遥か四キロメートルから離れた先から狙撃を行うエミヤシロウ。
「まずいな…」
――後手に回りすぎている。
亜人による聖王国の襲撃。
ヤルダバオトがいた一度目とは違い、今回は奴の気配はない。
とはいえ、聖王国は疲弊している。
兵士の数も城壁の修復も未だ万全ではない。
それ故に聖王カルカが打って出たのだ。
今、戦力は近くの都市で集められている。
レメディオスもケラルトもそれに異存はなかった。
念のため投影した宝具を彼女らに渡したとはいえ、少々不安が残る。
魔力は無限ではない。マスターがいなくとも魔力を回復できる不思議な状態とはいえ、どのみち一戦闘で使える魔力は宝具の真名解放数回分だ。
後手に回る以上、相手が一枚上手なのは確かなのだ。
令呪の命令であれば、この大群をなんとかできたのであろうか。
――否、今それに逃げる必要はない。
エミヤシロウに任せられたのは確固たる勝利とマスターである聖王カルカの無事。
矢を番え、射る。
およそ五秒。
込められた魔力、魔剣が亜人に光の礫となって降り注ぐ。
「亜人と、いったか。貴様らがどのような思いで、この戦いに身を投じるのかは知らんが、ここは決して通しはせんぞ。」
赤い弓兵が津波が如く軋めく亜人の前に立つ。
どれだけ数がいようと、この世界の法則に立つモノである以上、サーヴァントであるエミヤシロウにかなわない。
文字通りレベルが低いのだ。
英雄級と呼ばれるそれでも、エミヤシロウに傷をつけるに至らない。
強力なアイテムを持たないならば尚のこと。
赤い軌跡は波の勢いをはねのけるが如く掃討する。
その実力に亜人共は戦意を失うであろう。
それでも、――。
それでも、逃げようとするモノは一人もいない。
「――ッ!」
エミヤシロウの眼は確実にそれを捉えていた。
この世界にてエミヤシロウは様々なことを調べた。
その中には異形種と呼ばれるものもあった。
悪魔だ。
種族にして悪魔と呼ばれるモノたちが亜人の群れに紛れている。
エミヤシロウは辺りを見渡す。
それでもヤルダバオトらしき姿はない。
気配遮断と似たような芸当が出来るかもしれない以上、確実にいないと判断するのは愚策であろうが、エミヤシロウにはこの群れを止めながらかの大悪魔とやりあうほどの実力はない。
エミヤシロウが群れを掃討しなければ、聖王カルカを含め控えているモノが死ぬ。
そんな状況でエミヤシロウはただ、一つ息を吐く。
長い、長い一呼吸だった。
剣が、赤い軌跡が、何度でも、何度でも、降り注ぐ。
亜人共はそれに屈しない。
否、屈せない。
彼らにも生きたいという願いのあるのだ。
ここで引いても死んでしまうというのなら、それなら名誉のある死を選ぶ。
赤き弓兵はそれを知ってか知らずか何人たりとも通しはしない。
弓を持つ手が自然と強まっていく。
だが、止めることはない。
およそ六秒。
弦をより強く念入りに引いていく。
着弾とともに炸裂する矢は、亜人を粉にしていく。
「…ようやく、お出ましか。」
そこで、そこでようやく、ヤルダバオトが現れた。
不気味な仮面。
妙に整ったスーツ。
悪魔であることを証明する尾と羽。
先の戦いで敗北を決したはずの傷は一つもない。
「お久しぶりですね、アーチャー。ところで、一つお聞きしたいのですが。」
「なんだ?」
エミヤシロウはヤルダバオトを睨む。
決して警戒を怠ることはない。
「あなたは何故、弱き者たちを救おうとするのです?」
「さあ、な。あいにくと貴様のような外道に話すことなどないが…そうだな。それが、私の目指す形だからだ。」
ヤルダバオトの目が僅かに細められる。
「それで、二度目も同じように突撃か。芸がなってないな。ヤルダバオトよ。あれでは、味方を無駄死にさせるだけだろう。」
