「────やーめた」
地を穿つ大穴から出てすぐ、俺は言った。聞いた瞬間の南阪の顔は見ものだったなぁ。
「もうさ、無理だよ。今更
「そんな事……っ」
「じゃあ俺がここから人間社会に復帰出来る方法、10秒以内に答えて。はいスタート!」
無理難題を吹っかけている自覚はある。茈だったら「そうやって揶揄うの、良くない癖ですよ」と小言をくれただろう。
……胸元を見ても、茈の唇は動かない。分かってた、ああ分かってるさ。手前の手で引きちぎったってのに、その軽さで泣きそうになる自分を戒める。
「…………」
「ほらな?」
「すみま、せん」
「お前の責任じゃないだろ」
結果は7秒。当初の制限時間を待たずして、南阪は諦めた。ああ、俺も同じ結論に辿り着いたよ。
人間は俺を許容できないし、それとつるむお前も受け入れない。だから俺も、金輪際、人間を信じはしない。そう決めた。
「俺みたいな奴が“正しい”道を歩こうとしたって、辛くて苦しいだけ。それでも、得が無くても、意味はあるって思ってた」
だからこれはただの愚痴。何にもならない独り言。
「意味すら無いんじゃしょうがねぇわ。自分だけが損するならまだしもなぁ」
人類の為だなんて、恩着せがましい大義を掲げてたつもりは全く無い。けど俺はともかく、茈や南阪はその通りに讃えられて然るべきだった筈だ……でもそうはならなかった。
俺のミスなんだ。南阪、お前の指が無くなっちまったのも。茈、お前がいなくなっちまったのも全部。
お前達の理想に、俺が追従しなければ。俺だけは否定してれば、少なくともこんな事には。
「どこへ、行くんです?」
「弔う」
……ああ、でも。茈、一言だけ罵らせてくれよ。
キリスト教だったか?自殺を罪と定義したのは。最初に知った時は「自分の死に方ぐらい決めさせてくれよ」と思ったっけ。
でもその理由が分かった。辛いんだ。残された奴はずっと苦しいんだ。
あの時何か出来たんじゃないか、止められたんじゃないかって、ずっと苛まれる羽目になる。
多分、ずっと。俺の寿命は恐らく無いから、負けて死なない限り──永遠に。
そんな地獄に突き落とすんだ。罪じゃなくてなんて言うんだ。
「その後は……そうだな」
だからせめて見ててくれよ。お前を失った俺がどうなっちまうのか、何をしでかすのか。
それを目の当たりにして、どうか後悔して欲しい。魂だけ天国に行って、抜け殻になった肉体へそう誓う。
「報復でもすっかな?」
俺が世界全土の政府機関を同時爆破したのは、この24時間後。
もう王道なんか歩まない。人道なんて選ばない。
これが俺だけの、俺の在るべき
どうやら牧路凱歌の逆鱗に触れてしまったらしい。そう察した俺は、しかし表向き落ち着き払って口を開いた。
「共感しそうにはなった。遺憾ながらな」
「しそうになった時点でこっちも遺憾だ。奇遇だな」
「じゃあ、奇遇の
「ダメだね。そうやって油断したから死んだスケイブって奴をご存知ない?」
知ってる。ついさっき地球の記憶で、肉塊と化して破裂する映像を見た。
兎にも角にもこのままブッ刺されるのは非常に不味い。相手も話に乗ってくれる様子ではあるし、場を繋がなければ。
……折角お前を知ったんだ。ここで対話を選ばなくてどうする。
「そういえば、南阪について幾つか疑問があってな。アイツ周りの問題はどう解決したんだ、人類側に復帰させたり指治したり」
「あ〜それね。アークに覚醒した時に手に入れた物質操作ってマジで便利でさ、指を創造してくっつけた後に全人類の脳神経を弄り倒してやったわ。小野寺ユウスケにやったのと同じ事ね」
