ももの血脈   作:marre

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第23話 決意と約束

地上 —— 決意と結束

カノンの呼びかけで、夜の修行場に再び仲間たちが集まった。月明かりの下、四人の顔には、それぞれの決意が浮かんでいた。

「……異変、ですか。」

誠道が厳しい表情で呟く。

「魔界の奥で動き出しているとなると、こちらにも影響が出るのは時間の問題かもしれません。」

「黒煙に重い空気……災禍神の力か。」

慧明は静かに拳を握る。

「放っておけば、またあの時みたいな地獄になる……。」

「だったら、こっちから仕掛けるしかないってことか。」

タケルが前を見据える。

「神話の武具も、そろそろ実戦用に調整しないとね。」

「みんな……ありがとう。」

カノンはそっと八尺瓊勾玉に触れた。

「ラーちゃんがあっちで頑張ってる。だから、私たちも絶対に負けちゃいけないよね。」

誠道は一歩前に出て、皆を見回す。

「今こそ、力を一つにする時です。私たちは、それぞれの宗派や血筋を超えて、同じ敵と戦う仲間。」

慧明も頷きながら続けた。

「癒しの術と破邪の力、両方が必要になるでしょう。災禍神は、ただの“敵”じゃない。戦そのものを糧にしてくる存在だ。」

「だからこそ、“心”が必要なんだと思う。」

カノンはまっすぐ仲間たちを見つめた。

「私たちの中にある、誰かを守りたいって気持ち。それが、あいつに立ち向かう力になる!」

その言葉に、三人は静かに頷いた。

その夜、初めて腹を割って話し合った。

戦いの不安、期待、恐れ、そして——希望。

言葉にすることで、彼らの絆はより確かなものとなった。

夜風に吹かれながら、タケルが口を開く。

「カノンちゃん。……災禍神が現れた時、君が一番に狙われるかもしれない。」

「……うん、たぶんね。私の中の“角”も、あいつにとっては気になる存在だからね。」

「だけど、その角は呪いじゃない。カノンちゃんの力だ。」

タケルの瞳はまっすぐにカノンを見つめていた。

「僕は信じてるよ。カノンちゃんならその力を正しく使えるって。」

カノンは目を見開いたあと、小さく笑った。

「ありがとう、タケルくん。」

——決戦まで、あとわずか。

彼らは己の力と向き合いながら、来る戦いに向けて準備を整えていく。

誰もが胸の中に、不安と共に“確かな光”を抱きながら。

 

魔界 —— 北部の調査任務

魔界北部。そこはかつて火山帯として知られ、今では災禍神との戦いによって地形が大きく歪んだ場所だった。

羅刹は信頼のおける戦士たち数名を引き連れ、現地に向かっていた。大地には無数の亀裂が走り、そこからは濃密な黒煙が絶え間なく立ち昇っている。

「空気が……異様に重い。」

随行していた若い魔族が、思わず咳き込んだ。

『無理はするな。魔力で遮断する術を使え。』

羅刹は冷静に指示を出しながら、亀裂の縁へと歩を進めた。

——ズゥン……!

大地の底から、かすかな「鼓動」のような振動が伝わってくる。それは生き物のようで、どこか機械的でもあった。

(これは……ただの余波ではない。何かが“動いている”。)

羅刹は地を這うように漂う黒煙を指先で払い、そこに微かに浮かぶ「印」を見つけた。それは災禍神の封印に使われていた魔紋に酷似していたが、中央が不気味に“欠けて”いた。

『……封印の断片? いや、これは……模倣、か。』

「魔王様! 周囲の魔力濃度が急上昇しています!」

後方の魔族が叫ぶ。

『下がれ! 何か来るぞ!』

その瞬間、亀裂の底から黒い影が飛び出した。

「——ギィイィィ……ッ!」

姿を現したのは、人のようで人ならざる存在。歪んだ鎧のような外殻に覆われ、四肢が不自然に長く、顔には仮面のような面を被っている。

「災禍神の……眷属!」

若き戦士が剣を抜いた。

羅刹は一歩前に出る。

『下がっていろ。これは、私がやる。』

敵の動きは速い。影のように地を滑り、爪のような腕を振り回して襲いかかる。だが羅刹は一切動じず、掌から光を放った。

「ギィアアアアアッ!!」

眷属の仮面に亀裂が走り、中から黒い霧が噴き出した。だが、それで終わりではなかった。仮面が砕けた瞬間、その中から現れたのは——

「……人間?」

羅刹は目を見開く。一瞬、そこには朽ちかけた“人間の顔”があった。虚ろな目、口元にはかすかな呻き。

『これは……人の魂を媒体にしている……?』

その問いに答えるかのように、眷属は黒煙と共に崩れ落ち、地へと還っていった。

戦士たちは戦慄しながら見つめていた。

「災禍神は……人間すら利用しているというのか……。」

羅刹は黙していたが、その心には冷たい怒りが湧き上がっていた。

(あれはただの化け物ではない……感情を持たぬ兵器でもない……誰かが、“意図的に”創り出している。)

……カノンに、すぐ伝える。『地上も、備えを急がせよ。』

 

地上 —— 揺らぐ心と強まる覚悟

翌朝。カノンのもとに、羅刹から新たな連絡が届いた。

『……眷属の仮面の下に、人間の顔があった。』

「え……?」

思わず声が漏れる。隣で話を聞いていたタケルたちも、動きを止めた。

『おそらく、生きた人間の魂を、眷属の器として使っている。自我はほとんど失われていたが、確かに“苦しんでいた”。』

「それって……つまり、倒せばその人も……」慧明の声が震える。

『……そうだ。解放されるのか、完全に消滅するのか……まだわからない。ただ、あの状態のままでは……生きているとは言えん。』

報告の後、しばしの沈黙が場を支配した。

「人間を……利用してるなんて……」

カノンは膝に手を置いて、深く息を吐いた。

「じゃあ、戦うたびに、誰かを傷つけてるってこと?」

「……それが、災禍神のやり方なんだろうな。」タケルが唇を噛みしめる。

誠道が静かに言う。

「我々は“選ぶ”しかありません。正しいと信じる道を、迷いながらでも、歩くしかないのです。」

「……私は、戦うよ。」

彼女は顔を上げた。

「もし、敵の中に“救える命”があるなら、可能な限り助けたい。でも、私たちの世界を壊そうとするものには、全力で立ち向かう。」

その言葉に、慧明も頷いた。

「そのために、私たちはここにいるのです。」

誠道が法剣を手に取る。

「我々の強さは、力だけではない。心の在り方こそが、災禍神の支配を打ち破る鍵となるはずです。」

再び始まった修行。だが今度は、ただ強くなるためだけではなかった。

彼らは知った。敵が“人の形”をしていること。そこに悲しみがあること。それでも守るべきもののために、自らの手で決着をつけるしかないことを。

その夜。カノンは、ひとり空を見上げた。

(ラーちゃん……私、強くなるよ。どんなに怖くても、あなたみたいに、前に進むから。)

 

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