章-Show-が始まる
物語になっていくよ 光と空の記憶のすべて
Flighting birds like sing. どこへだっていける自由の翼
今は
Shiny Stories
アイドル冬の時代、と呼ばれる時代があった。
バブルが弾けたことによる余波により着飾った視覚的に分かりやすい魅力よりも、「技術」とか「音楽性」とか「パフォーマンス」とかで形もないあやふやな指標でタレントを推し量るようになったのだ。
結局この冬の時代はある一筋の流れ星がこれまで全ての指標において合格点を出したことで雪解けの時代となった。
これはアイドルを目指すものにとって幸福ではない
一度上昇した基準が下がることを、消費者は是としないのだ。
既存の基準から逃れて別のシステムを作り、そして基準は多様なものとなっていった。
現在において「アイドル」の名は原義のidolのもと多様な基準をもとに吊り上げられた消費者の虚飾の期待であり、存在しない期待のために当人の頸を締めるものとなっている。
*
極月学園、応接室。机の上にはこれ見よがしに黒蓮が盆の上に載っていた。
「アイドル嵐の時代」
応接室の上座、極月学園の出資者の1人の黒井がつぶやく。
「君が引き起こしたあの数年を、そう名付けようと出版社に掛け合っているんだ」
「……アイドル関連の用語に『嵐』を用いると面倒なことになりません? 私たちにとっての男性アイドルって言われれば……ねぇ?」
下座に座った男が軽口をいう。現代においては珍しくコンタクトではなく眼鏡をかけているが、そのレンズは汚い。年齢は20代の終盤のようだ。
男の言葉に「せめてJupiterを想起してほしかったな。あれは私が作った」と黒井は言う。
「嵐でも台風でもサイクロンでも良い。問題は……君の立場は分かっているだろう? 君がアイドル業界に与えたネガティブな影響は優に数億を超える」
「そのまま消えてしまえば良かったのに」
「私たちにとってはそうはいかないのだよ。――この話はすでに天井くんのところでも美城さんのところでも散々しただろう?」
「……まぁ」
「だから君は極月に飛ばされた。アイドル業界の崩壊を企んだ男をシャバに放っておくよりも自分たちのところで管理したほうが良いと、天井くんがど~しても泣きついたからな! だからこの学園の最大出資者であるワ・タ・シが! 極月に掛け合ったというわけだ」
あの男の様子もあれは見物だった、と化けの皮を早々にはがし始めた黒井に男は白けた表情を見せる。
「君も構わないだろう? 規模は小さくなるが君の願いは叶うわけだ」
「……NIAで大敗北を喫し、炎上中の極月学園は確かに私にとっては天国ですね」
「そうだろう、そうだろう」
彼の言葉に黒井は満足げに頷く。
「言っておくが君に拒否権はない。せいぜいアイドル業界の発展のために飼い殺しにしてやろう。――もっとも君に拒否する意思はなさそうだが」
「まぁ……はい」
「では書類にサインを。ここで回収はするが、写真を撮ってもらっても構わない」
「そうですか――じゃあ、はいピース」
「誰が私を撮影しろといった」
これ見よがしに胸ポケットに挿したペンに手を伸ばした男に対して黒井はそんなことを言ったが律儀にピースサインをした。
*
机に乗った盆の中の水が揺れで溢れるんじゃないか。そんな杞憂を抱きながらペンを手に取る。
書類の文面は読んだ上で撮影した。内容は法律素人の彼であっても問題ないと判断できるものだったが、一応は協力者に確認しておくべきだろう。
サインを終えると応接室に誰もいないことを良いことに大きなため息。反乱分子を懐に収める経営者達の考えには理解できない。
書類一式を封筒に入れて、待つ。黒井が人を呼んで戻るまでの時間は恐らくそこまでかからないはずだ。用心のため周囲を見渡してみても分かる位置にカメラのレンズは確認できない。
ノックがされる。こういうときはどうするべきか、悩む前にドアが開いたため慌てて立ち上がった。
