ももの血脈   作:marre

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第10話 羅刹の記憶

授業中。

『カノン、私もお魚パタパタってできるのか?』

「どうかなー?」

『カノンやタケルみたく光線はだせるのか?』

「どうだろねー?」

『空は飛べるのか?』

昨夜の実験以降ラーちゃんがうるさい。朝からずぅーっと。

でもまあ、自由に動けるのは嬉しいよね。

ラーちゃんは、自分が外に出ても私に負担がかからないことが一番うれしいみたい。

私もラーちゃんと肩を並べて戦えるのはすごく嬉しい。(気の循環?)が出来るようになって、ラーちゃんとの絆みたいなものを、さらに強く感じるようになった。

『カノン、次は何ができるか試してみるぞ。』

「放課後ね、ラーちゃん」

 

昼休み、カノンとタケルは学校の屋上にいた。太陽が高く昇り、空は青く澄み渡っていて、風は少しだけ温かみを帯びていた。屋上のフェンス越しに見える街並みは、少しずつ夏の気配を感じさせる。周囲の木々は新緑で生い茂り、風がその葉を揺らしては涼やかな音を立てていた。

そのとき、誠道と慧明が屋上にやってきた。

「こんにちは、二人とも。体調は大丈夫ですか?」と誠道が声をかける。

カノンとタケルはお互いに顔を見合わせてから、微笑んで答えた。

「はい、全く問題ありません。」

「よかった。それは何よりです。」誠道は安心したように頷いた。

続いて慧明が少しだけ表情を和らげながら尋ねる。「羅刹殿はどうですか?」

カノンは肩をすくめながら言う。「ラーちゃんは、昨日の出来事がとても楽しかったみたいで、今朝からずっとテンション高めですね。」

その言葉を受けて、ふと背後で、まるで心の中で呟くような声が響いた。

『そんなことはない。』

その声を聞いたカノンは、少しだけ照れくさそうに目を伏せ、言葉を続ける。

「まぁ、ラーちゃんは少し興奮してるだけですけどね。」カノンはにっこりと笑って話を戻す。

『それよりカノン、慧明の剣のことをもっと詳しく聞きたい。』

その言葉にカノンは頷きながら、慧明に向かって振り返った。

「慧明さん、ラーちゃんが剣のことをもっと知りたいって。」

慧明は少し驚いたようにカノンを見つめたが、すぐにその質問に応じる準備を整えるように姿勢を正す。

「倶利伽羅剣のことですか。確かに、あの剣にはいろいろと話すことがあるんです。どうしても気になるんですか?」

カノンはうなずくとともに、視線を空へと向ける。「はい、詳しく聞かせてください。」

慧明は少し目を細めて、少し考えるように言葉を選んだ。彼の表情には、少し神妙な面持ちが浮かんでいる。

「大日如来の化身である不動明王が右手に持つ剣、あれは単なる武器ではなく、神聖な力を宿したものです。」

彼は少し手を動かして、空を指し示すような仕草をした。

「不動明王は、仏教における護法神で、邪悪を退ける力を持っていて、煩悩を打ち砕く力があるとされています。その剣、倶利伽羅剣は、まさにその力を具現化したものだと言われています。」

「倶利伽羅龍王が刀身に巻き付き、燃え盛る炎となり、貪瞋痴の三毒を破る智慧の利剣。」

慧明はしばらく黙って、目を閉じたようにして思いを馳せる。その瞳が少し深く、何かを見つめるような表情に変わる。「倶利伽羅剣を振るう者は、心が静かでなければならない。不動明王の力を借りるためには、自らの心も不動で、どんな誘惑にも惑わされない強さが求められるのです。」

彼は再び目を開け、今度はカノンとタケルを見つめながら、真剣な眼差しを向けた。「そして、倶利伽羅剣にはもう一つ、重要な特徴があります。それは、剣を使う者が覚悟を決めているときにのみ、その力が本領を発揮するということ。単なる戦闘のために使っても、その力は十分に引き出せません。心が不動であればこそ、剣はその真価を発揮する。」

慧明は一呼吸おいて、軽く息を吐きながら言った。「私も、あの剣を持ってから、まだ完全にその力を使いこなせているわけではありません。毎回、心を試されるような気がします。でも、倶利伽羅剣を使うことで、少しずつ自分の内面を見つめ直すことができるのです。」

