文章を書いている神様がまともでない、それならばこの先どんな展開だってありえる。
どんな展開になったとしても、藤田さんだけは幸せにしてみせる。
そんな覚悟を持ちながらあの死亡ドッキリの後を過ごしていたのだが、想像に反して平凡な日々が過ぎていった。
むしろ自分達にとって好ましい事しか起こっていないと言ってもいい。
その最たる例として、藤田さんのお母さんの入院の予定が短くなり先日退院をしたことが挙げられる。最初の見立てよりも快調に回復をしていったらしい。
まだ本調子とはいかないようだが仕事にも復帰し、わずかではあるものの藤田さんのスケジュールにもゆとりが出来るようになった。
もちろん自分としても、この何もない期間を有効利用しない手はない。
藤田さんのプロデュース計画を練るのはもちろんとして、神様への対策を進めるべく動いていた。
まず最初に思いついたのが、自分が藤田さんに貸すことの出来る金銭を持っておくことだ。
前回の死亡ドッキリは例外として、それ以前の神様によって起こされたであろう出来事は彼女から金銭を失わせる、あるいは金銭が無いことによって引き起こされるものだった。
それならその問題の種を解決するには藤田さんが多額の金銭を得る、というのがもちろん理想ではあるのだが、おそらくそれは神様によって邪魔される可能性が高いと踏んでいる。さらに言えば、その方法についても真っ当な方法では心当たりがない。
藤田さんが稼ぐのが不意可能なのであれば、他の企業などを介さず自分が藤田さんに貸すことが出来るのなら最悪は回避できるのではないかという考えだ。
藤田さんの性格からして、簡単に金銭を受け取ってくれるとは思えないが、それでもそれができるのとそれができないとはでは非常に大きな差がある。
とはいうものの、金銭を短期間で大量に稼ぐことが難しいというのは前述した通りである。
ただ自分には稼ぐための方法に心当たりがあった。
まず最初に思いついたのは宝くじだった。
藤田さんに宝くじが外れた話を雑談として話をした。
この外れた部分が文章に書かれていれば、改変して宝くじを当てることが出来る。そう考えたのだ。
結果だけ言えば、この試みは失敗に終わった。
書き換えることが出来るだとか、それ以前の問題で宝くじの雑談の部分が文章からはカットされていた。そもそもこの文章、会話文に関してはかなり現実とはかけ離れた会話が繰り広げられているため、そういうこともあるかと割り切るしかない。
それなら出来るだけ文章に乗りやすくするにはどうすればいいのだろうか?
そう考えた結果一つの結論が出た。
「藤田さん、今お時間よろしいでしょうか?」
レッスン終わり、近況報告に足を運んでくれた藤田さんに声を掛ける。
「もしかして、新しいお仕事の話だったりしますぅ?」
「半分正解です」
「半分?」
「はい。まだ企画の段階にはなっているのですが、その前に一度やっておきたいことがありまして」
先日作っておいた資料を手渡す。
その資料に藤田さんは目を通すが、その目がキラキラとしたものから、若干曇っていったのが分かる。
「プロデューサー、このお仕事本当にあたしがやるんですか?」
「ええ、そのつもりですが、何か問題でも?」
「問題って言うか、高校生が競馬場での仕事って不味くないですかぁ?」
不信感を隠そうともせずに、藤田さんはこちらに尋ねる。
まあ彼女なら、こういった反応をしてくるのは想定通りだ。ギャンブルなどの行為を余り好ましく思っていないことぐらい、文章を読んでいなくても少し彼女と接していれば分かることだ。
「昔の競馬場であれば、そうかもしれません。しかし現在では競馬を元にした作品の売り出しや、競馬場事態にクリーンなイメージを持ってもらうための施策として小さい子供に対するヒーローショーなどを行っています。家族で遊ぶことの出来るテーマパーク、そのような印象を強める為ですね。今回はその一環として、アイドル候補生がライブするという話が、向こう側の話に上がったそうです」
「でも、それならちゃんとしたアイドルを使った方が良くないですか?」
どうにか、仕事をしない理由を探そうと必死であるらしい。
「確かにそれは一理あります。ですが、今回の仕事はクリーンなイメージを持っている人物が行う事に意味があるんです。そこに学生でアイドル候補生という身分を聞いて想像するものが向こう側の行いたい事と上手くかみ合ったという事なんでしょう」
「そういうもんなんですかぁ?」
「ええ、そういうものなんです」
事前に考えて置いた理由を説明してみたものの、あまり納得していないというのがありありと見て取れる。
……仕方ない、この手は余り使いたくなかったが。
「実は今回の仕事、大体ギャラがこれぐらいになります」
「ええ! 本当にこんなに貰えるんですか?」
「はい。そもそもが大きなところからの仕事というのもありますが、高校生の身で競馬場でのイベントに参加するそれによって色眼鏡で見てくる人もいるでしょう。これはそういったリスクも踏まえての金額ということなんでしょう」
「はぁ~い! 受けまぁ~~す! よくよく考えたら、競馬場でもやることはライブですもんね! 仕事は仕事ですし、ちゃーんとやりますよ!」
再び目をキラキラと輝かせて、藤田さんは言う。
……彼女の境遇に漬け込むような形になってしまったことに良心が痛むのを感じたが、これ以外良い方法が思いつかなかったのだから仕方ない。
藤田さんがほくほく顔で先の予定を考えているところを見ながら、自分のことながら上手く話を進められたことに自画自賛していた。
藤田さんに説明をした競馬場での仕事、そんなものは存在していない。
それならなぜこの話をしたのかといえば、文章に乗せる為だ。
この文章は基本的に藤田さんの事が書かれている。
