時を遡り、まだ牧路凱歌が生まれるより前。
スケイブの誘いに乗ったのは良い。スマートブレインは壊滅し、奪われたファイズ・デルタ・裏切ったカイザによって
「このままではダメよ」
しかし。スマートブレインを再興し、王を回復させる目処がたった今、暢気な事は言ってられなくなった。
何故ならスケイブは明らかに此方を裏切るつもりでいる。余裕も無く余談を許されない状況ならまだしも、余力を持てた現状でそれに甘んじてはいられない。
「と、言いますと?」
「この世界でも順当にオルフェノクは増やせてるし、王が贄を食す量も順調に増えてきてる。けどスケイブから王を守れなければ何の意味も無いわ」
王による恒久的な統治、それによるオルフェノクの永遠の繁栄。それを為すには万全の準備を整えなければ、スケイブに気取られぬよう慎重に。
今度こそ、王を守るベルトを。
「新たなライダーギアの製作を命じます。出力は……金よ。それが
「しょっ……正気ですか!?ゴールドフォトンブラッドは、元の世界で予算・設備が潤沢だった頃でさえ制御出来なかったんですよ!」
「そもそも金より上は確認されてません!ダブルストリーム方式で底上げするにしても、現状カイザ以上の出力では変身者への負担が……」
「命令よ。耐えられる変身者なら……そうよ、
無茶振りも良いところだが、しかしここに至ってなお冴子に付き従ってきた部下たちである。冴子およびSBへの忠誠は本物であり、その再興を目指して指示を受け入れた。
かくして開発は始まり…………周知の結論を言おう。完成した。
数多の奇跡的な幸運が相互作用を働かせた結果だ。再現性は無く、開発者当人達でさえ「何故これで正常に動作するのか分からない」と言わしめる代物。兵器としてはその時点で落第だが、影山冴子にとってそんな事は二の次だった。
これで王は安泰だ。目覚め次第装着して貰えば、もはや何も恐るに足らない。王以外にほぼ誰も使えないというデメリットが、逆に最高のセキュリティとして彼を守る。
守る為のベルトで殺されるという醜態、もはや二度と繰り返すものか。
しかし彼女達の幸運はこれまで。王の目覚めを待たずしてスケイブが勘付いたから。
見逃す筈が無い。彼もまたエボルトという主を仰ぐ者、その主を殺しかねない力など許容する訳が無いのだ。
当ライダーギアは無期限凍結、開発は完全中止。安堵するスケイブと冴子の歯嚙みによって、この一件は終息したかに見えた。
結末は、最悪。
帝王のベルトの力は、王を殺し、エボルトに牙を剝いた。両人にとって考え得る限りの
この駆け引きは、“牧路凱歌”という変数によって全員を敗者として終わったのである────
─────本当に?
この争いに勝者はいなかったのか。得した存在は無いのか。
牧路凱歌はそれに該当するかもしれないが、しかし彼は本来蚊帳の外に居た人間だ。オルフェノクに覚醒したのは偶然に過ぎず、彼ら・彼女らの陰謀に巻き込まれた第三者で、なおかつ取り返しのつかない
だから凱歌ではない。勝者は。
止め処なく迫りくる侵略者に対し、己の身を守る
ディケイドは知らない。その存在がまさか
オーガは薄々知っている。知った上で、それに従う事を良しとした。
故に、関係ないのだ。この戦いにその存在の有無を問うのは。
今ここで決するは、ただ在り方が相容れない二戦士の雌雄でしかないのだから。
「うぉおおおおおおおッ!!」
(っ……手負いになった途端コレかよ!)
