こうふくなアイドル 藤田ことね   作:五月車

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14話

「何考えてんだよ、昨日の俺」

 

 先日投稿された物語を読んで、男は困惑していた。

 自分が考えたであろう新しい展開は綺麗に終わっていた、そこから更に二転三転と話を展開するのは不可能だ。

 

 それならばもう一度新しい展開を作ればいいという話になるが、プロデューサーの交通事故という手を一度切ってしまっている。

 藤田ことねに新しく恋人を作って、そいつを記憶喪失にさせたとしても、先の展開の二番煎じ。面白い展開にならないのは目に見えている。

 

 だからこそ、先ほどの展開。

 信じていたプロデューサーの正体が実は……という展開で、クライマックスを作らなければなかったのだ。

 ただ、それは失敗してしまった。

 

「これもう無理だろ」

 

 ここから面白くなる構想が思いつかなかった。

 これからどのように展開しても面白くなる未来は見えなかったし、藤田ことねを綺麗に不幸のどん底に陥れる手段は思いつかない。

 

 先に結論を言ってしまえば、男は既に詰んでいる。

 男が自分の望むように話を作るのであれば、プロデューサーの事故にあい記憶喪失になったところまでの文章に遡りそこから改変する必要がある。

 藤田ことねに対して、プロデューサーがおぼえていると言っていないように改変し、そこから文章を作ればいい。

 

 しかし、そんなことはできやしない。

 何故なら物語を改変することは誰にも出来ないからだ。

 

 これが文章であれば作者は好きなように変更することが出来る。

 展開を変えることだって好きに行えるし、新しい登場人物を生やしてもいい、あるいは生き残るはずの人物を殺したっていいだろう。

 ただ、これが物語となるとそうはいかない。

 展開を変え、新しい登場人物を生やしても、それは以前あった作品のリメイク、あるいはifストーリーや派生作品にしかならない。物語というのは皆が読むことは出来るが、だれも変えることの出来ない神聖なものだ。

 

 それなら、物語と文章は何が違うのか? と問われれば、その答えは簡単だ。

 

――読者によって読まれた文章、それが物語となるのだ。

 

 つまり、今までの話は既に物語となってしまったのだ。

 ただ物事には例外というのが付き物だ。物語は誰にも変えることは出来ない、それは確かな事実ではあるが、プロデューサーであれば、たった一度だけ使うことのできる奇跡を使えばこの『不幸なアイドル 藤田ことね』の物語を変えることは出来る。しかし残念ながら、男にはそんな奇跡を使うことは出来ない。

 だからこそ男は詰んでいる、という結論になる。

 

「やっぱり、原作が駄目だな。こんな原作じゃあ、俺の才能でも面白く出来ねえよ。二次創作なんてしたのが間違いだった、やっぱオリジナルやるか」

 

 そんな状況から彼が行ったのは責任転嫁、そもそもの原作が悪いのだからそれをどう弄っても面白くなるはずがないと理屈をつける。

 常人には理解の及ばないものではあるが、少なくとも男の中では正しい理屈として機能していた。

 

「……一応、終わらせてはおくか」

 

 そんな思考をしておきながらエターではなく、無理やりにでもこの物語を終わらせようとしたのは、ひとえに男のプライドによるものだろう。

 

 完結していない作品は、小説にすらなれていないゴミ。

 

 そもそもの原作のせいだと思っていながらも、そういった評価が自分が書いた作品にくだされるのは、プライドが許さない。

 だからこそ、無理やりにでも彼は終わらせることを決めた。

 

『その日は藤田ことねにとって特別な日だった。

 

 プロデューサーと仕事でよって遊園地で遊び、一緒に帰っていた。

 

 その時不注意で、トラックが突っ込んできた。

 プロデューサーの前で藤田ことねは轢かれた。

 救急車で運ばれたが、彼女の意識が戻ってくることはなかった。

 こうして、藤田ことねはその不幸な一生を終えたのだった。

 

 終わり』

 

「こんなもんでいいだろ」

 

 男は、書きなぐった文章をそのまま投稿した。

 その内容がいつの間にか変わっていた事なんかに気づきもせずに。

 

「よーし、次のオリジナルどうしよっかな。やっぱ女の子が不幸になる話が良いよな、こういう奴が最近人気だし」

 

 男がもうこのページに戻ってくることはないだろう。

 彼にとってみれば、この作品は既に黒歴史になってしまっている。それに既に次の作品についてで頭がいっぱいであり、こんな作品に割く容量なんて存在していないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

『その日は藤田ことねにとって特別な日だった。

 

 プロデューサーと仕事でよって遊園地で遊び、一緒に帰っていた。

 

 その時不注意で、トラックが突っ込んできた。

 プロデューサーの前で藤田ことねは轢かれた。

 救急車で運ばれたが、彼女の意識が戻ってくることはなかった。

 こうして、藤田ことねはその不幸な一生を終えたのだった。

 

 終わり』

 

 

 藤田さんとの遊園地からの帰り道、突如現れた文章に違和感を覚えると共に、早急に対処しなければならない事を悟る。

 この終わり、という三文字。非常に気になるところではあるが、今はそこを気にしている場合ではない。

 

 問題になるのはこのままでは藤田さんが事故にあってしまうということだ。

 それだけは避けなければならない。

 トラックが突っ込んできた部分をどうにかする? いや、そもそも事故にあわないようにしたほうがいいか。

 

『プロデューサーの前で藤田ことねは轢かれなかった』

 

 これでどうだ?

 

「どうしたんですか、プロデューサー? そんな難しそうな顔して」

 

 突如、押し黙った自分に藤田さんが不思議そうにこちらを覗き込むが今は、彼女に構っている暇はない。

 文章が再び元に戻る可能性を考え、文章を見てみるがどうにも変わっているようには思えない。

 

「プロデューサー?」

 

 そう言った瞬間だった、突如目の前に突っ込んできたトラックが、僕達の目の前でギリギリ停止した。

 ……どうやら、改変できたらしい。

 

 まずは轢かれずに済んだことに一安心しつつ、存外簡単に改変できたことを疑問に思う。

 

「……もしかして、あたし轢かれるところだったりしました?」

 

 ただ、まあ改変できたのだからいいだろう。

 今はまず、この恐怖で腰が抜けた未来のトップアイドルの事を考える方が先だ。

 

『危なかったがなんとかブレーキが間に合ったのだ。

 こうして、無事に藤田ことねは帰宅したのだった』

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