喧騒があった。
栄光があった。
命を使い潰す娯楽があった。
人々はそこに勝手にストーリーを見出し、勝手に興奮する。そういう場所があった。
「終わりましたね」
「終わったなぁ。すっからかんだ」
「毎度全額買ってるからですよ」
「推しへの布施だ。応援出来る時にしとかなきゃな」
「それはそうですが」
でも、仕方が無いだろ。
たとえその様が、傍から見ててどんなに滑稽でも。
どんなに醜悪で、悍ましかったとしても。
「また、来ましょう。ここでまた、一緒に夢を見ましょう」
「……ああ。悪くない」
そこに夢を見出しちまったら、人は止まれない。
止まれないんだ。
「ずっと見ていたいな」
激しく脈動する命を。それに目を輝かせるお前を、ずっと傍で……という願いは。
止めちゃいけなかったんだ。
今更になって気付くなんて、笑い者もいいとこだよな。
突入作戦はトントン拍子で準備された。
牧路凱歌が今日に至るまでに築き上げたオルフェノクの支配領域だが、その守りは存外薄い。度々カイザ部隊が侵入しているように、忍び込むのは割と容易いのだ。問題はそこを起点にしても突き崩せない点であって。
そこへ、カイザより遥かに強く、かつてライダーをほぼ全滅させた実績を持つディケイドが乗り込むというのは、人類側からしても渡りに船だったのである。それが向こうの罠である事を加味してもなお。
「随伴するカイザ部隊の人員は総勢100名、貴方の護衛に就くAチームと撹乱・陽動人員であるBチームに分けられます。また前線基地で私を含むオペレーター達が配置され、あなた方を情報支援する手筈です。状況に応じて太平洋艦隊からの砲撃支援、航空支援も要請可能です」
「手厚いな」
「“貧すれば鈍する”。劣勢が続き過ぎてそうなる前に、強引に事態を解決したいのでしょう」
それと、と通達を告げる南阪。
「出発前にブラッド族の皆さんが、貴方とコンタクトを取りたいそうで」
「良いだろう。俺もそうしておきたかった所だしな」
「という訳で、来てやったぞ」
『────』
「あぁ、そういやどうやって話すんだったか。南阪を連れて来れば良k『テレパシーだ。コレがあれば事足りる』最初からそうしろ」
滞りなく降りた地下で、水槽と対面する。士の来訪に、クラゲ達は心なしか緊張を帯びた様子で。
『門矢士。見るのは2度目だが、本当に本物なのだな』
「他にどう見える?その目で見た物も信じられないのか、いやクラゲだから目は無いのか」
『お前が積み重ねてきた
希望。市民や軍人達はともかくブラッド族からもそんな扱いを受けている事実に思わず天を仰ぐが、しかし思うよりダメージは無い。裏の意図があるのが丸分かりだからだろうか?
