「藤田さんのほうから、プロデュースして欲しいと言ってきたんですよね。よく憶えています」
そう口にした時、彼女の雰囲気が変わった事に気づいた。
何か失言してしまっただろうか?
「どうかしましたか?」
内心でそんなことを考えながら、それが外に出ないように返事をする。
何かしてしまったのなら、訂正する必要があると考えて文章の方に目線をやる。
[こ「プロデューサー、あたしと初めて会った時のこと憶えてます?」
プ「ええ、もちろん。憶えていますよ。藤田さんのほうから、プロデュースして欲しいと言ってきたんですよね。よく憶えています」
そのとき藤田ことねは考えた、あのときプロデュースして欲しいと言ってなかったらどうなっていたのだろうかと?
あまりいい想像は出来なかった。多分学校辞めてるだろうなと思った。
プ「どうかしましたか?」
こ「もしもプロデューサーが居なかったらどうなったのかなって考えてたんです」
プ「藤田さんなら、プロデューサーが居なくても大丈夫ですよ」]
『なんかよくわかんねえけど、ここ書いといた方が良い気がするんだよな。別に先の展開的に削ってもいい気がするけど、いや俺は俺のインスピレーションを信じるね』
……なるほど。
特に不自然な所は見当たらない、ただ藤田さんはもしもの事を考えてしまい不安を抱いてしまっただけなのだろう。
こういった不安というのは案外馬鹿に出来ないものがある。その不安を解消してあげるためには、彼女の才能を褒めるべきだろう。
トップアイドル……だと、ちょっと大げさに感じられてしまうかもしれない。お世辞を言われていると思われるわけにはいかない。
それならアイドルになれた、ぐらいだろうか。彼女は学校を辞めていただろうとまで、思っているのだからこれぐらいの言葉がちょうど良い様に思える。
「ちょ~とあの時のこと思い出してブルーになってただけです。もしもスカウトされなかったら、どうなってたのかなぁ~って」
「どうですかね、藤田さんならプロデューサー無しでもアイドルになれたと思いますが」
藤田さんが言い終わるのを待って、用意しておいた台詞を口にする。
「そうですかね?」
「ええ、もちろんです」
「なら、良いんですけど……あ、そろそろ、レッスンの時間なのであたし行きますね!」
そう言い残して、藤田さんはレッスン室の方へ向かって行った。
普段よりも若干早い時間のような気がしたが、きっと先日のレッスンで見つけた課題点についてレッスン前におさらいしておきたいだとかそういう理由だろうと、結論を付けて作業に戻る。
まだ記憶が戻ってくる気配は一切ないものの、以前と同等程度には動けるようになっている。
中間試験に合格した以上、『初』の最終試験を目指すのは当然の流れだ。現在はそれに向けての計画を練っているところだ。
メインステージでのライブ……は、流石に厳しいと思うが、他のステージでのライブをすることなら藤田さんの実力であれば十分狙える圏内だろう。
自分の記憶なんてものはゆっくり思い出していけばいいが、最終試験の時間は刻一刻と迫ってきている。
それならまずは時間制限のあるほうから優先して取り掛かるべきだろう。
そんな風に過ごしていると、すぐにその日は訪れた。
『初』の最終試験の当日だ。
ただ、試験を受ける当の本人の姿はこの控室にはない。緊張を少しでも和らげるため外の空気を吸って来ると言って出て行ったからだ。
プロデューサーであればこういった際に、担当アイドルの元に向かって緊張を和らげるために何か声を掛けるべきだということは理解出来ている。ただそれでも、自分が藤田さんに声を掛けるわけにはいかなった。
何故なら、最近の自分は彼女にあからさまに避けられているからだ。
いったいいつから避けられるようになったのかはよくわからない、自分も最終試験に向けてやらないといけないことが多かったし、藤田さんも藤田さんでレッスンに、アイドルとしての仕事と目まぐるしく動いていた。そのため、そもそも彼女と一緒にいる時間がそもそも少なかったのだ。
今、思ってみれば自分に会わないためにレッスンの量を増やしていたのかもしれないと、推測は出来るものの実際彼女がどう思っているのかは、文章にも書かれていない良くわからない。
避けられている現状をどうにかしなければならないという気持ちはあるものの、打つ手がないのが現状だった。
自分が何かしでかしてしまったのなら、その事を謝罪し改めればいい。
藤田さん側の問題なら、その問題を解決できるよう動くことも出来る。
あるいはそんな常識的な方法に頼らずとも、自分の能力でその原因を無かったことにすら出来るかもしれない。
