夢の守り婢奴   作:スターク(元:はぎほぎ)

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やっとこさ回想終わり!


忌み子の呪い百まで【4/4】

現実世界では既に決着がついていた。

 

無尽蔵に湧き出すオルフェノクの群れ、それに対しディエンドらは範囲攻撃を連発する事で対応。

刹那の隙をついてライダーキバーラがアークオルフェノクへ肉薄し、群れの召喚および統率の阻害に成功する。クウガのモーフィングパワーで一網打尽にし、やっと振り出し──3対1の状況へ巻き戻したその時だった。

 

アークオルフェノクが()()()()()()()()()()

 

つまり、クロックアップである。

 

「莫迦な……!」

 

元より素のスペックだけで連携を凌がれていたのだ。加速能力をモノにされた時点で趨勢は決定的だったと言える。

ディエンド側にも加速能力はあるが……1対1で勝てない以上はどうしようもない。

 

「何をす、ぐぁ!!」

 

変身を維持できなくなろうとも、倒れるものかと踏ん張っていたユウスケ。その頬を殴り倒してアークオルフェノクは歩む。気を失った光夏海の下へと。

 

「えぇ、こうなったらヤケよ!どっか行きなさい、このッ、キャア!?」

 

最後の抵抗を試みて飛び掛かって来たキバーラに裏拳。そのまま夏海の胸倉の服を無造作に掴み上げて……久しぶりに、彼は口を開いた。

 

 

「かつて、お前のような女がいた」

 

場に不適格なほど、穏やかな声音だった。例えるならそう、過ぎ去った過去を懐かしむような。

 

「誠実な奴だった。誰に対しても警護で、礼儀を欠かさず、純真にひたむきに……正しきは報われるべきと、そう言って憚らないような」

「…………」

「ま、要約すると“善”だったよ。紛れも無く」

 

気絶しているのだから返答などあり得ない。それもまた記憶に重なり、アークは苦笑を漏らす。

 

「その在り方こそが──()()()()()()()()事になるとも知らずになぁ」

「悦に浸っている所を悪いけど……彼女は光夏海だ。君の知ってる誰かとは違う!」

「うるせぇ」

 

ノールックの光弾で海東を吹き飛ばし、黙らせながら彼は続けた。空いた左手、その五指を触手として揺らめかせながら。

……使徒再生だ。

 

「だからこそ気になんだよ。もしそんな人間の鑑みたいな奴が、人間である事を辞めさせられた時──」

「よせ……!」

「それ以上はやめろーッ!!」

「どんなツラして、どんな選択をするのかさぁ!!」

 

触手が狙うはもちろん心臓。この場にいる誰も止められない。

物陰に潜んでいた鳴滝もオーロラカーテンで夏海を救おうとする。どういう訳か、護衛のオルフェノクに囲まれ隠れていた南阪も飛び出そうとしていた。だが誰も間に合わない。

鋭い刺突が、夏海の皮膚を突き破る────

 

 

「──やっば」

 

 

かに思われた。結果は違う。

薄皮1枚、それが触手が破った物。胸骨を貫くどころかその遥か手前で、貫通は中止されたのだ。

訳は誰にも分からない。急に動きを止めたアークも、その思惑も。一拍遅れて夏海が鳴滝に保護されても微動だにせず。

 

数秒置いて、倒れた。

 

「……何があった?」

 

目覚めたユウスケの疑問に、答えられる者はいなかった。

 

 




 

 

大穴の底は、まさに一触即発だった。

心の自由を奪われた桐雨茈。想い人である彼女を貶められた怒りで睨みつける牧路凱歌。そしてその殺意を受けてなお、茈の中から飄々と振る舞うのを辞めないスケイブ。緊迫極まった状況下で、主導権を握るのは最後者だ。

 

『ええ、良くぞ怒りを抑えているものです。この場で事に及べば、私が宿主とする茈さんの死は免れませんから──本物か否かを疑ってる訳ではないですよね?この銃なら見覚えがある筈です、貴方がプレゼントされたんでしたっけね』

「……ッ」

『ああ、ご安心を。茈さんは生きています、いま彼女の精神は眠りに就いているだけです』

 

そう、どれほど怒りを示したとしても現状は変わらない。茈は意思表明も出来ず、彼女の事が何より大切な凱歌にとっては人質そのものだ。その生殺与奪を握り盾としている以上、スケイブの優位は絶対に揺るがない。

その前提で、弄んでいた特殊拳銃を腰にしまいながら奴は話を進め続ける。

 

『そこで貴方が欲するのは、彼女の身柄の返還。これで合っていますね?』

「……お前が引き換えとしたいのは、何だ」

『話が早い。もちろん貴方ですよ、牧路凱歌さん』

 

一つの命対一つの命、一見して対等な取引だな。凱歌は現状最強のオルフェノクで、内にアークオルフェノクを秘めた重大な存在って事を視野から除けば。

それを知ってるから、凱歌もただでは明け渡さない。

 