「――失礼します」
断りもなく戻った黒井に続いて入った少女の姿に見覚えがあった。
「さて――! 君に任せたいのはこの学園の優秀生徒である彼女だ! 見たことはあるだろう?」
「……まぁ、見たことは」
見たことはあった。NIAにおける極月全体の炎上のきっかけとも、ランキングの低下を引き起こしたとも言える生徒。
「……白草四音です」
「君には彼女の炎上による人気低下の脱却、そしてSNS運用を頼みたい。そういうのに関しては君の得意分野だろう?」
「………なるほど、そういう事ですか」
疫病神扱いされるのは構わないが、それによって生贄を差し出されるまでは予想できてなかった。
頭を下げた四音が顔を上げたことを確認し、少し悩む。
「白草――さんだったか」
「……はい」
名字を確認しただけなのに、この視線。アイドルとして優秀な姉がいることは知っていたがここまでとは。
「白草……白……うーん、まぁ余りにも典型的かもしれないけど……いや、黒にすると黒井さんと被るな……」
「……?」
ブツブツと呟く彼に疑問を呈した黒井を無視して、彼は今思いついた偽名を名乗る。
「暗雨――暗雨焦(くらめ こがれ)と言います」
「いや、君は………そうか、そうだったな」
男たちの曖昧なやり取りに間に挟まれた四音は困惑した顔をしていた。
*
黒井は忙しいらしく、応接室からさっさと出ていった。
「……偽名、ですよね」
四音の言葉に焦が目を細める。
「もしかして私のこと知ってます?」
「嵐の時代を起こしたとは聞いてますが、具体的に何をしたのかまでは。本名も知りませんわ」
「……嵐の時代っていうと別のアイドルを想起してしまうんだが」
「少なくとも極月のコンプラ授業ではそう名付けられています」
「ちなみにその……『嵐の時代』がなぜ起きたかは」
「知りません」
「ふーん……」
まぁ当然か。自分の功罪が隠されたことをその一言で下すと、今度は四音が質問をする。
「私のことは……どうなんです?」
「ツイスタで見たことがありますね。初星の月村……何だったかに煽られてた映像を見たことがあります」
「……姉のことは」
「聞いたことはあります。ただ海外の人間に興味はないですね」
「私のことをどう思っていますか」
「さっき会ったばかりの人間の印象はないですね。ただ……まぁネットの反応とか炎上とか見ると猫かぶり系だというのは。まぁ――」
焦は昔の事を思い出しながら、噛み締めながら言った。
「お前の猫は薄すぎる。直ぐに本性を表すような薄っぺらい面の皮で、避妊にも使えない」
「ひに……」
「俺はお前の究極を知っている。見たことがある。傷つきやすく、それ故に人を傷つける本性を完璧に隠し、自己に向けられた罵声を歓声にかき消す本物の猫かぶりを――本物を知っていた」
「……その人は」
「…………さぁね」
強い言葉を言っていたのに、すぐにはぐらかした。その事を隠すように焦は誤魔化すように目を瞑って首をカクカクと動かす。
「まぁ……何です。白草さんは猫かぶりには向いてない、です。……まぁ向いていようがもう本性がバレてるから被っても仕方がないんですが」
「……よくも簡単に人のスタイルにケチをつけるものですね」
「野球選手にリフティングを教えても仕方がないでしょ」
焦が肩をすくめて続けた。
「ま、似合わない猫かぶりを捨てるにせよ……後生大事に残して燻るにせよ私は頑張りますよ。それが契約ですから」
「……腹立たしいですが、黒井さんがくれた最後のチャンスです。貴方が私をアイドルにしてくれるのならば、私は如何なる事もしましょう」
「……そうかい」
彼女の本性が垣間見える言葉に、彼は諦めたような態度を隠さずに言った。
どうも、勉強サボ浪です。
明日から新社会人なので投稿します。嫌だな………もう嫌。
自尊心を上げるために停止していた新作を稼働させます。
山場1つ分は書いていますので、それまでにエタるかどうか決めたいと思います。