ずっと走った息継ぎもしないまま
そして時はすぐに流れ、10月の終わり。
極月学園屋外ステージには100人程度のギャラリーが集まっていた。
白草四音と桃園花音の決闘が知らされたのが10日前。そしてアイドル科の生徒が180人程度で全校生徒が700人程度なことを考えるとこの数はなかなかに微妙だ。
しかし普段の決闘ではせいぜい20人しか集まらないと考えると盛況かもしれない。
《さて、これから桃園花音と白草四音の決闘を開始します》
声楽科の人間が舞台脇からマイク越しに宣言をする。歓声はないが拍手は起きた。
《桃園花音、前へ》の合図で桃園がステージに上がった。
《みんなー、今日は応援よろしくねーっ!》
アイドルとしては定型文の声掛けだったが一定の効果はあったらしく歓声が聞こえる。ただ中身は「白草四音を倒せー」とか「下剋上だー」とか「ビックマウスに見合う実力を見せてみろー」とか、彼女にまつわる情報がない。
「そういえば、桃園花音……あの人、自分の犯行をツイスタ内で発表したの知ってますかぁ?」
「さすがの情報弱者の俺でも知ってる」
屋外ステージ近くのプレハブ小屋の一室では撫子と焦がネット中継されている内容を見ていた。撫子の言葉に焦が肯定する。
「発表しなければ、捨てアカ使って暴露してやろうと思ってたんだが……。アテが外れた」
「うわ、大人気な……」
「おかげで前調査では桃園がやや優勢。やはりアイドルは愛想だね」
「自分のプランを捨てるような発言はやめてくれません?」
そうこうしている内に《続いて白草四音、前へ》と響く。
彼女がステージ脇から出た瞬間、カメラが一瞬ブレた。
「え」
「――よし、いける」
ギャラリーのどよめきがライブカメラのマイクでも聞こえる。しかしそのどよめきは壇上の四音が悠然と歩くさまを見てどんどん消えていった。
四音の服は演劇用の悪の帝国軍の軍服を改造したものだ。その名の通り、随所にはWW2のドイツ軍服と2020年代のロシア軍の要素がちりばめられている。
改造点はペリース――軍服の左肩にかかっている布だ。臙脂に白丸、そして中には何らかの黒い図案。その場にいた全員がナチスのハーケンクロイツを想起したのだ。
無論あれは鉤十字ではなく、なにやらバラのような図案であることは見れば分かるのだがSNSの情報統制に慣れた人間には一瞬でもビビらせる。
「う、上手くいくものですのね……!」
「これで、イニシアティブがとれた。ギャラリーとカメラは白草の行動にくぎ付けになるはず」
ほっと一呼吸を置く彼に対して撫子はかなり懐疑的な視線を送ったが、無視された。
「撫子、行くよ。お前がファーストペンギンだ」
「うぅ……どうしてこんなことに……」
なにやらやり取りをする中継を無視して2人は控室を出ていく。
*
第1セットの先攻は桃園だった。はっきり言ってギャラリーは大興奮のパフォーマンスだった。
曲自体は最近流行している楽曲のカバー。しかし問題は――
「ガールズバンドの生演奏……!」
締めのMCに入った桃園を尻目に舞台裏の有線がごちゃごちゃしている場所で撫子は言う。
「お相手さん、本気だね。まさか極月のデビュー前のガルバンを雇うとは。どこから金を出して、どこのコネを使ったんだろ」
「その、全員極月の生徒ではあるんですが……」
「明らかにおかしいね」
この勝負は普段の馴れ合いではなく、完全にお互いを潰しあう目的で行われている。手を貸した陣営が負ければ自分もつぶされることは誰でも考えられるし、1か月で3曲の練習を強いることは難しいはず。なによりデビュー前の彼女たちが簡単にセッティングを済ませていたのが気になった。
「……困った」
「ひぅ……負けるでしょうか……」
「いや、困ったのはこの程度で目がくらむ観客の質の低さにだ。ガルバンは予想してなかったけど、この程度は巻き返せる……と、思いたい」
圧倒的な自信に撫子は涙目ながらも焦を見る。
「でも、生演奏ですよ……! 四音お姉さまはただのインストで……」
「……大丈夫。ただのデジタル音源でも、四音にかかればオーケストラだ」
「……………適当なこと言わないでくださる?」
「まぁまぁ、どうにかなるよ。どうにか――」
音源再生用に貸し出されたノートパソコンを操作していた焦が途中で言葉を止めた。不審に思った撫子が声をかけようかと思った瞬間、急に彼はパソコンから一本のケーブルを引き抜いた。