「は?」
「アイツは今“最後まで
「なったんだけど、じゃないが」
徹底的なまでの人類軽視に気が遠くなりかけるが、参ってはいられない。
「……だが、復讐じゃないとすればなんなんだ。“報復”ってお前自身言ってただろう」
「取り敢えずやる事がそれしか無かったからそう言ったに過ぎん。物を食べる時、箸を手に取った人へ“食べるんじゃないのか”とは聞かんだろ」
「人類への攻撃は“手段”という事か」
「ま、言っといてなんだが当てつけの側面が無かったとは言わんぞ?ただ主目的が“防衛”なのは……もう分かってくれてると思う」
その言に渋々ながら頷いた。スケイブに呼ばれた侵略者が続々と迫り来る以上、反発してくる人類に
だから圧する。制して、黙らせ、抑え込む。理には適ってるかもな。
だが……納得できるかと言われれば、絶対に否だ。
「気に入らんな」
「何が?」
「お前、これで人類を
問いに対し、牧路凱歌は首を縦に振る。何の躊躇いも無くノータイムで。
「俺がいなきゃ自分から滅びに行ってたんだぞ?めちゃくちゃ生かしてるだろ」
「世界各地で殺戮を振り撒きながらそれを言うか」
思い出すのは、この世界へたどり着いた時の事。オルフェノクの軍勢に虐げられ、引きずり回される無辜の民達。
あんな暴虐に晒されて、“生きている”と本気で?
「歴史の中で人命は軽い。個体数が多少減ろうが、残った奴が生んで増やせば種としちゃ上々だろう?それが生態系ってヤツだし」
「それは獣の道理だ、人の倫理じゃない」
「本格的に人間を辞めてからはそれ以外の摂理に与してんだ。文句を言われる筋合いは無ぇなぁ」
「殺されるのは人間なんだから関係ある」
飽くまで堂々と答える凱歌。だが俺は絶対に認めはしない、お前の戦いに一縷の尊敬を抱いたからこそ猶更だ。
何故ならお前は!
「俺達は、
「……」
自由と平和を守る戦士。お前はその力を纏い、その通りに奮っていた。
人類全般の為では確かになかった……だが、茈と南阪に関してだけはその筈だ。
お前は、アイツらの自由と平和を確かに守っていたんだ!そのお前がこんな暴虐に身を窶すなんて、こんなに悲しい話があるか?
「そんなお前が、他者から自由も平和も奪うのか?それを桐雨茈が喜ぶと本気で思って──!」
「知るかボケ」
……だが、届かない。説得するには、奴の意思は固まり切っていて。
首に巻き付き、総身を持ち上げてくる触手。生身の俺には為す術もない。生憎、ディケイドライバーも現実世界に置いてきてしまい手元には無かった。
「ぐあ……!」
「自由も平和も奪う?バカ言うな、平和はくれてやってるだろ。自由はその細やかな駄賃ってな」
「見返りを求めてる時点で、胸を張れる正義じゃないぞ……!」
「生存戦争にナンセンスな事言うなよ。そもそも戦いにあるのは正義じゃなくて純粋な願いだけ……とか言いだしたのはお前らだろうがッ」
「それは……龍騎のっ」
「滅ぼされたくない!守らなきゃいけない!こんな俺の願いは純粋じゃないってか、えぇ?!」
どうなんだ、という問いと同時に気管が絞められた。疑問を投げかけるのではなく、否定を赦さないという断固たる意志表明。
「自由と平和の両立?無理だろ!人間の愚かさ舐めんな、放ってたら自分から生殺与奪をブラッド族に明け渡してた白痴種族だぞ!?そのクセ自分を生物学的に名付ける時には“霊長”類だぜ、最早ギャグだ!!」
「ッ」
「迫る危機には他人事として知らず、聞かず!いざ直面すればその場の声のデカい奴に追従し、思考放棄で暴れ出す獣!それが人類だ、こんな自己責任も果たせない生物に……権利なんか、くれてやれるか!!!」