「……それだけじゃ割に合わんな。条件を追加させてもらう──茈と南阪に代表される、俺の大切な奴らの健康で文化的な生活保障だ。基準は日本国憲法第25条で固定で」

『縛りますねぇ。私も上乗せしますよ』

「勝手にしろよ。お前が約束を守る保証も無いんだ、吹っ掛けもするさ」

『しかし貴方は()()()()()()でしか動けない。それも分かっているのでしょう?』

「…………」

 

けれど致命的に足元を見られてしまえば、それも些細な抵抗の域を出られなかった。凱歌の出した条件は、通りさえすれば茈達の安全保障だけでなく、彼らを取り巻く人間社会・地球環境の保全にも繋がる。その穴を突こうとしたものの、それは茈の身柄が完全に戻って来ない限りは成り立たないんだから。

凱歌は苦慮を重ねた。何か付け入る隙は無いのか、打破に足る条件は無いのか、自分が持ちうる情報から数秒の内に総てを想定し──

 

「──分かった」

 

無いと、知る。

 

変身を解いて両手を広げ、無抵抗をその身で体現した。スケイブの顔が、成し遂げた喜悦に染まった。

 

『見事!自分の欲望のため自分を差し出す、その矛盾を貫く覚悟に敬意を表しましょうっ』

「言ってろ。契約が成立した時点で条件は固定だ、お前からの上乗せは許さない」

『良いでしょうとも。桐雨茈のこの身柄、南阪および他の大切な物の未来だけは保証して差し上げます。パンドラの神に誓いましょうとも、ええ』

「……だけ、か。ちなみにだが、他はどうなるんだ」

『跡形も無く(エボルト)様の御馳走となりますが?貴方の身体と力がメインディッシュです』

「そう……か」

 

瞬間、茈の皮膚からにじみ出た紫のオーラ。それは触手の形に収束し、一斉に凱歌の身体へ巻き付いた。まさしく捕食、贄を得た獣の挙動。

凱歌は動かない。何も出来ないし、出来たとしてもしない。全てを諦め──否、一つだけ。

 

()()()()に、また逢いたかったな)

 

誰を想ったのか。不思議な事に、それは茈達じゃない。

凱歌の脳裏によぎったのは、ポニーテールの少女の影だ。顔も見えない彼女は、これまでの凱歌の記憶には一切登場していない──にもかかわらず、その思いでは鮮烈な光を帯びていて。

 

それに当たられてか、沸々と欲望が湧きだす。僅かで仄かな最後の願い。

 

「……最期なんだろ」

『そうですね。貴方の自由意思は今この瞬間で終わりです、お疲れさまでした』

「じゃあ、茈と話させてくれ……冥土の土産にしたいんだ、」

 

相手の勝利条件が達成されているからこそ通じる駄々。目論見通り、気を良くしていたスケイブは肯定で応じた。そこに何の企みも無かったからこそ。

 

『そうですねぇ……まぁ損はありませんから。私も人間になぞらえ、徳を積むとしましょうか』

 

感謝しなさい、と言って目を閉じる。待つこと数秒──そこには彼女本来の、紫苑色の瞳が見えた。

 

「──凱歌、さん」

「茈。悪いな、こんな状況で起こしちまって」

 

この会話は“呪い”になるだろう。それが分かっていて、だが我慢できなかったと凱歌は笑う。

相手を犠牲にして自分達だけが生き残った。それを目の当たりにしては、どれだけ犠牲本人からの慰めの言葉を貰っても後悔にしかなり得ない。善人であればある程に。

 

それでも話したかった。

最愛の彼女と、言の葉を交わしたかった。自分なりの精いっぱいの想いを、この今際で伝えたかった。

牧路凱歌という人間の、最後の欲望を。

 

「もう時間も無い。だから一言だけだ──俺の事は忘れてくれ。忘れて未来へ行ってくれ」

「……」

「俺がお前に遺してやれるのは、そんな世界だけだから」

 

返事は無い。怒っているのだろうか。こんな状況で、それでも、誹りでも嘆きでも、彼女の言葉を受け取ろうとして、凱歌は顔を上げた。

 

「……茈?」

()()()()()

 

 

 

牧路凱歌は、見誤った。

 

スケイブは、見縊っていた。

 

桐雨茈という女の覚悟を。

 

 

一瞬だった。腰から取り出した拳銃で、茈が自分を撃ち抜いたのは。

 

「くふ……ぅ……ッ!!」

 

血の花が咲く。宙を舞い、床一面を赤で染める。

オルフェノクに対する護身を見込んで作られた銃だ。それを受けた茈の胸には、直径10cmを超える風穴が開いていた。

 

想像を絶する苦痛だろう。痛くて仕方がないだろう、たとえ痛覚もろとも吹っ飛んでいたとしても衝撃は計り知れない。肉体的にも、精神的にも。

それでも、彼女は。

 

「がいか、さ、ん」

 

命の滴を失いながら。

 

「生き゛、て……!」

 

笑っていたんだ。

 

自分の願いは変わらないと。ただ目の前の、愛した男を在るが儘に愛したんだ。自分で自分の未来を断ち切りながら、その未来で男の足を引っ張るものかと自裁してみせた。

 

 

『ッッッああああ糞人間がァァァッ!!』

 

それも一瞬。無視できないダメージを追ったらしく触手を引っ込め、血反吐を吐きながらスケイブが吠えた。

自殺に巻き込まれて堪るかと主導権を奪う。紫苑の瞳が、再び沈む。

 

牧路凱歌は。

 

(死ぬ)

 

迷う。

 

(茈が)

 

惑う。

 

(死んじまう……!)