しかしそれはひとまず置いといて、士は話を先に進める事にした。
「で?何の用で俺を呼んだ」
『一つ聞きたい。お前はこれから何を破壊するつもりだ』
「アークオルフェノク。それ以外に何がある」
『あるのだろう?』
「無いと言ったら?」
嘘である。この男、人類の選択如何によっては世界ごとブラッド族を破壊するつもりである。
暫しの沈黙。互いの
『……我らは既に
耐えかねた声は、水槽から。
『告白しよう。人間を巣食い、一族再興を為す事が、我らブラッド族の当初の目的だった。その後、地球を“狩る”までも含めて』
「今は違うとでも言いたげだな」
『残念ながら』
事の他あっさりと白状した彼らに、士は疑念を拭えない。しかし次元を超える破壊者としての勘が、彼らの言葉を肯定している。
続きを促せば、ブラッド族は快くそれに応じた。
『そもそも我らを誘ったのは、先にこの地へ降りてSBへと協力していた同胞。その者からの“再興の地を見つけた”という吉報だったのだよ」
母星を失ったのは真実。流浪の民となり衰退する一方だった彼らは、一縷の希望を求めてこの地球に流れ着いた。
そして、地獄の憂き目を見た。
『迎撃された。月軌道まで接近した瞬間、迫り来た巨大な光弾に半数が呑まれた。残る半数も多大な損傷を負い、このザマだ』
「災難だったな」
『心にも無い事を言ってくれるな。要は待ち伏せに遭ったのだ、我らは』
罠だった。気付いた時には時既に遅く、墜落。人類勢力圏に落ちた者達は回収され、対オルフェノク戦線に提携する羽目になったと言う。
しかし彼らは幸運だ。何故なら、オルフェノク勢力圏に落ちた者は皆殺しにされたのだから。
『もう未来を見ている猶予は殆ど無い。
「……なるほど。それが人類に、そして俺に全面協力している理由って訳だ」
『故に要請する。世界の破壊者よ、アークオルフェノクを破壊してくれ。今日も危うい我らに“明日”をくれ』
懇願である。しかし同時に、脅迫にも似た条件交渉でもある。
つまりブラッド族側の言い分としてはこうだ。「お前がしくじれば“最終手段”に踏み切る」と、そう言っているのだ。詳細こそ不明なものの、どうせ碌な事ではない。
そして同時に、そんな念押しさえやらずにはいられない程、彼らが困窮している事の自白でもあった。士はそう判断した。
「その為の支援は惜しまない。お前達のスタンスとしてはそれで良いな?」
『こちらから頼みたいほどだ』
「じゃあ次はこっちの番だ」
どちらにせよやる事は変わらない。条件を飲んで、今度は士が問う。
「SBに協力した奴がいるんだよな。奴は何をオルフェノク側に提供していたんだ」
何を以て敵方が力を付けたか、この戦乱に繋がったのか、それに纏わる質問である。ブラッド族に今更返答を躊躇う要素は無い。
「幾つかある。だが全てを理解するには並行世界の状況を理解する必要があるぞ」
「早くしろ。間に合わなくなっても知らんぞ」
『お前は物事を焦り過g\KAMEN-RIDE/まず奴、スケイブは王弟エボルトの信奉者だったのだが──』
スケイブはエボルトのカリスマ性に惚れていた。現王キルバスより彼の方が玉座に相応しい、いや今すぐ挿げ替えるべきだと考える程には。
業を煮やした彼は、王の所持するブラッド族の秘宝──パンドラボックスの奪取を計画する。要するにクーデターなのだが、配下の暴走をエボルトは止めなかったという。成功すればパンドラボックスが我が手中に入って良し、失敗しても切り捨てれば良し、そう踏んでいたのだろう。
しかし、イカレ具合で上を行ったのはキルバスの方。破滅的快楽に囚われていた彼は、計画が成功する直前のタイミングで、よりによって母星を自分諸共滅ぼしたのだ。
奪取目前だったスケイブは、その確保と滅亡阻止の為に無理やりボックスに触れ、叶わず行方不明。だがその挺身により触っても大丈夫な状態になり、エボルトは命からがらボックスの持ち逃げに成功する。
しかし何も知らされてない一般ブラッド族はそうはいかない。究極の大爆発した母星、それに巻き込まれ散々な目に遭う事となった。方々の星々へ散り散りとなって数十年、あわや絶滅かと思われたその折。
