「あ、ひとりちゃん。ちょっとお醤油取って?」
………
「あ、はい。でもこの目玉焼き、相変わらず素晴らしい焼き加減です!」
……………
「そりゃあいつもひとりちゃんの事見てるもの。それよりこのトースト、すっごく美味し!」
…………………
「が、頑張っていつものパン屋さんで焼き立て買って来ましたから!わたしよりパン屋さんの頑張りですよ」
…………………………
「もぉ、ひとりちゃんが買って来てくれたから美味しいの!凄く愛を感じる!」
……………………………
「郁ちゃんの料理こそ、特別な愛を感じます!えへへ」
………はぁ…
「もうひとりちゃんったら。可愛いんだから」
………貴女達、未だに朝からこんななの?見てるだけでお腹イッパイになりそう…
「「ふたり、いっぱい食べて?」」
言う事もタイミングもばっちり合ってるし。
私、後藤ふたりは今…連休を利用してひとり
昨日2人はウチの実家に遊びに来ていて、翌日から連休なのでそのまま郁代姉の車に乗って遊びに来た。
昨夜はウチで夕ご飯食べたけど、流石に実家だからか二人共イチャイチャは抑え気味だった。
その反動だか知らないけど、自分達の家に帰って来たらこのザマだ。
姉達はツアーの合間で、纏まった休みが取れたらしい。でもこれさ…私、明らかにお邪魔虫になってない!?
「ふたり、どうしたの?」
郁代姉に聞かれる。
「お腹痛いの?熱でもある?」
ひとり姉に聞かれる。
左右からステレオ状態で。
「…べつに具合い悪く無いし、悩みもないよ。ただ、2人を見ててお腹一杯になりそうってとこ」
「「………?」」
首を傾げるタイミングまで同じかよ。
☆
「ふぅ、ごちそうさま。いろいろな意味で」
「い、郁ちゃん!ふたりが訳わかんない事言ってる!」
「あ、あはは…」
郁代姉は解ったらしい。
「郁代姉はひとり姉の事、スキスキだもんねー」
「…ふたり、昨晩のは悪かったってば!」
焦ってる。それと言うのも、昨晩ここに着いてからの事。
お風呂に入り(私は郁代姉と入った)、後は寝るだけとなって。私は郁代姉と寝る為に、ひとり姉を自室に追い出した。…悲しい顔し過ぎだよ、ひとり姉。
それで郁代姉とベッドの中で暫くお話してて、そろそろ寝よっかとなって。おやすみを言い合って。まだそこまでは良かった。
幾らか時間が経った頃だろうか。何かモゾモゾしてるのに気が付いた。
私も寝惚けていて。感覚では自分の部屋で寝ている感覚だったから、…え?何の感覚!?ジミヘン!?と凄く戸惑っていた。
そのうち意識が浮上して来て、あ…そっか。郁代姉と寝てたんだ…とやっと思い出して。そうしたら今度は郁代姉がモゾモゾしてるのが凄く気になった。郁代姉は私の背中側。で、振り向こうとしたら…私のお腹に手が伸びて来た。
サワサワと。まるで擽るように。その内にその手が上に伸びて来て…
「い、郁代姉!?」
私の声が聞こえたのか解らないけど、手が止まり郁代姉がひと言
「………違う」
と。
「郁代姉!私だよ!ふたり!」
そこでやっと意識が戻って来たのか、郁代姉は
「……………キャァーーーッ!」
と叫び声を上げる。そしてガバリと身体を跳ね起こし、まるでプールに飛び込むようにベッド下まで落ちて行く。そのままくるりと前転、素早い動きで土下座。
呆気に取られた私。え、何?何が起こってるの!?
「ごめんなさいっ!」
郁代姉、全力の謝罪。それは良いとして、叫ばれた私の立場は?
