放課後、タケルとカノンはタケルの父のもとへ向かった。今日の出来事を報告すると、父は穏やかに微笑んだ。
「なるほど、羅刹を外に出すことができたんだね。それは大きな進歩だ。」
「でも、長くはもたなかったんです。」カノンは少し悔しそうに言った。
「それは当然だよ。君たちの力はまだ発展途上だからね。羅刹の力を安定させるには、もっと自分自身を知り、制御する訓練が必要になる。」
「制御する訓練…?」
父は頷き、二人に向き直った。
「そうだ。力は強さだけじゃない。適切に使いこなせなければ、ただの暴走にすぎない。」
タケルとカノンは真剣な表情で父の言葉を聞いていた。
「じゃあ、どうすればいいですか?」
「まずは感情のコントロールを学ぶことだ。特にカノンちゃん、君の力は感情と深く結びついている。強い感情の波に飲まれると、羅刹の力が暴走する可能性がある。」
カノンは自分の胸に手を当てた。
「感情をコントロールする…」
「焦ることはないよ。少しずつ学んでいけばいい。」
タケルとカノンは改めて決意を固めた。宇宙人の血を受け継ぐ自分たちの力、それをどう使うべきか。答えを見つけるために、彼らの修行はまだまだ続いていく。
そして、その夜。カノンの夢の中に、羅刹の姿が現れた。
『カノン、お前はもっと強くなれる。だが、気をつけろ。力を使うたびに、お前の魂と私の境界は曖昧になっていく。』
「どういうこと?」
『それを知るのは、まだ少し早いかもしれんな。だが、その時は必ず来る。お前が本当の意味で、自分の力を理解するときがな。』
カノンはその言葉を胸に刻みながら、静かに目を覚ました。
彼女の中で、何かが確実に変わり始めていた。
昼休み、カノンとタケルは学校の屋上にいた。春の風が心地よく吹き抜け、校庭のざわめきが遠く聞こえる。
「……落ち着かないな」タケルがぼそりと呟いた。
「最近、魔物の気配が強くなってるもんね」とカノンも同意する。
そのとき、屋上の扉が開いた。
「カノンさん」
現れたのは、二人の男子生徒――見慣れぬ制服姿だったが、超絶イケメンだ。鋭い眼差しと洗練された立ち振る舞いが、ただの転校生ではないことを物語っている。
「あっ」
誠道さんと慧明さんだ。
「こんにちは、どうしたんですか?」
「各国からの応援が到着したので、私たちは直接カノンさんの警護に回ることになりました。」
誠道が淡々と告げる。
「今日からこの学校の2年生です。」
「こちらの方は?桃山家の血筋の方ですか?」
慧明がタケルを見ながら口を開く
「桃山家?いえ、違います。」タケルが眉をひそめた。
「友達の武田タケル君です。桃山家ではないんですが……桃太郎の血筋です。」
「…なるほど。強大な力をお持ちですね。」
誠道が静かに頷く。
「できれば…お手合わせ願いたい。」
「ここではマズいですよ。」カノンが慌てて止める。
「失礼いたしました。では、今夜、お二人の今の実力を見せていただきます。」
「!ぼ…僕もですか?」タケルが慌てて聞き返す。
「何卒!」慧明が頭を下げる。
「わ…わかりました、おてやらわかにっ」噛んだっ。
慧明は微笑みながら深く頭を下げた。
その夜、4人は西新宿のビルの屋上に立っていた。夜風が吹き抜ける中、月明かりが鋭くビル群を照らしている。
二人の若き僧侶が紫の法衣をまとい、静かに立っていた。誠道は七條袈裟を身にまとい、額には厳格な額帯を巻いている。その姿には、確かな威厳が漂っていた。一方の慧明は五條袈裟を纏い、頭には伝統的な角帽を被っている。その出で立ちだけで、彼らが高僧であることを示していた。
二人は、それぞれ空海と最澄の生まれ変わりとさえ噂されるほどの天才僧侶。密教の至高の才を受け継ぐ者たち。
そして、カノンとタケルは真言宗、天台宗それぞれの最高峰と目される二人との手合わせに緊張していた。
「始めましょうか。」誠道が厳かに言い、金剛杵を構える。白い湯気のようなオーラが立ち上る。
