海上ホテルへようこそ!   作:うにちゃん

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第十二話 ファイとポトフ

 

 フロントの奴らが全員仮眠に入って、表に立つのはオレとネルだけになっていた。ネルはあまり睡眠せずとも多少は平気なのか、いつもこんな調子で夜遅くまで起きている。

 

「ガキは寝る時間じゃねーのか」

 

 深夜でも、人が来れば食事を提供しないといけないオレに付き合ってくれてるのかもしれない。なんだかんだ優しい奴ということはわかっている。だが年齢の割に達観しすぎていて、たまに本当に16歳なのかと疑ってしまうほどだ。

 

「…大丈夫。ファイも、たまには寝ないとね」

 

 かく言うオレも、ほとんど寝る時間はなかった。深夜くらい寝ててもいいと思うが、いつでも最高の料理を提供したいという気持ちもあるし、何よりオレも種族的にそこまで睡眠を必要としなかったから、昔から思う存分夜遅くまで料理していたオレにとっては、あまり苦痛なことでもなかった。

 

「そうさなあ。けど、好きでやってるしな」

 

「…じゃあ、何か作ってもらおうかな」

 

 ネルがそのうっすい小さな腹をさすりながら、ものをねだるような仕草をする。ネルは確か野菜が好きだと言っていた。ラセーナでサンドイッチを食べた時も、新鮮で美味しい野菜を食べられたことが、何よりも嬉しかったと語っていたことを思い出す。

 

「おし、じゃあちょいと待っとけ」

 

 そう言って冷蔵庫の大きな野菜室から、ラセーナで仕入れたばかりの野菜を数個取り出した。今回使うのは、トマト、キャベツ、セロリ、そしてニンジン。そしてチルド室からは、これまたラセーナから仕入れた分厚いベーコンを取り出す。

 

 まずは野菜を角切りに装う。ベーコンは太さをいかして、気持ち長めの長方形に。そうしたら、まずはニンジンに火入れをするため強火で炒める。少し火が通ってきたら、今度は他の食材を入れてほんの少し炒め、そのまま鍋いっぱいに水を貼る。あとはしばし煮込みながらアクを取り、塩コショウとコンソメで味を整えたら完成だ。

 

「ほいっ、ラセーナ特産の食材で作ったポトフ、お待ち」

 

「ううーん…いい香り」

 

 ネルは幸せそうな顔で香りを嗅いだ後、スープを1口飲むとまた頬を緩める。

 

「あったかくて…美味しい」

 

「だろ? 野菜も食感を感じられるように大きめに切ったんだ。この料理は昔、母親に教えてとらったレシピのアレンジなんだよ。余りはこのまま明日の朝食にでも出してやろうかな」

 

「私が…野菜好きなの、覚えててくれたんだね」

 

 ネルはゆっくりとスープを口に運びながら言う。

 

「そうだな、やっぱ人の好みは把握しとかないと。いざって時、食べられるものと食べられないものが分からなきゃ、料理人失格だ」

 

「ふふ…プロだね。じゃ、明日の朝も…食べに来ようかな」

 

「いいじゃねーか。けど、お客さんがいない時に来いよ」

  

 そんな話をしていると、操舵室の方から扉が開く音がした。足音が段々と近付いてくる。そしてそのまま食事会場へと足を踏み入れてきたのは、ヒカリだった。

 

「うわ、いい匂い。2人でこそこそ何食べてるんですか。運転疲れてお腹空いてるんで、私にも分けてください」

 

「おー、ヒカリお疲れさん。いいぜ、飲ましてやるよ」

 

「あぁ〜生き返る…」

 

 目を擦り眠そうにしながらもスープを飲むヒカリも、普段の生意気な態度に比べれば可愛いものだ。そして、私達がそうして談笑しているとまた1人、影が見えた。それは、ラセーナで出会ったあの少年であった。

 

「あ、皆さん。まさかこの船が、皆さんの船だと知った時は驚きましたよ。本当にありがとうございます」

 

「おう、少年。ちょうどあんたが育てた野菜でポトフ作ったんだ。食ってけよ」

 

「ありがとうございます。温かくて、すごく美味しいです。…なんというか、本当に誇らしい」

 

 少年は優しく微笑みながら、スープを美味しそうに頬張る。この表情を見ると、本当に自分の仕事に誇りを持って仕事をしてきたんだと分かる。自分とて、昔から料理をすることだけが誇りだったから、気持ちはよく分かる。この少年は間違いなく、成功するだろう。

 

「ったく、もうなくなっちまったじゃねえか」

 

 気付くと鍋の底が見えている。あれだけ作ったポトフがすぐになくなってしまった、というのは、それだけ自分の料理が美味しかったのだということにしておこう。解散してみんなが寝た後、オレはこっそりメモしたレシピ通り、またポトフを作り始める。

 

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