最近は特筆すべき事もなく、ただただ平和な日々が続いていた。
やはり、あの時藤田さんがトラックから轢かれそうになったさいに見えた、あの終わりの三文字。やはり、あれには意味があったのだろう。
文章の更新事態は今も続いているものの、悪趣味なものはあれから一切見ることは無くなっていた。
あれは文章からの干渉が終わった事を表していたようだ。
それがきっかけなのかは分からないが、失ったはずの記憶も徐々にではあるが、思い出してきた。
記憶を失っていた際に試験を合格にさせなかったあの時の自分に感謝すると共に、まさか不審者として文章に登場していたなんて分かるわけないだろうと悪態をつけるなんて一幕もあったが、それで何かが変わったのかと訊かれれば、特に何かが変わったようには思えない。
無理やりにでも変わったところを述べるのであれば、藤田ことねというアイドルが今まで以上により一層輝いて見えてきて、その可愛さに何度かやられそうになったぐらいのものだろう。
まあ、自分の方の近況といえばその程度のもので、藤田さんといえば、既に『初』の定期試験の不合格のショックからは抜け出しており、レッスンや仕事に精を出している。
むしろその不合格だったことをバネとして、より一層アイドルとしての磨きが掛かっていた。
この調子なら、そろそろあの話をしてもいいかもしれない。
そう『N.I.A』への出場だ。
『初』では確かに残念な結末になってしまったものの、本来の彼女が持つ力はあんなものじゃない。
自分が足を引っ張ってしまったし、彼女の精神的に追い詰められるような場面が多かった。
ただ、あの忌まわしき干渉は既に終わっているようだし、それなら藤田さんが本来持つ力を発揮することだって出来る。
そのために、こっちも色々準備をしてきたんだから。
彼女の目的の為には『H.I.F』に出場するのが一番の近道だ。そのために『N.I.A』に出場して、そこで好成績を残す。
そのためには立ち止まっている暇なんてない。
文章からの干渉がなくなったのなら、ここからは自分のプロデューサーとしての力が試される事になってくるはずだ。
こんな素晴らしい原石を埋もれたままにしていいはずがない、そのために自分の持っているものすべてを使ってでも彼女をトップアイドルにしなければならない。
……ああ、そうだ。
そういえば、最後の最後まで、使っていなかった能力があったことを思い出す。
どうせもうこんな能力、使い道なんてないのだから、適当に使ってしまおう。
そう思って文章を改変するべく、一番最初の部分に戻しその部分を改変する。
途端激しい頭痛が襲って来るが、これぐらいなら問題はない。
ああ、なるほど。こうやって改変したら、斜線は出ないんだな。
「大丈夫ですか、プロデューサー、突然頭を押さえて。保健室……いや、救急車の方が!」
「いえ、すみません。少し立ち眩みをしただけですので大丈夫です。話の続きをしましょう」
「本当に大丈夫なんですかぁ?」
「ええ、気にしないでください」
彼女はまだこちらの方を心配そうに見つめるが、大丈夫。もう気にすることじゃない。
それはこれからの藤田ことねが描いていく物語には似合わないから変えただけ、ただそれだけのことなのだから。
「さて、話を戻しますが、『N.I.A』に出場しませんか?」
「『NEXT IDOL AUDITION』!? あ、あたしが出るんですかぁ!?」