その瞬間、慧明はタケルに向かって一気に間合いを詰め、金剛杵での連続突きを浴びせる。
吹っ飛ばされるタケル。
後ろに吹き飛ばされたかに見えたタケルだったが、すべて見切って大きくバックステップしていた。
「おてやらわ…よ、よろしくお願いしまっす。」タケルは落ち着いている。
タケルの全身から青いオーラが沸きだし、右手に光剣を生成し構える。
「!」
誠道は金剛杵を片手で振り回しながら、左手で光弾を連射しカノンに仕掛ける。
カノンは素手で光弾をはじきながら間合いを詰め、打撃で応戦していく。
さらにスピードを上げるカノン。体から紫のオーラが立ち上る。
カノンは一度間合いを取り、両手に光剣を持ち低く構える。
「!!」
「なるほど、分かりました、予想以上です。」と手を止める誠道。
「伝説の戦士、いやそれ以上とお見受けいたします。」
「探るような戦い方は失礼ですね。」慧明がそう言うと二人の身体から出るオーラが膨れ上がる。
誠道の金剛杵が五鈷杵に形を変え、炎を纏う。
慧明の金剛杵は龍が巻き付き、不動明王の倶利伽羅剣へと形を変えている。
『!!…あの剣』羅刹には見覚えがある。
「破っ!」大気が震える。
二人の僧侶が一歩踏み込んだ瞬間、ビルの屋上全体が揺れたかのような衝撃が走った。
誠道の五鈷杵が炎をまとい、旋風のようにカノンへ向かってうなりを上げて迫る。カノンはすぐさま両手の光剣を交差させ、火炎の渦を裂くように防御しながら跳び退いた。しかし、誠道の気迫は衰えない。一瞬の隙をつき、彼の五鈷杵が軌跡を描くと、炎の斬撃が飛ぶ。それを見たカノンは咄嗟に左手の赤い光剣を投げつけ、斬撃を相殺しながら、右手の青い光剣で反撃を試みる。
「ほう……」誠道の目が細められ、次の手を探るかのように微笑んだ。
一方、タケルは慧明と渡り合っていた。慧明の倶利伽羅剣は雷光を帯び、振るうたびに閃光が走る。タケルは光剣を旋回させながら防ぎ、徐々に動きを加速させていく。
「……面白い。だがまだまだ!」慧明の口元がわずかに歪む。
次の瞬間、慧明の倶利伽羅剣が炸裂し、雷の奔流がタケルを襲った。衝撃でタケルの足元が崩れ、ビルの端へと吹き飛ばされる。しかし、タケルはすんでのところで姿勢を立て直し、ビルの縁に片手をかけて跳ね上がる。その瞬間、彼の青いオーラがさらに濃く燃え上がった。
「まだ大丈夫です。」タケルが笑みを浮かべる。
「ならば……極めましょう。」誠道と慧明が同時に口を開いた。
二人の僧侶が印を結ぶと、ビルの屋上に仏陀の曼荼羅が浮かび上がる。空が震え、まるで別次元の扉が開かれたかのような気配が広がった。
「ここからが我々の本気です。」2人の高僧の周りには竜巻が巻いている。
「タケル君、あれやってみよっ!」二人は目を閉じた。光剣がかき消え、燃え盛るオーラが沈静化する。
「行くよ!」カノンの声が響いた瞬間、二人の姿が消えた。
次の瞬間——慧明の背後にカノンが現れ、鋭い連撃を叩き込む!誠道が反応する間もなく、タケルの回し蹴りが脇腹を打ち抜いた。
「ぐっ…!」
だが、それだけでは終わらない。突如、空を裂くような鳴き声とともに、巨大な怪鳥が2羽、闇を引き裂いて現れる。その瞳が僧侶たちを捕えた瞬間、灼熱の業火が降り注ぐ!
「なっ…!?どこからこんな…!」
さらに、見たこともない獣たちが影から飛び出し、僧侶たちを囲い込む。カノンとタケルは縦横無尽に疾走し、瞬間移動とも思える速度で交互に攻撃を繰り出した。
「スピードを上げよう!」
タケルの声とともに、動きが加速する。
目にも止まらぬ閃光が駆け巡り、僧侶たちは次々と後退させられた。屋上の端へと追い詰められ、後ろには漆黒の闇が広がるのみ。
「しまっ——!」
最後の一撃が炸裂する。
僧侶たちは防御を固め、全ての攻撃を受け止めた——が、耐え切れない衝撃に足場を失い、そのままビルの縁を越えて消えていった。
「あっ!」