南阪のイメージ:まんま南坂
「茈ぃぃぃ!!!」
深夜の町で叫ぶ。でもその呼び声だって、降りしきる豪雨にかき消されてロクに響いちゃくれない。
何がどうなってる。スマートブレインに協力していた謎の存在──
それでやっと都合がついて、面会許可を取れたと思ったら……行方不明だと?
(納得できるか!)
人類最高クラスの護衛・監視がついてた筈だ。人智を超えた存在になっちまった俺と、それに1番近しい関係者である茈と南阪。俺は実験体かつ最強の武力として、彼女達を人質とされて国連傘下に収まった。
それと引き換えに、茈達は平穏を手に入れたんだ。自由は無いかもだけれど、それでも人として生きていく為に。3人でそう決めたんだ。
なのに、なんで。
(何もかも秘匿されて、黙って従うほどお人好しじゃねぇぞ俺はッ)
渦巻く陰謀の匂いに、信頼出来ない公機関の拘束を力尽くで破り脱走。南阪とコンタクトをとり、茈の携帯がつい最近まで信号を発していた地点を逆探知してもらう。成功するや否や単身飛び出し、ただいま内陸のとある町。
ここに茈がいる筈だ。そうでなくとも、アイツの持っていた携帯は確実にある。それを探し出して────?
「どした、南阪」
『凱歌さん、すみません』
「は?」
無線での謝罪。
瞬間、閃光。
頭上より。
「
町ごと。そこに住まう人々ごと、消し飛ばすつもりだったらしい。実際俺以外のそいつらは跡形もない。
南阪は脅されていた。自分の命を引き換えにされ、俺を売り……際になって、やはり俺を選んだ。最後の連絡が無ければ防御出来ず、俺も塵になってたかも知れない。
一つ分かるのは……人類世界に、裏切られたという事。
「クソがァッ……!!」
身を潜めて掠め取った新聞にて、SBのテロも今回の町の消滅も俺の仕業とされた報を見て。俺は確か、そう歯を食い縛ったと思う。
スケイブはとっくの昔に既得権益層を牛耳っていた。
SBを支援する
そいつらを利用して、合法的に桐雨茈を手中に収めた。
何の為に?
スケイブは未だに、
牧路凱歌はそれに翻弄されたのさ。
……それだけじゃない。
「化け物」
「人でなし」
「裏切り者」
「死ね」
「穢らわしい」
これは牧路凱歌
各国政府や国連から課せられた濡れ衣を、彼らは疑いも無く謗る。守られながら足蹴にし石を投げる。
それでも凱歌だけならまだ良かった。悲しいが、幾らアイツが人類の守護者としても“化け物”“人でなし”である事は生物学的に事実だからな。アイツ自身も、これに関しては
問題は、市井を生きる茈や南阪も同じ口撃を浴びせられていた事。政府は約束を違え、彼らを守ってなんていなかったんだ。
人の
「南阪、コイツで合ってるな?お前を拷問したの」
「拷問官はさっき貴方が殺したじゃないですか……けど、ええ、命じたのはその人で間違いないです」
「貴様ぁ!人類を裏切るというのかァ!?」
「……先に宇宙人へ
度重なる国連からの追撃を躱しながら、やっと探し当てた南阪の居場所。見つけた旧友は両手両足の指を全て失っていて、それを見た瞬間にキレちまった。
久しぶりの殺人を犯しちまったよ。後悔はしてるが躊躇はしてない。してる余裕が無い。
「一回しか聞かんぞ。茈をどうした」
「誰が薄汚いオルpおぐっ!?」
「牧路さん!」
「心配すんなぁ、心臓に刺しちゃいねぇよ」
この期に及んで戯言を吐いたので、剣を突き立てた──殺す訳じゃない。匂わせるのは
「とっと吐かないと薄汚いオルなんとかになっちまうぞ~。YESかNOじゃなくて、具体的な詳細で教えろな?」
「分かった、分が、った!拘束じて、スケイブに引ぎ渡したッ。ゲホ、それが交渉条件だっだ!!」
「……奴の目的は?茈さんを攫って何があるというんですか!?」
「お前、
「──そうかよ」
「ア°ッ──」
脈拍から嘘ではないと判断。そのまま
……クソっ。
「奴の狙いは恐らく……」