次の瞬間、勢い良く叩きつけられた。肺から全ての空気が叩きだされ、酸素を求めて横隔膜が痙攣する。その間も、凱歌の怒りが絶え間なく鼓膜を叩く。
「……もう二度と間違わん。自助も自衛も自立も出来ないゴミ共の事情なんか二度と酌量するか──ああ、訂正するよ
「何への、だ……っ?」
「無駄な労力を費やした結果、茈を死なせた過去の自分への。って所」
言うだけ言って満足したのか、語気を鎮めて凱歌は告げる。だが依然、性根に染み付いた人類への怒りと不信は燃やし続けたまま。
……奴の言い分は否定できない。ヒーローを市民が排斥するなんてよくある事だ、枚挙に暇が無いからな。俺にだって覚えはある。
偏に、その原因は無知。知らない物は怖い、怖い物は遠ざけたい、遠ざける為にやっつけてしまえ。その心理が短絡的な排斥を引き起こす。ヒーロー案件に限らず、人類が繰り返してきた歴史の一つだ。
それでも俺達は大丈夫だった。何故なら心にダメージは来ても体に問題は無い、俺達だけが化け物だと非難されてもある程度は平気だったから。市民が幾ら石を投げて来ようとも“敵”にはならなかった。
だが、この世界の市民は、人類は、牧路凱歌の“敵”だった。
凱歌だけでなく、茈達も積極的に傷付けた。自分の意思で地球を
「全員がそうじゃない」と言ったって無駄だ。奴はそれを信じて失った、そういう負の体験を基にして今の立ち位置を選んでいる。その憎悪は容易くは突き崩せない。
(……それでも……!)
だが、希望はある。そう伝えてやりたかった。
「じゃあ──
「!」
指差したのは一冊。俺が呼んだ前編でも、後編でもない──その間に挟まっていた地球の記憶。明らかに連続しているのに、鍵がかかって読めなかった一束の歴史。
牧路凱歌。お前の、
「入水して終わった前編から、オルフェノクに覚醒して始まった後編。そのまま繋がらなくもなかったが……後編序盤のお前は、茈の存在だけでは説明が出来ないぐらいに心に光を取り戻してた!何故だ!」
そこにお前の希望、或いは夢がある筈だ。他者と繋がり合う夢を見たからこその瞳の輝きだった!それを知ってるなら、まだお前にも違う道がある。
未来を夢見る道が、絶対に……!?
「誰しもに、触れられたくない一線ってのがあるよな」
瞬間、凱歌の右手が青く燃えた。一瞬で膨れ上がった殺意が肌を叩く、確死を告げる。
「今のがそれだ──!」
(ここまでか……!)
ベストは尽くしたが悔いしか残らない。こんな所で、俺の旅を終える訳にはいかないというのに。
悔やんでる間にも温度と規模を肥大させる蒼炎。とうとう俺目掛けて照準され、放たれるその時を待つ。もがいた所で触手は取れない。
せめてディケイドライバーがあれば……アレがありさえすれば……!
その時。
温度上昇が止まった。
「……は?」
「ぁ……っ」
理由は分かる。だが訳が分からない。
死人が俺を庇っていた。
桐雨茈。藍色を帯びた黒髪を靡かせ、凱歌の手を阻むように。
「……なーんだ。やっぱお前、ここにいたんじゃん」
『────!』
……俺は何を考えてたんだ。
ディケイドライバーがあれば?戯言をほざくな。
二度も助けてくれたんだぞ。最初は、地球の記憶に呑まれそうになった俺をここまで導いた時。二度目は今この時。
それは何故だ?──決まってる。
俺を信じてくれたからだ。
ディケイドライバーなんて関係ない、俺という個人を。
この牧路凱歌を。唖然としたままの、だが放っておけば更なる恐慌を加速させていく奴を、止められると信じて託してくれたからだ!
