蛇足   作:勉強サボ浪

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唯一の望み以外 何も惜しくはないの
優しすぎるあなたのためなら何度でも捧げましょう
諦めてくれるなら



OveR

 初星クリスマス感謝祭、と言えば――と言っても特になんら明言することがない。

 ネガティブな意味ではない。あまりにも完成された基本に忠実であるという意味である。

 基本的な物のみで構成されており、なんらいつもと変わらないライブはファンを安心させるということを知っている。

 なのに今回は極月学園を呼ぶということは――

 

「……経営方針の変更か?」

「それ以前に、極月とは因縁が深すぎるからねぇ……」

 

 外部の撮影スタジオを使った撮影の翌日。なだめながらも説明を今日に持ち込んだのは事情が入り組んでいたからだろう、と四音は推察する。

 並べられた今年度のクリスマス感謝祭の参加資料と前年度までのパンフレットを見渡すと、決定的に違うのは極月を呼ぶということである。

 

「――んじゃあ、あらためて説明しようか。簡単に言えば初星のライブに我々に参加の依頼が出ている。内容は……Re;IRISとの対バンに白草四音・藍井撫子・賀陽燐羽の3人を敵役として出すというもの」

「対バンのルールは?」

「剣道の団体戦みたく、1on1を3回繰り返して勝ち星が多い方が勝ち……だな。極月の決闘と似てるな」

「……先のボクの決闘を意識しているのか」

「それは建前で、たぶん違う。次のページを見ればわかる」

 

 四音のつぶやきに焦は否定し、彼女はその尊大な言葉に少し嫌な顔をしながらページをめくった。

 1戦目は藤田ことねVS藍井撫子、それは予測済みだ。しかし2戦目が月村手毬VS賀陽燐羽、で大将戦が花海咲季VS白草四音。

 

「……おかしくないですか?」

 

 撫子の言葉は事実だ。

 白草四音は月村手毬のソロ曲を強奪した。ならば月村手毬との正面対決が筋は通るはず。なのに中堅戦が手毬と燐羽、大将戦が咲季ということは……

 

「捨て大将、ですね。初星的には極月を出すことでの注目度の向上、および元SyngUP!メンバーの戦いが最大の見せ場………私との正面戦闘は相手を潰しかねない、と判断しましたか。……どうでしょう?」

「及第点だが、まぁそんな感じなんじゃない? メインは賀陽さんと月村手毬の正面対決で、白草は客寄せのための方便、藍井は……マスコットと対バンが2戦だと盛り上がれないからだと思う。桃園を呼ばなかったのは、実力的に無理と判断したかな」

 

 撫子が「マスコット……」と小さく漏らしたが否定しづらいのだろう。良くも悪くも彼女は四音の陰に隠れてあまり有名になっていないきらいがあるが、まぁ炎上上等な四音に行われているプロデュース方針は企業の社長の娘には使いにくいから間違ってはないのだが……。

 

「及第点、とはどういうことでしょう。……私の予測に問題点が?」

「当日のスケジュール表を見た? 問題は対バンの前後だ。………花海咲季が捨て大将として、敗北を初星の経営陣は認めると思う?」

「えっと………うん?」

 

 その言葉の通りに2人はページをめくった。

 対バンの前は秦谷美鈴のソロ。

 対バンの後はシークレット企画。まぁこれはこれまでのクリスマス感謝祭でもあったし、アイドルのライブではしょっちゅう行われるが。

 

「懸念点はシークレットの内容ですか? 前回までの傾向だと――いや、今回は前例のないパターンか。大将戦で私が勝った時のことを考えると………きっと私以上の知名度、いや悪評を覆す歓声が必要になってくる。となると……最大戦力がやってくる可能性がありますか」

「なにが飛んでくると思う?」

「一番星――十王星南、および彼女がプロデューサー兼センターのBegraziaが出てくると思います」

「それも考慮しなければいけないけど……多分、SyngUP!が再結成されて1曲やりそうだなぁ……」

「ありえそうだな……」

 

 想像できる。おなじライブに元メンバー全員がそろっているのだ。可能性としては考えられるし、SyngUP!の元ファンは絶対にそれを願っている。それを初星の経営陣は狙っているはずだ。

 考えられる線としては対バンの後に十王星南が1曲、そしてSyngUP!が1曲。星南は卒業ライブが来年の3月に行われることは確定しているのだから、SyngUP!のほうがメインにするだろう。

