ももの血脈   作:marre

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第17話 戦鬼討滅、そして再会

「戻れ!羅刹!」

カノンの必死な叫びが、戦場の喧騒を切り裂いた。その声に、羅刹は一瞬驚き、そしてふっと微笑んだ。彼の瞳には、カノンの覚悟を読み取った、優しさと、ほんの少しの誇りが見えた。

『強くなったな、カノン。』

その言葉を聞いた瞬間、カノンの胸は熱くなった。しかし、彼女はそれに構うことなく、ただ必死に彼を見つめ続けた。

「ラーちゃん……まずは、あなたを守る!ここは私に任せて!」

カノンの言葉は、彼女自身の心の中で固まった決意だった。彼女がどれほど羅刹を守りたいと思っていたか、それが込められていた。そして、彼女の手がしっかりとその場で握りしめられた。

羅刹はその微笑みを一瞬だけ見せた後、静かにそのままカノンの中へと戻っていった。彼女の体の中に、再び彼の存在が溶け込んでいく感覚があった。カノンの胸の奥で、羅刹の力が感じられ、同時に心が落ち着いていった。

カノンのオーラが紫に燃え上がる。

「ありがとう……ラーちゃん。」

カノンは静かに呟くと、そのまま深呼吸をして、顔を上げた。彼が戻ったことで、心の中の不安が少しだけ和らぎ、次に進む力が湧いてきた。

「ラーちゃん、理由はあとで聞く、まずは自分の回復に専念して。」

『わかった、ありがとうカノン。』

『敵は災禍神と名乗る者の眷属だ。』

「わかった。まかせて。」

カノンの瞳には、再び決意の炎が宿り、その視線の先には、魔界の戦場が広がっていた。

カノンの紫のオーラがさらに濃く燃え上がる。大気が震え、彼女を中心に空間が歪んでいく。それはまるで、彼女の存在そのものが次元を超えようとしているかのようだった。

目の前には、異次元の眷属たちが蠢いていた。異形の者たちはカノンの力の変化を感じ取り、本能的に後ずさる。しかし、逃がすつもりはない。カノンは力強く地を蹴った。

一瞬で間合いを詰めると、彼女の拳が紫電をまとい、巨大な鬼の幻影を描く。それはまるで、彼女自身の内に秘められた力が具現化したかのようだった。

カノンの拳が一閃する。衝撃波が戦場を駆け抜け、数十体の眷属がその一撃だけで粉砕された。以前の彼女ならば、これほどの破壊力は出せなかったはずだ。だが今は違う。彼女は迷いを捨てた。守るべきものがある。そのために、彼女は強くならなければならなかった。

そこへ、無貌の回復を終えたタケルと無貌が加勢する。

「おまたせ、カノンちゃん。」

タケルは軽く笑みを浮かべると、光剣を地面に突き刺した。次の瞬間、剣先から稲妻のような閃光が走り、地面を駆け抜ける。それは敵を貫く雷の刃と化し、瞬く間に広範囲の眷属を巻き込みながら爆発的な光を放った。雷鳴のごとき轟音が響き渡り、異形の眷属たちが一瞬にして消し飛ぶ。

一方、完全に回復を終えた無貌は、その身体を黒い霧のように広げ、異形の眷属たちを包み込む。霧の中で蠢く影が、次々と敵を引き裂き、呑み込んでいく。悲鳴すら上げる暇もなく消えていく眷属たち。その中心に立つ無貌の顔には、冷酷な笑みが浮かんでいた。

さらに、魔王のもう一人の側近、惨禍(ざんか)もその場に合流する。彼女は長大な鎖を手にし、自在に操りながら敵を絡め取る。捕えられた眷属は逃れる間もなく、鎖に刻まれた呪詛が発動し、身体ごと引き裂かれていく。惨禍の周囲には黒炎が渦巻き、彼女の足元から這い出した亡者たちが、異形の眷属に襲い掛かる。

タケルの雷光、無貌の闇、惨禍の呪詛が交錯し、戦場は一瞬にして敵の血煙に包まれた。

 

カノンは戦場を見渡した。異形の眷属たちは蹂躙され、その数を大きく減らしていた。しかし、戦いはまだ終わらない。奥の闇の中から、新たな気配がゆっくりと近づいてくる。

「……まだ、終わりじゃないみたいね。」

カノンが鋭く目を向けると、そこには巨大な影が蠢いていた。異次元の眷属とは異なる、さらに強大な気配。黒い靄をまとったそれは、ゆっくりと形を成していく。鎧を纏った巨体、四本の腕、そして無数の眼が全身に散りばめられている。まるで戦そのものが具現化したかのような存在――