「ぐっ……うぉぉおおおおおおお!」
「んなッ──!?」
俺の存在意義はディケイドである事。それは同時に、ディケイドの力は俺の存在前提だという事だ。そこから自分の本質を、その解釈を広げろ。
この窮屈な絶望を、
「俺は──“破壊者”だッ!!」
刹那、手を付いた地面が罅割れた。破砕は広がり、瞬く間に世界を覆い尽くす。
地球の本棚も。それを内包するアンダーワールドも。その全てが破片と化し、夢幻のように消え失せる。浮遊感。
その最中、桐雨茈と牧路凱歌が手を伸ばし合う姿を垣間見て──届かず離れたその瞬間、俺の意識は急浮上したのだった。
────覚醒。
「士君!」
「「士!」」
「ディケイドぉ!」
「うるさい!……勢揃いだな」
夏海達からすれば理解し難い状況だ。なんせ圧倒的優勢に会ったアークオルフェノクが急に倒れたかと思いきや、地面を突き破って飛び出してきた士。更に制御下を外れたのか、設置していた月がまるで時間を巻き戻すように地球から離れていくのだから。
そんな中、仲間に囲まれた士は前を見遣る。そこには、思わず駆け寄ってきたのだろう南阪に介抱されるアークオルフェノク──から、人間の姿になった牧路凱歌がいた。
「……何しやがった、テメェ!!」
「俺を誰だと思ってる。言っただろ、“破壊”したってな!」
「だから!何を壊したんだって聞いてんだ!」
「安心しろ、この星自体の何かを壊した訳じゃない。だがあの世界は地球のアンダーワールドでもあり、それと直結しているお前のアンダーワールドでもあるんだろ……俺はライダーの破壊者だ。仮面ライダーに関連する物なら、どうとでも出来る!」
「!!」
言われ、己の内を改めて探れば……確かに消えている。牧路凱歌の中にあった大事な要素たち。
折角取り込み、地球の
地球と直結し、その力を取り込んでいたアークオルフェノクの
つまり先刻、ディエンド達を圧倒してみせた地球の王としての力。それを雲散霧消させられたのだと!
「オイ……オイオイオイオイ!!!ふざけんな、お前この行為の意味が分かってんのか!?」
「分かってるさ。今のお前は地球の主なんかじゃない……この閉ざされた地球で、王様気分で他の生命を封じ込めた、限界ある
「それが
宇宙から迫り来る侵略者への
だが一方、門矢士は毅然としていた。理は自分にあるのだと、無ければならないのだと自負するように。
「……お前は、聞いたのか?」
「ア゛ぁ゛!?」
「守ってくれと頼まれたのか。そういう願いを聞いたのか?」
「聞くまでも無ぇな!滅びたいと思ってるならとっくの昔に70億総自決してんだろ!!」
そうでないなら生きたいという事、その上で自衛手段が無いから守って
それを聞いて、士もまた立ち上がる。確固たる反論を唇より迸らせて。
「だったら、お前のやってる事はただの
「ハァ?!俺言ったよな、責任も果たせない
「違うな、権利は生まれた全ての命に平等にある!特に──子供のそれは、無制限に保証されるべきだろ!」
脳裏によぎるのは、オルフェノク軍団に虐げられていた避難民。その中で泣き喚く赤子、アークオルフェノクへの怒りに涙する幼子達の姿だ。
彼らは何の謂れも無い。牧路凱歌を知らず、桐雨茈達に危害を加えた事も無く、地球を外星人へ売り飛ばした愚かな大人達とは何の関りも持っていない。
そんな子供達でさえ暴虐に晒されていた。この光景を目撃した時点で、門矢士に牧路凱歌の行いを否定こそ出来ずとも……肯定できる要素はそれ以上に皆無なのだ。
「守ってやるから・救ってやるから・だから支配されていろ……?冗談じゃない!そんな世界で生きていると、胸を張って言えるのか!?そんな未来を無垢な子供達に歩ませるのが“純粋な願い”か!!」
