海上ホテルへようこそ!   作:うにちゃん

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第二話 不安の種

 

「何かの間違いですよね?」

 

 私はその意思に反して、無意識のうちに口を開いていた。隣に目をやるとフウカはまたいつも通りなはは〜と笑って楽しそうにしている。こんな状況で楽しそうにできるその楽観的性格が正直うらやましい。

 

 正直私は内心、冗談じゃない、と怒りにも似た感情を覚えかけていた。今ここにいるスタッフのうち半数(といってもここには四人しかいないけど、)がこの状況を受け入れているのも私にとっては理解できないし、私はなんというかとにかく、こういう急な変化が嫌いだったから、そういう焦りからも我を失いそうになっていた。

 

「まあ、決まったことは決まったことだからね! 概要を説明してくから、よーく聞いてね」

 

 ミドリさんは既に割り切ったと言わんばかりにあっさりと話を進めていく。思うところはあるけど、ここは一旦話を聞くべき場面だと思い口をつぐむ。

 

「ご存知の通り当社は宿泊、そして移動や運搬を主に運営してるんだけど、今度はそれを合体しちゃうよ! っていうのが今回の計画ね」

 

「………」

 

「お客様やその他の荷物を運びながら、宿泊施設としての設備を備えて、世界各地を回る移動型ホテルになるってこと! どう? 楽しそうでしょ」

 

「あの、質問ですけど」

 

 私たちが説明を聞いているとヒカリさんが先に口を開いた。

 

「ウチでは朝食の提供を行ってますしそれに使う食材やタオル類、その他アメニティなどの補充が容易では無くなりますよね。移動ルートによっては客の確保も出来るかどうかというところです。いくら実験段階とはいえこんな未知数ばかりのことにまさかはいはいと頷いて承諾したわけですか?」

 

「そうだね、みんなには申し訳ないことしたかな、直前に伝える羽目になっちゃったし。ヒカリちゃんの言う通り、食事の提供形態も変わるし、それに伴う食材や物資の調達には未確定な部分も多い。上手く行くかはやってみないとわからない、っていうのが正直なところだからね」

 

 いつになくミドリさんは真剣な顔で淡々と言う。しかしそうかと思えば次の瞬間には、自信満々、満面の笑みで言い放った。

 

「けど任せてよ! 私を誰だと思ってんの。みんなには、絶対不自由なことはさせないよ!」

 

 それはミドリさんが言うには、あまりに信用に足る一言だった。これまで幾度となく危機を迎えたこのホテルを支えてきた立役者こそ、何を隠そうミドリさんだったから。ヒカリさんもそれが分かっているからか、以降は口をつぐんでいた。

 

「新しい船舶の手配やら、移転作業やらを諸々と済ませて、本開始は一年後になります! みんなには色々と迷惑掛けるけど、精一杯がんばりましょー!」

 

「おーっ!」

 

 私とヒカリさんは、ミドリさんとフウカの底抜けの明るさに気圧されつつも、決まったことなら仕方ないかと割り切って賛同する。正直、このプロジェクトが確実に上手くいくという確証は私には持てない。いや、決して上手くはいかないだろうというのが本当の感想だ。海上移動型ホテル…というと目新しいもののように見えるが、話を聞く限りではその実、客船との違いも明確ではないように思える。差別化を図らないと淘汰されるのがオチだ。

 

 けれど、私がそんなことを考えても現状は変わらないのも事実で、何もしなくとも時間は過ぎていくものだ。お客様や取引先企業へ連絡をしたり、ホテルから船へと移動する資材や機器などをまとめたりとやることも多かった。それに、持ち前の明るさで私達を引っ張るフウカとミドリさんの存在があったからこそ、準備は着々と進んでいく。

 

 そうして時々トラブルに巻き込まれながらも、私とヒカリさんが二人の後をついて行く形でなんとか協力して一歩ずつ歩みを進め始めたのが、今からちょうど一年前の話だった。

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