海上ホテルへようこそ!   作:うにちゃん

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第六話 ヒカリとコハク

 

 面白い。この街、本当に飽きることがないくらい面白い。出店ひとつをとっても各地から取り寄せた珍しい食材を使った料理やお菓子、さらには動物の素材やその加工品、そして何より異国の本や鉱石。さすがは大規模な貿易をする街。この楽しみがあったからこそ、このプロジェクトにも賛同出来たというものだし、1人でこうした店を気ままに回ることこそ、私の一番の気分転換だった。

 

 出店を物色していると、それはそれは色んなお店が目に付く。だけどその中でも一際私の目を引いたのは、先にも上げた鉱石を取り扱う店だったが、他の店と違うのはそれを自らの手で加工したものを売っている店だということ。

 

(これ…ラズライト? 初めて見た…こんな風に加工するのもアリなのか。むやみに透明なだけじゃなくて鼻につかない良い輝き…最上級とは言えないけど、私が持つにはこれくらいがいいかな)

 

(こっちはコハク…しかも蝶の虫入りコハク!? こんな希少なものどこで…いや、しかし加工品の店だし、全て模造品かも…。それにしては出来が良すぎる気もするけど…)

 

「それ…好き?」

 

 集中していたところに不意に声を掛けられて、肩が跳ねた。いけないいけない、集中して考えすぎてしまう悪い癖が出てしまっていた。

 

「えぇ、どれも複製にしてはかなりの出来だと思います。どこでそんな腕を」

 

 言いながら見上げると、綺麗な銀髪を胸程の位置まで伸ばした少女の姿がそこにあった。鍔広帽子を深々と被り、目に包帯のようなものを巻いた色白の少女は、私の話を聞いた後でゆっくりと口を開いた。

 

「そこにあるの…全部天然物。私がたまたま見つけたもの。価値があるかもわからない…だから加工する。価値はお客さんに付けてもらう」

 

 少女はさも当たり前かのように淡々と話す。その包帯の奥からでも、こちらをしっかりと見て話しているのが伝わってきて思わず尻込みする。この少女の瞳の奥に、何か得体の知れないオーラを感じたからだ。

 

「そんな、これほどのものをあなたが…?」

 

「そう。私目弱い…けど、夜目が利く。暗い時間、暗い場所で、色々なものを探してる」

 

「そうでしたか、失礼なことを聞いてしまいましたね。それで、この蝶入りコハクのネックレスですが」

 

 私は言われた通り、それなりの値段で買い取ろうとしたところに、やはりこの少女は刺すような言葉を紡いでくる。

 

「それは…あげる。ヒカリさんの為に…採ってきたものだから」

 

「え、なんで私の名前」

 

「…なんとなく」

 

 聞き返すと途端に目を逸らす彼女。どうにもこの少女と話していると調子が狂ってしまう。けど戴いたものを無下にも出来ない。仕方がないので他のものも数点買って店を後にしようとすると、後ろから少女がまたね、と声をかけてくる。

 

「ええ、良い出会いでした。またがあるといいですね。それにしても、ありがとうございました、こんな貴重なものを。大切にさせて頂きます」

 

「うん…似合ってる、ぴったり」

 

 どうも悪い人ではないようだけど、サイズも嫌にピッタリだし、名前も何故か知られてるしで、気味が悪いことに変わりはない。軽く手を振って私はその場を離れることにした。一体何だったというのだろうか。

 

 

 夕焼けが街を照らし始める頃、思わず小腹が空いて頬張っていた串焼き肉を急いで食べ終わって、集合場所へと向かう。遠目から見るに、どうやらみんなはもう揃っているようだ。だが近付くにつれて他の人の姿も見えてくる。いつものメンバーの隣には、初めてお目にかかる赤髪の人物、そしてそのさらに隣には…。

 

「え」

 

「また…会った」

 

「あれ〜、ヒカリさんの知り合い?」

 

「知り合いというか、まあ…」

 

 先の出店で出会った銀髪の少女が、またそこにいた。

 

「お店、よくあの短時間で畳んで準備出来ましたね」

 

「うん…だってあのお店、私のじゃないから」

 

「…へ?」

 

 思い返して、ふと胸元にかけたネックレスを見やる。

 

「じゃあ、これは?」

 

「…売り物じゃない。けど、知り合いのもの。安心して、問題ない…採ったのは私」

 

 悪びれもなく、薄い唇のその口角を上げて少女が言う。もうここまで来ると頭がこんがらがって、私は何もかもどうでも良くなっていた。というより、これ以上考えても頭がこんがらがるだけだった。

 

「なるほど、なるほど。では何も気にせず戴くことにしておきますね、これ以上は何も追求しません」

 

 そうして半ば呆れ気味に放つことしか、私にはできなかった。

 

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