相手の猛攻を凌ぐ度、地形が変わる。
再召喚されたライドブッカーの斬撃を逸せば山が斬れて谷が開くし、次元エネルギーを込められた打撃を止めれば衝撃が立ったら地面に大穴を空ける。中身の俺は無敵でもオーガの装甲自体はそうじゃないから、受け損ねる度に再生が追い付かないレベルで消耗していっていた。全損したら無敵効果は無くなる、それは不味い。
……さっきのグランインパクトで、完全に決まったと思ってたんだ。理屈は知らんが、この金色のフォトンブラッドは物質と空間を伝播しそれを破壊する。つまり掠りでもすれば最後、その部位を切り離してすぐに離脱しない限り即死。逆に言えば切り離せば被害はそれだけだ。
それを迂闊に切除できない胴体に叩き込んだんだから、勝利を確信しても責められない筈だった。
(直撃寸前にオーロラカーテンを
自ら腹を切り裂き、臓腑を零れかけさせながらも果敢に攻めてくるディケイドを見るに多分そうだろう。至近距離でブチ込まれたにも関わらず、あの程度の切除で済んでる事に説明を付けるなら。
……が。有利が俺にあるのは変わり無い。というか、その有利を守る為に動け!
「調子……乗んな!!」
「くッ!」
俺に反撃の隙を与えないよう連撃を仕掛けてくるものの、多少の被弾は無視して膝蹴り。標的は手負いの脇腹だ。
ディケイドは寸での処で回避。見せた隙をすぐに埋めるよう、再召喚したライドブッカーの銃口を此方に向けて……だが、今は俺のターンだろ。
プロテクトシェード!……なんてな。
「ぐわぁ…!」
不可視の空間湾曲によって、発射と同時に跳ね返された弾体が銃身を内部から破壊。暴発する形で
さぁ反撃だ。オーガフォンに専用コードを打ち込めば、肩部が変形して砲門となる。兵装名は確かプロミネンスキャノン……もう名前はどうでもいい、問題はアイツを殺せるか否かだ!
「楽になっとけや、いい加減ッ」
「!!!」
速射、連射、乱射!光の雨が降り注ぎ、逃げ回るディケイドを追い立ててやった。さぁ次はどうする、誰を喚び出す?
(そう来たか!)
結果、予想は大外れ。ディエンドにも概念破壊能力があるのを完全に失念してた結果、ディメンションシュートによって此方の弾幕をかき消されてしまう。
まぁ向こうの光弾もフォトンブラッドの効果で着弾前に消滅したからイーブンではあるか……いや、体勢を立て直されたからこっちの落ち度だ。
すぐにそれを、
「──は?」
「オイ、オイオイオイ待てバカそんなのアリかよ?!」
「待てと言われて待つ奴がいるか!」
目の前のディケイドが召喚したディエンドコンプリートフォームが、更にコンプリートフォームのディケイドを召喚。そのディケイドコンプリートフォームがディエンドを呼び出し?阻止する間も無くそのディエンドがディケイドを召喚して……兎も角、多重連鎖召喚だ!一気に5人にチートライダーが増えやがった、禁じ手にも程があるだろ!!
「このッ!」
「させるか!」
「どけッ!……クソが」
今度こそ止めようとすれば、最後に召喚された通常のディケイドに行手を阻まれる。粉砕は容易かったが、カードをセットするのなんてその一瞬があればあまりにも充分だ。
12人のディケイド達による包囲網が完成する。その銃口がピタリ、俺に定められて。
「────ッ、ぉぉおおおおオオオオオ!!!」
「終わりだ……牧路凱歌!」
……そこからはもう滅茶苦茶だ。超高密度のエネルギーが四方八方から押し寄せて、俺を包む。逃げ場は無く、火炎の嵐に揉まれる木っ端として全身を粉々にされていく。
オーガの装甲が
「カッ、ぁっ」
……ダメだ。まだ終われない。
辿り着くべき場所があるのに。そこへ向けての一歩目を踏み出そうという時なのに。その先へと進む前に、こんな所で。
オイ。もやし。
門矢士。
ディケイド。
仮面ライダー。
俺が死んだら、どうするんだ。
お前がこの世界を永遠に守ってくれるのか?
違うだろ?
(
何処にも居場所が無い破壊者。だから何処へだって行ける。お気楽なモンだ、良い御身分じゃないか、ええ?