引き抜いたケーブルの先は、切断されていた。
「…………………えっ」
「やられた」
苦々しくいう彼に撫子は青ざめるほかなかった。
*
初星学園、Re;IRISの面々は視聴覚室に集まっていた。
「生演奏か……すげー金かかってそう」
「でもあんなのこけおどしだよ」
モニターには極月学園の決闘の様子。3人は手毬のプロデューサーの先導の元、この配信を見ていた。
ガールズバンドの生演奏を「こけおどし」と言った手毬にプロデューサーが「そうですね」と続ける。
「え!? 手毬のプロデューサーもそう言っちゃうわけ!? ……なんで?」
「この決闘はあくまでアイドルの為でしょ? なのにこれじゃあバックのバンドの人が目立っちゃってるじゃない」
当然、と言わんばかりの咲季の口ぶりにプロデューサーが「半分正解です」と答える。
「もう半分は『この決闘で投票をする人の大半はネット中継で見ている』ということです。いくら生演奏であっても、市販のスピーカー越しならば無意味ですから」
「え、でもかなりよく聞こえたわよ?」
「それはこの視聴覚室のスピーカーのおかげです」
いろいろ解説していくプロデューサーの横で手毬が満足げに頷いていたが、(ありゃあよく分かってないって顔だな……)とことねに見破られていた。
「MCについてはどう思いますか、月村さん」
「そうだね、教科書通りで何の味のパンチもないって感じです」
「月村さんのMCに慣れていると、お粥みたいですね」
「それって私のMCが絶品だってこと?」
「……………」
果たしてアレはいちゃつきなのか、それとも介護なのか。かなり失礼なことを考えながらことねはプロデューサーに聞く。
「そういえば、どして私たちを呼んでわざわざ極月の内輪揉めの中継を見ているんです?」
「……月村さんがNIAで優勝して以降、他のライバルたちがどのように進化したのか確認をしたいだけです」
(お、これはなんか隠してるっぽいな?)
そうこうしている内に中継では白草四音のターンが始まった。
誰が言ったのだろうか。最初に放たれた大声に続いて野次ともとれる言葉から観客たちが一斉に罵詈雑言を言い始める。
《お前のせいで、NIAはダメダメになった!》
《謝罪しろ、しゃーざーい!》
《このド三流アイドルが!》
「うーわっ、手毬の教育にわるっ」
「子ども扱いしないでくれる? それに……壇上にも話題にもならなかった五流の味方になんてなりたくない」
「そうね……白草四音には言いたいことはあるけど、でも加害しても良いってことにはならないわ」
3人の発言にプロデューサーは安心したが、それをおくびにも出さなかった。
《………》
《……》
《…》
――そして、3分経過した。
「え、まって。何で白草――何だったっけは何も言わないの?」
その手毬の言葉に全員が場の緊張感から解放された。
「確かにそうだよ! なんで白草四音は何も話さずに直立不動!? おかげで場の空気が冷えて、みんな喋らなくなっちゃった!」
「なにか理由があるんですよね、教えてくださいプロデューサー! ――プロデューサー?」
手毬の懇願は、隣にいるプロデューサーが狼狽していることで困惑の声に変った。
「軍服、鉤十字風……あぁ、全部このためのエクスキューズだったのか……」
「プロデューサーはこれが何なのか、理解しているみたいね」
「えぇ……。思いついても、普通やりませんよ……」
咲季の言葉に肯定しながらプロデューサーは無知な手毬とことねに解説を始める。
「あれはスピーチのテクニックの1つです。壇上にずっと黙って立っている人間がいたら、全員が黙ってその人に集中する。校長先生から独裁者までが行う簡単なテクニックです」
「え、なんで?」
「不気味だからですよ。注意もせず、しかし自分の思った通りに行動もしてくれない。だから次にその人が行う行動が、もしかしたら攻撃かもしれない――そんな恐怖感が今会場に漂っているはずです」
「――ねぇ、これって」
「絶対、真似しないでください。これは会場を黙らせて空間における最上位はいったい誰なのかというのを知らしめす、独裁者のテクニックです。月村さんはおろか十王生徒会長がやってもこれまでのアイドルのキャリアすべてが崩壊すると思ってください」
