ももの血脈   作:marre

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第27話 影と雷の果てに

その瞬間。

カノンの八尺瓊勾玉が、赤と金の複合した光を放つ。

雷鳴のような音と共に、周囲の瘴気を吹き飛ばす衝撃波が走る。

仮面の男の声が、低く響いた。

「……面白い。ならば、その力——」

「試してみなさい!」

——次の瞬間。

カノンと仮面の男は激突する。

雷と影。

神と鬼。

桃太郎の血脈と、災禍神の影。

全てが交錯する戦いが——

ついに、本格的に幕を開けた——!

 

魔界——

紅蓮の空。

地鳴りを上げる大地。

黒き雷が空を裂き、腐蝕した死骸と妖魔たちが蠢く魔界の荒野。

その中心で——羅刹は立っていた。

全身が血に濡れ、衣も半ば焼け焦げている。

その身に宿すは、魔界の王族にのみ許された“魔性解放”——

だが——敵はあまりにも多すぎた。

巨大な四つ目の妖魔が唸り声を上げ、牙を剥いて襲いかかる。

羅刹は九尾の尾を瞬時に展開し、宙を斬り裂く。

尾が螺旋の刃となり、妖魔の巨躯を粉砕する。

しかし——次々と現れる妖魔たちは、まるで災禍神の“瘴気”に呼応するかのように無尽蔵だった。

(……コイツら、ただの魔物ではない。災禍神の“瘴気”が、腐った命を無理矢理動かしている……!)

それは自然な生命ではない。

災いそのものが具現化した、穢れの軍勢。

その奥——

巨大な“影”が、姿を現しつつあった。

——それは、巨大な鬼神の骸骨のような姿。

だが骨は金属にも似た黒鋼。

脈打つ心臓部は、地獄の炎のごとく禍々しい。

災禍神——その“影”の本体。

羅刹は一瞬、息を呑んだ。

(……アレが……災禍神……?)

異形の神は、まだ完全には目覚めていない。

しかしその存在は、魔界全土に瘴気と災厄を撒き散らしていた。

羅刹はボロボロの身体に、最後の魔力を集め始める。

その瞳に宿すは覚悟——自らの命を賭してでも、災禍神を封じ込める決意。

(私が……魔王として果たす最後の役目だ。)

災禍神の骸骨が、ゆっくりとこちらに顔を向ける。

闇の奥から響く、低く、不快で、不吉極まる声。

「——喰ラワセロ。破壊ヲ。災イヲ。」

地響きと共に、無数の黒い腕が地中から伸び上がる。

魔界が、地獄と化す。

羅刹が牙を剥いた。

『上等だ……!』

『この“命”——最後まで貪り尽くしてみろ!!』

——魔界、死闘の幕が切って落とされた。

 

地上——

雷鳴が轟き、空羅道を包む瘴気すら一掃する神気と妖気の奔流。

赤金に輝く八尺瓊勾玉が、カノンの胸元で脈動するたびに、世界が震えた。

「——はああああッ!!」

踏み込む一歩が、地を砕き。

振るわれた拳が、空を裂く。

仮面の男は、その光景を見ながらなお冷静だった。

「……これほどとはな。」

彼の背後に、災禍神の“影”が揺らめく。

瘴気が形をなし、巨大な異形の手がカノンを掴まんと伸びる。

だが。

「遅いッ!」

カノンの一声とともに、空間が閃光で塗り潰される。

彼女の周囲を巡る桃色の雷光が、災禍神の影の腕を瞬時に焼き切った。

「なッ……!」

仮面の男が目を見開く——それは、初めて見せる動揺だった。

だが、彼はすぐに冷酷な戦闘者の顔に戻る。

影を纏い、己の肉体を黒き鎧へと変貌させる。

「ならば、全力で殺すまでだ。」

災禍神の呪詛。

魔界の深淵から響く咆哮。

刃と爪と呪いが一斉にカノンを飲み込もうと迫る——

だが。

「消えろおおおおおッ!!」

それは雷鳴より速く。

それは剣より鋭く。

それは神より尊く。

鬼よりも恐ろしく。

カノンの放った一撃は、ただの拳ではなかった。

それは——“鬼神”の血が生み出した、破壊の権化。

八尺瓊勾玉が轟音を立てて炸裂する。

赤金の稲妻が幾重にも走り、仮面の男を包む影を貫き、粉砕する。

「——がッ……!」

仮面の男の肉体が、雷とともに裂け、地に叩きつけられる。

災禍神の影が悲鳴のように消散していく。

立ち尽くすカノン。

その瞳は、もはや迷いも恐怖もない。

「これが……私の力……橘カノンとして……生きるための力だ。」

崩壊する空羅道。

裂け目の向こうに、魔界の光景が見える。

そこに——羅刹の気配がある。

まだ生きている。

まだ、戦っている。

 

慧明が叫ぶ。

「カノンさん——!」

誠道が法剣を構えながら、呟く。

「あの力……本当に、桃太郎の血脈ですか……?」

だが、カノンはただ——前を見据えていた。

「……行く。ラーちゃんを迎えに。」

風が吹く。

桃色の雷光が彼女の身体を包み、次の瞬間——

カノンは、仮面の男の残骸を振り返ることなく、裂け目の向こうへと跳躍した。

——鬼神の血脈を受け継ぐ者として。

——新たなる戦いの決着を、その手で掴むために。

魔界の彼方へ——カノンは、飛翔する。

 

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