があるなら大丈夫だな。オレが何か作ってやろう」

 

 アニエスはニコリと笑って、手に持っていた鞄を掲げた。

 鞄の箸からネギが飛び出ている。

 

「おお、サンキューな。アニエス」

 

 アニエスは台所に行き、調理を始めると、俺の方を見ずに訊ねてきた。

 

「そうだ、織斑」

 

「ん、何だ?」

 

「無人機の前に立ちふさがって、オレが悩みを打ち明けるまで何度でも聞き続けるって言っていたのはどうなったんだ?」

 

「あっ。いろいろあって聞いてなかったな」

 

 取り調べがあって、蘭の学校に行って。

 更に箒と食事をして、その時間違って酒を飲んで酔ってしまった箒を部屋に送り届けて。

 その時はもうクタクタだった。

 

「教えてくれるのか?」

 

「忘れていたのならいい。どちらにしろ、言う気は無い」

 

「無いのかよ……。まあ、あまりしつこく聞くのも嫌だよな。すまん」

 

「何だ。諦めるのか?」

 

 と、アニエスは意外そうに言った。

 あの時は俺も勢いで言っちまったけど、どうしても言いたくないなら、しつこく聞くと怒られるだろう。

 だから……

 

「アニエスが教えてくれるように努力する」

 

「そうか」

 

 トントントントン……。

 靜かな部屋の中に、包丁がまな板に当たる音が響く。

 こんな静かな時間はいつぶりだろうか。

 それに、今キッチンで料理をしているのは、あのアニエスだ。

 

「織斑?」

 

「ん?」

 

「何も言わなくなったから、寝たのかと思ったぞ」

 

「いや、アニエスが料理してる所って初めて見たなと思って」

 

 学校で自分で料理をする生徒は稀だ。

 でも俺は、箒、鈴、セシリア、シャル、ラウラが料理しているのは見た事がある。

 千冬姉は忙しいし、簪はまだ知り合って日が浅い。

 楯無さんの料理も見たこと無いな。

 

「一人暮らしが長かったからな。一応、仕事仲間はいたが……」

 

「仕事? バイトか?」

 

「いや、傭兵だ」

 

「よ、傭兵?」

 

 まさかの単語に、オウム返しになってしまった。

 

「驚くことは無いだろう。ラウラだって軍人なんだし、代表候補生も似たような物だ」

 

 確かにまだ争いが絶えない世の中だけど、まだ高校生なのに傭兵とは意外を通り越して、普通なら信じられない。

 

「そうか。だからアニエスはあんなに強いのか」

 

 普通なら信じられないが、アニエスの強さの秘訣がそうであるとすれば、すんなりと納得できた。

 

「強くなければ生き残れない世界だからな、特に傭兵は」

 

 アニエスの背中に一瞬、影が差したように見えた。

 傭兵だった頃の事を思い出したといった所か。

 ただの小学生や中学生をやっていた俺に、そんな所の事情は聞くのは不味いかもしれない。

 

「……こんな事を聞くのは変だけどさ、アニエスって苦手な事は無いのか?」

 

「何だ、それは。唐突に」

 

「この間、簪に楯無さんが編み物が苦手なんだって聞いたんだ。完全無欠のヒーローなんていないって言っちまったにも関わらず、あの楯無さんに苦手な事があった事に驚いたんだけど」

 

「オレの苦手な事、か……。傭兵として生きてきた中で色々やったが、苦手を無くすような事をしてきたから最近は苦手だと思った事はない。だが、やった事も無い事が多くて分からんな」

 

「やった事も無い事って?」

 

「……スポーツ、かなぁ」

 

 以外な答えだ。

 アニエスは運動神経はかなり良いから、少なくともかじった程度はあると思ってた。

 確かにIS学園で身体を動かすって言ったら、その殆どがISの訓練だ。

 それにアニエスは元傭兵だと言っていたし、ISは最近ではスポーツとしての面が強くなってるけど、兵器には変わらない。

 アニエスの中ではISはパワードスーツという兵器なのかもしれない。

 

「戦う事しかしなかったからな。学園生活も、友達も、オレにとっては夢だった」

 

「夢、か……。そうだ、今度の日曜に部活回らないか?」

 

「部活──はっ?」

 