手毬の雑な提案にプロデューサーがすぐに否定した。
否定する理由は言ったとおりだが、このテクニックを使った有名な独裁者がヒトラーであることが最大の懸念材料なのは間違いない。
「……白草四音、攻めに行ってるわね。後がないから」
咲季がつぶやいた後、モニターの中で四音が手を挙げた。その挙動に思わず注視してしまう。
スピーカーから音が流れる。まるでマイクのスイッチが入ったときのようなハウリング。
それが楽曲だと気づいたのは、聞き覚えのある鍵盤の音が鳴ってからだった。
最初に手毬が気づく。
「まさか――」
《――あのね。》
Luna say maybe――今年の夏に行われたNIAの決勝戦で数々のライバルをねじ伏せたアイドルである月村手毬の初めてのソロ曲が、961の2軍に奪われる瞬間だった。
*
3週間前、極月学園第6特別室。
「……疲れた」
方々を駆けずり回った、というように焦は疲れ果てていた。その様子に撫子が当然のように嗤う。
「ぷぷぷ~、おじさんなんですから体力つけたほうがいいんじゃないですか~?」
「………おじさんかぁ。あと数か月で30歳だしなぁ……」
「え、今29……!?」
かなり驚いている様子の撫子に焦はつぶやいた。
「何というか、最近は妥当なのが分からないよなぁ……。ネットもメディアもイケメンしかいねぇから、俺みたいな『不快なおじ』の年齢が不明だよな……」
「そこまで言ってませんの……」
意味不明なことを言い始めた焦に追い打ちをかけるようにレッスン着の四音の冷たい視線が突き刺さる。
「――で、許可は取れたんです?」
「2曲とも、第1プランの通りに。元々デビュー前のアイドルのライブでカバーするなって言う事務所は中々無いよ」
「2曲目はともかく……よくLuna say maybeのカバーを初星が認めましたね」
「月村さんのプロデューサー経由でね……。あー、怖かった。あれで大学生なんて嘘だろ」
「Luna say maybe……!?」
四音と焦のやり取りに撫子がようやく話を理解できたと言わんばかりに驚愕の声を上げて正気を疑った。
「Luna say maybeって、アレですよね! NIA優勝の……。え、なんでよりにもよってその曲ですの!?」
「アイドル業界で今、注目されている曲だからだ。『起死回生を狙って、かつてコケにしてそして完全敗北を味あわされたアイドルの曲』がカバー、って言うと美談にも喧嘩売っているようにも見えるでしょ」
「喧嘩って……」
「私、持ち歌あるけど」「極月学園の皆さんが先輩方のカバー曲ばかり歌っているなんて」
あの動画の言葉を知っている人間は数多くいるだろう。
……だからって言った本人の曲をパクるのは、その本人の努力を嗤うという意味でも戦いの土俵に上がらない優位性という意味でも正気を疑う選択である。
「上手くいけば初星学園との対バンも組めるかもね。少なくともあの月村って子は間違いなく喧嘩を買うと思う。……あのプロデューサーがどうするかが気がかりだけど」
そういって突っ伏していた焦は立ち上がって「じゃあ付いてきて」と行って出て行く。四音が動き出し、それに倣って撫子が付いていく。
「どちらに?」
「第7レッスン場。あの曲は歌全振りとはいえ、ダンスが無いわけじゃないし……流石の白草四音でも歌の完コピは不可能でしょ。だから専任トレーナーを雇った」
「……随分と話が進んでるんですね」
「むしろ専任トレーナーを口説き落とすのに時間がかかったな。一応の頷きを貰えたのが今日の昼だ」
「……ちなみに、初星のプロデューサーとの交渉はうまくいったんですか?」
「対面ですぐに貰えたよ。『話題性』と『月村手毬への挑戦状』と言ったら案外簡単に」
「月村手毬とは?」
「さすがに……プロデューサーが説明してるでしょ、多分………」
歩いていく四音に撫子は聞いた。
「よくこの男の提案に付き合っていられますね……! 四音お姉さまなら、どうにかできるんじゃ……」
「私は……そうは思いません。少なくとも今の私にWINGの資格があるとは思えないので。それに、責任を見知らぬ大人に押し付けられるのは楽ですから」
使いつぶす満々の四音の言葉を置き去りにして一行はレッスン場につく。大人数用の物ではなく、余った部屋を改造したものだから教室の半分程度の大きさだ。
