こうふくなアイドル 藤田ことね   作:五月車

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1話

 とある場所に藤田ことねと言う名前の少女が居た。

 

 三つ編みにした金髪が特徴的な十五歳の女子高校生である。

 彼女は初星学園に通う一年生であり、中学校からアイドル科に通っておりそのまま進学するという形で初星学園のアイドル科に入学することになったのだ。

 彼女の夢は稼げるアイドルになる事、しかし彼女のアイドルとしての活動は決して順風満帆には進まなかった。

 

 藤田ことねの、学業の成績は決して良いとは言えなかった。

 その理由は彼女が多くのバイトをしている事に起因する。稼げるアイドルを目指す彼女は、お金を稼ぐためにバイトの数を多くしており、その結果として疲れを取ることが出来ずに、成績を落としていったのだ。

 落ちこぼれというに相応しいその成績の結果、彼女は最初の一年目でスカウトされなかった。

 

[……いや、そうだな。スカウトされたんだった。なんか文章変だけど、こっちの方が曇らせれるし面白いよな。でもなー、有能な奴にプロデュースさせても曇らせにくいし、適当な新人にしとくか]

 

 彼女はスカウトしたのは同じく新人であるプロデューサー科の人間だった。

 

プロデューサー(以下プ)「あなたが藤田ことねさんですか?」

藤田ことね(以下こ)「はい、そうですけど、あなたは?」

プ「自分は初星学園でプロデューサーをしているものです」

こ「ええ、そうなんですか! なら、私をプロデュースしてくれませんか!」

プ「はい、もちろんです自分は貴方をスカウトするためにここに来たのですから」

こ「いいんですか、プロデューサーさん! 私頑張っちゃいます! 色々教えてくださいね!」

 

 こうして彼女とプロデューサーの激動の日々は始まるのだった。

 

[うん、良いんじゃないか。これで投稿すればいいだろう。最初は出来るだけ順風満帆な感じにして、後から曇らせるのが一番だし]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物心がついた時から、人とは違うものが見えた。

 

 これが幽霊だとか精霊だとか、そういったものであれば、何か話のタネにでもなっただろうが、自分の場合見えていたのはただの文字だった。

 他の誰に訊いても見えないと答えるのだが、その文字たちは確かに僕の視界に漂っており、時には視界の半分程度を塞いでしまうほどの文字たちがただそこにあった。

 その文字たちが文章になっていると理解したのは、小学校の頃。そして、どうやらその文章はある一人の人物について書かれているものだと気づいたのはそれから更に一年程経ってからだった。

 

 藤田ことね。どうやら、そんな名前の少女の事が書かれているらしい。

 いつしか、その文章を読むことが楽しみの一つになっていた。

 だからこそ、文章の中に彼女が住んでいる具体的な地名が出てきた時の衝撃は、おそらくこれより先の人生でこれほど心が揺れ動くことは無いだろうと確信するほどであった。

 

 社会の授業で使っていた地図帳で調べてみると、どうやらその場所は自分が住んでいる近くであることが分かった。

 それに気づいた時、自分はまだわずかに残っていたお年玉片手に駅に走り出していた。

 

 路線図を見て、目的の駅にまでの切符を買って電車に乗る。

 

 その時の自分は、きっと希望に満ち溢れていた。

 あの藤田ことねにとうとう会うことが出来るのだと、胸を躍らせていたのだった。

 

 

 ただ、その高揚が続いたのは駅に降りた時までだった。

 気づいてしまったのだ、彼女がこの世界に存在しない可能性に。確かに文章の中で書かれている地名と今この場所の地名は同じだ。しかし、この文章が正しい事が書かれている保証は決してない。

 

 この地域を舞台とした、架空の藤田ことねという人物の生涯を見せられている可能性だってあることに。

 

 それにもしも出会えたとしても、僕は彼女の事を彼女の次に知っているという自負があるが、彼女は僕の事を知らないだろう。

 それに気づいた瞬間、今来た道を引き返したいという衝動に駆られる。

 

 そんな時だった。

 

「まいご?」

 

 天使と出会ったのは。

 

 舌っ足らずな様子でこちらを心配してくれる少女がそこにいた。

 

 一目惚れというのは、きっとこの時の事を言うに違いない。

 いやいや、自分には藤田ことねがいるというのに何を考えていたのか。

 

「いや、えっと、人を探しに来たんだ。藤田ことねって子を」

 

 気づいた時にはもうここに来た目的を話してしまっていた。

 彼女との関係を深堀されたら、どう説明されようかなどと言い訳を考える。

 

「藤田ことねはわたしだよ?」

 

 ただその言い訳もすぐに飛んでしまった。

 ……彼女が藤田ことね?

