クウガ・アルティメットフォームはライダーの中でも屈指の高スペックを誇る。また物質を自在に変化させるモーフィングパワーも悍ましい程の出力を誇り、異世界のプロトタイプクウガがこの姿になった時には東京タワーさえ超兵器に改造した程であった。
そこから更に進化したライジングアルティメット。その力を明確に上回っていると設定されたのは、登場から8年の時を経てムテキゲーマーが初。
しかしアルティメットフォームには“暴走”という明確な弱点がある。変身した者は“究極の闇”となり、瞳を漆黒に濁らせ破壊衝動に呑まれてしまうのだ。
故にクウガの変身ベルト“アークル”には
小野寺ユウスケが選んだのは別のアプローチ。黒目の狂気に陥りながら、その矛先に理性で指向性を持たせる荒業。彼もまた仮面ライダークウガ、他者の笑顔を守る意思力に疑いの余地は無い。
しかし、ならばこの状況は?
「グッ!」
「がはっ!!」
ライジングアルティメットのクウガは紛れも無い赤目だった。変身しているのが五代にしろ小野寺にしろ、力が制御化に在るのはこの時点で間違いないというのに。
クウガの拳は仲間であるディケイドに襲い掛かり、それ故にディケイドの反撃がクウガに向かざるを得なくなっていた。
「強いな……じゃあこれはどうだッ」
「冗談じゃない!」
超自然発火、物質体である限りほぼ即死の掌を向けられそうになり、ディケイドは急ぎクウガの視界から避難する。
しかしアルティメットは
ユウスケを必要以上に傷付けず、なおかつ後に控える牧路凱歌との戦闘を見据えて最小ダメージで事を運ぶなら……この手は効くか?
「そこk……うぉ?!」
相手ライダーの動きを封じ、なおかつ己の武器として扱うディケイドの真骨頂。何とも冒涜的だがしかし、タッチの差でそれは成功した。振り向きが間に合わず背中に触れられたクウガは、その肉体を強制的に変形させられる。
1秒後。ガシャコン、という音と共に出来上がったのは
「──この程度でやられるかァッ!!」
「チッ……!」
漆黒の装甲に金の意匠が加わったクウガゴウラムは、ディケイド側の操作を全く受け付けなかった。以前もクウガは自力で
ずっと空を飛ばれるのも面倒なので、突撃を避けると同時に解除。人型に戻ったクウガに向け、いっそ高火力で一気に仕留めようと意を決する。
「来るか!」
「暫く寝てろッ──!!」
アギト・シャイニングフォームを隣に召喚し、仕掛けるはツインシャイニングクラッシュ。究極の闇には至高の光、といった所だろうか。
クウガの迎撃は間に合わない。ディケイドは最短経路の最速で発動している、故に出来るのは防御のみ。
クロスするピンクと銀の斬。それは波動となって、寸分違わずクウガに直撃した。
「やったな……」
爆煙を見て確信と共に呟く。あの時クウガの身を守れる物は近くに無く、精々が空気をモーフィングしてクッションにするぐらいが関の山だっただろう。そしてその程度では、コンプリートフォームの必殺技は凌げない。
そう考えてから、アギト特有の残心を終えようとしたディケイドの思惑は。
「やるな。そこまでディケイドの力をコピーしているなんて」
「……は?」
思いっきり外れたのだった。クウガが構えた
「待て。なんだその盾どっから持ってきた」
「どこって、ゴウラム化した時の頭部装甲だよ。ここだけ解除せずに残してたんだ」
「器用だな!?というかあの部位ってそう使うのか!?!」
「……そういやどこでこの使い方知ったんだっけ……って、そんな事はどうでも良いだろ!」
そして何故か始まる論争。挙句の果てには「お前が士を狙うのをやめたら教えてやる!」とか言い出したクウガに、いよいよ以てディケイドは頭を抱えてしまった。
やっぱりこの世界おかしい。量産されたカイザはビルドドライバーで変身するし、ブラッド族が人間側に付いた上でボロ負けしてるし、オルフェノクが世界征服目前だし、そしてクウガ=ユウスケは士を守る為に士=ディケイドに思いっ切り攻撃してくる。オマケにこのポッと出の盾*1だ、ここまで来ると“ライダー大戦の世界”に匹敵するカオスっぷりである。ここからファンガイアだのヘルヘイムだのが介入したってなにも驚かない。