ただ原因が分からないとなると手の打ちようもない。
どうして、こうなってしまったのか自問してみても答えは出ないし、藤田さんに訊いてみても
「気のせいじゃないですか?」
なんて満面の作り笑いで言われてしまえば、それ以上踏み込むなんてこと出来るはずもない。
もしかしたらと思い、彼女のクラスメイトなどにも話を訊いてみたものの残念ながら収穫はなかった。
最低限これからのスケジュールの話などはできているため、最悪な事態は回避できているもののそれだけだ。
ようやく彼女は控室に戻ってくると、彼女は控室に置かれている鏡でセットが崩れていない事を確認し始める。
どう声を掛けようかそんなことを悩んでいる間に、先生が藤田さんの順番が近いことを告げた。
「はぁ~い! 今いきまぁ~す!」
猫なで声でそう返事をして、彼女は外に出ようとする。
何か言うなら、今しかチャンスはない。
今から最終試験に向かう彼女にどう声を掛けるか、一瞬だけ考えて結局何も言わない事に決めた。
今の自分が彼女にどんな声掛けをしても無駄だろうし、むしろ下手に不快にさせないために何も言わないのが正解だろうと結論づけた。
レッスンの結果的に言えば、合格自体は間違いないだろうと感じている。
メインステージでのライブに届くか気はしないが、それでもライブが出来る圏内にはいるだろう。
……それにまあ、最悪不合格になってもどうにかできるか。
そんな楽観的な事を考えながら、試験会場へと向かうのだった。
「お疲れ様でした。藤田さんは……不合格でした」
こういうと薄情に聞こえるかもしれないが、その結果に対して驚きはなかった。
むしろ、今日の彼女のステージでのパフォーマンスを見て合格だと思う方が難しい。
練習の際に見せていた実力の三分の一程度も発揮できていなかっただろう。
「はぁ~~……へこむぅ」
へこんでいる様子の彼女にどう声を掛けるべきだろうか、まさかここでただ真実を伝えるわけにはいかないだろう。
念のためこの先の事を確認しようと文章の方に目をやってみると、
[藤田ことねは不合格であった。
パフォーマンスが上手く行かなかったのだ、悲しいがこれが現実ってやつなのだ。彼女は辛かったし、悲しかった。
彼女は不合格だったが、プロデューサーと話をして最終的には前を向くことが出来たのだった。ここで折れるような生半可な精神を持っていないかった]
何ともまあ、不明瞭なものが書かれていた。
「よっし、落ち込むのしゅ~りょ~♪」
そんな事を悩んでる最中にそんな言葉が聞こえたものだから、
「立ち直るの、随分と早いですね」
思わず、思ったことがそのまま口から漏れてしまった。
「やー、あたしぃ、マジで人生崖っぷちなんで。落ち込んでる暇なんて無いってゆーか。今日、また一歩、ぐぐーッと終わりに近づいた感じですけども。まだ終わってねーし? 諦めるつもりもねーしぃ? さっさと立って、もう一度やるだけでっす♪」
ただまあ怪我の功名というべきか、そのおかげで藤田さんが現状についてどのようにとらえているかは知ることが出来た。
切り替えが出来ているのは良い事だ、先の失敗を引きずられても困る。
だからこそ、疑問だった。どうして、あそこまでパフォーマンスが落ち込んでしまったのだろうか。
当初の予定通り、不合格の結果をかき消してしまって合格にしてもいいのだが、今の状況ではライブでも同じような結末になるのがオチだろう。
そしてライブで失敗したとなると、人の前に立つこと、それ自体に悪い印象を持ってしまう可能性がある。それは出来れば避けたいところだ。
ライブの失敗事態も成功に変えればいいのではないかという考えも浮かぶ。ただライブは失敗したみたいな風に書かれていればいいが、観客の冷めていく様子や彼等の罵倒などが描写されれば文字数に制限のある自分ではそれらすべてを変えれる保証は無いし、そうなる可能性は高いように思えた。
それならいまするべきことは、今回の失敗の原因究明になる。
怪我をしているい可能性もある為念のため、文章を読んでみるがそのような描写はない。
それに自分の目で見た限りステージ上の動きは何処かを庇っているようなものでは無かったように思える。身体的要因からくる失敗というのが考えにくいとすれば……精神的な問題という事になるのだが……。
これっぽちも理由が思いつかない。彼女はどちらかといえば本番に強い方だと感じている。
以前行った小さな会場でのライブでも口では緊張していると言っていっていたものの、本番に入ればその態度が嘘のように堂々としたステージを披露していた。
そのため、本番で緊張したという線は考えにくし、何が原因なんだ?