「…無駄死にも何もありません。彼らは我々のために死ぬ。それこそが最大の名誉であることをご理解いただきたい。」
「恐怖で縛った関係で死が名誉とはな。」
エミヤシロウの手には干将・莫邪が握られる。
弓はすでに捨て、白兵戦へと躍り出る。
ヤルダバオトにとって、それは理解しがたいことである。
弓ならば、弓に。双剣を使うのであれば、双剣に。
一つに特化した方が強いからである。
ましてや至高の方々などと同じではなかろうに。
そんな思いを持って。
だからこそ、一度目は油断した。
主であるアインズ様にも注意をされた。
同僚の失態をぬぐうため、至高の御方へ献上するものを用意する。
それを邪魔されたのだ。
一度ならともかく、エミヤシロウという男は聖王国に属してまで邪魔をする。
全ては御方ために、障害となるモノは取り除かなければならない。
鋭利な爪がエミヤシロウに向けられる。
相対する姿は正しく神話の世界か。
奇しくも、答えを得た英雄には不釣り合いな場面であった。
◇
肉が焼ける。
剣で防いでいても熱は防げない。
一度目に戦ったヤルダバオトとは違う。
巨大な体躯に炎を帯びた拳と翼。
先ほどまで話していたヤルダバオトとは個体が違うような重い声。
空手と剣。
得物はいくら壊れても手に現れる。
「
炎の魔法がエミヤシロウに襲い掛かる。
――投影、開始。
一つ、二つ、三つ。
剣がヤルダバオトの元へと向かっていく。
ヤルダバオトの炎とぶつかり合い、幻想のように炸裂した。
エミヤシロウは後ろに下がる。
弓を番え、おもむろに魔力を込める。
「
エミヤシロウによってそれは放たれる。
「
あたりが爆風で埋もれる。
それでも、エミヤシロウは弓を持ったままだった。
この戦闘で、かなりの数の亜人が街で籠城するカルカたちに近づいている。
もし、ここで急いでヤルダバオト決着をつけようとすれば、それこそ敗北を喫する可能性がある。
エミヤシロウは薄々は気づいていた。
――見られている。
なら、これ以上こちらの手札を見せるのはあまり良い手ではない。
かといって、一瞬で勝負を決めることができるかと問われれば厳しいと言わざるおえない。
だから、エミヤシロウは一度マスターであるカルカの元へ戻る決断をした。
「ではな。ヤルダバオト、貴様との決着はまた少し先になるようだ。女王が呼んでいるのでな。」
そういって、エミヤシロウは主の元へと走り出した。
◇
「無事、のようだな。」
それは契約を交わした人の男の声だった。
ただ一人、前線で
アーチャー。
わたしのため、国のために動く彼がわたしの脳から離れない。
…いや、離さなければならない。
ここは戦場だ。
新兵だって、そんなことは考えないはずなのに。
パチンと頬を叩きアーチャーを見る。
「どうでしたか、アーチャー。」
「些か、良好とはいえんな。数も多い。ヤルダバオトの姿もあった。」
その言葉に少なくない数の動揺の声が走る。
「…アーチャー、どうです?我々が勝つ見込みはありますか?」
わたしはいつになく真剣な目でアーチャーを見る。
「率直に言うと、無理だろうな。」
「――――!」
あまりに率直な言った彼に思わずわたしは言葉を失った。
同時に嘆きの声が聞こえる。
今、ここで兵士たちの士気が落ちるのはよくない。
だから、その言葉をフォローしようと「だが。」
アーチャーはどこからともなく現れた弓を持って言った。
「それは私がいなければの話だ。」
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後書き的なヤツ
短くてすいません。…そして、お久しぶりです。とはいえ、2話から3話ほどの間は空いてませんが。納得できる話が作れず時間が過ぎていくばかりです。プロットも何度も練り直ししてなので時間がかかっております。