彼らのテレパシーに、行方不明となっていたスケイブが干渉した。
パンドラボックスに触れて消滅した彼は、なんとディケイドと近似した次元移動能力を獲得。それによって異世界に逃れ、エボルトを頂点とした一族再興を目論んでいたのである。
彼の目的は、エボルトが支配するに足る世界を、星を、力を彼に献上する事。そしてその贄として選ばれたのが……“この世界の地球”と“アークオルフェノク”だった。
『“555の世界”。そこに訪れたスケイブは、死を待つアークオルフェノクを発見。そして、傍に控えるロブスターオルフェノクと接触した』
「は?オイ待て、まさか
『そうでもあるしそうでもないとm\ATTACK-RIDE/世界は分岐するのだ!お前も分かっているだろう!?』
「勿体ぶるな。俺からの要求はそれだけだ」
仮面ライダーファイズ、乾巧に倒され死にゆくアークオルフェノク。それを看取るしか無かったロブスターオルフェノク……影山冴子に、スケイブは嘯いたのである。
“仮面ライダーのいない世界で再起せよ”と。
影山冴子は乗った。アークおよびSBの残党と共に、スケイブの手引きでこの世界に渡ってきた。
『同時に、555の他の並行世界を観測していたスケイブは、とある
「……まぁ、その説が本当になった世界もあるんだろう」
『それをスケイブは見つけたらしい。その因果を、死にかけたアークオルフェノクと、この地球に結び付けて……』
嫌な推測に、というより確信に、士は顔を顰めた。道理であの
同時に、自分がこの世界の食べ物に嫌悪感を抱く理由にも説明がついて。
「アークオルフェノクを、この星の主に仕立て上げたのか」
『そうだ。地球と直結させ、そのエネルギーを全てリンクする。
贄。その1文字が本当に似つかわしい。
アークオルフェノクの回復に助力しているように見せかけその実、エボルトに食わせる事が大前提の策だ。オリジナルの影山冴子が気付かなかったとは思えないが、
『目論見通り、アークオルフェノクは回復していった。隠れ蓑となるSBも成長した。全てはスケイブの掌の上だった………ここまでは』
「……影山冴子は上手くやったらしいな」
『いや、そこは我らにも分からない。地球に着く頃には全ては水の泡となり、人類側からも全てのデータは失われていたのだから』
だがそうはならなかった。スケイブは欺かれ、彼が同族に向けた吉報は逆に利用された。それが事の次第。
しかし、疑問は残る。
「なら、影山冴子はどこにいる?オルフェノクが優勢なんだ、奴でも人間態の無い状態では素直に表舞台へ出てきてそうだが」
『知らん。しかし、人間態が無い、とは?』
「オルフェノクは
『何それ……怖……』
「まぁ、寿命による勝ちの目が無い事は覚えておけ」
嬉々と来て王に付き従う彼女だが、今に至るまで人類側に認知されず、また牧路凱歌の映像にも微塵も映らなかったのは逆に怪しい。どちらかと言うと暗躍が似合うタイプでこそあるものの、この状況は少し異和を感じる。
そしてそれだけではない。
「奴がオリジナル、もしくはそこから分岐したアークオルフェノクだと言うのなら、その人間態は
『スケイブが生きていれば詳細を聞けたのだが、今となっては何も。人類側の情報提供によれば、かつて東京にあった対オルフェノク用特殊部隊の基地、そこのデータベースに全てが残されている可能性はあるとの事だが』
「……兎にも角にも、乗り込んでみなきゃ何も始まらないか」
もう話す事は無い。躊躇なく士はその場を去る、別れの挨拶など無い。
次会う時は敵同士だ。
『パンドラの導きがあらん事を』
「碌でも無い物を祈るな」
しかしその願いを無視する事は無かった。ヒラヒラと気怠げに振られた掌が、それを物語っていた。
そして訪れる、作戦開始時刻。
最初の案では、陸・空軍の共同作戦で相手の飛行オルフェノクの大群を突き破り、東京に士達を降下させる算段だった。しかし、士の出すオーロラカーテンによる転移ならば、犠牲を劇的に低減出来るのでこちらを採用。一挙にカイザ部隊を送り込む事となる。