バンドボーカルに耳元で全力シャウトされたんですけど。耳キーンてなってるんですけど。
「ひとりちゃんと間違えちゃったの!」
つまり郁代姉は、いつも寝惚けた状態でひとり姉を襲ってるって事だよね。
流石、歌姫の全力の叫び。ひとり姉がドアを蹴り破る勢いで入って来た。
「郁ちゃん!どうし!………たん…ですか?………」
ベッド下で私に土下座する郁代姉を見て、戸惑うひとり姉。
私も思わず苦笑。しかし…郁代姉の行動、ひとり姉に凄く似てきたね。笑えるくらい。さすがパートナー。
でもさ、ひとり姉。最初に心配するのが私じゃ無くて郁代姉なんだ。解ってたけどさ。
そして当然、そのまま私はひとり姉と入れ替わりました。姉に襲われる妹って、シャレになんないからね。
☆
「私の貞操が危なかった!」
「たからごめんって!…何処でそんな言葉覚えてくるの!?」
「ん?お母さんと一緒に見てるドラマ」
「………お義母さん…もぉ」
「…郁ちゃん」
「な、なぁに?ひとりちゃん」
ひとり姉が郁代姉に詰め寄っていく。
「ホ、ホントにふたりには気が無いんですよね!?」
ひとり姉、マジで言ってるの?…ああ、この人はいつもマジだった。
「もぉ、ひとりちゃん?私には貴女だけだから、ね?…ごめんね」
「…うん」
私には見えない角度で、チュッと音が鳴ってる。あ〜、はい、ごちそうさま。おかわりもういらないよ。
ーーーーーーーーーー
「虹夏、おかわり」
「はいはい…あんたは朝から良く食べるねぇ」
今日の朝ご飯の献立は、サバ味噌•ほうれん草のおひたし•玉ねぎとジャガイモのお味噌汁。これぞ日本の朝。
「…はいよ」
「ん」
「あ、ほら!ほっぺにご飯粒付いてる」
「…ん、ありがと」
虹夏はわたしから取ったご飯粒をそのまま自分の口へ。…なんか新婚さんみたいだぞ、これ。
「…私は何を見せられてるんだ」
ジト目で見てたボサボサ頭の星歌店長が呟く。店長、頭が爆発してるよ?
☆
昨日はストレイビートの事務所から出て、お腹が空いて倒れそうな事に気が付いた。もう暗くなる時間。このまま何処かに寄ろうかとも思ったけど、…タダでご飯食べられる所があったじゃないか!と思い直し下北沢へ一直線。…決して虹夏の味が恋しくなった訳では無い。決して。
そのまま虹夏の所へお邪魔して、打ち合わせの内容を纏める為に虹夏の部屋で作業。そして帰るのが面倒臭くなり泊まる。そして今。
「リョウもさ、自宅へ帰った方が作業し易いじゃない。なんでそのまま泊まるのさ」
「…ウチに居るとご飯が出て来ない」
「あたしは家政婦じゃ無いわ!」
ウチに独りで居ると寒いんだよ。色々とね。ここ暫く(2日)、虹夏来てくれて無いし。
「そもそもあたしが作り置きしたヤツが冷蔵庫に入ってるでしょ?」
「…あれは非常食」
「おかしな災害対策するな〜」
「…お前ら、朝飯くらい静かに食えんのか…」
「虹夏のせい」
「なんだとぉ!」
「い〜かげんにしろっ!」
店長に諌められ、静かに箸を進める。わたしは本来、静かにご飯食べたいタチなんだよ。
☆
ご飯が終わり、ソファーに座ってノートPCを開いて作業続行。今、凄くインスピレーション来てる。
「そこで作業すんな」
店長に睨まれる。
「じゃ、何処ですれば良いの?店長」
「自宅へ帰れよ!」
「今凄くキテるんだよ。このままわたしの才能が零れ落ちちゃったら、世界の損失」
「あー言えばこー言いやがって!もう良い」
店長はスタスタとリビングから去って行く。一服しに行ったね。…わたしも付き合うか。
洗い物をしてる虹夏に「御苦労」とひと言。罵声が返って来たが気にしない。
☆
「なんだよ。また邪魔しに来たのか」