「アニエスってどこの部活にも所属してなかったよな。だから見に行こうぜ?」

 

「でも、オレは……」

 

「苦手な事をさせようとかじゃなくて、やった事無いならやってみようって思ってさ。夢だったんだろ?」

 

「むぅ……わかった。だが、その前にお前の風邪を治してからだ。そら食え」

 

 アニエスが照れ臭そうにお粥を手渡してくれた。美味い。

 

「アニエスって料理上手いんだな」

 

 箒やシャルのような家庭的な料理ではないが丁寧に作ってあり、鈴やラウラのように食わせるための料理って感じだ。

 前に五人の代表候補生たちに料理をしてもらったけど、そのどれよりも何かが違う味がする。

 風邪を引いてるから、ではないと思う。

 

「アニエスって、楯無さん以上にデキる女って感じがする」

 

「人としては嬉しい褒め言葉だな。なんだ? 他の女のようにオレは誑かさないか」

 

「だから誑かしてないって」

 

「右を見ても、左を見ても女子だらけ。そこに男子は自分ひとりしかいない。選り取り見取りも良いところだ」

 

「弾みたいな事言うんだな、アニエスは」

 

 赤い髪ってのは皆そうなのか?

 いや、妹の蘭は違うか。

 

「織斑はどんな人が理想なんだ?」

 

「理想……って」

 

「将来結婚するなら、どんな人が良いかと言う意味だ。もちろん理想であって、条件ではないのだから気軽に言えばいい。そうすればお前を想っている連中はそうなろうと努力するだろう」

 

「そう言うことなら……。うーん……、まずは暴力を振るわない事かな」

 

「……………………ハァ」

 

「な、何だ? 何でそこで溜息をつくんだ?」

 

「いや、そこで大半の候補が失われたと思ってな」

 

 アニエスの言う候補が何なのかよく分からないが、暴力はいけないよな。

 家庭内暴力反対運動促進。

 我々は家庭内暴力を否定します。

 俺の周りにいる人間は結構暴力的で、弁明を聞いてくれない。

 その点で言うと、簪や楯無さん、アニエスなんかからは一方的な暴力を振るわれたことはない。

 千冬姉が出席簿で叩くのは俺が悪いのだし、実の姉であるから結婚は無理だろう。

 

「あとは明るいと良いな」

 

「……………………ハァ」

 

 アニエスが深い深い溜息をついた。

 

「明るくて暴力を振るわない、か……。確かに何かとすぐにISを使うからな、あいつらは。で、お前の中で候補は残ったのか?」

 

「俺の知っている限りではまだ結構いる」

 

「その中で専用機持ちは何人だ?」

 

「専用機? えっと、二人かな」

 

 ガタッ と扉の向こうから音が聞こえた。

 

「何だろう。誰か来たかな?」

 

「それよりも、織斑。その二人とは誰だ?」

 

 ガタガタッ と扉の向こうからまた音が聞こえた。

 やっぱ誰か来てるよな?

 

「どうなんだ?」

 

「えっと、ひとりは──」

 

 バタン!

 

「一夏ぁ! お見舞いに来てあげたわよ!」

 

 勢い良くドアを開けて鈴が入ってきた。

 

「コホン。私も、お見舞いに来てやったぞ」

 

「一夏さん? お加減は如何ですの?」

 

「一夏、大丈夫?」

 

「私が丹精込めて作ったウサギのリンゴだ。食え」

 

「……い、いつの間に」

 

 続いて箒、セシリア、シャル、ラウラ、簪まで入ってきた。

 

『で?』

 

「で、って?」

 

『残った専用機持ち二人とは?』

 

 六人が声を揃えて訊ねてくる。

 っていうか、何で知っているんだお前達は。などと聞ける状態ではないのは、目の前の剣幕を見れば一目瞭然だった。

 と、そこにパンッ、と乾いた音が鳴り響いた。

 見るとアニエスが手を叩いたらしい。

 

「病人に迫るな、お前達。それにお前達が看病するのは明日からだと聞いていたが?」

 

『それは、その……』

 

 何の話なのか、とにかく六人はアニエスに頭が上がらないらしい。

 

「まったく……。お前らは出ろ。オレも皿を洗ってから出るから」

 

 アニエスは本日三度目の溜息をついた。

 

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