死神。もしくは霧の侵略者。そう呼ばれた種族がいた。
人間の基準で10世紀ごと。その周期で星に降り立ち、生贄を以て子等を撒き散らし、息付く生命の悉くを食い荒らす。終われば次の
それこそを己の営みとして、彼女ら──“フォッグ”は幾星霜を経てきたのだ。
この世界における彼らの旅は、とっくの昔に終わっていたらしい。
月面に散らばった一際大きな残骸。紛れも無く
「彼らが来たのは去年の春頃でしたかねぇ、スケイブが発した誘引信号をキャッチしたようで。そしたら凱歌さんが1人で宇宙まで迎撃に出てしまい……力尽くで皆殺しにしちゃったんです」
「1人で?Jパワーも無しに??」
「
「知らん。そっちはマーベラスに聞け」
「あーやっぱりゴーカイな方々もいらっしゃるんですねぇ……」
次はこれ、次はこれ、次はこれ。月に無造作に打ち捨てられた兵どもの夢の跡を、南阪は何の感慨も無く映して行った。
ディケイド達の知る怪人と、知らない怪人の比率はおよそ3:7といった所。そして知っている連中は皆どれも、共存不可能で凶悪な者達。
これを、
「南阪さん。貴方は、」
「何でしょう、光夏海さん」
「貴方達は、地球を守ってきたんですか」
「僕じゃありません。彼だけが、です」
拒絶するようなキーボード音。同時にカメラが上を向いた。
「南阪さん、凱歌は……アイツはこれを何回繰り返してるんだ」
「さぁ?取り敢えず今ここで
カメラの前に何かが落ちた。今度はワームの死体だった、それも新鮮な。
一匹だけではない。次々に、サナギ体も成虫形態も関係なく降り注ぐ。重力の弱いこの環境下、フワフワと舞い散る様子は雪にも近いか。
そんな彼らを一際大きな影が覆い……一拍置いて、地響きと共に月面に激突した。内側から
ワーム、全滅。ネイティブも恐らく諸共に。
「という訳で。地球は現在この始末なんですが」
「「……」」
「もし
それが南阪の主題。積み重ねられたディケイドとクウガの争いを止めたのも、光夏海を解放したのも、月面の戦歴を見せてこれを問う為だ。
地球は狙われている。外宇宙から途絶える事の無い侵略者の波、そんな中で
それに思い至った夏海達は黙してしまう。しかし一方、ディケイドは。
「知るか。破壊する」
即答した。そんな事は些事だと切り捨てる、有無を言わさない声音で。
南阪の目尻が尖る。
「どうなっても良いというのですか?凱歌さんがいなくなった後、一番困るのは彼を排斥しようとした人類ですよ」
「お前がアイツの正義を語るのは勝手だ。が、俺達が正義の味方だと思ったら大間違いだぞ」
「貴方はヒーローでしょう?!」
「この世界で“仮面ライダー”が放送されてるってんなら、ウィザードの最終回あたりでも見直す事だな」
彼はかつて言った。“仮面ライダーは人間の自由の為に戦う”のだと。
それを思い出してか、南阪の目が見開かれる。ディケイドは不敵に笑った。
「交渉は決裂だぞ。地球を守る大義を掲げたいなら、せめて人類と協力してから主張するべきだったな」
「そ……そうだよ南阪さん!なにも凱歌一人で敵を凌ぐ必要は無いし、そもそも人類を攻撃する必要すら本来無いだろ?!」
「もし人間の方から拒まれたのだとしても──それはきっと、無知ゆえの恐怖による物です。貴方達が何をしているのか知れば、今までの犠牲者の事は許されずとも、きっと理解は……!」
その言に、クウガと夏海が息を吹き返すように語り掛けた。ずっと抱えていた疑問を言語化され、勢い余ったという所か。
それが南阪の逆鱗に触れた。
「理解。理解?そうですか、理解してもらえますか」
「そうです!時間は掛かってしまうかも知れませんが、地球の平和を守るのなら賛成しない筈が──」
「プフッ」
嘲笑。
今、唇の隙間から噴き出したのは、間違いなく。
「……ぇ」
「失礼。取り乱しました」
柔和かつ礼儀正しい態度を一貫していた南阪のその行いに、夏海達は思わずフリーズした。1秒後には本当に申し訳なさそうに、先刻の調子を取り戻して謝って来たものだから余計意味が分からないディケイドですら怪訝な視線を送る程だ。
「これは私のミスに他なりませんね。情報を小出しにし過ぎました、心から謝罪します」
「何が言いたい?」
「そうですね。ひとまず、彼がどうやってホースからアークになったかの説明かr」
