ももの血脈   作:marre

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第13話 決戦の刻―炎の試練

決戦前夜、タケル、誠道、慧明は橘家に招かれていた。カノンの母が振る舞う唐揚げパーティーだ。

テーブルには揚げたての唐揚げが山盛りになっている。香ばしい匂いが部屋中に広がり、食欲をそそる。

「うわー! すごくいい匂い!」

タケルが目を輝かせる。

「花蓮さんの唐揚げ、相変わらず最高ですね!」

慧明が感嘆すると、誠道も頷きながら唐揚げを口に運んだ。

「うん、やっぱりうまい! これは店を開けるレベルですよ!」

2人が久しぶりに会うカノンの母、花蓮と会話を弾ませる。彼らがすっかり成長し、精悍な顔立ちになっていることを見て、母は目を細めた。

「2人とも立派になったわねぇ。小さい頃は修業が辛くて泣いてばっかりだったのに、もうこんなに……」

カノンの母は懐かしそうに微笑んだ。

一方で、タケルは黙々と唐揚げを頬張り続けている。

「……タケル君、本当に美味しい?」

母が少し不安げに尋ねると、タケルは顔を上げ、力強く頷いた。

「はいほうでふっ、めちゃくちゃ美味しいです! おばさんの唐揚げは世界一ですよ!」

その言葉に母は笑いながら「それは嬉しいわ」と答えた。

そして、少し表情を曇らせる。

「……本当はね、カノンにこんな大役を押し付けるなんて、母親としては情けないの。でも、あの子は私の背中を押してくれた。自分がやるべきことだって言って……」

誠道と慧明は真剣な表情で聞いていた。

「私は母として、ただあの子を守ってあげたかった。でも、もう止めることはできないわ。だから、お願い……」

母はゆっくりと顔を上げ、仲間である彼らを見つめた。

「どうか、娘をよろしくお願いします。」

誠道と慧明は深く頷く。タケルも手を止め、真剣な眼差しを向けた。

「僕たちが、絶対にカノンさんを守ります。」

母は微笑み、そっと彼らの手を握った。

母はカノンに向き直ると、優しく微笑みながらその手をぎゅっと握った。

「行ってらっしゃい。」

カノンは涙をこらえながら大きくうなずく。

「うん、行ってきます!みんながいれば大丈夫だから。だから、心配しないで!」

その言葉とは裏腹に、胸が締めつけられるような不安があった。

『……』

父は新聞を広げたまま、顔を隠している。しかし、震える肩がすべてを物語っていた。

母はふと視線を上げ、カノンを見つめる。その瞳には、母としての強さと、娘を託す決意が宿っていた。

「羅刹さん……複雑なこともあると思うけれど、どうかカノンを……娘をお願いします。」

その瞬間、父が新聞を投げ出し、こらえきれずに涙を流した。

「どうかっ、お願いします!」

泣きながら深く頭を下げる姿に、カノンの目にも涙が溢れる。

『…必ず!この身を挺してでも、カノンを必ず守り抜く!』

その言葉に、カノンは震える声で微笑んだ。

「……ラーちゃんが、必ず守ってくれるって。」

両親が羅刹のことを知っていることに少し驚いたが、仙太郎おじいちゃんから聞いていたのだろうとすぐに納得した。

母はそっと涙を拭い、明るく笑顔を作る。

「ごめんなさいね。さあ、食べましょう。」

そう言って、母は追加の唐揚げを揚げに行く。

やっと涙が引いた父が、一口大きく唐揚げを頬張ると、そのおいしさにまた涙がこぼれた。そんな父を見て、カノンたちも、つられるように笑いながら唐揚げを口に運ぶ。

家族の温もりをかみしめながら、カノンは心に誓った。

――必ず、無事に帰ってくる、と。

 

そして、決戦の日がついに訪れた。

再び、芝公園に集結した仲間たち。夜の静寂に包まれた大殿本堂への石段を上ると、右には東京タワーが冷徹にそびえ、左には空羅道の裂け目が広がり、その奥からは暗闇の中で何かがうごめいている気配さえ感じる。踏みしめる足音が響き、全身が緊張に包まれる。

一歩一歩、石段を上るたびに、重く冷たい空気が胸を圧迫していく。仲間たちの表情も険しく、誰もが言葉を交わすことなく、ただ黙々と進んでいく。まるで時間が止まったかのような静けさが、辺りを支配している。