『災禍神の眷属、戦(せん)鬼将(きしょう)だ。』

「でかいな。」

タケルが光剣を構え、緊張した面持ちでつぶやいた。無貌の霧がさらに濃くなり、彼の身体は戦闘態勢へと移行する。惨禍も鎖を巻き直し、ゆっくりと敵を睨みつけた。

戦鬼将は咆哮と共に大地を踏みしめ、その衝撃で地面が裂ける。無数の亡者の手がその足元から伸びるが、すぐに焼き払われ、消滅する。圧倒的な力がそこにあった。

「力が強い……いや、それだけじゃない。戦いの経験が違う。」

カノンがつぶやくと同時に、戦鬼将の四本の腕が一斉に動き、巨大な斧を振り下ろした。大気が唸り、地面ごとカノンたちを叩き潰そうとする――。

「させないよ!」

タケルが鋭く声を上げ、光剣を構えた。刹那、光剣から放たれた波動が斧とぶつかり、炸裂する。金属と光が交錯し、閃光が戦場を照らす。しかし、戦鬼将はその反動に一切揺らぐことなく、さらに斧を振り下ろしてくる。

その時、空が裂け、紫の雷光が地上に落ちた。カノンの右手が光を纏い、拳を構える。その光は天を突き、瞬間的に全ての視界を奪うほどの輝きを放った。

「私が……壊す!」

彼女の拳が空気を切り裂き、鬼の幻影が伴って巨大化する。紫電が戦場を覆い、戦鬼将の動きが一瞬止まる。その瞬間、無貌の闇が足元に絡みつき、惨禍の呪鎖がその四本の腕を締め上げる。タケルの雷が暴れ、戦鬼将の身体を貫く。その衝撃で、戦鬼将は一瞬動きを止める。

「今だ、カノンちゃん!」

タケルの叫びが響く。カノンはその声を聞いた瞬間、自らの内に眠る力を感じ取った。左額が熱を持ち、鬼神の血が目覚める。彼女の拳にさらなる力が宿り、炎のように燃え上がる。

「――消えろ!」

カノンの拳が戦鬼将の胸を捉えた。その衝撃は凄まじく、戦鬼将の鎧はひび割れ、無数の目が悲鳴を上げながら崩れていく。破裂音と共に、戦鬼将の巨体は宙に舞い、最後には轟音を上げて崩れ落ちる。

そして、戦場に静寂が訪れた。

カノンの拳を中心に、紫電が空へと駆け抜ける。それはまるで戦いの終焉を告げる雷鳴のようだった。タケルは肩で息をしながら光剣を引き、無貌は霧を収束させながら微笑む。惨禍は鎖を巻き戻しながら、冷静に戦場を見渡した。

「……終わった?」

カノンの問いかけに、タケルはしばらく沈黙した後、満足そうに頷いた。

「うん、やったよ。」

無数の眷属が消滅し、黒煙が空へと溶けていく。その光景を見届けたカノンは、大きく息を吐いた。激闘を経た身体は疲労に満ちていたが、それ以上に心は満ち足りていた。

魔界全土に歓声と地響きが起こる。

だが――。

カノンの胸の奥が、熱を持つ。

それは痛みではなかった。

懐かしさに似た、温かい感覚。

「……ラーちゃん?」

彼女がそっと目を閉じると、心の奥底に眠る存在が静かに応じた。

『お前は本当に強くなったな、カノン。』

その声に、カノンの目尻が僅かに熱くなる。ずっと聞きたかった。ずっと確かめたかった。戦いの最中ではそれを感じる余裕すらなかったが、今ようやく、その言葉を噛み締めることができた。

「……ラーちゃん。」

「あんまり遅いから迎えに来ちゃった。」

「……本当に、おかえり。」

カノンの声は震えていた。しかし、それは悲しみではなく、再会の喜びからくるものだった。

『ただいま、カノン。ただ、無理をするな。』

「うん……でも、今はこの瞬間を噛みしめさせて。」

「逢いたかったよ。ラーちゃん。」

カノンは目を閉じた。

戦場の風が優しく包み込む。

無貌と惨禍は跪き、静かにカノンたちを見守っていた。その目には、深い感謝と敬意が込められていた。

無貌が静かに口を開く。

「……カノン殿、タケル殿。私たちは、あなた方に感謝してもしきれません。あなた方の力がなければ、この戦いは終わりを迎えることはありませんでした。心から、ありがとうございます。」

惨禍も鎖をほどき、深々と頭を下げる。

「私も、心より感謝申し上げます。何よりも魔王を守ってくださった。魔界は救われました。」

タケルとカノンは、無言で彼らの感謝の意を受け止める。戦場に再び静寂が訪れる中、彼らの間に流れるのは、戦いの後の安堵と、今後に待ち受ける未知の戦いに向けての決意だった。

 

長い戦いの果てに――

カノンは大切な存在を取り戻した。そして、新たな戦いの幕開けを予感しながらも、今だけはただ、この再会の喜びを胸に抱きしめていた。

 

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