 

突き付けられた現実を前に、思考が澱む。

心臓を失った人間は生きてはいられない。そんな当たり前の事を忘却し、焦燥に埋め尽くされた頭脳が悲鳴を上げ──奴は狂った。

 

「ッああぁぁ!!!」

『なっ!?』

 

既に交渉は破綻した。一刻も早く助けなければ、救い出して助けなければ、そうしなければ。

その思いを絶叫し、変身と共に掴み掛かる。未だ未練がましく憑依しているスケイブから茈を取り戻そうと。

 

「返せ茈を、返せッ!!!」

『よせ、やめろ!そんな事したr、あぁっ!?』

「返せぇぇえええッ!!」

 

なりふり構わず、力任せに胴を掴む。人外の膂力で思い切り引っ張れば、スケイブの悲鳴が木霊する。

それを手応えとして、引っ張って、引っ張って、全力で。

 

そんな風に、風穴の空いた人間の体で綱引きしてしまえばどうなるか。お前が冷静だったらすぐ分かったろうに。

 

 

──千切れた。

 

 

小柄とはいえ、歴とした成人女性の身体が。上半身と下半身で、濡れたティッシュを破るが如く。

後者の断面からスケイブが這々の体で飛び出し、前者を凱歌が抱き留めた。一瞬を経て、その軽さに目を見開き……

 

 

「ッぁ──あああぁあアア!!!」

 

この時。

きっと牧路凱歌は、今度こそ正気に変える術を失ったんだろう。

そう確信させる咆哮を放ち、奴はその姿を変える。ホースオルフェノクの(すがた)を融かし、死せる時のように青く発火。しかしその実、再誕していった。

 

人として死した白騎士。その骸より出づる、蝗害の王。

 

 

アークオルフェノクの再臨。

破壊。

暴虐。

それらを最後のページとして、牧路凱歌の半生はその後編を終えたのだった。

 

 

 

「──()()()()()()

 

今度こそ。本を閉じ、核心と共に呟く。

 

なるほど難解な訳だ。人類側としても俺に全てを打ち明ける訳が無い、こんな“自分から敵に全てを明け渡してました、先に凱歌を攻撃したのは自分達です”なんて醜聞を。貰った情報が不足してたのも納得だな。

 

そして何より、牧路凱歌の行動原理も、ある程度見えた。

 

(人間を徹底的に信用しないのも……ま、当然か)

 

幼子が生まれて最初に直面する“社会”、親とはそういうもの。その片方である母親がいない中、もう片方である父親から受けたのがあの有様……暴力が行動の中心になる素養は、ここで既に出来ていた。

次いで、保護者となった祖父からの不干渉。それにより素行を糺してもらえる機会を失い、人としての正道から逸れていき──父親による襲撃と、それに対する過剰防衛。これでマイナスの成功体験が完全に根付いてしまった。

 

力こそ全て。根本からこの論理に染まった彼が、一時は現代社会に復帰できたのが不思議なくらいだ。何が彼にあったのか、未だ開かない()()1()()を見たい処だが……それでもきっと、桐雨茈の存在は本当に大きかったんだろう。

俺にとっての夏海。正気の(よすが)、人の域に留める為の楔。例える言葉は数あるが、凱歌にとって彼女は真の意味で救いだった。人でなしに堕ちかけた彼に手を差し伸べる女神だった。

 

それを喪った。

奪われた。

自身の判断ミスで、敵に、守ろうとした人々に。

 

(あり得ないが……もし夏海が、正義のライダーに殺されたら?)

 

考える価値すら無い可能性。それが成立してしまったIFが、まさか奴なのか。

 

愛さえ知らずに育ち、愛を得て立ち上がり、愛を奪われ壊れた。そんな存在が奴なのだとすれば──

 

 

──牧路、凱歌。

 

「お前は今も……復讐の中にあるのか」

「違うが?」

 

反応は即座。だが間に合わない、振り向いた俺の首には既に触手の切っ先が突き付けられている。

……俺としたことが、油断が過ぎたな……!

 

「いつから居た……ッ」

今北産業(今来たところ)だっての。人様の過去を好き勝手掘り返してくれやがって──あ、俺人じゃなかったわ」

「ツッコミ待ちか?」

「ユーモアに飢えてるモンでね」

 

そう言いながら、凱歌の視線は俺の背後へ。読み終えて本棚に戻された前編を見、俺の手元にある後編を見、溜息を長く。

 

「あのさぁ……まさかとは思うが、()()なんかしてないだろうな?」

 

終えて、発した言葉は。

それまでのどの発言より、怒りで鈍く滾っていた。




【Open your eyes for the next...】

《第11話 決戦の刻》
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