 

 首を傾げながら言う彼女が、嘘を言っているようには思えない。

 そうなると、本当に彼女があの藤田ことねなのだろう。

 

 目の前にあれほどまで会うことを望んでいた人物がいると分かったのに、何も口にすることが出来ない。

 

「あ、待って!」

 

 結局出来たのは、その場から走って逃げだす事だけだった。

 年の差もあってだろう、簡単に彼女から逃げることは出来た。

 

 後ろから彼女がついてきていない事を確認して一息つく。

 彼女からすれば完全に不審者と出会ったという記憶だろう、実際視界の端に見える文章にも『何か困っている男の子に声を掛けたら、それは藤田ことねを探しに来たという不審者だった』と書かれている。

 さらに先ほどの会話の内容すらも。

 

 正直に言えば、不審者だと思われたことはショックではある。ただそんなことよりも、藤田ことね。彼女が存在しているという事実が何よりも嬉しかった。

 

「本当にいたんだな」

 

 

 その日から、僕の生活は一変した。

 

 今までしたくもなかった勉強に精を出すようになり、格闘技の習い事も始めた。

 

 彼女がアイドルを目指していることは、文章のおかげで分かっていた。

 それなら自分は彼女の夢を支えられるようプロデューサーになろうと思ったのだ。

 プロデューサーになるためには賢くないといけないだろうし、もしもの時にはアイドルを守れるだけの力も必要だろうと思っての行為だ。

 

 そんな努力が実を結んだおかげか、自分は無事に初星学園のプロデューサー科に入学することに成功した。

 まずは夢の第一歩目を踏み出したと言っていいだろう。

 

 名簿と文章その両方から、彼女もまたこの初星学園のアイドル科に入学していることは確認済みだ。

 後は、彼女をスカウトするだけ……と思っていたのだけど。

 

「なんで会えないんだ?」

 

 そう、藤田さんと出会えないのだ。

 彼女をスカウトしようとレッスン場に向かえば、既にレッスンを終えてバイトに向かったと残っていた生徒から話を聞き、それならとバイト先でスカウトをしようと思えば何故だか今日は仕事が少なかったから早めに帰したと言われ会うことが出来ない。

 それならと教室で出てくるところを待とうと思っていれば、目を離していないはずなのに、いつの間にか彼女は教室を出てレッスン室に向かったとのことだった。

 

 他人を頼って藤田さんと会えるよう伝言を残しても同じことで、伝言が伝わらなかったり、そもそも伝言したことを忘れられてしまうという始末だ。

 何か神様に邪魔されているかのように、藤田さんに近づくことが出来なかった。

 

 何かが可笑しい、神様が邪魔をしているのではないか。

 そんなことを疑い始めた時だった。

 

 

『落ちこぼれというに相応しいその成績の結果、彼女は最初の一年目でスカウトされなかった』

 

 視界の隅に、そんな文章が目に入った。

 

 ああ、なるほど。だから、僕と藤田さんは合うことが出来なかったのか。

 

 種が分かってしまえば、対処は簡単だ。

 

 消してしまうだけで良い。

 

『落ちこぼれというに相応しいその成績の結果、彼女は最初の一年目でスカウトされた』

 

 文章の該当部分に触れて、いらない部分を編集する。

 これが、いつの間にか自分に宿っていた能力だ。

 消すだけではなく、ひらがな五文字程度であればこの文章に書き足すことだって出来る。

 

 他のプロデューサー科の人間にスカウトされたのであれば、能力を使わずにそのまま彼女が幸福になるようにサポートする道を選んだだろう。

 ただ、誰にもスカウトされないというのなら話は別だ。

 

 文章を書き換えると、あれほどまでに出会えなかったことが嘘のように簡単にバイト終わりの藤田さんに出会う事が出来た。

 

 落ち着け、ちゃんと冷静に頼りになるプロデューサー感を出しながらスカウトを行わなければ。

 もしも失敗したなら、もう諦めるしかない。

 失敗したら能力を使えばいいと、心の中の弱い自分がそう呟くが、馬鹿げた考えだと一蹴する。

 