ベランダで紫煙を燻らせる店長の横に並ぶ。自分の煙草を取り出し、ライターで、ライターで…あれ?ライター無い。
「…ほらよ」
店長自ら自分のライターで火を点けてくれた。
「………ふぅ」
白く濁った煙が、空に融けて行く。やっぱり食後の一服は最高だ。これぞ日本の朝の旦那。
「お前、今おかしな事考えてたろ」
相変わらずのエスパー星歌。…いや、店長様!そんな睨まないで。
暫く二人共静かに紫煙を登らせる。
「…で、最近どうなんだ?バンドの方は」
店長が不意に問うてくる。ココ1、2年…スターリーでは余りライブを演って無い。勿論定期的に公演はしてるけど、他所で演ってる方が圧倒的に多い。だから心配なんだろう。バンドが。…虹夏が。
「上手く演ってるよ。皆のスキルも凄く上がってるし、何より…ぼっちに付いてくのか大変」
「ああ…「アレ」は特別だからな」
何処か遠い目をして答える店長。何か思う所でもあるのか。
「…この間さ、あるレーベルの人間が店にやって来たんだ。メジャーのさ。それで「ボッチをソロでデビューさせたい」…ってさ」
まるで吐き捨てるように言葉を落とす。
「…でも、わたし達はストレイビートに所属してるよ?」
「そうなんだが…引き抜きたいってさ。私のトコに話を持ってきても困るんだがな。…仲介して欲しいとさ」
初めて聞いた。でも、不思議な事じゃ無い。ぼっちはそれだけの実力がある。ただ…
「郁代が泣き叫んで止めるよ」
「まあそうだよな。でも、喜多ちゃんはぼっちちゃんを優先し過ぎるトコがあるからな。ぼっちちゃんが首を縦に振れば…応援しちまうかも」
確かにそう言う所はある。ぼっちの所属が変わってソロデビューしたとしても、住む所が変わる訳じゃ無い。
「…でもさ、ぼっち自身が結束バンドから離れないと思うよ」
そうなのだ。ここまで来た。ここまで。皆でここまで来たんだよ。メンバーの皆が皆、結束バンドを愛している。執着しているんだ。ぼっちも郁代も虹夏も…わたしだって。
「だよな。だから蹴っ飛ばしてやった。帰れ!ってな」
その時を思い出しているのか、苦笑する店長。
…まだまだぼっちと実力が釣り合わないと思われてるのかな。わたし達は。でも…繋がっちゃったんだよ、わたし達は。解かない。解きたく無い。繋がった線を。
「虹夏には言うなよ」
「…言わずもがな」
そんな話を聞いて、1番取り乱すのは虹夏だ。1番悲しむのも虹夏。そんな事言えないよ。
「何二人で話してんの?」
「「うおうっ!」」
唐突に後ろから話し掛けられる。振り向くと、虹夏がこてんと首を傾げてる。
「に、虹夏!…えーと、そう!リョウに、あんまりウチでメシ食うなら食費入れろって文句言ってたんだ!」
「て、店長!それは言わない約束!」
「………ふぅん?ま、良いけどさ。二人分作るのも三人分作るのもそう変わんないし」
お茶淹れたよ?と虹夏が去って行く。残った店長と2人して、ふぅ…と溜息。
その虹夏の後ろ姿を見て
「…やっぱり解けないな」
呟いた。
ーーーーーーーーーー
「…何でお前が居る?」
「そ〜言うなよ〜志麻ぁ〜。何か美味しそうな匂いがしてさぁ〜」
「まだ作ってもいないのに匂いなんかしないだろ…」
「まぁまぁ!歩いてたらきくりを拾ったノ。きくりも寂しかったんだヨ。きっと。作って一緒に食べよ?」
☆
朝まで(たぶん)飲み屋で(おそらく)タダ酒(推察するに)喰らってて、気が付いたら電柱と友達になってた。
「どこ?…ここ」
解らない。解らないけど…多分、都内のどっか。
ゆっくり目瞬き。欠伸をひとつ。…さて、どうすっか。
「…お腹空いたなぁ………あれ?あれって…」
向こうから歩いて来るのは、派手な金髪に派手な顔。そしてアニキャラ?のキーホルダーをジャラジャラ下げた…