俺が倒しても旅は続くんだろ?この世界の人類の自由を取り戻しました、オーガの世界編はめでたしめでたし、さぁ次に行きましょう。後の平和を守るのは人類自身でお願いします、ハイさようなら。
……ふざけるな。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなッ!!
人間の未来は人間の手で掴み取るなんて詭弁だ!楽観主義者が吐いた大嘘だ!誰も彼も目先の利益ばかり追い求めて、その先に待つ破滅を見通しちゃいなかった!!
南阪も、俺だってそうだ!!人類に例外なんて存在し得ない!だからオルフェノクに好き勝手させて、スケイブに騙されて……茈が死ぬ羽目になっただろ!
だから必要なんだよ、
証明して、立証して、この身で以て
「ガッぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!」
「──なっ?!」
半壊した装甲を、総身のダブルストリームを黄金が満たす。過供給、過充塡、だがそれがどうした?
殺せればそれで良い。全ての敵を殺し尽くした、その先にのみ俺の未来はある。ヒーローもヴィランも関係あるか!
消えろ!!全部!!!
「死ねええええぇぇぇッ!!!」
──装甲が全壊する、その寸前。ゴールドフォトンブラッドが最高出力に到達したその瞬間。
その全てを手元の切札、オーガストランザーへ。
一瞬で自壊だ。分かってる。それより前に。
突き出せ。
貫け。
殺せ。
「オイどうすんだ!終わっちまうぞ!?」
「士君……!」
「……凱歌さんっ」
激烈な閃光、相反するような無音。それを境に戦闘者達の気配が消えていくのを、夏海達は鋭敏に感じ取っていた。
しかし全ての力を使い果たした彼女達に出来る事は無い。必ず立ち上がるであろう片方が、勝鬨を上げるのを待つ事以外は。
「兄貴でも俺を此処まで虚仮にはしなかったぞ、ふざけやがる……なんとかしてブン殴れねェかな」
「……あっ」
そんな中、空気を読まない私怨を口走るエボルト──フォトンブラッド侵食によって未だに再生し切れていない──の生首を見て、海東が何か思い付いたように呟き。
同時に、事態が動いた。
「嘘だろ……!?」
先に凱歌の気配が持ち直したのだ。即ちそれはディケイドの敗北、もしくはそれが目前に迫っている事の証左に他ならない。
最早これまでなのか。南阪以外のほぼ全員を、絶望が支配しかけたその時だった。
「エボルト」
「ァ?」
「痛みは一瞬だ」
紙一重。先の攻防を言い表すならそれに尽きる。
現状の俺が単独で出せる最高火力だった。まさかその中に晒されてなお動けるとは思わなかった、なんて言い訳にもならない……が、これ以上のベストを尽くせたかと言われると、胸を張って否と言える。
……その結果として、俺の力は完全に尽かされていた。
最後の刺突が直撃した腹。そのお陰でケータッチは完全に粉砕され、ディケイドライバーも半壊。装甲も打ち砕かれて、俺は生身で転がるザマを晒している。この程度で済んだのは、オーガストランザーが突き立てられると同時に、俺の攻撃もまた奴の全身を打ち砕いて攻撃を霧散させていたからだろう。
だがもう動けない。グランインパクトで撃ち抜かれ、応急処置で自ら掻っ捌いた腹から出血が止まらない。あと出来ることなんて、1秒だけ立ち上がって、その2秒後に死ぬことくらいだろう。それが嫌ならこのまま寝こけて仲間の助けを待つ他無いか。
そんな事、してる場合じゃないのにな。
「…………」
「────」
目の前に肉塊があった。それは動いて、嫌な音を立てながら人間の形に戻りつつあった。
オーガは、凱歌は……まだ、立ち上がれる。
「──マグレ、だな」
自分の脳を無理くり頭蓋骨に押し込みながら、凱歌が言った。
「何が、だ」