 

「まぁこれは一旦おいておこう」

「置いておく? ほかに伝達事項が?」

「実は黒井さんが2月初旬あたりにウチのライブをセッティングしてくれた。それの前後にいろんな仕事を入れるんだけど――それはさておき、そこで新衣装と新曲を出す」

「ライブに、新曲と新衣装ですか……。連絡が遅いですね」

「まぁこれは……確定したのが一昨日ぐらいだったんだ。前々から黒井さんから相談されてたし引き受けてくれそうな作曲家とかの候補を挙げてたんだけど――もうちょっと詰めてから伝えたかったんだけど……」

「初星のクリスマスのせいでプランが崩壊したと」

 

 四音の言葉に焦が頷いた。彼のプロデュースは基本的にかなり綿密に炎上計画を組み立てるタイプであるため、今回のようなイレギュラーは炎上の火力が下がるのを見越しているのだろうか。

 

「それで2人に相談なんだけど……初星のパフォーマンス、置きに行く?」

 

 彼の質問に2人は一瞬だけ思考して答えた。

 

「まさか。血祭りにあげてやりますよ」

「攻めたいのは重々ですが………予算とかスケジュールは大丈夫なんですか……!?」

 

 慎重なことを言う撫子に四音は少しだけ面倒だと断じようと考えたが、尤もであるとも思う。クリスマス感謝祭までひと月と数日しか残されていない。衣装はさておき、曲のほうは練習量に直結するから時間はギリギリである。

 

「まずは予算。黒井さんから支援は受けてるし、パトロンの支援金のロンダリングも兼ねるとしても2曲2衣装を特急では不可能だ。何よりも時間。どう頑張っても真っ当な方法なら練習時間は1週間もとれない」

「真っ当な方法なら――まさか、また飛び道具を使うんですの!?」

 

 撫子の質問に焦は答えずに、まずは確認した。

 

「藍井。申し訳ないがお前は昨日の撮影会の軍服衣装で出す。曲もお下がりだ。頑張ればどっかの企画の没案をブン捕れるかもだが……これは2月のライブの武器にしたいから諦めてほしい。大丈夫か?」

「………いけますけど」

「良かった。お前は先鋒、確実に勝たせたいから安定した勝利に期待する」

 

 文言はまともだが、少し先を見通せば「企業令嬢を炎上させる飛び道具は使えない」と言われているようで撫子は少し不満だった。

 

「それで四音は――ま、前回と同じく飛び道具で行きたいんだが……こっちも時間がない、し、死に方ぐらいは選ばせてあげたいから2月のライブの企画案をいくつか用意したからそれから選んでおくれ」

 

 焦がいくつかのプリントの束を四音に渡した。どうせ中身は相変わらずの露悪趣味の塊なのだろう、と諦めながらページをめくる。

 

「……よくもこんなものを。お前の脳は、下劣で、足りないんだな」

「素敵だろう?」

「あぁ、まったく」

 

 

 賀陽燐羽からは何の情報も得られなかった。SyngUP!の再結成に関しての情報は否定も肯定もされなかった、ということはほぼほぼクロであろう。

 極月のレッスン場ではレッスン着を着た撫子がKisSの練習。もとよりダンサブルな曲というわけではなく、歌詞もシングルローズとしても藍井撫子としても酷似しているからという理由である。藤田ことねが新しい曲を卸す可能性もあるが、そんなことを考えていてはどうしようもないという判断だった。

 一方その横で四音は撫子のレッスンの様子を見ながら昨日の撮影に使われたステッキをマジシャンのようにくるくると回す練習をしながら撫子の練習の様子を見ていた。制服だから激しい運動をするつもりはなかったようだが、ステッキ操作が案外重労働らしく汗ばんで上着を脱いでいた。

 スマホに接続されていたスピーカーが音源の再生を終了する。

 

「四音お姉さま、どうでしょうか!」

「そうですね……」

 

 四音は左手でステッキを回転させながら答える。

 

「まぁ、まずは歌ですね。通常……と言うよりも、踊らない状態でもかなり怪しい部分があったのにダンスもやっているからどっちのクオリティも下がっています。……にしても粗末ですね。何度もやったことはあるのに、まだこのクオリティなのですか?」

「ぅぐ……すみません……」

 