「お〜い!イライザ!」
「あれ?きくり、どうしたノ?」
やっぱり清水イライザだった。やっぱりこの娘は目立つわ。派手なカッコしてる訳じゃ無いのに。
「いや〜それがさぁ………わかんねーの」
「相変わらずだね、きくりは。ワタシこれから志麻の家に行くノ。…そうだ、一緒に行く?」
「何だかわかんねーけど、わかった。行く」
「じゃあ、Lets•GO!」
「…と言う訳」
「ちっとも解らないね。…はぁ、良いや。上がりなよ」
「おっじゃましま〜す!」
今日はイライザが、志麻に和食の作り方を教わりに来たらしい。近くご両親が遊びに来るのでご馳走したいとか。
図らずも朝飯にありつける。やっぱり私は「持ってる」ねえ。
☆
「最初から学ぶ為にまだ下準備しかしてないんだ。だからご飯もこれから炊く。イライザ。まず、お米研いで」
「任せテ!」
「私は何すれば良い〜?」
「…お前は座ってろ。かえって邪魔」
「ひどぉ〜い!…でもさ、ちゃんと鯵の開きが3枚あるトコとか…私の事意識してんじゃ〜ん」
志麻ってばツンデレなんだから!初めから私を意識…
「いや、偶々3枚のが安かったから」
…して無いのね。うん、知ってた。
「志麻、お米かんりょ〜!」
「よし。それじゃ先にほうれん草の胡麻和え作ろうか」
「O‘Key!」
「おお!なんか美味しそうだねぇ!」
「お前五月蝿いからゴマでも摺ってろ」
何か機械を渡される。ミルサー?とか言うんだっけ。
その後、ゴマをミルサーに口一杯入れて爆発させ怒られたり、炊飯器の蓋を開けようとして怒られたりしながら朝ご飯の用意完了。
「なんか凄く疲れた…」
「志麻ちゃ〜ん、朝から疲れるなんて寝不足?」
「オ•マ•エ•の•せ•い•だ!」
「まぁまぁ、志麻もきくりも。折角の作り立て、早く食べヨ?」
「そ〜だよ〜、折角私が作ったんだからさ」
「お前は邪魔してただけだろ!…はぁ、朝からこんなに騒がしくなるなんて…」
そう言いながらも、志麻…満更じゃ無い顔してるよ?
「やっぱり皆で食べるご飯は楽しいネ!…それじゃ」
ーーーいただきまーす!ーーー
ーーーーーーーーーー
「…すみません」
「良いのよ。やっぱりココで育ったコ達は特別だからね」
不覚にも程があるわ。スタジオ1つ貸し切りにして、音の追求をしてたら寝こけてしまったなんて…
それにしても、何で誰も起こしてくれないの!?確か最後まで付き合ってたのはあくびの筈だけど…銀次郎店長が見付けてくれなきゃそのまま息絶えてたわよ!
☆
今は店長と朝食中。
「簡単なものしか出来ないけどね」って、FOLT内のキッチンで作ってくれたフレンチトーストとサラダ、オニオンスープ。…美味しい。
「でも、ヨヨコちゃん。無理はいけないわよ?幾ら貴女が完璧主義だからって」
店長によると、ギターを抱き締めながら倒れるように寝ていたらしい。…ホントに不覚。他人に寝起き顔を晒してしまった。運命の人しか見せないようにと思っていたのに。…居ないけど。
「…昨夜は最終確認だけして帰るつもりだったんです。それが…興が乗っちゃって」
「…で、倒れるまでギターを弾き続けちゃった、と。その内身体壊すわよ?」
「解ってはいるんです。でも………負けたくないから…」
店長はふぅ、と溜息をひとつ。そして呟くように
「これだけ貴女に想われてる後藤ちゃんも幸せ者ね」
と。
「…な!なんでここで後藤ひとりの名前が!?わ、私は全てのバンドに負けないように…!」
「あら?私、「後藤ひとり」なんて言ってないわよ?「後藤」はあのコだけじゃ無いでしょ?」
「〜〜〜〜〜!?」
もう!顔が熱い!だって、だって!後藤って言ったらアイツしか居ないでしょ!?
