ももの血脈   作:marre

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第28話 終ノ刻 —災禍神討滅戦—

黒い瘴気が薄らいでいく魔界の裂け目を、カノンは雷光と共に駆け抜けた。

崩れかけた大地。赤黒く染まる空。

戦火の残り香が辺りに漂い、魔物の死骸が累々と転がる——その最奥。

「……ラーちゃん!」

カノンの声が響く。

そこにいた。

血に塗れ、衣は破れ。

幾度も死線を越えてきた男——羅刹が、鬼の血を滲ませながらも、まだ立っていた。

その背は大地を支える柱のように、決して折れてはいない。

『……カノンか。』

その声は、驚きではなく、確信だった。

あの男は知っていた。

カノンが必ずここに辿り着くことを。

『……来たか。』

振り返った羅刹の瞳が、確かにカノンを見据えている。

その顔に浮かぶのは、鬼の戦士そして魔王としての誇りと——僅かな安堵。

カノンは駆け寄り、傷だらけの羅刹の身体を支えようとする。

「無事で……良かった……!」

だが、羅刹は微かに首を振る。

『まだだ。……まだ終わっていない。』

その言葉に、カノンの表情が引き締まる。

——ゴォォォン……

大地が鳴動する。

その音は、先程までとは次元が違った。

魔界の更なる深奥から——巨大な影が姿を現す。

「……!」

それは、先程カノンが打ち倒した仮面の男の“残滓”ではない。

それを遥かに超える——“本体”だ。

災禍神——その影の根源。

羅刹がこの魔界で喰い止め続けていた、真なる脅威。

『奴はまだ……完全には目覚めていない。だが——』

羅刹はゆっくりと立ち上がる。

その背に、鬼の紅蓮が灯る。

カノンの覚醒に呼応するかのように、羅刹の鬼力もまた、限界を超えて燃え盛っていた。

『カノン。……共に戦うぞ。』

カノンは頷く。

その胸には、もはや迷いはない。

「……うん。一緒に……終わらせよう。」

——桃太郎の血脈“鬼神”の力と、

——魔界を護り続けた最強の鬼・羅刹。

二人は並び立つ。

その先には、禍々しくも巨大な影が待ち構えていた。

世界の命運を賭けた、最終決戦が——今、始まる。

 

魔界・最深層——

カノンと羅刹が対峙するその場に、次々と仲間たちが駆けつけてきた。

「カノンさん!」

「羅刹殿!……無事だったか!」

空羅道を通ってきた誠道、慧明、そしてタケル——さらに各宗派の高僧たちが結集する。

その誰もが、激戦によって傷だらけだった。

だが、目に宿る光は消えていない。

「間に合ったか……!」

誠道が法剣を構え、カノンと羅刹の背に並ぶ。

慧明は九鈷杵を掲げ、僧兵たちに号令を飛ばす。

「癒しの法陣を展開する! 各位、真言を唱えよ!」

その声に呼応し、十重二十重の僧兵たちが輪を成して座す。

五大明王の印を結び、地を這う呪詛を祓い、空に満ちる瘴気を浄化し始めた。

——ゴォォォォン……!

巨大な影——災禍神の本体が、蠢き、呻き声を上げる。

その存在は“呪い”そのもの。

戦、災厄、死の記憶が幾重にも積み重なった、禍々しき怪物。

タケルが叫ぶ。

「この化け物は、力だけじゃ斃せない! 奴の力の根源は——人の“絶望”だ!」

慧明が応じる。

「ならば——我らが持つべきは、“祈り”と“癒し”!」

僧兵たちが一斉に声を合わせる。

仏の真言が、音の波となって魔界を包む。

その響きは、闇に染まった空間を浄化し、災禍神の巨躯に亀裂を生じさせていく。

誠道が法剣を天に翳し、叫ぶ。

「癒しは甘さではない! 救いは戦いだ!——法輪、展開!」

回転する光の輪が無数に現れ、災禍神の影を切り裂きながら抑え込んでいく。

慧明が九字を切り、空に結界を張る。

「天地の理よ——彼の者の呪縛を解け!」

癒しと祓い。

祈りと浄化。

その全てが、災禍神を削り、弱らせていく。

——だが、決定打は——

『カノン!』

羅刹が力強く叫ぶ。

『行け! お前の力で——奴を超えろ!』

カノンは大きく息を吸い、八尺瓊勾玉を胸に掲げる。

桃色のオーラに、赤と金の雷光が混ざり合い——

その身に宿る“鬼神”の力が、限界を超えて収束する。

「私は……鬼でも、人でもない。桃太郎の血を継ぎ、鬼を受け入れ——そして超える者!」

雷鳴が轟き、浄化の祈りと共鳴する。

「——鬼神の血脈を継ぐ者、橘カノンだッ!!」

その叫びと共に——

彼女は災禍神の心臓部へと、渾身の一撃を叩き込んだ。

——光が、世界を包む。

人の祈りと、鬼の力と、神の奇跡が——

全てが重なり合った、その瞬間。

長きに渡り世界を蝕み続けた災禍神の影は——

静かに、音もなく、消滅していった。

——そして、魔界に——

静寂と光が、戻ってきた——。

魔界の民たちがその変化に気づき、ざわめき始めた。

「……やったのか?」

「災禍神が消えた!? 魔界に平和が戻るのか!」

民たちの間で歓声が上がる。その歓声は次第に大きくなり、ついには一体となった。

「魔王様!義理堅い戦士たちよ、我々の命を守ってくれた!」

「誠道殿!慧明殿!タケル殿そして、カノン殿! ありがとう!」

羅刹が前に出て、民たちの賛辞を受け止める。その背には、ただの戦士としてではなく、魔界の王としての誇りが感じられた。彼の顔に浮かぶ微笑みは、鬼の戦士としての強さと、今まさに訪れた安堵の証であった。

「皆の力だ。私一人では戦えなかった。」羅刹の声は力強いが、どこか温かさを帯びていた。

「魔界は、我々全員のものだ。だからこそ——今、皆で勝利を分かち合おう。」

その言葉に、民たちが一斉に歓声を上げる。

その時、カノンが静かに一歩を踏み出した。彼女の瞳は深い決意を湛え、すでに過去の自分を超えた強さを宿していた。

「皆……ありがとう。」カノンの声は優しく、力強かった。「私は、もう迷わない。今度は私が、この世界を守る力になれるように——共に歩んでいこう。」

その言葉に、再び歓声が上がる。

 

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