「っていうか、お前なんだか性格や口調も士に似てるな。もしかして“別世界の士”とか……」
「全並行世界で俺の存在はただ一つだぞ。お前こそ別世界のユウスケとかそういうオチじゃないだろうな?」
「俺はちゃんと俺だっての。アイツが八代さんを殴ったの今も許してないしな」
「まだ根に持ってるのか。ハイハイ悪かった悪かった」
「なんでお前が謝るんだよ?」
「だって士は俺……待て、一つ聞く」
ここでディケイドが思い至ったのはある一つの可能性。どういう訳か、接敵時よりも遥かに意思疎通が出来る今なら。
「ユウスケ。俺は今どんな姿に見えてる?」
「アークオルフェノク」
答えは決まった。原理は分からないが。
要は幻術や幻覚の類だ。それに掛かったクウガは、相手の思うがままに行動を誘導されていたという訳である。
「良いか、落ち着いて聞いてくれ。俺は士で、お前とは別ルートでこの世界に来た。そして世界はオルフェノクに侵略され、人類はブラッド族と協力してそれに抗っている」
「……
「狂ってたのはどちらかというとお前の方だ。こう……脳をモーフィングして幻覚解除とか出来ないのか?お前いいように操られてるぞ」
「ハァ?!そんな事言われたって……」
「では僕の方から改めて説明しましょう」
そこに訪れる足音が一つ。意外な人物の登場に、ディケイドもクウガも下面の奥の目を丸くせざるを得ない。
「まずユウスケさん、貴方が言われた事は全て本当です。アークオルフェノクこと凱歌
「本当ですか
「……」
物憂げな影を纏う優男の登場に、驚く声を張り上げるクウガ。一方でディケイドは動じていない。
その様子に何かを悟り、南阪は深く溜息を吐いた。
「バレてましたかぁ」
「いや、裏切っていたとまでは思ってなかったぞ」
「へ?裏切り??」
「ユウスケ。お前がどうやってアイツと知り合ったかは知らんが、生身の人間が
「!」
彼は何の装備も付けていない、オペレーションルームでの姿そのままである。そんな状態で、ディケイドの空間転移も介さず、その身一つで遠く離れたこの戦地へ突如現れた……そんな事が普通の人間に可能だろうか?
「俺が驚かなかったのは
「ええ、その通りです。人類が苦境に立たされているのは徹頭徹尾当然の帰結、疑問を挟む余地はありませんから」
「ま、待ってくれよ!アンタ言ってたじゃないか、力を合わせて魔王アークを倒しましょうって!」
「どういう記憶を植え付けられたんですか……よく思い出してください、僕と貴方に面識はありません。それは凱歌さんに挿し込まれた偽りの時間ですよ」
「そんな事言われても……」
いよいよ理解を越えてきた状況に、ユウスケは頭から煙を噴く。自分の正気さえ疑えと言われたのだから無理も無い。
そんなユウスケを他所に置いて、ディケイドは南阪を睨みつける。あいまいな笑みを浮かべる彼、その内心に秘めた物を見逃さないように。
「牧路凱歌とは“さん付け”するほどの仲なんだろう?色々話してくれないと、なァ」
暫し、沈黙。
口を開いたのは南阪の方だった。
「……上行きましょうか。立ち話もなんですしね」
・
・
・
「あっ、ユウスケさん……に士君!無事だったんですねっ」
「ナツミカン!何ともないんだな」
「はい。キバーラは攫われちゃいましたが……ユウスケさんもフラッとどこかに行っちゃいましたし」
「ぐぅ」
エレベーターに似た機械に乗って上昇し、訪れた階にあったのは
見たところ、ナツミカンこと光夏海に目立った怪我はない。それなりに丁重に扱われているようだ。
「出てこられないのか?栄次郎さんは?」
「写真館を覆うように、力場か何かで阻まれてしまってるみたいです。お爺ちゃんは時間が止まったみたいに動かなくなってしまって……」
「そうか。待ってろ、今破壊すr「おのれディケイドォォォ!!」…」
「……」
「………」
