アサリ先生(以下ア)「プロデューサー、ドッキリをしましょうドッキリを!」
プ「ドッキリって何ですかいきなり」
ア「アイドルといえばドッキリです! バラエティーでの定番ですし、練習しておくべきだと思いませんか!」
プ「練習って……、まあそれは一理あるかもしれません」
プロデューサーは知らなかった。
アサリ先生はそのドッキリの練習の映像を録画して、ネットを経由して学校外に売り出そうとしていることを。
ア(フフフ、これで私も億万長者です)
プ(な……なんだか、嫌な予感がしてるけど、気のせいだよな)
プ「それで、ドッキリって何をするんですか?」
ア「それはもちろん死亡ドッキリですよ!」
[……あれ、書き忘れか? ドッキリって事はもう書いてるし、ここはちゃんとドッキリの内容を書いておくべきだよな]
ア「それはもちろん死亡かるめのドッキリですよ!」
[……軽めのドッキリ? それで面白い訳なくね? もっと派手なドッキリの方が面白いよな。うんうん、つうか、軽めのドッキリで小説になるわけねえじゃん。ちょっと前の自分は馬鹿なのか?]
ア「それはもちろん死亡ていがくドッキリですよ!」
[……いや、そうだな。停学……いや、そこまで行くなら停学より退学にさせた方が面白そうじゃね! ってか、ドッキリじゃなくて、本当に退学にさせたらおもろいかも! やば、天才じゃん]
ア「それはもちろん退学どっきりです」
[……いや、そうだよな。ここで退学にしてしまうと、流石に前の文章との整合性が取れない。俺レベルの小説家になると、こういった些細なミスにも気づくことが出来る。ってなると、退学ドッキリか……うーん、インパクトがない。インパクトがあるドッキリ、……死亡ドッキリとかか?]
ア「それはもちろん死亡ねおきドッキリですよ!」
[……寝起きドッキリはやっぱりドッキリの中では定番ではあるよな。ただ小説ってよりは漫画とか絵の方が面白いんだよな。俺に絵の才能があれば、ありだった。残念ながら俺に有ったのは文章の才能だけだし、文章で表現するからにはもっと派手なドッキリを仕掛けたいところ。そうなると、死亡ドッキリとかのが良いんじゃないか?]
ア「それはもちろん死亡ぎゃくドッキリですよ!」
[……逆ドッキリ……駄目だ展開が思いつかん。なんか面白そうに出来る気もするけど、もっと手軽なので良いんじゃねえ? そうなると手軽で派手ってなると……死亡ドッキリだよな]
ア「それはもちろん死亡しんれいドッキリですよ!」
[……心霊か、ドッキリしたせいでガチで呪われるってのは面白そうだけど、それやると完全にホラー路線なんだよな。この後の事を考えるとあんまりホラー路線にはしたくないし、やっぱりもっと分かりやすいのに変えるか]
ア「それはもちろん死亡ドッキリですよ!」
プ「え、そんなことするんですか!」
ア「当然ですよ! 業界に入ったらもっとえげつないドッキリとかもあるんですから!」
プ「……そうなんですか?」
ア「そういうもんです!」
プ「……出来れば断りたいんですが」
ア「良いんですか? そういう事をいうと単位を出しませんよ?」
プ「分かりました、やらせていただきます!」
男は勢いで流された感覚を持ちながらも、その提案を了承せざるを得なかった。
男とて大学生、単位を失えば確実に留年してしまう。それを盾に交渉をされてしまえば、首を縦に振らざるを得ないのだ。
プ(別室で待機しとけっていわれたから、待機してるけど、凄い設備だな)
男の目の前には一つのモニターがあった。
そこにはいつも使用している、活動教室の様子が映し出されている。
こ「ふんふんふーん、プロデューサーまだかな」
既に部屋の中では藤田ことねがソファーに寝っ転がって、流行の雑誌に目を通していた。
プ「藤田さんはいつも通りですね」
男は安心していた。
プ「ええ、何ですかあれ!」
しかし男はモニターに映った映像を見て、取り乱してしまった。何故なら……
プ「どうして、私があそこにいるんですか」
そう、自分と瓜二つの姿をした男であった。
ア「ふふ、驚いているようですね。プロデューサー君。これは、こんなこともあろうかと開発したクローンほろぐらむです」
[……いや、そうだったな。ホログラムだったな。クローン出してもいいけどそれだとクローン死ぬしな、ホログラムならとりあえず人は死ななくてすむし、そっちにしとこう]
プ「そんなものが……」
ア「ええ、しの……少し優秀な方に作ってもらうことでできた、最新技術です」
篠澤「わたしが作りました(Vサイン)」
プ「ん? 今何か?」
ア「気のせいですよ、気のせい。それより映像の方です、ほら何か動きがあるみたいですよ」
映像の方に目をやると、映像の中のプロデューサーはなにやら懐から取り出した。
プ「すみません、藤田さん。私の力不足でした」
こ「え、ぷ、プロデューサーそれ、なんですか」
プ「……」
こ「ねえ、答えてくださいよ!」
男は答えない。しかし、その手に持っているものが拳銃であることは藤田ことねの目からも明らかであった。
プ「すみません、私にはこうするしか」
その謝罪の刹那、銃声が響き渡った。
それと同時に広がる血、ピシャリと頬へと飛んできた血がこれが現実であることを藤田ことねに否が応でも突き付けた。
こ「うそ、うそですよね。プロデューサー」
藤田ことねはプロデューサーの体を抱きしめるが、その体は冷たく、藤田ことねが好きだった暖かい体温は何処にも感じられなかった。