「
分かっている筈だと。人差し指を突き付け、尊厳を叫ぶ。それは人が人として在る為、手放してはいけない絶対条件だ。
それはお前が、桐雨茈と共に生きようとしていた時、大事であると知っていた事だろうと。そんな問いに唾棄する凱歌へ、士は力強く言い放つ。
自分が
「人々は生きたいと叫んだ。なら──
──それを守るのが“仮面ライダー”だ!」
「良い事言うねェ」
一拍の沈黙。それを置いて改めて怒気を放とうとした凱歌を、更なる闖入者が先んじた。
男。足取りを軽やかに躍り出てきた彼は、この世界に或る俳優と同じ顔を持っている。一見、一般人。
だが士は知っていた。その男の正体を。
凱歌は把握していた。仮面ライダービルドの企画段階で、その俳優がどんな役に抜擢されていたかを。
「……最悪のタイミングだ」
「いやァ悪いな、俺の存在そのものが反例になっちまってる自覚はある……が、それを差っ引いてもいろいろ思い出しちまう言葉でねェ。思わず飛び出しちまったってワケよ」
時を同じくして、士に便乗して脱出していたのだろう。石動の姿を借りて現れたエボルトは、ワハハと大きく笑ってから士に並び立った。
「良いだろう。“愛と平和を胸に生きていける世界を創る”とは誰が言ったか……今だけは、俺もそういう“仮面ライダー”になってやろうじゃないか」
「どういう風の吹き回しだ?お前の事だ、幾ら桐生戦兎達に思い入れがあると言っても改心するタチじゃないだろ」
「感慨に耽て気紛れるぐらいは許してくれよォ。それに“星狩り”が
それが臨戦の合図。エボルトの身体にベルトが巻き付くと同時に、士が取り出したのはケータッチと──1枚のカードだ。
そこには描かれているのは、目が鋭く変容した悪鬼の如きディケイド。つまり激情態の札を今ここで切る気なのである。目の前の歪み切った“仮面ライダー”の在り方を、完膚なきまでに破壊する為に。
それを目にした凱歌の瞳が、細められて。
「もやし」
「何だ」
「お前、何者だ?」
告げられたのは、まるでお膳立て。何の意味も無い言葉の応酬で、実際それは彼にとって完全に無意味な問い掛けだった。
凱歌は士を知っている。ディケイドを識っている。世に名高い説教も、その
これから始まるのが、全てを分かつ決戦なのだと。そう決定づける為の儀式だ。士もそれに乗って、覚悟と共に言い放った。
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ────変身ッ!!」
激情態のコンプリートフォーム。それに、新たなる仮面ライダー9人の力。これがディケイドが発揮できる最強の力、最強の姿である。
追って、エボルトも己のドライバーをフル稼働。壮大なクラシック音楽を掻き鳴らし、二人のライダーが並び立つ事と相成った。
「変身……!」
「フェーズ1完了……って、これじゃ格好付かねェかァ」
奇妙。一言でいえば、この光景の形容にはそれで足りるだろう。
地球を守ろうとする殺戮者に、世界の破壊者と宇宙の侵食者が、人間の自由を守るべく立ちはだかっているのだ。皮肉が利いていると言えば利いている。滑稽と言えば滑稽。愉快と思えば愉快。
当人たちからすれば至って真剣であり、かつ実際地球の命運がかかっているのだから笑い事ではないのだが……
「……は、はっ」
牧路凱歌はそれでも笑った。
可笑しいとばかりに嗤った。酷い有様だと嘲った。そしてそれ以上に、嘆くように苦笑していた。
その鬱憤を表すように──力任せに、自らの腹を引き裂いた。