「冗談よ。…フフ。でもさ、今でもシデロスの方が上…でしょ?」
店長は諭すように言う。けど
「…いつ追い付いて、追い抜かれるか解りません。結束バンドだけじゃ無い。全てのバンドに…そう思います」
俯きながら呟く。オニオンスープの表面に映っているのは、決意した私の顔。
「思い詰め過ぎるのも考えものだけどね。………あら?」
「どうもっす」
「あくびちゃん。おはよ」
「おはようございます。ヨヨコさん、起きたんすね」
現れたのは長谷川あくび。シデロスのドラマー。
「…あくび、何で起こしてくれないの」
「だって、眠そうだったから「もう終えましょう」って言ったら「ほっといて!」って言ったの、ヨヨコさんですよ?」
「………そう、言った…かしら………」
「ヨヨコちゃん…」
「ヨヨコさん…」
凄くバツが悪い。まるで私が悪いような…私が悪いのか。
「だから、起こして一緒に朝ご飯食べに行こうかと思ったんすけど…もう食べてるんですね」
更にバツが悪い…あくびの顔を見れない。
「それじゃ、あくびちゃんも一緒に食べる?」
「いいんですか?邪魔しちゃって」
「二人っきりで食べたかったけど…あくびちゃんならしょうが無いわ」
「店長っ!」
思わず叫んでしまう。
「冗談よ」
悪戯っ子のような表情を向けた後、あくびの朝食を用意しに行く。途中、こちらを振り返り
「…やっぱり、ご飯は皆で食べた方が美味しいでしょ?」
ーーーーーーーーーー
「ね、ひとりちゃん。これ美味しいわ!はい、あーん」
もー
「郁ちゃん、ちょっと恥ずかし………あ〜ん」
こいつらは…
「どう?美味しいでしょ!」
まったく…
「は、はい!郁ちゃんの気持ちが入って、より美味しいです!」
「うふふ。作ったのは私じゃ無いけどね。でも…嬉しい」
いい加減にして!
なに!?あなた達イチャイチャしてなきゃ死んじゃうの!?そう言う生き物なの!?進化論から外れてるの!?
☆
今は楽器屋さんに寄った後、お昼をカフェで食べている。中学生の身分ではこんなお洒落なカフェなんて寄れないからちょっと浮ついた気分だったけど、2人の様子を見てると沈んだ気持ちになる。沈んだ…と言うか胸が悪いと言うか。
「ねぇ、2人共ワザとやってる?」
「「何が?」」
こんな時まで調子を合わせないで!
「その…ひたすらイチャイチャしてるヤツ!」
そうするとひとり姉がワタワタとした後、私に向かいさも「良く解ったな!」みたいな顔で
「よ、良く気が付いたね!これはふたりに対するアピールでお父さんとお母さんに…」
「いつもこんなよ?」
「…郁ちゃん!?」
やっぱりか。わざと見せ付けてるというのも考えたけど…自然にこうなのね。
「ねぇ、前はここまでじゃ無かったよね。どうしちゃったの?」
すると郁代姉はひとり姉と見合わせ、何故か頬を赤らめながら
「私、この間気が付いたの。ひとりちゃんに向ける気持ちがまだまだ足りないなって。て言うのもね…」
郁代姉は語る。ひたすら語る。私にとってどーでも良い事を。
要はーーーひとり姉が郁代姉に妙なアピールをする事があった。かなり的外れな。そこで郁代姉は考えた。自分の愛が足りないからひとり姉は奇行に走ったんじゃないか、と。…隣のひとり姉が青褪めて首が千切れそうな程横に振ってるけど無視。
それで、それなら普段から惜しみ無い愛を注いでいればひとり姉も真人間になるんじゃないか。それなら得意中の得意。どうせならひとり姉にもちゃんとリアクションを返して貰えば尚お得。2倍ドン!…だそうな。
…あ〜、頭オカシくなってきた…郁代姉って、こんな人だったっけ?少なくとも昔はマトモな人だと思ってたんだけどなぁ…
ギター弾きながら歌ってる姿は最高に格好良いんだけどな。どこで道を間違ったんだろ。…ひとり姉が素敵に映った時点でマトモじゃ無いのか。そうか。じゃあしょうが無い。
「とにかく、私と一緒に居る時は抑えて!」
「「………はい」」
ーーーーーーーーーー
「………あぇ?」
ココはダレ?ワタシはドコ?…………………あ、思い出した。志麻んちだ。
寝惚けた頭で周りを見回すと、志麻とイライザがテーブルに突っ伏して寝ている。やっぱり炬燵は早く出しちゃダメだね。罠だよコレ。
テーブルの上には、飲みかけのボトル。グラスもみっつ。そうか。志麻んちのお酒、飲んだんだ。と言うか私が開けちゃったんだよね。志麻は怒ったけど、私は自分の罪を薄める為、皆に無理矢理酒を飲ませた。功を奏して有耶無耶の酒盛り。
壁の時計を見ると…もう午後2時か。腹減ったな。
よたよたと罠(炬燵)を出て、キッチンに向かう。水道水で喉を潤し、さて…何かあるかな。
炊飯器を開けると…お、ご飯まだ残ってるじゃん。………うーん………そうだ!