それなら次の仕事のきっかけだという話にすれば、会話が文章になる可能性は非常に高い。
そしてそのうえで……
「この仕事はかなり大きな仕事になる可能性があります、一度仕事先を見学しに行きませんか?」
彼女を競馬場に連れて行けば、競馬場関連の話が文章に乗るのは確実だろう。
「え、競馬場に行くんですか?」
最初はそういってウンウンと悩んでいた藤田さんだったが、根気強い説得の結果なんとか首を縦に振ってもらう事に成功した。
「うわ~、すごい迫力」
目の前で馬達が走っている様子を見ながら、藤田さんは感想を口にする。
「……けど、見学っていうなら、こんな変装する必要あったんですぅ?」
まだ藤田さんはアイドルとして余り売れていないため大丈夫だとは思うが、もしもの事が無いように、今日の藤田さんは黒のウィッグを被ってサングラスにマスクを着けてもらっている。
「念には念をです。まだ企画の段階ですし、結局形にならなかった場合藤田さんに変なイメージが付く可能性がありますから」
「はぁい」
あまり納得はしていないようだ。
「なら次は自分が一回馬券を買ってみましょうか、とりあえず千円ほど」
この話を深堀されるとボロが出てしまうのは自分が良く分かっていたので、話を本題に移す。
「買う必要ありますぅ?」
「ええ、この場所を利用している人たちの気持ちを理解するためには必要かと思います」
「そんなもんなんですねぇ~」
少々説明としては厳しいと思っていたが、何とか納得してもらえたらしい。
いや、納得してくれなかったら、書き換えるつもりではあったのだけど。
「自分は一応二十歳です。購入には問題ありませんし、一度経験しておくべきでしょう」
事前の準備としては完璧だ。
自分も本来はまだ年齢的に馬券を買うことは出来なかったのだが、先日年齢についての話をした際に自分の年齢を二十歳に変更したおかげで馬券の購入も可能となっている。
ただこの学園のプロデューサー科の一年であるという事は変わっていない為、おそらく自分は高校で留年あるいは浪人しているのだろう。自分には全くその実感はないけども。その際に生年月日が変わった都合上、通っていた学年が変わってしまったらしく、高校の頃の友人の連絡先が自分の良く知らない人物に変わってしまった。
ただそれも藤田さんの事を考えるならこの程度なんてことはないと割り切る事にした。
「馬券の買い方も色々あるんですね」
単勝や複勝、ワイドや馬連などこういったギャンブルをしてこなかった自分にはいまいちピンとこない言葉達が並んでいるが購入するのは決まっていた。
「……とりあえず、この三連単というのを購入してみましょうか」
三連単、これが一番配当が高くなりやすいという事はインターネットで調べて知っていた。
「プロデューサーは、どの馬に賭けたんですか?」
「良く分からないので、この5-10-1の三連単というのを買ってみました」
とりあえず人気が低かった馬の番号を順番に購入しておく。
人気がないという事は当たった時配当が高い……はずだ。
「なんです? その三連単っていうのは?」
「どうやら一位、二位、三位なる馬の馬番号を着順通り当てることが出来ると的中となるそうです」
「なんだかすっごく当たりにくそうですね」
自分の場合、当たりやすさは気にしなくていい。
文章にさえなってしまえば、馬券を買ってさえいればその馬券の番号を変更することだってできるし、外れた事さえ文章になってくれれば外れたをあたったに変更してしまえばいいだけだ。
購入して、レースを見るためにスタンド前に戻ると、文章が新しく追加されているのを確認した。
[プロデューサーは馬券を買った。どうやら、競馬場の雰囲気を知るためには必要な事らしい。
もしかしてプロデューサーが遊びたかっただけなのではないかと、藤田ことねは怪しんだが、それを口には出さなかった]
……多少藤田さんに不信感を持たれているようではあるが、心の中でガッツポーズを作る。
こうして馬券を買ったことが書かれた以上、馬券が当たったか外れたかについても触れられると考えるのが自然だ。
ひとまず、上手くいったと考えていいだろう。
「ああ、外れましたね」
当然のようにレース結果は予想したものと違っていたが、これは想定の内だ。
「どうです、競馬場に来る人の気持ち、分かりました?」
「そうですね。ほんの少しだけ分かったような気もします」
そんな会話をした後、競馬場のレース場以外の場所を見て回ってからその日は解散となった。
一人になってから文章を見直す。
[プ「外れた!」
こ「もうプロデューサー、こんなのにお金を使ってちゃだめですよ! どうせつかうなら私に使ってください!」]
やっぱり会話文は適当なんだなと考えつつ、文章を改変する。
[プ「外れたあたった!」
こ「ええ!当たったんですか! なら焼肉行きましょう焼肉、もちろんプロデューサーの奢りで!」
プ「焼き肉を奢れる程は勝ててませんよ」
こ「ええ……そんなー」]
馬券が当たった事にはなったようだが、その後の会話文が気になる。
あの馬券が当たった事になっていれば、相当な金額になったはずなのだが。
そう不審に思いながら、自分の財布を見てみれば競馬場に行った時よりも千百円増えているという結果になっていた。
どういうことなのか考えながら、文章の方を読み直してみる。
「……ああ、なるほど」
そうすると、すぐに原因が分かった。
文章の方には三連単を買ったという記載はなかった、おそらく三連単ではなく別の配当が低い買い方をしてそれが当たったという風に改変されたのだろう。
「うまく行かないもんだな……」
一度失敗してしまった以上、もう一度同じような方法で競馬場に誘うのは難しいだろう。他の賭け事に対してもそれは同じだ。
ようやくこの文章を利用する方法が思いついたと思っていたのだが、そう簡単に話は進んでくれないらしい。