だが懸念点として、この地球空間がアークオルフェノクの手中にある事が挙げられていた。
「士さんがブラッド族から引き出した情報と照らし合わすと、こちらの作戦が潰されやすい傾向にあった事象にも説明がつきます。恐らく我々の会話は牧路凱歌に盗聴されているのでしょう」
「では、この作戦情報も筒抜けなのでは?」
「恐らくは。しかし物理的な距離があるので、作戦立案自体が止められる事はありません」
「だが完全に読まれているのでは、どうしようも……」
「ですが、
相手の
問題は、その待ち伏せが確実に待ち構えている事なのだが。
「奴が本当に地球を我が物としてるのなら、俺の転移に干渉される危険がある。転移先を固定されるとか、な」
「「「………!!!」」」
緊張が走った。それは即ち、作戦開始と同時に決戦が始まるという事だからだ。
だがこれまでの撤退戦に比べれば遥かに勝ち目がある、それを分かっているから誰も言わない。その様子を見回してから、オペレーターリーダーに任命された南阪が口を開く。
「この情報を受け、カイザ部隊を世界各地から掻き集め、投入人員を100名から1000名に増員……これが限界ですが、即ち現人類のほぼ総力という形になります。AからTの総勢20チームは、ディケイドと協力し彼の活路を開いて下さい」
「全てはこの作戦に賭けられたという事だ。総員、肚を決めろ」
更に続ける形で、基地司令官。彼の号令に、皆が気を引き締めた。
「これは──世界を救う戦いである!」
「「「
「ふん……」
号令。しかし、士はそれに乗る気は無い。
彼らには正義がある。人類の未来を守るという正義が。
大義がある。オルフェノクを駆逐するという大義が。
しかしどうにも……この件はキナ臭い側面が多過ぎる。ただアークオルフェノクとブラッド族を討つだけでは終わらない、そんな綺麗な終わり方では済まないという確信。
「……変身」
「「「!!!」」」
しかし、彼らと向く方向が同じなのは事実。何より兵士達の抱く理想と熱意は、間違いなく本物だったから。
それに応える形で、士は鎧をその身に纏う。指を鳴らせば、後方に浮かび上がるオーロラカーテン。準備は整った。
おおっ、と上がる歓声は鬨の声。実在するヒーローと共に戦う、その未来に対する熱意の表れだ。
「作戦──開始!!」
部隊は即座に巨大マシン『サイドバッシャー』に搭乗。マシンディケイダーへ乗り込んだ士を取り囲み、一斉にアクセルを蒸した。
波紋広がる次元の向こう、その先の戦場を目指して。
────先に言ってしまいますと、作戦は大失敗に終わりました。
以下はオペレーションルームに送信された記録の回顧となります。
「オイ、どうした!しっかりしろ!!」
横倒しになった視界は、カイザ部隊の1人の物。それにディケイドとなった士さんが駆け寄る姿が映ります。
しかし彼の装甲には傷一つ、埃一つありません。彼の側に、誰1人立っているカイザ兵がいない、つまり兵士達を薙ぎ倒す程の何かがあったというのに。
その答えは一つ。薙ぎ倒すような“何か”は無かったという事。
代わりに、それ以外の“何か”が起こったという事だけです。
「南阪、南阪!チッ、全員急に倒れた上に
「「「────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────」」」
「敵中ド真ん中で……!」
転移場所は
しかし動かない。微動だにしない。会場に似つかわしい喧騒は微塵も無く、士さんは困惑しながら舞台たる
その、5秒後。何かに気付いた彼が振り返ると。
「……ホースオルフェノク」
「…………ッ」
頷きで応じる、馬の姿を
“疾走態”だったか何だったか、彼は士さんを見遣りながら二度、三度とその場でステップを踏みます。まるで誘うように。
その意図を察した士さんも、腰のケースから2枚のカードを取り出し啖呵を切りました。
「
負ければ皆殺し。
勝てば保留。撤回は期待出来そうもない。
そんなあまりにも分の悪いレースが今、始まろうとしていました。
……本当に、彼は性格が悪い。
僕が言うって相当ですよ、分かってるんですかね?