ももの血脈   作:marre

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第24話 破滅の序章

数日後。

人間界と魔界をつなぐ転送の回廊、空羅道の管理をしていた中国の高僧が、異変に気づいた。

「……カノンさん。少し来ていただけますか?」

僧の声に導かれ、カノンは空羅道の祭壇へと向かう。そこにある光の柱は、微かに揺らいでいた。

「この空羅道……先ほどから、妙に“重い”のです。流れが乱れてる。」

カノンはそっと柱に手をかざす。すると、冷たい空気が指先に絡みついた。

「……これは……魔界側から、何かが干渉してる?」

僧が神妙な面持ちで頷く。

「魔界の中心とは違う方向。北部の裂け目……あのあたりと繋がりかけてる気がします。」

(裂け目……黒煙が昇っている場所……!)

カノンの胸に、嫌な予感が走る。

その瞬間だった。

——「カノン」

鼓膜を震わせない、直接“心”に語りかけてくる声。

冷たく、どこか笑っているような、だが無感情な響き。

「だ、誰……!?」

思わず周囲を見渡すが、そこには誰もいない。

誰も、その声には気づいていないようだった。

——「お前は、こちらに近い」

——「だからこそ、愉しみだ」

カノンは、背筋が凍るのを感じた。

「災禍神……!?」

心の奥底に直接語りかけてくるその存在に、カノンは気づいた。

これは“会話”ではない。“宣告”だ。

「……どうして、私に……」

——「お前の“魂”は、裂け目に触れた」

——「歪んでいる。だが、まだ変えられる」

「……私は、変わらない。あなたになんて、屈しない!」

怒りが、恐怖を上回った瞬間。光の柱が激しく波打ち、空羅道が一瞬、闇に染まる。

「危ない、下がって!」

僧の声で我に返り、カノンは咄嗟に光から身を引いた。

やがて光柱は収まり、空羅道は元の静けさを取り戻す。だが、確かに感じた。

あの存在は、“こちら”を見ている。

「……今、私に何かが語りかけてきた……。きっと、災禍神……。」

僧は真剣な目でカノンを見つめる。

「……その声に、引き込まれないように。どんなに甘く、正しく聞こえても、それは“試し”です。」

カノンは深く頷いた。

(私の中にも、まだ弱さがある……でも、それを乗り越えなきゃ。私が崩れたら、きっと……みんなも……)

その夜。カノンは、再び仲間たちを呼び出す。

「ごめんなさい、急に。でも、大事な話があるの。」

星の見えない曇り空の下、4人の姿が並ぶ。

カノンは、空羅道の異変と、災禍神からの“声”を伝えた。

「つまり……災禍神が、こっちに干渉できるほど近づいてきている?」

誠道が低く唸る。

「そして、カノンちゃんに直接語りかけた……か。」

タケルの目が鋭くなる。

「敵は、私たちの心を試してくる。怖いけど……でも、私は負けない。」

カノンの言葉に、慧明がにっこりと微笑んだ。

「こちらには、カノンさんがいるから、大丈夫ですね。」

「油断せず、対策を急ぎましょう。空羅道の防御も強化すべきです。」

誠道の冷静な指示に、全員が頷いた。

 

魔界 —— 羅刹と災禍神の前哨戦

黒煙が立ち込める魔界北部。

かつての戦場に、再び不穏な気配が満ち始めていた。

「魔王様……やはり、この裂け目が……」

魔族の戦士が震える声で報告する。

亀裂の奥。何かが

——“視て”いた。

紅い光。それは炎ではない。熱ではない。

——呪いだ。

命そのものを焼き滅ぼし、生きたまま燃え尽きることを強いる“災禍”の輝き。

『来るか……』羅刹は静かに息を吐いた。

赤黒い魔力が尾を曳き、九尾の獣の如き影を背負う。

ティールの槍。光の刃を纏わせ、構えは隙を見せない。

そして——

「グォォォアアアアア!!」

亀裂から這い出したのは、黒鉄の仮面を被った亡者たち。朽ち果てた魔族の英霊。

——かつて、この魔界を護るために死んだ者たち。

だが今は違う。その肉体は腐り果てながらも、災禍神の呪詛に絡め取られ、異形の兵として蘇らされている。

黒い糸が脈打ち、心臓の代わりに“呪い”が動かしていた。

『……無様なものよ』羅刹の声は冷たい。

一歩。地を蹴ると同時に、閃光。ティールの槍が水平に走る。

一閃。亡者の群れを容赦なく斬り裂き、その断面を光が焼き尽くす。

だが——黒い糸。

斬られた肉体が繋ぎ止められ、歪に再生していく。

『死して尚、貴様らは……操り人形か』

その瞬間——

「お前の選択は、無意味だった」

空間全体が震えた。

低く、圧倒的な声。空そのものが呟いたかのような錯覚。

——災禍神。

羅刹の眼光が鋭くなる。

『黙れ……』

「護ることで、全てが救えると思ったか。その執着こそ、砕き甲斐がある」

羅刹は踏み込む。速い。瞬動。敵の中心へ。

ティールの槍に宿る浄化の剣閃が閃き、亡者たちを容赦なく焼き斬る。

『貴様らごとき——呪いに囚われるに値せぬ!!』

極光が爆ぜる。

黒い糸が焼き切れ、亡者たちは静かに塵となった。

——しかし。

「……まだだ」

大地が呻いた。

黒い裂け目から伸びた巨大な手。それは羅刹の“影”を掴み取った。

『……ッ!!』

背筋を凍らせる感覚。これは——魂を喰らう魔手。

瞬時に。

羅刹は左手に光剣を生成し、逆手に構え影ごと、自らを斬り裂く。

ズシャァァァン!!

大地が裂け、呪いの手は霧散した。

『……小癪な真似を』

その顔に浮かぶのは怒りではない。

——冷徹な決意。

今はまだ、災禍神は完全には顕現していない。

だが、それでもこの力。

この魔界を蝕む呪詛は、ほんの一端に過ぎない。

『……急がねば……ならん』

羅刹は槍を構え直し、紅の瞳を細めた。

“護る者”の覚悟と共に。

——己が全てを捧げてでも、抗い、討ち果たすと。

 

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