 いや別に責めたい訳ではないのだが……、そう四音が思った瞬間にステッキが左手から離れて床に落ちた。外観と乖離してやけに重たい音がする。

 

「……意外と疲れるな、これ」

「私のレッスンの様子を見ながらステッキを振ったりお手玉したり……これってマルチタスクのレッスンになるんですかね?」

「あの男が提案したことです。私にはなんの責任もありませんし、全責任はヤツに任せればいい」

 

 四音がこんなレッスンと言いにくいトレーニングをやっているのは彼女のマルチタスク能力を向上させる、というよりかは急場凌ぎで用意する新曲がまだ仕上がっていないからという理由のほうが大きい。

 暇してるのも良くないし、かといって新曲の歌詞の草案やら要望やらはすでに挙げたのだから今の四音にはやることはない。

 

(……というか、これ以上アイデアを持ち込まないでって言われたな。ポンポン新案を挙げていったらとっ散らかる、というアイツの言葉も理解はできるが………)

 

「2週間で新曲とダンスを用意する、という言葉を信じても良いんでしょうか」

 

 この前のミーティングから2日もたっていない。なのに気を急かす自分の余裕のなさが嫌だった。

 

 

 インターネットの誹謗中傷が本格的に問題になったのはコロナ騒動以降である、と言ってもいい。だから13年もたてばある程度の円滑化は出来ている、という祈りはどうにも届かなかったらしい。

 

「Syng UP!の解散騒動が今年の1月。11か月――1年弱の結果が『加害者が非課税世帯だから支払い義務は発生しない』ですか」

 

 学園の応接室の賀陽燐羽のつぶやきは新任の弁護士を委縮させた。

 

「ま、分かっていたことだったろ。加害者はツイスタで云々言って暴れて、ネット掲示板で特定されてたじゃん」

「え、そんなことになってたんですか? ブロックしてたから気づかなかった……」

 

 焦からの弁護士の擁護の言葉は、まぁ良くあることである。

 

「どうします? 刑事までいきます?」

「それも良いんですけどね……961プロとしては金をこれ以上出すつもりはないらしいです」

 

 弁護士の言葉に燐羽が答える。これ自体は焦も知っている。知っているが……あの黒井社長が刑事裁判の金を我慢するとは思えない。そんな価値もない、と考えたのかもしれないが――

 

「……100プロ的にはどうな訳?」

 

 彼の言葉に燐羽が少し困ったように、そしてかなり面倒くさそうに「……出すわけないでしょう」と嫌そうに言った。

 

「困ったねぇ……。あ、そういえばこれお持たせです」

 

 焦が変なタイミングで弁護士に紙袋を渡す。変に思った燐羽だが、弁護士も同じ感情らしくお菓子の箱を開ける。中身は……まぁ普通のよくある紅茶の詰め合わせだが……弁護士が何かを察したようにアルミの箱をひっくり返すとそこから金色の塊が出てきた。

 

「100グラム。現在のレートで160万。使い方は任せた。どうせいくらか溜め込んでるんだろ?」

「………え」

 

 驚いた顔の燐羽をよそに弁護士は慣れた手つきで中身を元に戻し始めた。

 どう考えても袖の下である。しかしそれ以上に……燐羽もある程度は裁判費用のことは調べており、相場よりもかなり高額の値段をぶっこんでいることは把握していた。

 

(この人……!? いったい何が目的でこんな高い金を出したの――)

 

「あぁ、それとお姉さんとその友人にくれぐれもよろしく伝えておいてくれない?」

「……それも兼ねがね、あなたとは仲良くしていきたいものですね」

 

 何事もなかったかのように弁護士は刑事裁判用の資料を広げ始めた。

 特に異常が起こっていないようにふるまう2人の男の様子に、燐羽はとんでもない人間を頼ってしまったのではないかと後悔し始めた。

 

 

 初星学園がなぜクリスマス感謝祭に極月を呼んだのか、という当然の疑問の答えはやはり「SyngUP!の再結成」という大きな目玉が控えているからである。

 ただ燐羽の所属は極月のままというのはかなり利権関係が面倒になることが予測されたが、あの社長が燐羽関係のグッズの売り上げや投げ銭は極月学園に一任するということを決定したという文言に娘である十王星南はかなり驚いた。

 でもすこし整理すれば分かることだった。

 

「暗雨焦……それが白草四音のプロデューサーであり、アイドル嵐の時代を引き起こしてアイドル業界の失墜を狙った人間の名前」

「はい。……まぁ偽名ですし、プロデューサーと言っていいのかは」

 

