鈴音を受付へ案内した翌日の事である。
オレは簪と朝食を取り、その後別れてそれぞれの教室を向かった。
そしてオレは一組の教室の前で鈴音に出会った。
「あれ、アンタ……」
「凰鈴音か」
「ん、私の名前言ったっけ?」
「お前は代表候補生だろう」
「あ、そっか。で、アンタは?」
「アニエス・アロンだ。アニエスでいいぞ」
「じゃあ私も鈴でいいわ」
うむ、明るい奴だ。猫のように自由気ままな印象を受ける。
高貴なイメージのあるセシリアとは対照的な存在だ。
織斑勢力の一角、凰鈴音。
織斑の二人目の幼馴染みで、色々と慎ましやかな見た目に反して少し粗暴な性格だとか。
「鈴は織斑に用か?」
「うん。アイツとは久しぶりに会うんだけど、何て言ったらいいか……。そうだ、ついでだからアンタも考えてよ」
幼馴染みに久しぶりに会ったときの台詞か。
そんなことに迷うなんて、案外いじらしい所もあるじゃないか。
「どうせなら、前より変わった私を見て貰いたいしね」
「では、思いきって堂々と登場するのはどうだろう」
「堂々って何よ」
「うむ……宣戦布告?」
「なんで疑問系なのよ」
「恋敵的な意味でかな」
「恋? 何、一夏って誰かと付き合ってんの!?」
そんなバカな。
「恋人はいないが、想いを寄せている奴ならいる」
織斑一夏乳揉み事件の時は完全に箒とセシリアの戦いだったからな。
ここに鈴が入ってくるとなると、修羅場が更に増える訳だ。
織斑からしてみれば大変なことになるのは間違いなし。
「よし、今すぐ行ってくるわ」
「あ、ちょっ──」
行ってしまった。が、まあいいか。
「ん、アロン。ここで何をしている?」
「おはようございます、織斑先生。今さっき転入生と話していたんですが」
「ああ、凰の事か」
「織斑一夏にまたもや修羅場の予感です」
「アイツは将来、ちゃんとやれていたのか?」
「さあ、織斑さんには昔話をされたくらいしか面識が無いので。色恋のことについては自分自身、興味がありませんでしたし」
指輪は……してたような。してなかったような。
どちらにしろ、オレがこの時代に来て色々としてしまっているのだから、どうなるかわからないのだが。
「今はお前のいた戦乱の時代ではないのだし、普通の女子として振る舞ってもいいんじゃないか?」
「それができるほど、器用じゃないんです」
「っと、話し込むところだった。もうHRの時間だ。行くぞ」
「はい」
その後、まだ一組の教室にいた二組の鈴が織斑先生お得意の"出席簿スマッシュ"を受けたことは言うまでもない。
時間は飛んで翌日の放課後。
昨日の出来事と言えば、鈴が箒やセシリアを互いに恋敵だと認識した上で握手を交わしていた。
その瞬間火花が散ったような気がしたが、泥沼にならなかっただけよしとする。
因みに鈴は二組のクラス代表になったらしく、今どのクラス対抗戦では敵同士になったわけだ。
そしてこれは織斑に今朝相談されて聞いた話だが、どうやら昨日の夜に鈴を起こらせてしまったらしい。
なにやら昔、鈴と約束をしていたのだが、その約束が違うらしく言い争いになり、つい「貧乳」と言ってしまったのだとか。
この年頃の女子は胸の話には敏感になるものだ。
特に小さい奴などはコンプレックスに感じている奴もいるらしい。
ま、こればかりは織斑が悪い。
「さて、そろそろ始めるか」
場所は第三アリーナ。
昨日は箒とセシリアの二人が暴走し、訓練にならなかった。
ただ二人で織斑を袋叩きにしただけだ。
「今回は昨日のようにはならないようにな、二人とも」
「「ご、ごめんなさい」」
最近の練習内容は、箒が近接格闘戦の訓練。
セシリアが遠距離射撃に対応するための訓練だ。
オレは織斑の様子を見ながら、それぞれにアドバイスをしたり課題を出したりしている。
「えー。昨日の鈴が部分展開したIS『
「衝撃砲?」
「中国の第三世代型兵器ですわ。PICを応用したもので、一種の重力操作装置を使用していますの」
「これは空間圧によって空中に砲身を作り出し、その反作用で砲身内に溜まった衝撃を放出する兵器だ。しかも、空間に圧をかけているだけなので砲身はもちろん、砲弾も透明で、基本的には不可視の射撃武器だ」
「不可視の兵器か。中々に厄介な相手だ」
箒の言う通り、見えないということは視覚に頼ることができないので、相当厄介な相手だ。
「ちなみに威力調節もできるらしく、最高出力では単発でも、威力や射程をを下げればマシンガンのように連射も可能だ」
よってブルー・ティアーズとは愛称の悪い甲龍だが、対抗戦に出場するのは白式だ。
しかし、だからといって勝てない相手ではない。
「何か策はありますの?」
「甲龍は近・中距離両用型で、白式は近接格闘型。故に鈴はある程度の距離を保って衝撃砲による弾幕勝負に出ると思う」
雪片の情報は鈴にも届いているはずだからな。
一撃の威力が高い攻撃は一度たりとも当たる訳にはいかない。
「だからこそ、付け入る隙がある」
「隙?」
「鈴は衝撃砲をばら蒔いて一夏を近づけまいと必死になるだろう。だからこそ、懐に入られた時のショックは大きい。それはセシリアもわかるだろ?」
「そうですわね。急迫は相手を怯ませる技のひとつですわ」
織斑は一太刀浴びせてしまえば勝負は決まるほどの威力を持っている。
その代わり射撃武器はひとつも持っていないので、それを生かした戦い方にせざるを得ない。
「でも、中距離をそう簡単に詰められるとは思えないんだが」
「それは普通にスラスターを使っている時だ」
スラスターの使い方は様々だ。
ISのモンド・グロッソでも、総合格闘部門だけでなく、射撃部門や格闘部門、機動部門などがある。
その中でも比較的簡単──というか、基礎──な
これは一度スラスターの外にエネルギーを放出し、再度吸収して圧縮、再び放出することで爆発的な加速力を得るというものだ。
「なるほど、これなら代表候補生が相手でも付け入ることができますわ」
「だが、決められるのは最初の一度だけだ。その後は相手が警戒してしまうからな」
だからこそ、雪片の能力の意味が大きいのだ。
かつて織斑千冬が優勝できたのも、雪片の一撃で相手を沈められたからだ。
「さっそく織斑は瞬時加速の練習だ。二人も覚えておいて損はないぞ。はい、始めっ」
『は、はい!』