大殿本堂前に到達したとき、誠道がゆっくりと振り返り、仲間たちに向けて静かに言葉を放った。

「皆さん、これが最後の決戦です。必ずや魔王を倒し、試練を共に乗り越えましょう。」

その言葉に、仲間たちは一瞬息を呑んだが、すぐに互いに頷き、決意を固めた。彼らの顔には、戦いの準備を整えた者としての覚悟が表れていた。

「では、参りましょう。」その声とともに裂け目へと次々に飛び込んでいく僧侶たち。

『カノン!ママの唐揚げ旨かったな。』

「ね。ちょっと食べすぎた。帰ったらダイエットだなこりゃ。」

ラーちゃんは緊張を解そうとしてくれてる、人間みたいになってきたね。

「タケル君、私たちも行こう!」

「うん!」ともに手を取り裂け目へと飛び込んでいく。

 

裂け目の奥には、赤黒く焼けただれた大地が、果てしなく続いていた。天空には濃厚な硫黄の煙が渦巻き、太陽の光すら鈍く霞ませる。大地の割れ目からはドロドロと煮えたぎる溶岩が噴き出し、時折、火柱が轟音とともに天を貫いた。

魔城へと続く唯一の道は、火山の咆哮に揺れる細い岩の橋だった。長い年月に晒されたその橋は、すでにいくつもの亀裂が走り、少しでも足を踏み外せば、煮えたぎる地獄の釜へと飲み込まれるだろう。

進むごとに、足元の岩は熱を帯び、靴の裏が焦げるような感覚が走る。呼吸をするたびに肺を焼くような熱気が流れ込み、体力を奪っていった。だが、ここで立ち止まるわけにはいかない。背後には、すでに崩れ落ちた道があるのみ。

ここで、誠道は印を結び、静かに真言を唱える。先ほどまでの息苦しさが嘘のように無くなり、体感温度も下がっていくのが分かる。

やがて、霧のように立ちこめる熱気の向こうに、巨大な影がゆらりと揺れた。それは人の形をしていたが、決して人ではなかった。全身を燃えさかる炎に包まれ、両の腕には黒曜石の刃を携えている。

「ここを通る者は、火の試練を受けよ」

低く響く声が、大地を揺るがした。その瞬間、炎の巨人が刃を振り上げ、灼熱の斬撃が空を裂いた――。

先頭の高僧たちが一斉に光弾を放つ。しかし、炎の巨人は微動だにせず、黒曜石の刃を振るった。

「無駄だ……」

その声とともに、漆黒の刃が唸りを上げ、空間を切り裂く。一瞬の閃光とともに、高僧たちの光弾は弾かれ、衝撃波が周囲に吹き荒れた。そして、次の瞬間――刃が軌跡を描き、高僧の一人を直撃する。

「ぐあああっ!」

間一髪で金剛杵を盾にしたが、その神聖なる武器ですら一撃に耐えきれず、鋭い音を立てて砕け散った。高僧の身体は宙を舞い、灼熱の溶岩へと落ちかける。

「しまった……!」

しかし、その刹那、風を切る音とともにタケルが疾駆する。

「間に合って!」

燃え盛る大地を蹴り、信じられない速さで跳躍すると、落ちかけた高僧を片腕で抱え込んだ。そのまま宙を滑るようにして岩場へと舞い戻る。

「大丈夫ですか!」僧侶の両腕は焼けただれている。

高僧は荒い息をつきながら頷くが、炎の巨人は既に次の一撃を振り下ろそうとしていた。

「くそっ、こいつ……!」

タケルの瞳が鋭く光る。片手を前に突き出すと、空気が震え、一瞬で無数の光弾が生成される。

「喰らえぇぇぇ!」

連続する光弾が一斉に放たれ、炎の巨人へと殺到する。爆炎が巻き起こり、灼熱の咆哮とともに巨体が崩れ去った。

「……やったか?」

だが、その安堵は束の間だった。

「甘い……」

地響きとともに、新たな影が次々と姿を現す。霧の向こうから、同じように炎を纏った巨人たちがぞろぞろと歩み出てきた。

「……マジかよ」

突如、上空から激しい暴風が吹き荒れ、大地を震わせた。

「マズい!」

 

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