IS-インフィニット・ストラトス- 欠けた歯車   作:生そば

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Episode.44

「織斑、見ろ!」

 

「えっ、アレは!?」

 

 IS学園が見えた所で減速し始めると、渡り廊下をスーツ姿の何者かに運ばれている更識楯無が見えた。

 

「行け!」

 

「ちょ──!」

 

 問答無用で織斑をぶん投げる。

 織斑は空中で姿勢を整え、楯無を助けに行った。

 オレは学園の上空で滞空して織斑先生に連絡を取る。

 

「織斑先生、今大丈夫ですか?」

 

『アニエスか? こっちは大丈夫だ』

 

「今、IS学園の上に居ます。織斑が楯無を助けに行きました」

 

 楯無を助けた織斑は、何があったのか壁を壊し始めた。

 

『アニエス、お一度地下まで来い』

 

「わかりました」

 

 通信を切り、織斑が開けた穴をオレも通る。

 無茶苦茶に破壊していくものだから、後で修理が大変そうだ。

 

「織斑」

 

「アニエス。すまん、楯無さんを一緒に運んでくれ」

 

「わかった」

 

 織斑から怪我をした楯無を受け取り、荷電粒子砲で地下へ進む織斑の後についていく。

 

「そう言えば、お前は何で此処に?」

 

「信じられないかも知れないけど、誰かの声が聞こえたんだ」

 

「連絡……って言い方じゃないな」

 

 誰か、という事は織斑が知らない人の声だろうか。

 

「ここか!」

 

 パネルを操作してドアを開くと、中には織斑先生と山田先生、それに見知らぬ女性が拘束されていた。

 

「は……え? 一体何が──」

 

「説明はあとだ! 織斑、すぐに篠ノ之たちの救出に向かえ!」

 

 織斑先生の表情から、事態は予想より深刻なのだと判断できた。

 

「えっ!?」

 

「位置データを転送する。急げ!」

 

「は、はいっ!」

 

 織斑が廊下を進んでいくのを見送り、オレは山田先生に楯無を預けた。

 その後、捕まっている女性の事を見る。

 

「織斑先生、彼女は?」

 

「侵入者の米国人(ヤンキー)だ。名前は忘れたと言ってるが……」

 

「それは間違いないと思います。彼女──いや、彼女たちは名前を忘れることを強要されます。例え敵に捕まり、自害することすら出来ない時、少しでも敵に情報を与えないように厳しく訓練された部隊です」

 

 米国人に目を向けると、相手はオレから目を反らした。

 

「木っ端なテロリストにはISを所有する事なんて出来ない。恐らくは軍属。軍の識別上部隊章があるはずなのに、彼女の身体の見えるところにそれが無い。何故、彼女が米国人だと?」

 

「言葉の訛りだ」

 

「なるほど。彼女は『名も無き兵たち(アンネイムド)』の、隊長ですか」

 

「────!?」

 

 反応あり。正解だ。

 ISは数を揃えられないのだから、隊長だという事はすぐに分かる。

 アンネイムドには国籍も民族も宗教も無い。

 歴史上に名を残せないが、強いて言うならアンネイムドこそが彼女達の名前だ。

 

「書類上にも記載されない無銘の部隊で、オレも一度だけ作戦に参加した事があります」

 

「? ……!」

 

 隊長は一度だけ首を傾げ、思い出したように目を見開いた。

 オレの事が情報に無かったとは言い切れない。

 軍の裏方役なら、オレの名前を知っていても不思議では無いか。

 

「彼女はこれからどうするんですか?」

 

「情報を聞き出してから、そうだな……」

 

「織斑先生、彼女をオレに説得させて貰えませんか?」

 

「どうする気だ?」

 

「オレでは名前が知られていて、どうしても手が回りません。だから裏で活躍してくれる奴が欲しいと思っていた所です。それにアンネイムドは失敗したら終わりの馬鹿げた部隊です。やりようは幾らでもありますよ」

 

「……分かった。任せよう」

 

「ありがとうございます。で、オレはこれからどうすれば?」

 

「まだ実働部隊が残っている。教師たちが迎撃に当たっているが、アニエスも加われ」

 

「分かりました」

 

 狭い通路も何のその。

 またBRSは黒いため、暗闇に溶け込みやすい。

 こちらはISを装備しているため通常兵器は効かず、相手がISだとしても動けるこちらに分がある。

 その利点を生かし、ものの数分で敵を片付けてしまった。

 

「狭い場所では動きやすい方が有利になる。普通のISは図体がデカくなる分、機動性を生かし辛くなるが、BRSにはそんな欠点は無い。なるほど、これは確かに便利だ」

 

 さて、IS学園のシステムにハッキングできた人物など1人しか思い付かないが、問題はどこから仕掛けているかだ。

 IS学園のシステムは独自のネットワークを持っていた筈、ならば近くに居るはずだ。

 捕虜となった奴らを教師に預け、周囲を探索する。

 犯人の居場所を突き止めた後、織斑先生と共にその場所へ赴く。

 場所はIS学園から少し離れた所にある臨海公園前のカフェで、銀の長髪の少女がテーブルにひとりで座っていた。

 

「相席させて貰おうか」

 

 急に何処かへ去ろうとする彼女を、織斑先生が呼び止める。

 

「織斑……千冬……。それに……アミちゃん」

 

「アニエスだ」

 

「まあ座れ。そら、お前らの分のコーヒーだ。ブラックで構わないな?」

 

 銀髪の彼女は平穏を装っているが、恐怖の色は隠せないらしい。

 

「さて、結論から言おうか。──束ねに言っておけ、余計なことはするな」

 

 今まで閉じられていた少女の、白目が黒色に、黒目が金色に染められた異色の双眸が開かれた。

 刹那、オレと織斑先生は上下も左右も無い真っ白な世界に

閉ざされた。

 

「生体同期型……初期型とするなら、それはIS『黒鍵』。つまりお前は、クロエ・クロニクルだな?」

 

「ふむ……。なるほど、電脳世界では相手の精神に干渉し、現実世界では大気成分を変質させることで幻影を見せる能力か。大したものだ」

 

 織斑先生は自分の首筋を狙ったナイフを手ではね除け、同時にテーブルに備え付けのスプーンで真っ白な空間を刺した。

 

「えぐられたいか」

 

 ISの能力を生身で抵抗するとは流石世界最強と言ったところか。

 織斑先生の言葉に敗北を悟ったのか、オレたちは元の世界に戻ってきた。

 

「それでいい。ではな」

 

 織斑先生は自分のコーヒーをぐいっと飲み干すと、席を立った。

 彼女に手を出す理由は無くなった。

 それにクロエ・クロニクルに手を出せば誰かさんが只では済ますまい。

 

「そういえば、お前の妹には会わなくていいのか?」

 

「あれは私の妹じゃない……。なれなかった私……、完成形のラウラ・ボーデヴィッヒ。私はクロエ。クロエ・クロニクルなのだから」

 

 クロエの言葉に満足したのか、織斑先生は「そうか」と言って店を出て行った。

 クロエの目は、白目が黒色でなければラウラの左目に似ていた。

 つまり、そういう事なのだろうか。

 

「貴女は?」

 

 クロエは織斑先生について行かず、自分を見詰めるオレに対して話し掛けてきた。

 

「情報では知っていても、実際に会ってみるとお前とは親近感が湧くのは何故なのだろうと考えていたんだが……」

 

「…………?」

 

「いや、忘れてくれ」




アンネイムドの隊長は原作に登場した人物とは違うので注意して下さい。アニエスの仲間になるならどんな人物か、勘の良い人なら分かるはず。
答えは次回!
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