そしてそれは、あの好きだった彼の笑顔をもう一度見れない事を意味していた。
こ「プロデューサー! 起きてくださいよ! こんなの嫌です! なんで、こんなことになってるんですか! 嫌、誰か! 助けて!」
少女の慟哭が木霊する。
プ「は、はーい。その生きてます」
ただそんな中、空気を読まずにプロデューサーが部屋に入ってきた。
こ「え、プロデューサー?……な、なんでいるんですか、これは?」
そう言った瞬間、藤田琴音が抱きしめていたプロデューサーの体が消えていく。そう、その死体はホログラムによって作られた偽物であったのだ。
プ「ど、ドッキリ大成功」テッテレー
お決まりの音楽と共に、これがドッキリだったという事が告げられる。
こ「どど、ドッキリ! 今のがですか! 悪質すぎますよ、いくら何でも!」
プ「それは……すみません」
こ「絶対に許しません!」
プ「そこをなんとか!」
こ「絶対ゆるしません。けど、そうですね、今週の土曜日、遊園地に一緒に行って、その帰りに謝られたらもしかしたら許しちゃうかもです」
プ「分かりました、遊園地ですね」
男はすぐに、遊園地の予約をした。
それによりただでさえ薄かった財布が更に薄くなってしまうのだが、担当アイドルの機嫌を考えれば安いものである。
こうして、プロデューサーと藤田ことねは週末遊園地デートに行きましたとさ。
いっぽうそのころ
ア「ふふ、あとはこの映像をネットで売れば」
十王星南(以下十)「ちょっと待ちなさい! 私のことねにあんなことをして許すわけないじゃない」
ア「げ、十王さん、これはそういうのではなくてですね」
十「言い訳無用! このことは学園長に報告させてもらうわ」
ア「そ、そんなー!」
十「この映像は私が預からせてもらうわ、ふふふことねのドッキリ映像。想像するだけでよだれが出るわね」
ア「とほほ、もうドッキリはこりごりだよ」
[うんうん、今回のは我ながらかなりいい出来ではないか? やっぱりアイドルっていえばドッキリ、その中でも人気あるのは死亡ドッキリとかだよな。現実のテレビだとあんまりみないけど、創作なら鉄板ならやらない理由はない。ちょっと、曇らせとしては弱い話だけど、まあ次の展開的に今回は箸休めぐらいの話にしておいたほうがいいよな。それにしても最後のほうのコメディーは結構うまく書けてるし、これは絶対面白いって!]
ドッキリのネタバラシが終わり、藤田さんがアルバイトに向かってしまったため一人になった部屋で、とりあえず今回の事を凌げたことにホッと一息つく。
今回の件は文章によって行動が捻じ曲げられたものだろう。
ホログラムやクローンなどの現代ではありえない技術がその最たる根拠だ。
死亡ドッキリ。自分が認識している文章によって捻じ曲げられたものとしては、今まで一番意味は分からない事件であったがそれでも分かったことは多い。
まず一つ目として、以前した考察の史実説は完全に今回の件で否定されたということだ。
もしこれが史実説が正しければ、初星学園は近くに母親が亡くなったアイドルに対して誰かが死ぬというドッキリを仕掛けるという人の心を何処かに置き忘れてしまったとしか思えない組織という事になる。そんなことはありえないことぐらい自分だって理解出来る。
二つ目はこの文章を書いている神様はおそらくあまり賢くないということだ。
ただの学生のドッキリの映像をネット売って大金持ちになろうとしているところから薄々怪しんでいたが、文章でホログラムを抱きしめた所でその疑惑が確信に変わった。ホログラムというのは通常、ただの映像だ。だから、触ることも出来ないはずなのだが、この文章の中ではその映像を藤田さんが抱きしめている事となっている。
ホログラムになった僕が拳銃で自身を撃ったのはこの世界だとどう見えていたんだろうか?
僕が見たのはクローンとして作られた自分が拳銃で自身を撃っていた所だ。それを視認してからホログラムに書き換えたため直接ホログラムが自身を撃っていたシーンは見ていない。
しかしだからといって、あの悪趣味なドッキリについて掘り返して誰かに訊くという度胸は無かったし、自分としてもあの時の事は余り思い出したくない。
……そして三つ目、これが一番重要だ。
この神様には人間の倫理観が通用しないということだ。
死亡ドッキリだなんて馬鹿げたものの為に、わざわざクローンとはいえ命を作り出し、その命を簡単に処理してしまう。
真っ当な倫理観があればそんなものを書くことはないだろう。
事実、目の前で死んだ自分が本当はクローンであると知った際の藤田さんの様子は見ていられなかった。
それはそうだろう。彼女にとってみれば目の前で人が死んだ、その事実には全く変わりがないのだから。ドッキリと言ったところでクローンが生き返るわけではない。
自分だって、クローンが死なない方向に変えられる可能性があると分かっていなければ同じような反応をしていただろう。
「……どうなるんだろうな、これから」
文章によって、この世界はどうとでも転がる可能性がある。
だというのに、その文章を書いている神様がまともでないとするなら……。
ザーザーと強い雨の音が聞こえてくる。
窓の外を見てみれば、真っ黒で分厚い雲が空を覆い尽くしていた。
天気予報では今日は晴れだと言っていたはずなのに。
「藤田さんは傘を持っているんだろうか?」