 彼女の意思を曲げてまで、自分がプロデューサーになるなんてことは許されないし、そんな能力の使い方は死んでもしたくない。

 藤田さんには幸福になって欲しいが、それに自分のエゴが混じってはいけない。

 それだけは決して忘れてはいけない。

 

 一つ、深呼吸をしてから、藤田さんに声を掛ける。

 

「藤田ことねさんですね?」

「あ、はい、そですけど……あなたは?」

 

 こちらを見た時、彼女は困惑したような表情を浮かべた。

 良かった、とりあえずあの時の不審者と自分が同じだとは気づいていないらしい。

 

 まあ、あれ以降会った事もないので覚えているこちらの方が異常という話にはなるのだが。

 

「こういうものです」

 

 出来るだけ心の動揺に気づかれないよう、冷静を装いながら名刺を手渡す。

 

「プロデューサー科って……」

「あなたをプロデュースさせてください」

「ええー!? そ、それってスカウトってことですよね? じゃあ、あたしのこと……」

「資料で拝見しました」

 

 厳密に言えば嘘だ。

 資料で見る前から、藤田さんをスカウトするつもりでいた。それはそれとして穴が開くほど、資料も読んだ。いや、資料を読んだというか、資料についていた顔写真を見たのだけど。

 

「なら――どうしてあたしなんですか? 他に、もっと成績のいい子だっているのに」

 

 自信なさげに尋ねる、彼女に若干の違和感を覚える。

 

 ……成績がいいからなんなのだろうか、自分にとってプロデュースするアイドルは藤田さん以外は考えられないのだけど。

 それに僕の中ではもうすでに、どんなアイドルよりも目を引いて離させてくれない。

 

 ああ、そうか。分かったぞ。

 

「プロデューサー科の生徒の成績は、担当アイドル活躍いかんによって決まってます」

「ですよね? なら……」

 

 やっぱり、自分の事を心配してくれたのか。

 あのとき、天使だと思ったのはやはり間違いではなかったらしい。

 こちらの成績の心配までしてくれているなんて!

 

 とはいえ謙遜は美徳ではあるが、こうした自嘲まじりの発言はアイドルをするうえで弊害になる可能性が高い。

 

 実際、彼女は周りよりも劣っているあるいは練習が足りないと考え、過度なスケジュールでレッスンを入れ、その結果として疲れが取れず、試験でのパフォーマンスが落ちる。

 パフォーマンスが落ちれば、それは練習が足りていないと考えるという悪循環に陥っている。

 

「だから、あなたを選んだ」

 

 それなら、今自分がやるべきことは彼女に自信を持たせることだろう。

 

「ちょ、ちょい待ちです! 一応確認しますけどこれナンパとかじゃないですよね」

「違います」

「本気で言ってるってことですか?」

「本気で言っています」

 

 藤田さんと出会ったその日から、彼女の夢を叶える為の努力をしてきたんだ。

 本気以外の何物でもない。

 

「ちょ、ちょーっとだけ! 考え中!」

 

 そう言って、藤田さんは何かを考え込むような仕草を見せる。

 

 そして、世界で一番長い三十秒間の後、ようやく決心がついたように彼女が口を開く。

 

「そのお話! 受けさせていただきますっ!! あたし、ぜったい叶えたい夢があるんです! 1年間、一緒に頑張りましょう!」

 

 

 

 

 こうして、僕は無事藤田さんのプロデューサーになることが出来たのだが、

 

「……なんなんだろうな、これ」

 

 藤田さんと別れた後、先ほどのやり取りが書かれている文章を読みながら思う。

 

『こ「ええ、そうなんですか! なら、私をプロデュースしてくれませんか!」』

 

 藤田さんはあの時、プロデュースをして欲しいとは口にしていなかった。それにあの時の彼女の一人称は私ではなく、あたしだった。

 

 この文章には現実に起きたことが正確に書かれているわけではないのだろうか。それならこの文章に意味はないのか?

 

 ただ書き換えた途端、藤田さんと会うことが出来たのも又確かだ。

 

 いったい、これは何なんだ?

 

「駄目だ、何も分からん」

 

 どれだけ考えてみても、何時ものように結論は出ることは無かった。

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