「それが…」カノンは少し感心したように言葉を漏らし、慧明を見つめた。「剣に宿る力が、使う者に試練を与えるってわけですね。」

「はい。」慧明は静かに頷きながら、視線を遠くに向けた。「倶利伽羅剣は、ただの武器ではない。使い手の心の強さを映し出す鏡のようなものだと思います。」

『なるほどな。』羅刹がささやく。

「ラーちゃんおっけー?」

『あぁ、これで納得がいった。』

その後、誠道は静かに口を開いた。その声には、これまでにない重みが含まれていた。

「実は、報告があって参りました、空羅道が開かれたのは一か所だけではないことは分かっていました。」

彼は短い間を置き、全員の反応を見てから、続けた。

「いくつかの異なる場所で、それぞれ異なるタイミングで開かれている。そして、予測できない形で。」

その言葉に、カノンとタケルは驚きの表情を浮かべ、互いに顔を見合わせた。慧明は眉をひそめ、真剣な表情で誠道を見つめている。

誠道はゆっくりとした口調で話を続けた。

「先日、チベット密教、ラマ教の高僧が、魔力探知に成功しました。」

「魔物が次に湧き出る場所や、その日時を予測できるようになったのです。」

カノンは目を見開き、驚きの声を上げた。「それって…すごいことですね。」

「えぇ。」誠道は頷きながら、さらに言葉を続けた。

「で、昨夜、とてつもなく強大な魔力が突然探知されました。それが…羅刹殿のものだと分かりました。」

その言葉に、一瞬、空気が凍りついた。皆が息を呑む中、カノンが口を開いた。

「どういうことですか?ラーちゃんは?」

その時、何かの気配が背後から響いたように感じられ、静かな声が答えた。

『私が魔族だということだな。』

カノンはその声を聞き、思わず顔を強張らせた。「え…?鬼じゃないの?」

『古来から日本で鬼と呼ばれるものは魔族、魔界から来た者なのかもしれんな。』

『確証はない、私には桃太郎と戦う以前の記憶がない。』

その言葉に、カノンとタケルは言葉を失った。

「それじゃ…」タケルがようやく口を開く。「ラーちゃんも…?」

『カノン、慧明の剣、不動明王の倶利伽羅剣は、実は…桃太郎が私にとどめを刺した剣だ。』

その言葉に、再び空気が一変した。全員が驚愕の表情を浮かべた。

『私はその際に、邪悪な気や煩悩を祓われたのやもしれん。』

その一言に、カノンの心は重く沈んだ。もしそれが本当だとしたら、ラーちゃんの過去とは一体何だったのか。

カノンの胸に重くのしかかる言葉が続く。ラーちゃんの過去が謎のまま、そして今、すべての謎が少しずつ明らかになり始めた。魔族、そして桃太郎との関わり。カノンは自分の心が乱れるのを感じながらも、何とか言葉を絞り出す。

「それじゃ、ラーちゃんは…もしかして、ずっと知らずに…?」

『そうだ。お前には悪いと思っているが、過去を知ることができない。私にはそれ以前の記憶がないのだ。』ラーちゃんの声が心の中で響き、少し寂しげな響きを帯びていた。

カノンはその言葉に胸が締めつけられるような気持ちになったが、すぐに顔を上げて誠道の方を見る。

「それで、次の魔物の出現場所は分かったんですか?」

誠道は再び真剣な表情でカノンに答える。「次に魔物が湧き出る場所は、芝公園の増上寺です。今まで感じたことのないほど強力な魔力が感知されています。今夜発生するはずです。」

その言葉に、カノンとタケルは同時に息を呑んだ。慧明も眉をひそめ、状況の重大さを感じ取ったようだ。

「今夜、ですか?」カノンの声が少し震えていた。

「はい。」誠道は頷き、手を組んだまま話を続けた。「そして、その魔力は、これまでのものとは比べ物にならないほど強大です。おそらく、今回の出現はただの魔物の群れではない。何か、これまでにない規模で迫ってきているのだと予測しています。」

タケルが口を開く。「このまま放っておくわけにはいかないですよね?」

「えぇ。」慧明が厳しい表情で言った。「我々がすぐに対処しなければなりません。」

カノンは一度目を閉じて、深呼吸をした。今夜、増上寺で起きること。その強大な魔力がもたらすものが何かを考えると、胸の中で不安が膨れ上がった。

『カノン、心を落ち着けろ。私もお前と共に戦う。』ラーちゃんの声が優しく響く。

「分かってる。ラーちゃん。」カノンは力強く答え、誠道を見つめた。「今夜、必ず行きます。」

誠道も静かに頷く。「よし、準備を整えよう。皆さん、気をつけて。」

その後、しばらくの間、屋上は静寂に包まれた。空はますます青さを深め、風が心地よく吹き抜けていく。カノンは心の中で、今夜起こるであろう出来事に備え、決意を固めた。そして、ラーちゃんとの絆を再確認し、魔力の渦に立ち向かう準備を始めた。

「行こう、タケル君。私たち、準備をしないと。」

「うん、もう時間がない。急ごう!」

4人は屋上を後にし、それぞれの戦いの準備を始めるのだった。

 

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