ももの血脈   作:marre

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第2話 桃太郎の血は争えない

入学初日。

東京の空は岡山とは違う気がする。どこまでも広く見えた地元の空とは違い、都会のビル群に切り取られた狭い空。それでも、私は少しワクワクしていた。

「ふぅ…ちょっと緊張するね。」

私は橘カノン。桃太郎の子孫。だけど、そんなこと誰にも言うつもりはない。

父の転勤で岡山から東京へ引っ越してきた私は、新しい高校での生活をスタートさせることになった。

『カノン、相変わらず前向きだな。』

意識の中で聞こえるのは、私の中に住み着いている鬼、羅刹──ラーちゃんの声。彼は私の中に宿っていて、時折こうして話しかけてくる。

「まぁね!都会には都会の楽しみがあるでしょ?」

「山での自主トレはできなそうだけどね。」

校門をくぐると、すでに登校している生徒たちの視線が集まる。

私は自覚している。外見がちょっといい感じに仕上がっちゃってることを。

「ん?あれ、なんか揉めてる?」

校庭の隅、人だかりができている。何かと思って近づくと、三年生らしき男子生徒数人が、一人の小柄な男子を囲んでいた。

「おいおい、お前、新入生のくせに生意気だな?」

「ちょっとくらい挨拶しろよ?ほら、土下座しろとは言わねぇけどよ!」

あー、ありがち。古典的なやつ。

「めんどくさいな…」

関わらない方がいい。そう思ったのに、私の足は勝手に動いていた。

「ちょっとちょっと、お兄さんたち、朝から元気だねぇ!」

私の言葉に、男子生徒たちがこちらを振り向く。視線が一斉に集まり、ひそひそと囁く声が聞こえる。

「誰だ?あの子…」

「新入生じゃね?」

「可愛いな…」

はい、ありがと。そんなことはどうでもいい。

「新入生を歓迎するのは大事だけど、やり方がちょっと違うんじゃない?」

私は微笑みながら言った。見た目は柔らかく。でも、言葉の奥に含みを持たせる。

「は?何だお前。」

リーダー格の男子がこちらに向かって一歩踏み出す。

「別に。ただ、そういうのは時代遅れって話。」

「調子に乗るなよ!」

そう言って、リーダー格の男子が私の肩を掴もうとした瞬間。

「おっと。」

私は軽く身体をひねる。そのまま相手の手をかわし、逆に自分の指先で彼の手首を軽く叩く。

「ッ!?」

彼の腕がビクンと跳ねる。

「ちょっ…なんだ、お前…」

「だから、そういうのは時代遅れって言ったじゃん?」

私は彼らに向かって軽く微笑む。

「さて、これ以上やると恥かくだけだよ?引き際って大事。」

リーダー格の男子は歯ぎしりしながら、私を睨んでいたが、やがて舌打ちをして立ち去った。

「助かった…ありがとう。」

囲まれていた男子生徒が私に頭を下げた。

「いやいや、別に。私は気にしてないから。」

「でも、君、強いんだね…」

「あはは、ちょっとね!」

(ちょっとどころじゃないけどね。)

その時、ラーちゃんが意識の中で笑った。

『カノンは、昔からこういうのに首を突っ込むよな。』

「気にしない気にしない!」

私は軽く笑って教室へ向かった。

新しい学校生活の始まり。きっと楽しくなる。

…いや、多分、楽しくなるはず。

なぜなら、この後もっと面倒なことが待っているのを、私はまだ知らなかったから。

助けた男子生徒は少し緊張した様子で私を見上げていた。

「えっと、改めてありがとう。僕、武田タケル。」

「橘カノン。よろしくね、タケルくん!」

タケルは少し驚いたように目を瞬かせた。

「……カノンちゃんって、下の名前で呼んでいい?」

「ん?あだ名とか好きな方で呼んでいいよ。新しい環境だし、フレンドリーにいこう!」

私が笑って言うと、タケルは少し照れたように頭をかいた。

『カノン、馴染むのが早いな。』

意識の中でラーちゃんが呆れたように言う。

(こういうのはノリと勢いが大事だからね。)

タケルはどこか頼りなさげな雰囲気だけど、目はしっかりと意思を持っている。さっきの状況でも、怖がりながらも立ち向かおうとしていたのかもしれない。

「タケルくんって、結構正義感強いタイプ?」

「えっ?」

「さっきの時もさ、めちゃくちゃ怯えてたって感じじゃなかったし。」

そう言うと、タケルは少し苦笑した。

「……まぁ、逃げたらずっと狙われるかもしれないし、ここで折れたくなかったっていうのもあるかな。」

「おお、それはいい心意気!」

私は親指を立ててみせた。

タケルは一瞬驚いた後、くすっと笑った。

「カノンちゃんって、すごいな。僕より全然度胸ある。」

「まぁね! でも、タケルくんも結構いい線いってると思うよ?」

「そ、そうかな……。」

タケルは少し気恥ずかしそうに笑う。

そんな会話をしながら、私たちは並んで教室へ向かった。

「ところで、タケルくんのクラスは?」

「えっと、1年B組。」

「おお、奇遇!私も同じクラス!」

「ほんとに!?……なんか、心強いな。」

「でしょ?これも何かの縁だね!」

新しい学校、新しい友達、そして新しい生活。

この出会いが、今後どんな風に転がっていくのか。

少し楽しみになってきた。

『まあ、カノンのことだから、どうせ波乱万丈になるんだろうけどな。』

(それは……否定できないかも。)

私たちは教室へと足を踏み入れた。

『カノン』

「んー」

『タケルはお前に似ているな。』

「そうかなぁ。」

そして、ここから私の高校生活が本格的に始まるのだった。

 

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