焦がノックをすると中の人から「いいわよ」と応えが返った。聞き覚えがあるな、と四音が思うより先に部屋に入っていく。
「どうも、白草四音と……藍井撫子?」
「賀陽燐羽ぁ!?」
レッスン場にいた燐羽に四音は驚きつつも納得感があった。
(なるほど、元SyngUp!かつボクたちの元協力者……月村手毬もボクも知っている賀陽燐羽は今回のトレーナーとしては合致しているか)
「納得ですね。賀陽燐羽は確かに、月村手毬を倒すのに必要でしょう」
「倒すのは私。貴方は……喧嘩を売るだけでしょう?」
四音の言葉に燐羽は嫌そうな顔をした。正直燐羽と手毬の因縁など興味はなかったが、さっきのは失言だったと反省する。
燐羽のもとに焦が歩いて話し始める。
「賀陽さん、オーダーはメールの通りに――月村手毬のコピーではなく『権力者や上位者としての恐怖のためのパフォーマンス』。愚かな民衆の優良個体から才能を徴収する、無慈悲な軍人――みたいな感じで」
「歌詞とパフォーマンスが一致してないように思えますけど?」
「重々承知です。でも、そういうのは2曲目にお願いします。白草のLuna say maybeからは月村手毬の愛嬌のようなのをすべて放棄してください。いわば『解釈違いのLuna say maybe』です」
「それ、私にやらせます? 手毬と私の関係性を知っててよくそんな言葉を言えますね……」
無茶苦茶なオーダーに燐羽が苦笑いをする。
いやな顔は一切していない。2人の関係が少し気になった撫子は皮肉気味に聞いてみた。
「あの……やけにお2人は仲が宜しいのですねぇ?」
「まさか……1週間前に会ったばかりだけどなぁ」
「ウソぶるには、知能が足りないのではありませんか? 初対面を装いたいなら、せめて別のメアドを使いましょうよ」
燐羽の言葉に焦の言葉が一瞬で嘘であると証明された。相変わらずの虚言癖だが……賀陽燐羽と関係性があるというのはどういうことだ? 少なくとも彼女と彼の関係性はすぐに構築でいるようなものじゃないはずだが……。
「――で、賀陽さん。レッスン費用のお金……まけてください……」
少し目を離した隙に29の男が女子高校生に金の相談をしていた。
一気に情けなくなった絵面がひどくなって、なんだか馬鹿らしくなって撫子は悩むのをやめてしまった。
*
白草四音のLuna say maybeは完全無欠の出来だった。
あの曲が月村手毬のものであるという証明であり技能を欠如の補助である考慮された乱れたブレスや声の上ずりを是正した白草四音のパフォーマンスは、人間味のない出来という理由で完全無欠だった。
ただただ愚かな民衆を叩き潰す独善的で冷酷なステージは、月村手毬の必死さの反作用として睥睨していた。あのステージの後で投票を促すアナウンスがひどく不憫と感じるほどに。
それはいい。問題は――
「プロデューサー! なんなんですか、これは!」
まぁそうなるよな、と手毬が激高する様子を見てことねは思った。
「極月学園の生徒がどうして私のソロ曲を!」
「……極月のプロデューサーから申請をいただいたので許可しました」
「人の曲を勝手に!」
「…………アマチュアが歌う程度なら構わない、と言われましたので」
「それとこれは話が違うでしょ!」
「今回はさすがにプロデューサーが悪いと思うわ」
さすがに冷や汗をかいていたプロデューサーを咲季が追撃する。
「極月のあれは……明らかに敵対するために行ってる。許可を出すのはさておき、手毬には報告するべきだったんじゃない?」
「そう――ですね、今回は私の責任です」
そう言うとプロデューサーは立ち上がり手毬にはっきり頭を下げた。
「月村さん、申し訳ありませんでした。私の独断で極月学園のライバルに塩を送り……そしてそれ使ってバカにされるとは思っていませんでした」
「ぐっ――――」
月村手毬の性格が如何に未熟でも、目の前で頭を下げている恩人に対して罵倒できるほどは歪んでいない。そのため彼女はこの怒りの矛先を決めあぐねていた。
仕方がない――、ことねは助け舟を出すようにした。
「あのパフォーマンス、明らかに手毬のものと違った。何というか……冷たい。手毬の曲じゃない。……手毬のプロデューサーがそんなの許可するとは思えない」