打破しようとしたその時、更に上の階から響いてきた怒声。幾度もエコーを繰り返すそれは、宿敵の接近に対する精いっぱいの自己顕示か。
効果のあるなしで言えば、まぁあったと言えるだろう。ディケイド達をドン引きさせ、その動きを数秒止めたのだから。
「今ので分かるように、鳴滝さんは上階で拘束されています。海東さんも一緒ですが、彼らの所には?」
「海東かぁ……鳴滝かぁ……」
「助けましょうよ」
「でもただでさえ混沌とした状況なのに、アイツらが解き放たれたら収拾付くか自信無いぞ。まぁ人質に取られたら困るけど」
「では人質作戦は無し、という方向で牧路さんと話しておきますね」
「融通効き過ぎるだろお前、って何するつもりだ!?」
後から歩いて来た南阪が、制止も聞かずに光写真館のドアノブに触れる。するとまるで力場が無かったかのようにすんなり開くドア。
試しにユウスケが二度、三度と反復横跳びするが出入りに支障は無い。そのまま夏海も出て来た。
「凱歌さんの作戦でしてね。喫茶店かそれに近しい建物を予め用意しておけば、写真館をそこに誘導できるんじゃないかって思惑で、城内部に無人の喫茶店と写真館を建てまくったんです。まさかそれが成功しちゃったとは……」
「……お爺ちゃんは大丈夫なんですか?」
「仮死状態だと聞いてます。凱歌さんが解けば元に戻るでしょう……私から謝っておきます。光夏海さん、ウチの凱歌がすみませんでした」
頭を下げる南阪に、士が問うた。
「お前、本当に何者なんだ?」
「貴方が聞きますか?──ただの人間ですよ。本当に、所詮」
そう自嘲しながら、懐から取り出したリモコンを操作。どこからともなく降りて来たスクリーンに光が灯る。
そこに映るのは漆黒の
ところで、月の裏側というものは、常に地球を向く表側に比べると些か大味な側面が強い。宇宙から降ってくる隕石の直撃を受ける為、クレーターによって生じる凹凸が激しいのだ。
この世界の月もその例には漏れない。だ、が。
「アレ、何だ……?」
降って来たのは隕石だけではないらしい。
それを証明するものが、視界中央に
視界一面である。
「ちょ、ちょっと!説明してくれよ!?」
「説明も何も、テロップに書いてあるでしょう。人類軍がブラッド族の技術提供で作った月基地のカメラですよ、凱歌さんが侵攻して廃墟になってたのをハッキングしたんです」
「いやそこじゃなくて……
なんだよあの死体の山!
「そうですが?」
一種ではなかった。
あまりにも多種多様な種族の遺体が、その周囲に突き立てられた宇宙船や兵器の残骸を墓標として、月の裏側を埋め尽くしていた。その数はザッと見ただけで幾万を超えるか。
無気圧・微重力の環境下、そこかしこから消え損ねたのだろう炎が燻り煙を上げる。さながら火葬、苦悶の中で息絶えた彼らを仄かに供養しているかのよう。
ここで、一体何が。
「彼が今何をしてるか、貴方がたに知って欲しかったんです」
知るのも、答えられるのも、南阪のみ。
「士さん。“スケイブ”については、ブラッド族から聞いていますね?」
「ああ。アークオルフェノクにやられる前に、同族をこの地球に呼び寄せた……オイまさか」
「そういう事です。彼が呼んだのはブラッド族だけではありませんでした」
一体一体をズームアップするカメラ。殆どが知らない種族だったが、しかし幾つか既知の怪人の姿も見受けられた。そのどれも脅威的な、宇宙由来の侵略者達だ。
「さて。奴らから、この空を守ってるのは誰なんでしょうか」
そして南阪は問う。人類の自由と平和を守る戦士達へ。
牧路凱歌を倒すという選択、その是非を。
────遙か上空。とある一つの隕石が粉砕されたのは、丁度同じ頃合いの事であった。
【次回、仮面ライダーディケイド】
「───私のミスでした」
「そしたら凱歌さんが1人で宇宙まで迎撃に出てしまい……力尽くで皆殺しにしちゃったんです」
「知らん。そっちはマーベラスに聞け」
『今こそ我らが最終手段……!』
「──ったく、しょうがない奴らだ」
《第6話 招かれしNew Comer!》
【全てを破壊し、全てを繋げ!】