無骨な鉄の塊が衝突する。
二人の少女が鉄の鎧を纏い、模擬戦をしているのだ。
ISに似たそれは『EOS(イオス)』と呼ばれ、ISに次ぐ兵器を目指して作られた鉄の鎧。
と言ってもまだ発展途上で、稼働時間が極端に短く、反応も遅く、重量を軽減する為の反重力機構も搭載されていない粗悪品。
アニエスが知っているのは、40年後でも未だに研究が成されている兵器で、それでもISには敵わなかったもの。
戦闘よりも瓦礫の除去などに使われる事が多かったもの。
本日のIS学園の授業は、代表候補生によるイオスの運用実験。
その中でもラウラとアニエスは似た物を使った経験があるが、それ以外は真面に動かすこと叶わず、ラウラによってあっさりと地面に転がされてしまう。
「二人とも、そこまで!」
織斑先生の合図で二人の動きが止まる。
一通りのデータを取ってからイオスを片付ける間、アニエスはその完成度に不満を感じていた。
一番の不満点は稼働時間の短さだ。
ISがある以上、性能面で上回らない限り、戦闘には使われない。
ならばその点を重視して性能強化しておくべきなのだ。
いくら建前上はISとの戦闘を考慮して開発されていないものとは言っても、イオスをIS学園に送り付けて来た国連の考えは丸わかりだ。
そんな事を考えながら、実習の時間が過ぎていった。
実習後の混み合う女子シャワー室で、鈴がアニエスに訊ねる。
「アニエスの機体って、ダダリオ・ネクスト社が第三世代のISとして作ったんだよね?」
「そうだが?」
操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした世代だが、BRSにはそれが無い。
どちらかと言うと第二世代に近いが、既存のISとは全く新しい構造から『別視点からアプローチした第三世代』として見られている。
「第二と第三の中間のような機体だな。後は左腕部の可変式遠距離装備が特殊だ。大きくて取り回しが悪いが、他のISほどじゃないしな」
BRSの話に食い付いたのは、アニエスの左にいた鈴の他に右のラウラだ。
「BRSの利点には、ISが展開できない狭い場所でも行動できるというものがある。大型のブースターも無いから他より静かだし速い。それに超軽量から来る燃費の良さも売りだ」
「特殊武装よりも、特異性能ということか」
「狭い場所での運用を想定しているダダリオ・ネクスト社の社長って何者なのかしら」
「さあな。天才というのは決まって変わり者が多いのさ」
この時、ただ敵の攻撃を避けやすいという位にしか考えていなかったアニエスだったが、後になって小ささの便利さを知る事になる。
「極超音速飛行用追加推進器?」
「そう。その名も『スコルニル』だ」
現在オレはダダリオ社の上空で、BRSの新装備の実験中。
最終調整にはマズマが担当することになった。
最大速度はマッハ20前後。
戦闘時にはミサイルとバルカンを武器に戦う為に減速する。
スコルニルを装備している間は両翼が剣の代わりになり、ハイペリオンに回すエネルギーをスコルニルの推進力に使うらしい。
高速航行、一対多戦闘を想定して作られたそれは、馬鹿みたいに速いBRSを更に加速させる装備なのだそうだ。
元々アヴニール用に作っていたのだが、二次移行してしまったせいで調整し直していた、アレだ。
「バカなんじゃないのか?」
熟々ダダリオの社長は突拍子も無いと思わされた。
だが実弾兵器があるのは良い。白式のようにエネルギーを無効化する武装に対抗する手になるし、ミサイルの爆発は攻撃と目眩ましの両方に使える。
「さっさと最終調整をしてしまおう。早く帰らなきゃならないんだ」
フランスに行く前日、オレは織斑先生に早く帰ってくるように言われていた。
理由は聞けなかったが、無人機の残骸と白式が狙われているらしい。
無人機は外には出せないので教師陣で守ることにして、白式は別の場所に一時的に送るようにしたらしい。
「ハイパーセンサーの拡張機能、良好。ちょっと不思議な感覚だな」
スコルニルに搭載された機能の内、その中でも特徴的なものがハイパーセンサーの拡張機能。
スコルニルの最大加速時に、ハイパーセンサーを強化させて状況把握能力を飛躍的に上昇させる。
周りの動きが重くなったように錯覚してしまうが、別に悪いことではないのだ。
他人の声が伸びて聞こえるのは鬱陶しいのだが。
「そんなに急がなくても、スコルニルなら日本までひとっ飛びだ」
「大陸を渡る事を前提として作ってないだろうな、コレ」
ISはこの時代ではスポーツだ。
アリーナという閉鎖空間の中で戦う以上、長距離飛行ユニットは要らない。
キャノンボールファストなどのレースなら、もはやスコルニルに追いつけるISはいないだろうが。
と、ちょうど調整が終わった頃、オレの携帯端末がけたたましく鳴り出した。
『アロン、今どこだ!』
織斑先生が珍しく慌てた様子だ。
「まだフランスですが……」
『そうか、くそっ!』
「何かあったんですね? すぐに戻る事もできないわけではないですが」
スコルニルの全速力なら、計算上30分ほどで日本に着く。
空港を通らないという事になるが。
『今、IS学園は何者かに外部からハッキングされ、システムがダウンしている状態だ。篠ノ之、オルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒ、更識妹の六人がシステムの復帰に努めている。私と山田先生と更識姉で外部からの侵入者を排除する』
「わかりました。ちょっと強引ですが行かせて貰います」
『おい待て、今から戻っても──』
今、スコルニルの話を悠長にしている場合では無い。
織斑先生があれほど焦る事態になっているのなら、それはかなりヤバいという訳だ。
「マズマ、すまん。ちょっと法律犯す!」
「はっ? 待て、アニ──」
スコルニルのスラスターを点火、一気に加速する。
音を置き去りにして更に加速。音の壁を何枚も超えていく。
IS学園に到着するまで、約30分。
日本に着くまで思考を巡らせながら、雲の上を通っていく。
(IS学園のセキュリティをハッキングするなど、並大抵の事じゃ出来ない。おそらくあの人……、だが侵入者? 実働部隊を持つ人とは思えんが──ん?)
遥か遠くで、空に舞い上がる物体をセンサーが捕らえる。
すぐ傍に日本列島が見える。
オレは一瞬身構えてしまうが、すぐに減速を始めた。
空中に飛び上がる陰、それは白式だったのだ。
どうやら学園の方へ行こうとしているらしい。
何故織斑が、という疑問は残るが丁度良い。
「織斑っ、行くぞ!」
「ア──ニエス!?」
一度減速したのは織斑を回収するため。
織斑に後ろから抱き付くようにして捕まえ、文字通りあっという間に加速。
織斑の情けない声を聞きながら、IS学園へと飛んでいった。
この後に一夏はヒロインたちを助けに行くのですが、オマケにIFの『アニエスのワールドパージ』を書こうかと思っているのです。それに合わせてイラストも。
またスコルニルはBRS the gameのブリュンヒルデをイメージして貰いたいのですが、名前が世界最強と被るのでブリュンヒルデの愛馬のヴィングスコルニルから取りました。性能に関してはIS仕様と言うことで。