くだらない。あゝくだらない、くだらない。牧路凱歌、渾身の一句。
なんて莫迦げた景色だ?ディケイドともあろう奴が、人間の自由如きを守る為に、俺を倒す為だけに、よりによってエボルトと組みやがった。いと莫迦
「凱歌さん、退きましょう!僕が前面に立てば少なくとも士さんは手を緩めます、貴方はその間に地球との接続を再構築して──」
「
辛うじて残ってた権能で召喚したクレインオルフェノクに、突飛ばした南阪を拘束させる。空の彼方へ攫われていく腐れ縁に一瞥をくれてやれる余裕さえ無いまま、
手応え。
引き抜く。
俺の、最後の切り札。最終兵器。
「それは……!」
「知ってるのか?」
「……ああ。気を付けろとしか言えんが」
「なるほど?お前程の奴がそう言うんじゃ──卑怯とか言ってられねェなァ!?」
恐らく隙だらけと見たんだろう、エボルが伸ばしてきた毒触手。成程抜け目が無い、速さも凄い、避けられん。
それだけに、
「──弾かれたんだが?」
「見事にな」
「全然見事じゃないが」
「恐らく奴が手で触れた時点で自動防御か何かが機能している。出来れば手にする前に止めたかったが……まさか体内に仕込んでたとは」
「名乗り出る前に奇襲しとくべきだっか……」
固まった空間が触手を跳ね返した。別になんて事はない、ディケイドの言う通りそういう機能が
……ああ、そうだ。
(いつだって、お前のくれた物だけが、俺を守ってくれる)
このオーガフォンも、ライダーベルトも、茈が齎してた物だ。アイツが俺を想って、俺に託して、遺してくれた大切な力。
それをふと見つめる。傷一つなく黒金に輝くフォンを、血に塗れた俺の掌が確と掴んでいた。今は俺自身の血だが、それ以前に数多の人の命を奪ってきた手だ。
……さっき、この手で、茈の手を掴めてしまっていたら。
「……詮無き事、だなぁ」
言っとくが、殺めて来た事に対する呵責は全く無い。後悔は無いし反省もしない。その手で愛しい物に、者に、触れる事を間違ってるとも一切思わない。
けれど俺の愛する奴らは、それを良しとはしないんだ。血を被るのは嫌なんだ。
そんなアイツらだからこそ好きになってしまった。
だから茈が、俺を止めに来てくれて良かった。それでこその茈だから。
俺がアイツの手を取れなくて、本当に良かった。もし握れてしまってたら、俺がアイツを地獄に引き摺り込むか、アイツが俺を天国に引き込むからの二択になってた。
もう同じ所には行けない。アイツらは天国で、俺は地獄だ。地獄が無ければ天国は──ああ、クソ。思ったよりナイーヴになってやがる、こんな脳内ポエムを垂れるだなんて二度と御免だ。
情けないのはこれで終い。全て俺の意志、俺の選択。誰かの為じゃない、俺自身の為に。
絶対に……
「絶対に、テメェらを殺す」
その為に、それ以外の総てを滅ぼしてでも!
確殺の意志。それに呼応するように、フォンが収められたギアから光の帯が現れた。“フォトンストリーム”だか何だか知らんが、金色のそれは瞬く間に総身へ纏わりついて形を成していく。
それを
鎧か。城か。重さと堅牢さを伴うそれは、最後に頭部バイザーを展開して網膜に灯された世界の光。
「仮面ライダー……オーガ……!」
映った視界で、ディケイドが慄くように言った。そうだ。俺がこの世界の
その物語を俺なりにトゥルーエンドに誘導したい俺と、バッドエンドを告げに来るお前。じゃあもう、俺のやる事は一つだけだろ?
「……してやる」
「ッ、来るぞ!!」
「殺してやるッ!!!」
もう敬意なんか一切抱かない。他の世界に配慮なんて一縷もしない。
死ね!門矢士!!
目醒めた力がその