 Re;IRISのプロデューサーの言葉に星南は「肩書などどうでもいいわ」と切って捨てた。

 

「283や346に限らず様々な元アイドルから提供されたファンからのセクハラの証拠や事務所が行っていた過激なプロモーションを大陸系やキリスト系のメディアにリーク。海外メディアの批判を利用して国内の有名フェミニスト団体の言論操作に成功。結果アイドル含め様々なタレントのファンコミュニティを崩壊させることに成功。『サマール』という会社を発足して『女性アイドルがこれまで受けていたファンやアンチからの被害』にフォーカスすることで男女間の対立を生ませ、新サイバー条約にのっとったネット上の表現方法の厳格化に成功、結果アイドル嵐の時代を引き起こした個人です」

「女性アイドルだけ、というのはなぜかしら」

「単純にタイミングの問題です。961の介入が少し遅ければ、男性アイドルのそれも出す予定だったと」

「……ちなみになのだけど、どこからその情報を得たのかしら?」

「件のフェミニスト団体と海外メディアの記者です。あと……本人からも。『痛い腹を探られるぐらいなら、自分から公開してやる』と」

 

 11月だというのに、いやな汗が流れる。いや一般的にプロデューサー室と呼ばれる学園の部屋は基本的に空調が効いているのだが……それを含めてもだ。

 暗雨焦本人からの情報提供もさることながら、外部組織にさらっと取材を進めているこのプロデューサーは何なのだ。

 とりあえずそれをごまかしながら星南は続ける。

 

「……とりあえず、初星の考えとしては『意地でも暗雨焦に自分たちの素性を探らせたくない』とのことよ。金はやるから全部の責任を961に押し付けたい、961さんもその責任ぐらいなら抱え込むという感じよ」

「961プロがどうしてそこまで自罰的なのかは知ってますか?」

「暗雨焦の主張は究極的には正しいから、とは仰ってたけど」

「どうやら極月の出資者の中に彼を雇っていた者がいたと……。そして彼のこれまでの行動やサマールの動向、白草四音の決闘で行われた『SOS』から283プロとの関わりは確実です」

「283プロ……ねぇ」

 

 事の発端がアンティーカの解散であることからそれ自体は予測できたが、あの社長――天井努がアイドル冬の時代を終わらせた八雲なみの選任だというのはほぼ公の事実である。暗雨焦が八雲なみを狙うのは当たり前ではあるのだが――

 

「……そういえば白草四音の――『SingleRoseProject』だったかしら。それの動向はどうなってるの?」

「錆鍵と呼ばれる組織の取材に応じて、いまは動画サイトで活動していますね」

「錆鍵? 聞いたことないメディアね」

「……非公開の情報ですが元アンティーカのメンバーが作った二世芸能人の保護を目的とした組織らしく」

「それ以上聞く気はないわ。デバガメするほど性格は悪くないもの」

 

 とん、とん、スマホを叩いて動画サイトで検索するとすぐにシングルローズのチャンネルが出てきた。サムネイルから見ても分かる、なんてことのないレッスン動画である。

 問題はレッスン動画しか出していないこととコメント欄を封鎖していないことである。

 あんな大立ち回りをしたのだからバラエティ系の動画を作りにくいというのは分かるのだが、だからってレッスン動画を出す意図が分からない。加えてコメント欄はかなり炎上しているのに何一つ対策されていない。一応固定メッセージ欄で投稿者の誹謗中傷に関する注意書きはなされているのだが……

 

「撒き餌?」

「だと思います。賀陽さんの件しかり、決闘での白草四音のMCしかり――あの男はアイドルのファンに対してかなり攻撃的でプロモーションに悪意を混ぜ込む傾向にありますから」

 

 もっと調べてみると白草四音のAIコラ動画が大量に見つかって星南は頭が痛くなった。インターネットのモラルというのは20年前から変化していないのは呆れる。

 

「……気が滅入るわね」

 

 白草四音には特段の感情も無いが、同業が誹謗にあっているという状態はあんまり見たくないと思ってスマホの画面を落とした。

 

 

 

 

 




白草四音、プロフィールが全く分からないので「長身のスレンダーだけど貧乳なのを気にして上げ底している」が出来るんですよねぇ。
えぇ私の性癖です。本編には全く関係ない
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