「よせよ」
そして、ここで全てが終わる。外敵を退け、仕事を終えた彼の帰還によって。
クウガが夏海を庇い、ディケイドが流れるような所作でライドブッカーを向ける暗闇。その果てから、やはり彼は現れた。
「凱歌さん、お疲れさまでした」
「俺の事よりお前のやってた事の方が重要じゃい。何勝手に同情買おうとしてんだ」
「……」
「敵を増やしたくないって方針は良いけど、それが
「オイ無視すんな。土手ッ腹もう一回撃ち抜くぞ」
「ごめんモヤシ、マジですまんと思ってるから明日までお待ちください」
殺意をぶつけられながらも、牧路凱歌は怯まない。バツが悪そうに目を背ける南阪へ、呆れた声で話しかけ続ける。
「それとさ。10秒後くらいに人類軍の基地電力復旧するっぽいぞ」
「え?私の目算では明日まで掛かる筈ですが」
「お前も所詮人間って事だ。責めるつもりは無いが、ちゃんと自分の限界把握しとけ」
「……すみません」
「いやだから責めるつもりh「おいキレるぞそろそろ」だから待てってば!お前にとっても、これから
「ワハハハハハハハハ──げほぉっ!な、何が来るんだよ!?」
光家秘伝の必殺技からようやく解放されたユウスケの問いに、牧路凱歌は答えなかった。ただうすら笑いを浮かべ、彼はこの場の全員を巻き込むのみ。
「溺れたクラゲが藁に縋るのさ」
その酷薄な笑みに、微かな黒い感情を覗かせて。
酸素。
さん素だ。
さんソがタりない。
さんそをもってこい。
たのむ。
シぬ。
し
『……ッハァ!!!』
『電力が戻った!』
『酸素だ!酸素循環が戻ったぞー!!』
取り戻された視界と思考に、神経系が酔いを催した。死の淵からか楽も逃れたのだと、数秒置いてようやく知った。
現地の
『……覚悟を決めよう』
『ああやろう。他の基地の同胞とも連絡がついた』
様子を見るに、どうやら人類軍側の意図したシャットダウンではなかったようだ。しかし事故ではなく故意的な要素が見受けられ、即ち“我々に悪意を持った何者かが、既に生命線に手を掛けられる状況にある”という事になる。最早時間は無い。
『やるしか無い、か』
『人間如きにむざむざ殺されて堪るか』
『同胞達も賛同したとの事。すぐ実行可能です』
辺境でしかないこの星で、無為に命を散らすぐらいなら……全てを滅ぼしてやろう。その為に、今度こそ“彼”を喚ぶ。
我らブラッド族の頂点に座す資格のある血へこそ、この命を!
『今こそ我らが最終手段……!』
「待て!何をする気だ!!」
『特異点に座す神よ!我らの道に祝福を!』
人間どもが駆けつけるがもう遅い。世界各地に散らばった同胞全員で共鳴し合い、
さぁ開け、異空の扉よ。我らが救い主を、
「──ったく、しょうがない奴らだ」
ブラッド族の民が結託し、全員が命を賭して初めて出来る“王族強制召喚”。それに引っかかって、拒否する間も無く呼ばれちまった。それが今の俺だ。
「で、何だここは。地球か?」
「な、何だお前は!オルフェノクではないな!」
「ブラッド族をどうした!」
「残存カイザ部隊は速やかに奴を包囲しろ!!」
「……取り敢えず“新世界”じゃあない、と」
万丈の気配を感じないので、少なくとも元いた世界の地球じゃない事は確か。となると、最上の野郎が引き寄せたような
「両手を上げて膝をつけ!全ての武装を捨てろ!!」
「ったく、スケイブめ。前々から呼ばれてたのは知ってるが、無視され過ぎて痺れ切らしたかァ?」
「聞いているのか!早くしろ!!」
「……」
実に都合の良かった配下からの信号を思い返しながら、周囲を見回す。俺を取り囲む奴等はどうやらビルドの親戚のようで、腰にビルドドライバーを装備していた。
……待てよ。ビルドドライバーがあるってンなら、もしや?
「こりゃあ掘り出し物かもなァ……!」
「何をッ!?」
「やむを得ん、
変身。さぁて、星狩りの前に人狩りと洒落込むかねェ!
……っと。先に挨拶の一つぐらい言っておいてやろう。
「チャオ、ってな」
【次回、仮面ライダーディケイド】
「このまま見過ごすっていうのか!!」
「じゃあ貴方が行ってきて下さい」
「えっ何っ何だァッ」
「お前は一体何を企んでいる……?」
「士君っ!!」
「今からそれを教えてやるっつってんだよ!」
《第7話 実る程……》
【全てを破壊し、総てを繋げ!】