映し出す未来の 見え方は
用意された部屋は長年使用されていないことが伺えたが掃除はされていた。
「意外ですね。左遷されたのに、きれいな部屋を用意するとは」
「もし疫病神を鎮めるとき、ボロ小屋を用意する権力者はいないでしょ」
部屋に入るなりコンセントと机・椅子の調子を確認すると焦は適当な椅子に座った。
「早く座って。これから『これまで』と『これから』を話し合わなくちゃいけません」
「……下手な敬語を使うぐらいなら使う必要はありません」
冷たく言った四音に焦は「じゃあ遠慮なく」と躊躇なく言いながら先ほど応接室で渡された書類を机の上に広げた。
「えー……白草四音。アイドル対抗イベント『N.I.A.』内にて――決勝敗退。同イベント内でライバル校に対して引き抜きをかけ、悪評・ゴシップ動画の流布に審査員の買収の持ちかけ……さらには他校との言い争いがツイスタにて暴露され炎上……。ひでぇな」
「別に私はこれまでと同じようなことをしただけです」
「なおのことだ。盤外戦術をここまで目立つように行う奴が、これまでまともな裏工作が出来たとは思えない。大方誰かにやってもらってたんじゃないか?」
「………そうですね。私の――友人ともシンパともいえる方やサポートの方に手伝ってもらっていました」
「前者は……月村に煽られた時に一緒にいた子か」
「はい。藍井撫子です。後のは賀陽燐羽です」
「賀陽燐羽に――月村……あぁ、SyngUp! の一件は俺でも知ってる」
不遜な態度で椅子に座り話を聞き流す四音を不遜に無視しながら焦は続ける。
「アイドルランクはA――NIA前の調査か。じゃあ今はBぐらいか」
「そうですね……少なくとも公式ファンクラブは2000ぐらいかと。前は2万超えてたんですが」
「すごいな。2万なのに曲なしとは、極月はお前の不祥事を予見していたということになるな」
焦はもらっていた極月学園のパンフレットをカバンから取り出した。
「極月の共同出資者は……961・346――283に765と876も……? あの黒井さんが765に協力を打診するとは思えないけど」
「そうせざるを得なかったようです。嵐の時代に初星学園と同レベルのアイドル学園を作れるほどの博打を打てなかった。100プロは初星を単独で立ち上げた。その結果、初星はプリマステラを見つけられた。極月は――月花姉様を見つけられたけど、すぐに961さんが引き抜いた」
「ふぅん………まぁいいや」
極月の事情などどうでもいい、と言わんばかりにパンフレットを閉じた。資料を順繰りと確認していく。1枚の紙を確認して焦はつぶやいた。
「あぁ――これが。……なるほど」
「…………?」
「黒井さんも、常軌を逸している。これほどに真っ当に、しかし不適なのは中々無い」
その紙をクリアファイルに戻しながら焦は正面に座る四音を見据えた。
「さて――白草四音だったか」
「……名前、憶えてなかったのですね」
「人の名前を憶えるのが苦手で」
パソコンを取り出し極月のデータベースにアクセス。NIA決勝の四音のパフォーマンスの動画を見る。
「………まるでこっちを見てない。すごいな」
「評価する相手のことを想って見るのは基本では?」
「一応聞くんだけど、面接で何か聞かれたときって質問者を見る? それとも面接官の中で1番偉い人を見る?」
「質問者を見ますね」
「……ちなみに、NIAの準決勝とかその前とかは? 決勝どころかその前であってもファンにもアピールしなくちゃいかんでしょ?」
「もちろんファンサービスはそれなりに。愚鈍な消費者が満足する程度には」
「ふーん……」
ファンクラブの映像を確認する。パフォーマンスは満点だが、態度は隠しきれていない。
「確かに。『愚鈍な信者』なら騙せるだろうなぁ……。でも、バレバレ。オタク嫌いです、っていう態度が透けて見える」
「分かりやすいですか?」
「ん~……俺が穿って見てるだけかもしれん。こういうの、好きではあるんだが――まぁ大成はしないし、『これから』が困るな」
「……これから?」
四音の問い掛けに焦が先ほど閉じた資料を見せた。そのパンフレットの表紙を見るなり彼女は眉をひそめてつぶやく。
「『W.I.N.G.』……! これが黒井理事長の資料にあったってことは――」
「勝てって事だろうなぁ……」
WINGの資料を読み始めた四音を見て焦が滔々と説明を始める。
「ワンダー・アイドル・ノヴァ・グランプリ……公式略称『W.I.N.G.』。公式会員からファンを奪い合う画期的で現代的な『N.I.A.』とは逆に、審査員相手にパフォーマンスを行うのがWINGだ。NIAが審査員とファンの投票で結果が決まるのに対してWINGはアイドルランクで出場者を選抜、その後2回のオーディションで優勝者を決める。――そういえば一昔前に終了したって聞いたけど」