「俺が勝った事だよ。ストランザーが自壊してたら、最後の刺突が全部の分身を飲み込めてなかったら、それより早くオーガの装甲が壊されてたら……肉片一つ残っちゃいなかっただろ」
IFの話だ。そしてそれは逆のことでも言える……が、それを指摘してやれる余力さえ残っていない。
結果が、全て。
「それでも、勝ったのは俺だ」
掲げた右手に再生する装甲。オーガギアも光を取り戻してるのを見るに、この時点で世界断絶の絶対防御も復活してるのか。これでもう勝機も絶望的だな。無い、と言わないのはただの意地だ。
でも、ここからどうなるにしろ……一つ聞いておかなきゃいけない事が、ある。
「……これから、お前は、どうするんだ」
「逆に聞くが、何を?」
「ずっと、1人きり、だろ?」
この地球で、全ての人間を敵に回して、味方はいない。それがコイツの選んだ修羅道だ。負ける事は無いが、終わりの見えない孤独の道に“勝利”が待っているとは到底思えなかった。
桐雨でさえその道を否定したというのに、なら永遠を征こうとする奴に、誰が寄り添ってやれるのか。
「南阪以外の、誰も、」
「一つ間違いがある。
「……!?」
意味が分からない。南阪だけはお前の味方だろ。
「いいや、アイツは俺から離れるよ。離れてくれなきゃ困るんだよ」
「っ!!」
そんな疑問を丁寧に否定してくる凱歌に今度こそ理解してしまった。
そうか、お前、本当に……1人で、全部。
(ダメだ!)
闘志が再燃する。その道は、たとえ枕詞に“元”が付くとしても、人間が選んで良い道ではない。辿って良い未来じゃない!
「クソッ……!」
「……同情すんなって、何度言ったら分かるよ?それがお前の
言ってる間に、凱歌の右手が渦を巻く。その拳で俺にトドメを刺す気なのは火を見るより明らかだった。
だからそれより早く、動け。動いてくれ、俺の身体!
「でも……気持ちだけ受け取っておくよ」
「クソォォォ!!」
「ありがとうな。門矢」
間に合わない。死。
一瞬後のそれを、恐れず、しかし悔しさと共に、凝視するのが俺の最期だった。
かに思われた。
「──身体
「あ?」
「10倍だァァァァ!!!」
トドメの一撃振り下ろそうとした凱歌の、その横っ面を打ち抜く白黒の拳。
(エボル……
この時は意味が分からず──
──どうやら海東が最後の力で変身したディエンドの力で、コブラフォームのエボルを召喚。更に倒れたままの本物のエボルを
──しかし、好機だ。そう捉えて、総力を振り絞り立ち上がった。
エボルも限界なのだろう、鈍い動きを代償前提の倍加能力で無理やり動かしている様子。その所為か精彩を欠く動きを、殴られた凱歌の瞳が確と捉える。
目に炎が宿った。ドス黒い憎悪の黒炎。
「死に損ないがァァァァ!!!」
連打を掻い潜り、エボルの顔面を貫通したのは、俺に向けられる筈だった殺戮の右拳。次いで左腕も同様に回転し、今度は腰の
「こっちだっ!!」
「「!!」」
そこは更なる闖入者。見るのも飽きた腐れ縁。
鳴滝が、オーロラカーテンを広げて、凱歌に……いや、その後ろの俺に叫んでいた。
「このッ……!」
エボルトリガーを何度も、執拗に叩き割っていた凱歌がそれに反応する。鳴滝へ向けて、超音速で
だが……二手。
エボルへの殴打に費やした一手。
鳴滝への牽制に労した一手。
その間に、俺の肩は凱歌の背中に触れるまで接近していた。
後は押すだけ。命を賭けて。
「っ、ぁ」
「いっ、け……!!」
最後に見えたのは、バランスを崩した凱歌の姿。その顔は呆けて、まるで何が起こったのか分からないと言いたげで。
そんな表情のまま、俺に押された勢いのまま、鳴滝が作ったオーロラカーテンの中へ倒れ込んで。
……カーテンごと、消えた。
俺の意識が潰えたのと、時を同じくして。
次回、最終回。