「なあ、アニエス」
「なんだ、織斑」
「どうしてこうなった?」
「知らん」
(祝)織斑一夏クラス代表就任パーティー
一年の食堂に掲げられた垂れ幕には、デカデカとそう書かれていた。
……意味が分からん。
クラス代表決定戦で勝った方が代表になるはずだった。
しかし昨日それに勝ったのはセシリアだった。
それが何故、織斑一夏クラス代表就任パーティーを開いているのだろう。
「ったく、セシリアという奴は……」
今朝のHRで山田先生が織斑がクラス代表に就任したと報告。
当然織斑は訊ねるが、セシリアから「辞退した」と言われたのだった。
何が「IS操縦には実践が何よりの糧」だ。お前が織斑に惚れただけだろう。
いつの間にか織斑のことを名前で呼んでいたし、午後のIS実習ではよく心配するし。
ちょろい。ちょろすぎるぞ、セシリア。それでいいのか?
「なあ、アニエス」
「なんだ、
「なっ!? あれは事故だって!」
ほう、事故で山田先生の胸を鷲掴みか。
男だったら大変羨ましいラッキースケベだ。
「で、なんだ?」
「いや、な? これからセシリアも放課後の訓練に手を貸してくれるそうなんだが、アニエスもまだ参加してくれるのか?」
「勿論、そのつもりだが。嫌なら止めようか」
「嫌なんて訳ないよ。アニエスの教え方って、すっごい分かりやすいし。そのまま教師やってても別におかしくないくらいだ」
「褒めても揉ませないぞ?」
「だから誤解だって!」
しばらくはこのネタで弄れそうな気がする。
織斑の周りには胸が大きい女が多いことだしな。
箒然り、セシリア然り、織斑千冬、山田先生など。
オレは……「B」って所か。
「織斑……」
「ん、なんだ?」
ふと、オレは箒の方を向いて言う。
「箒の胸も揉んだのか?」
「揉まないってぇの!」
「──と、言うわけだ」
夜、1035号室。
オレは簪に一応、遅くなった理由を話した。
簪はそんなことには興味ないらしかったが、ココアを要求してきた。
何でも大変美味しかったとのこと。
「そんなにオレの入れたココアは美味しいか?」
「うん」
別に特別なことはしたつもりはないのだが。
強いて言うなら、少し甘めにしてあるくらいか。
「で、前から気になっていたんだが。簪は毎晩何をしているんだ?」
オレの話を聞いていたのかそうでなかったのか、簪はオレがクラス代表就任パーティーのことを話しているときもパソコンでカタカタしていた。
「ん、これはISか?」
「うん、そう」
ディスプレイを覗き込むと『打鉄弐式』という文字。
しかしこの画面……ISのシステム面を一から作っているのか?
「ひとりで大変じゃないのか?」
「あの人はやってたから……」
「あの人?」
もしかして、更識楯無の事だろうか。
簪が楯無の血縁者であるのは間違いないだろうから、簪と楯無は姉妹。
しかしISをひとりで完成させるなんて、そんな事をやってのける人はあの『篠ノ之束』しか知らないぞ。
この時代の楯無のIS……たしか、名前は『ミステリアス・レディ』だったか?
あれは元のISを楯無用にカスタムしただけで、楯無ひとりで作り上げた訳ではなかろうに。
もしかしたら、その事実が捩れて簪の中では『楯無がひとりでISを作った』ということになっているのかもしれない。
「……どうしたものか」
とは考えてみるものの、それをオレから伝えてしまったら「何故、アニエスが楯無のISのことについて知っているのか?」という話になってしまう。
この場に置いて、それだけは絶対に避けなければならない。
「どうしたの?」
「いや、何かできることがあったら言ってくれ。力になるぞ」
「……考えておく」
初日に比べれば心を開いてくれたと思う。
もう少し踏み込んでもいいのかもしれないが、慎重になるに越したことはない。
「ところで、なに食べてるの?」
「ん、ポッキーだが?」
「……好きなの?」
「うむ」
とある放課後。
織斑たちは先にアリーナへ向かい、オレは少し遅れて足早にそこへ向かっていた。
「ねえ、ちょっとそこのアンタ」
「ん、オレか?」
小柄なツインテールの少女。
見た目や言語の特徴に中国あたりの雰囲気が感じられた。
「アンタ、ここの生徒よね?」
「うむ、そうだが」
ツインテールの少女はIS学園の制服を肩が出るように改造してある。
IS学園は制服の改造を許可されていて、少し裁縫が得意な人なら殆どの人が改造している。
また、そういう人たちに頼んで作ってもらう人もいるとか。
そんな訳で、ISそのものだけでなく制服の自由度などが、IS学園が人気な理由である。
「何か用か?」
「総合受け付けってどこ?」
転入生か何かだろうか。
はて、この時期の転入となると……。
「ん、どうかした?」
まさか、コイツが『凰鈴音』か?
中国辺りの特有の雰囲気、コイツが中国の代表候補生だというなら、入試よりも難しい転入試験を突破してもおかしくはない。
「まあいいか。ついてこい、案内する」
「ねえ、そう言えば。織斑一夏って何組?」
「一組だ。知り合いか?」
「うん、幼馴染みなんだよね」
「そうか」
織斑よ。幼馴染みの女子が二人など聞いてないぞ。
こっちが訊ねた事もないが、これを知ったら箒が怒るだろうな。対抗意識や何やらと。
それにしても鈴音……
「Aか……」
「ん、何が?」
「なんでもない」
最近よく胸のことを考えるようになった。
織斑が山田先生の胸を鷲掴みしたあたりから。
それが原因か、もしくはオレがこの時代の女子に馴染んできたとか。
おそらくは前者だ。そうに違いない。