ももの血脈   作:marre

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第3話 猫使いの夜

数日後。

新しい学校にも少しずつ馴染んできた。タケルとは通学のタイミングがよく、最寄り駅も一緒で家も比較的近かったこともあって、すぐに仲良くなった。朝の登校や帰り道に一緒になることが多く、自然と話す機会も増えていった。

「カノンちゃんって、意外と都会にもすぐ順応するんだね。」

「まぁね!楽しまなきゃ損でしょ?」

タケルは最初の印象よりもずっと話しやすい性格だった。最初は少しおとなしそうに見えたけど、慣れてくるとよく笑うし、真面目だけどちょっと抜けているところもある。

学校でも、私はすぐに友達ができた。同じクラスの女子たちとも話が弾み、タケル以外にも一緒にお昼を食べるメンバーが増えていった。

「カノンってさ、どこから来たの?」

「岡山だよー!」

「あ、そうなんだ!桃太郎の!」

「うん、まぁね!」

私は笑ってごまかした。まさか本当に桃太郎の子孫だなんて、誰も思わないだろうけど。

『ふふ、カノンは本当に嘘が下手だな。』

(ラーちゃん、黙ってて。)

そんなある日、昼休みにタケルと屋上で話していると、彼がふと真剣な顔になった。

「カノンちゃんさ……強いよね?」

「んー?何の話?」

「いや、この間のこともあるし……あれって、ただの偶然じゃないよね?」

タケルの目がまっすぐ私を見ていた。

『おやおや、鋭いな。』

(ちょっと、ラーちゃん黙っててってば。)

私は少しだけ考えてから、苦笑しながら答えた。

「まぁ、ちょっとは鍛えてるよ?」

「……そうなんだ。」

タケルはそれ以上は追及しなかった。でも、何かを考えているような表情だった。

新しい生活は順調。でも、心のどこかで、私は何かが起こる予感を感じていた。

『カノン、気をつけろよ。』

(……うん。)

私の高校生活は、まだ始まったばかりだった。

 

その日の夜。

私はいつもの自主トレ帰りに近所の公園近くを走っていた。夜の都会は昼間とは違う顔を見せる。人通りが少なく、静かな空気が流れている。

「ん?」

ふと、公園のベンチのほうに視線を向けると、タケルが猫たちに囲まれて座っていた。

「……何してるの?」

近寄って私が声をかけると、タケルは少し驚いたように顔を上げた。

「あ、カノンちゃん。えっと……見ての通り?」

彼の足元には、何匹もの猫がすり寄っている。まるで彼を慕っているように。

「なんか、すごい人気者じゃん。」

「うん……昔から、猫に好かれやすくて……。」

タケルは困ったように笑った。その様子を見ていると、ちょっと面白くて私はくすりと笑った。

「タケルくん、実は猫使いとか?」

「……そんなわけないよ。でも、なんとなく彼らの気持ちが分かるっていうか……。」

タケルの言葉に、私は少し首をかしげた。

そんな時だった。

「おい、ねーちゃん、ちょっといいか?」

酔っ払いの男がふらふらと近づいてきた。酒臭い息が漂ってくる。

「んー、ちょっとって何かな?」

「さっきから見てたんだけどよ、いい感じの子だなって思ってな。」

あー、めんどくさいやつだ。

『カノン、さっさと追い払え。』

(いやいや、そう簡単に……タケル君に怪しまれるし。)

私は冷静に距離を取ろうとしたが、相手はしつこかった。すると、隣にいたタケルが静かに言った。

「……やめてください。」

その瞬間――

「ニャアアアア!!」

周囲にいた猫たちが、一斉に酔っ払いに飛びかかった。

「うわっ!? なんだこれ!?」

猫たちは鋭い爪を振るい、服にしがみつき、牙をむいて威嚇する。

「ぎゃあああ!ごめんなさい、ごめんなさい!」

酔っ払いは猫の猛攻に怯えながら、公園の外へと逃げ去った。

私は驚き、タケルを見つめた。

「……今の、タケルくんが?」

タケルは苦笑しながら、猫たちをなでた。

「うん、なんとなく……やめさせたかったから。」

『ほう……これは面白いな。』

(ラーちゃん、ちょっと黙ってて。)

タケルが猫たちを撫でると、先ほどまで威嚇していた猫たちはすっかり落ち着きを取り戻し、彼の足元で甘えるように擦り寄っていた。

「……本当に、すごいね。」

私は思わず呟いた。

タケルは小さく肩をすくめる。

「うーん、自分でもよく分からないんだけどね。こういうこと、たまにあるんだ。」

「たまに?」

「うん。困ってる時とか、誰かを助けたい時、動物たちが勝手に動いてくれるっていうか……。」

彼の言葉に、私はじっと彼の顔を見つめた。

タケルの表情はいつも通り穏やかだったけれど、その瞳の奥には、どこか言葉にできない不思議な光が宿っていた。

『ふむ、興味深いな。』

心の中で響く羅刹の声に、私はそっとため息をつく。

(だから、黙っててって。)

『これはただの偶然ではないぞ、カノン。あの少年……普通の人間ではないかもしれんな。』

(そんなこと言われても……。)

確かに、普通じゃない気はする。でも、それを本人に問い詰めるわけにもいかないし、何より、彼自身も自分の力をはっきり理解しているわけではなさそうだった。

私はふっと笑い、「ま、タケルくんが猫使いってことでいいんじゃない?」と冗談めかして言った。

タケルは苦笑しながら、「そんな大層なものじゃないよ」と首を振る。

その時、足元で小さな猫が「にゃあ」と鳴いた。

「そろそろ帰るよ。」

タケルがそう言うと、猫たちはまるで理解したかのように散り散りになっていく。

「……ほんとにすごい。」

私は改めてタケルの不思議な力に驚かされながら、彼と並んで公園を後にした。

カノンのスマホが鳴る。

「はいはーい?カノンだよ?おじいちゃん?」

「うん。変わりないよ、大丈夫だって。」

「土曜日?わかった。」

「どこ?おっけー。」

「じゃあね!おじいちゃん。」

電話を切ると「岡山の本家のおじいちゃんが東京に遊びに来るみたい。」

「逢おうだってさ、なんかご馳走してもらおっと。」

 

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