「今回が復刻して最初の大会らしいですね。……知らなかったのですか?」
「復刻……?」
手で資料を渡すように催促して返してもらったパンフレットを眺める。ルールの変更点は……
「参加可能アイドルはA以上に変更、他はあんま変わってないな……。主催は――『283プロダクション』……WING無冠の帝王が、ねぇ」
「ランクA……かまいません。すぐに達成して見せましょう」
「無理だろうな」
四音の言葉を焦は即座に否定した。鼻白み、冷たく不快げに睨んだ。
「ほう……なぜそんなことが言えるのでしょう?」
「前回お前がAランクとったのは『白草月花の妹』だからだろ?」
「………」
「お前のパフォーマンスは芯がない。『ファンのため』か『自分のため』――それがアイドルが大成する絶対条件。お前は何も見ていない。会場にいない誰かを見返すためにパフォーマンスをするもんだから、美術的価値はあっても親しみさがない。世界的トップアイドルの妹という親しみやすさはあったが、それもNIAのときの云々で吹き飛んだからな」
「随分と……甘いことをおっしゃるのですね。絶対条件だなんて」
「確かに。らしくない。はしゃいでるのかもね」
話の腰を折った四音を特に気にも留めず焦は続ける。
「さて、どうしよう。これまで使っていた良い子戦術はお前の本性が明らかになった以上使うことはできない。新しいプロデュース方針を決めるか、それともずるずるとそのままでい続けるか」
「あなたに課せられたのは私のSNS運用。プロデュースまでは任されていないはずです」
「だからだよ。方針が決まらなきゃ、SNS運用ができない。いくらファンを無視したいといってもWINGはランクAにならなきゃいかんし、そのためにはファンを稼がなきゃいかんだろう」
「……………面倒な」
「全くだよ。同情する」
白草四音が面倒だと思ったのは目の前の男だったが、まるで他人事のように返してきた。
(……大体何なんです、この人。『アイドル嵐の時代』を起こして芸能界自体を滅ぼそうとした人間を雇うなんて……黒井理事長もおかしいし、生贄にボクが選ばれたことも腹立たしい)
「きちんとNIAの不祥事については謝罪動画を出しました。それで……『良い子戦術』は満足では?」
「足りないね。水着グラビアでも出せればファンの馬鹿ども8割は戻ってくるが……その仕事をとってくるまでが長いし、面倒だし、向いてない」
「……面倒? 高校生の水着ですよ?」
「高校生アイドルだから処女性が必要なんだよ。条例にも引っ掛かりそうだけど……それ以前に高校生が買収なりゴシップなりをやって『純粋です』は通らないし、そんなことをやる奴なんて売女だって思われているだろうな。そんな女の水着なんて誰も見たくないんじゃないか?」
「……口汚いですが、それは認めましょう」
処女性。それが目下の課題だった。
なければ人気絶頂のアイドルであっても地獄に叩き落され、しかしあっても人気になるわけではない。実際に四音も初星学園の姫崎莉波に行った工作も処女性を失墜させるためのものだ。
「……ですが、高校生アイドルが人気になるにはそれ以外の方法が無いでしょう? 露出の高い服を着てみせて、胸を揺らして、おおよそ人間が行わないであろう行動を『個性』と呼んでようやく人気が出る」
「はは、確かに。『物語がちゃんとしている作品は評価できる』とか評論家ぶっている奴ほど、4ページで完結するようなわっかり易いキャラクターを好むんだよ」
「だからそれに準じないと無理でしょう。例えどんなに理想を掲げても売れなくては埋もれるばかりですよ、評論家さん」
「……そう、残念」
説得をあきらめたように焦は話を打ち切った。
それで良いのだ。彼はSNS運用を任されたのであって、白草四音のプロデュースは白草四音しか許されないのだ。
(会って1時間の男に何がわかるっていうんだ)
彼女の思い、もしくは独りよがりは口に出なかった。
Q.なんでこの作品のタグにシャニマスがあるの?
A.白草四音がWINGに出場するから。
どうも、社会人1年目の勉強サボ浪です。もういや。
どっかのだれかが「白草四音はシャニマスキャラのイミテーションである」的なことを言ってしまったせいでこの作品は生まれました。無論シャニマス要素がそれだけではないのですが……。
もうちょっと待ってください。面白い部分はもうちょっと先です。
……読んでもらうことを考えてない作品だからなぁ……。果たして読者はどれほどいるのやら。