「分かってる。
依然倒したオルフェノクの
でもそれが出来なかったからきっと、こうなっている。茈の身が危ない。
「スケイブがいるとすれば……元SB本社跡地。決戦以来厳重な立ち入り規制が敷かれていたので、恐らく中心部の巨大クレーターで何か
「だよな。行ってくるわ」
「待ってください!罠なのは丸分かりなんです、せめてオーガフォンを確保してから──」
「んな準備して行ったら茈は殺される」
これは“交渉”だ。茈の身柄を介した、俺とスケイブの駆け引き──と言っても勝敗は既に決まっている。
茈の命は俺より重い。その生殺与奪を握られた以上、俺に勝ち目は殆ど無かった……つまり、まぁ、なんだ。アレ。
「……死ぬだけで、済めば良いなぁ」
もう助からない。従う以外、俺の未来がほぼ断たれたという事に他ならなかった。
「南阪、今までに
「いえ……となると、現状で彼から貴方に対する要求は“すぐ来い”という部分だけという事になりますね」
「それこそが肝だ。野郎、“生殺与奪を握った状態”で“要求の解釈に幅を持たす”事で、逆に俺達の行動を縛りやがった!」
「!」
茈の無事を思えば思うほど、迂闊に対応できなくなる──どの範疇までがスケイブのセーフラインか分からないからだ。
一歩踏み越えれば
「こうなったら仕方が無ぇ。裸一貫で殴り込む」
「……茈さんが消息不明になって既に半年が経過しています。最低でもそれが準備期間だとすると、」
「分かってる。対策バッチリだろうな、オーガフォン没収もその一環だろう」
「待ってください。何か、何か手を……!」
「伏せろ!!」
それでも南阪は俺を慮ってくれるが、それも時間切れ。
アークオルフェノクを取り込んだ影響か、以前にも増して鋭敏になった感覚が迫り来るミサイル群を捉えた。急遽張った
嗅ぎつけんの早過ぎる上に躊躇もなし!。明らかに周辺の民間人避難終わってないどころか攻撃勧告すらしてないだろ!!
「このまま日本に向かう!」
「
「ジェットスライガーだけは確保してきた!!」
SBから押収されていた超兵器。南阪を小脇に抱えて乗り込み、全力でアクセルを
「どう、するん、ですか!?」
「この身一つでなんとかするっつったろ!」
「なんとかした
「……ッ」
もう何処にも居場所が無い。何処にも行けず、何処でも生きていけない。少なくとも人目がある所では──
分からない。何も。それでも。
「“今”を掴めなきゃ、明日も何も無いだろ……!」
目の前の戦いに勝つ。暴力装置である俺に、それ以外の選択肢など無いのだから。
戦闘機編隊に追われる彼らをまず待ち受けていたのは、艦隊からの砲撃。
それを潜り抜けて辿り着いた本土からは、戦車大隊の砲火。
限界が来たジェットスライガーを乗り捨て、陸路を行く間にも、彼らを銃撃を浴びせかける歩兵。その包囲網を突破し続け、凱歌は南阪を小脇に抱えて走る。
兵士達は信じていた。逃亡を続ける最後にして最強のオルフェノク、それを討つ事が人類の未来につながるのだと。
彼らは知らない。彼らの“上”はとっくの昔に毒され、今
仮に疑問を覚えたとして、命令には抗えない。抗わない。軍の序列とはそういう物で、何より世論は既にオルフェノク排他一色だ。今更個人で叛旗する意味が無かった。
企む支配層。
思考放棄した民衆。
実行された軍事力。
この三つが揃った時、人類史ではロクな事が起こらない。それが今、凱歌たちに降り掛かっていた。
それでも彼らは成功してみせた。
辿り着いたんだ。全ての妨害を振り切って、目的の場所──SB本社があった、巨大クレーターに。
「──急に迎撃が止んだな」
「スケイブから止められた……と見るのが妥当でしょうね」
いや、今はクレーターよりもっと酷い。直径数キロはあろうかという大穴が開き、底は暗黒に包まれ光を返さない。