閃いて目的の物を探す。ここんちなら絶対ある筈。………よし、あった。
土鍋。これをコンロにセットして…あとは何か具があれば…お!
冷蔵庫を開けたら鮭の切り身発見!塩を振った2切れをオーブンにぶち込む。あとは…しめしめ、塩昆布発見。
土鍋に水とご飯を入れ、顆粒ダシサラサラ、料理酒チョイ。ついでに私の口にも料理酒チョイ。…うん、美味く無い。
塩昆布も入れ、蓋をして…後は仕上げを御覧じろ。ほぐした焼き鮭は各自お茶碗に盛った後。
いつも掛けてる迷惑が、こんな事でチャラになるとは思ってないけどさ。でも、出来る時に少しずつ、ってね。
志麻。イライザ。いつもありがとね。
ーーーーーーーーーー
「あくび…その…無理に付き合わなくても良いのよ?」
「何がっすか?」
「いえ、その…わ、私は一人のご飯慣れてるし!こ、こんな所だって一人で入って行けるし!」
「でも、明らかに店前でウロウロしてたっすよね。入りたかったんでしょ?」
「…まあ、そうなんだけど…」
☆
マネージャーと打ち合わせしていたら夕方になって、あくびと2人、カフェを出た。そこで目に付いたのがおでん屋。お腹も程々に空いたし、何しろ店から香るダシの匂いが唆る。
でも…こんな所、一人じゃ入った事無い。仮にもメタルの女王。それがおでんって…でも食べてみたい。お誂え向きに、気温も下がって来た。もう少ししたらお店も混雑してくるだろう。入りたい…でも…
店前でウロウロしてたら、私の横からヒョイと顔を出すあくび。
「おでんっすか。良いっすね。入りましょ」
腕を取られお店に連れ込まれた。
☆
「だって、メタルバンドがおでんよ!?ダメじゃない!?」
「そんな事言ってるからヨヨコさん、世界が狭いんすよ。もっと色んなトコ入りましょうよ。まぁヨヨコさん的には一人で入れるトコは限界があるんでしょうけど」
「うっ!」
気にしてる事をズケズケと。…間違っちゃいないんだけど。
「あと…」
「ん?」
店長も言ってたっすよね。ご飯は皆で食べた方が美味しいって」
「………」
そう。それは解ってる。でもね、私の考え…性分…性格!が!ボッチなの!悪い!?
「だから」
「…何よ」
「皆も呼びました。ふーちゃんも幽々も来るらしいっす」
「………え!?ホ、ホントに!?」
「珍しいっすけどね」
「…ホントね」
でも…皆でご飯、か。楽しそう。
昇り立つおでんの湯気が、さっきよりも美味しそうに見えた。
ーーーーーーーーーー
「…あのさぁ」
「「………」」
「ちょっと…」
「「……………」」
「何で、何も喋らないの!?」
☆
姉達の自宅に帰って来て、夕ご飯を囲む。今夜は郁代姉お手製のハンバーグ。美味しそ。
でもご飯が始まってから不自然な程姉達に会話が無い。
「…あのね、ふたり」
「何さ、郁代姉」
「いつもの会話を止められると、普段何話して食事してたか思い出せないの…」
「マヂか…」
もうあのイチャイチャモードが当たり前になってるから、それ以外だと会話が解らない、と。そんな事あるの!?
「え、それじゃ他の人達とご飯する時はどうしてんの?」
「普段通りよ?」
「………あー、はい」
つまり、他人にもアレをブチ撒けてるんだ。虹夏ちゃん、リョウさん…ごめんね。
ふと、ひとり姉を見る。………何で顔が青黒いのさ!
すると
「…ブハアッ!ハアッ、ハアッ…」
「…何で息まで止めてんの!?バカなの!?」
会話どころか息まで止めてた。息の根も止まるよ!?
「ふた…り……ハアっ!…あの、ね……ハアッ、ハアッ」
呆れ顔で郁代姉を見る。
「ねぇ、郁代姉。こんなんで良いの?」
親指でひとり姉を指差す。しかし、流石ひとり姉をパートナーに選んだだけある。郁代姉は微笑んで
「それが可愛いトコなの」
だって。良いんだってさ。
ま、この後ギターを教えて貰ってやっと良いトコ発見出来るんだけど。
とにかく
後藤家(分家)は今日も平和