「しかし、これで終わりなんですねぇ」
「え?」
突然の藤田さんの言葉に困惑する。
終わり? 何のことだ。アイドルとして? いや、終わるわけがない。
それはさっき彼女が直接否定している。それなら最終試験が? 確かに終わってる。終わってはいるが、わざわざ取り立てて口にするようなことじゃないだろう。
なら、何を?
「もう、忘れちゃったんですかぁ? 最初に約束しましたよね。『初』に合格しなかったら、その時点でパートナー契約を解除するって話ですよぉ。そう言う条件で、プロデュースしてもらうって約束だったじゃないですか」
「…………」
そんなことは、文章には書かれてない。ただ、それを否定するだけの根拠はない。もしかしたら、そんな約束をしたのかもしれない。文章も完璧ではない、端折って書かれている部分もあるし、言葉が簡略化されている部分だってある。だから、自分はしらないけどもそんな約束をしたのかもしれない。
――そんな風に疑問に思ったのがいけなかった。
「……あなた、誰なんです?」
藤田さんはこちらの方を睨みつける。
初めて見るその表情に、思わずたじろいでしまう。
なんだ、何を失敗した。
何も間違っていなかったはずだ、それに文章にはこんなこと書かれてなかったぞ。
――そうだ、文章だ。
あれを見ればどうしてこうなったのかが分かるかもしれない。
藁にも縋るような気持ちで、文章に目をやる。そこに書かれていたのは先ほど自分が確認したはずのものとは大きく変わっていた。
『藤田ことねは不合格であった。
パフォーマンスが上手く行かなかったのだ、悲しいがこれが現実ってやつなのだ。彼女は辛かったし、悲しかった。
彼女は不合格になったという事実に憤りを覚えながら、またこのままでは駄目だと強く思った。
こ「やー、あたしぃ、マジで人生崖っぷちなんで。落ち込んでる暇なんて無いってゆーか。今日、また一歩、ぐぐーッと終わりに近づいた感じですけども。まだ終わってねーし? 諦めるつもりもねーしぃ? さっさと立って、もう一度やるだけでっす♪」
プロデューサーに語った、その発言に嘘はない。
ただ恐れているだけでは駄目なのだ。目を逸らして、逃げ続けて、後ろに下がり続けた結果、彼女の後ろにあるものは断崖絶壁だ。
それが嫌なら一歩踏み出すしかない。
それが藤田ことねの行動理由だった。
だからこそ、彼女は尋ねる。
こ「……あなた、誰なんです?」
気丈に、こちらが相手の事を恐れていることがバレないように、精一杯の虚勢を張りながら、一歩前に進むための言葉をようやく彼女は口にすることが出来た。
その言葉に観念したのか、プロデューサーは自分の正体について話を始める
プ「実は自分の正体は……』
[ここで区切って、投稿! うーん、これは続きが気になって仕方ないに違いない!
信頼されていた、プロデューサーが実はって感じいいよね。
あれ? 実はなんなんだ?
何か思い出せないけど、まあいいか。俺なら忘れてたとしても、結局面白いの思いつくだろうし]