……“パンドラコア”。それを用いて仮面ライダーブラッドが掘り進んだ穴に、心なしか似ていて。
「いる。奥に」
「……二人とも?」
「間違い無い」
その穴へ一歩踏み出す……前に、振り向いた。唯一の友へ、最後になるかもしれない言葉掛けるべく。
「俺を恨めよ、南阪」
「は……?」
「この先、どう転んだってお前の未来は暗い。そしてそれは俺に起因する事だ……って思っとけ。その方がきっと楽だから」
「ま、待って下さい!!そんなのっ」
「誰も憎めないまま終わる事ほど、苦しくて無意味な事は無いから──」
「凱歌さん!」
そうやって、奴は全ての責任を引き受け跳ぶ。地の底、まさに地獄の大口へ身を投げる。
南阪の手は届かない。共に身を投げるには、人の身は余りにも脆過ぎたから。
「何で……どうして貴方は、僕に何も
何一つ出来なかった。その事実を胸に、彼の慟哭が虚しく響く。
そして、ホースオルフェノクに変身して着地した凱歌にも。
「ようこそ。初めまして、というべきかな?」
「!……お前が“カサブタ”か」
予想通りに。
かつ予想以上の、絶望が待っていた。
スケイブとやらの姿は見えない。暗闇の中で加工された音声だけが聞こえてくる、だがここにいるのは気配からして確実だ。
そして人間でない事も確かだろう。宇宙だの異世界だの、そんな次元の違う分野からオルフェノクを誘い手引きしてきた異形。SBから押収した情報から既に分かっている。
「目的は俺の
『単刀直入ですねぇ。もっとアイスブレイクと洒落込みましょうよ、
「ッ!!!────ああ。良い女だもんなぁ」
一瞬で頭が沸騰するが、気取られないよう話に乗る。交渉はここからが正念場、うまく切り抜けなければ茈が危ない。この局面でただでさえ少ない選択肢を狭める訳にはいかなかった。
『ええ、実に素直で
「あぁ。アイツがいなきゃもっと横暴に振る舞ってたぐらいには気に入ってる、だからこそ顔が見たいね」
『そう急かなくとも、すぐ見せてあげますよ、ホラ』
抵抗されずに捕らえられた事を誇らしげに語るその口をすぐにでも閉ざしてやりたかったが、ひとまず茈の身柄確認まで漕ぎ着ける事には成功。同時に、ここからの動きは絶対に失敗できなくなる。
見える位置に茈が来るという事は、奪還の可能性が現出するという事だ。だがもちろんスケイブからの警戒も強まる、下手こいたら即ゲームオーバーだろう。何よりも避けるべきは茈への加害、俺の事は二の次の更に次という事を忘れないように。
(俺との交渉材料に選んだんだ、まず間違いなく無事な筈。それを視認でき次第、触手を地面に忍ばせて──)
僅かでも正気を見逃さないよう、思案を巡らせながら全方位に集中。そして前方から聞こえた足音、現れる
「ぇ」
思考が止まった。
それは全ての前提が崩壊した瞬間だったから。
「なん、で……」
『──ああ。
茈だった。
けど、茈じゃなかった。
姿形は間違いなくアイツのそれだ。オルフェノクの五感が得た視覚・聴覚・嗅覚、その全てが裏付けてくれる。でも“中身”が、違う。
お前は……誰だ?!
『やだなぁ、私は私ですよ牧路凱歌さん。桐雨茈、22歳3カ月、体重54㎏でスリーサイズは……ああ、これは隠しておいた方が良いですかね』
「ふざけんな!アイツを返せ!!」
もう絡繰りは分かった。一瞬漏れ出た気配、それは紛れも無く人外の物だったから。
何かが茈を操っている。内側に入り込んで、権利も無いのに我が物顔で……!
『“返せ”。それを貴方の要求として、
「お前……ッ!」
『怖い顔をなさらないで欲しいですねぇ。まだ
……ここで俺は、最後のミスを犯した。
すぐに動くべきだったんだ。何も構わず、躊躇わず、自分の怒りに身を任せるべきだった。
冷静であろうとすべきじゃなかった。自分の手で、取り返しのつかない一線を踏み越えていれば──まだ、後悔せずに済んだ。
お前に、“決断”させる事だって、無かった。