「……そうなんですか、プロデューサー」
「――私の見通しが甘かっただけです」
プロデューサーが苦々しげに、視線をそらしながら頭を上げて説明を始める。
「Luna say maybeは気難しくて、でも自分の意志や感情は思いっきり吐き出す不器用な女の子を表現した曲です。だから必死さを表現するためにブレスを乱したりもしました。完成度は下がりますが、それにより……ひたむきな少女を見せようとしたんですが……」
「それら全てを技能の暴力でねじ伏せて、作品としての完成度を上げた……」
「それにより月村さんの『必死で、全身全霊で』ではなく、『完全で、冷酷な』Luna say maybeが生まれてしまった。月村さんのものにあった……愛嬌や人間らしさを全部捨てて、アイドルらしさを全部捨てた……! 話題性だけのために……」
「あのMCも、観客がパフォーマンスの冷たさを感じ取るためのお膳立て……?」
手毬が長考のターンに入った。そのことを感じ取ってことねは次の助け舟を出す。
「ほんで、プロデューサーはどんなカバーを期待していたんです?」
「……あのプロデューサーが言うには『月村さんのもの以上の出来のLuna say maybeを見せましょう』と……。そうすれば下がりつつあった話題性も持ち直し……月村さんもこれ以上に努力を重ねるだろう、と……」
「話題性……」
NIAから2か月が過ぎようとしていた。SNSはあんなにカバーされていたLuna say maybeは既に注目されておらず、ゆえに焦っていた。
「でも……私はどこかで……『月村さんのパフォーマンスを超えることはない』と考えていました。今回も――月村手毬のアイドルとしての完成度を見せつけるための道具になるだろうと。でも……」
「相手はアイドルとしてステージに立っていなかった、ですか。それで……あんな解釈違いの”私”を」
「すみません……」
再び頭を垂れるプロデューサーに対峙する手毬。
ある程度手助けはしてやったが、今回に関しては9割以上プロデューサーが悪い。これ以上どのような言葉を与えるのか、ことねが見守っていると「……顔を上げてください」と手毬が言った。
「月村さん……?」
「………今週中に、ステージの予約と収録の準備をしたら……許してあげます。――あんな私じゃない私のソロ曲ではなく、本物の”私”をファンの人に見せなきゃいけないですから」
加えて手毬はいじけたような口調でつづけた。
「……過ぎたことは、いいです。私も………いろいろ失敗しちゃってますし」
「ありがとうございます……!」
また頭を下げ始めたプロデューサーに「だから……!」と手毬はこまねいている様子だった。
*
一方、ステージ裏。
「お疲れさま。何とかなったね」
今回の騒動の犯人がにこやかに四音に水を渡した。
手が震える。ステージの興奮か……それともこれまでとは正反対のパフォーマンスを行った恐怖か。
「何とかなった、じゃないわ!」
戻った撫子が怒る。それもかなり怒っている。
「死ぬかと思いましたよ! 一番最初に悪口で大声出すの! ――四音お姉さま、あれ本気じゃありませんからね!」
「――分かってますわ」
無論、作戦である。
スピーチで沈黙する方法は場が喧騒にまみれていないと成立しない。いくら高校生であっても芸能界の端くれ達がステージ前で騒ぐとは思えなかったし、騒ぐまで待っている時間的余裕はない。
だから撫子をファーストペンギンとして、ブーイングの嵐を呼び起こすための呼び水として利用した。いじめを諫めるのならともかく、むしろ促すのであれば喧騒は早々に出来上がるという焦の予想は正解だった。
「というか、音源大丈夫でしたのね」
「音量調整のための……アンプ? サウンドミキサー? にCD読み取り機能が備わってて助かった。今時円盤の読み取り機能があるとは……」
「……何のことです?」
「白草は気にしなくてもいい。ちょっとしたヒューマンエラーだ」
肩をすくめると彼は四音の目を見て聞いた。
「次、いける?」
「……どうにかします」
「じゃあお願い」
Q.白草四音を再注目させるには?
A.もう一回炎上させます。そのために彼女を煽って優勝したアイドルの持ち歌を強奪します。
それの言い訳のためにナチっぽい恰好をして独裁者のまねごとをします。
………イカレてんだろ