「かっっっわ!!!」
郁ちゃんの目が怖い…
しかも、わたしに対してじゃ無く。
目の前に居るのは、およそ十年前位のわたし…に似てる後藤ふたり。
初めての制服姿。今年から中学生。
クルリと一回転。制服のフレアスカートが宙を舞う。
「どお?郁代
「ちょ、ちょちょちょ!待って!ねえ待って!写真撮らせて!お金出すから!幾らでも!」
…郁ちゃん…貴女の目には何が映ってるの!?
何か目のハイライトが消えてるんですけど!?
久々にわたしの実家に帰って来た。ふたりが中学に上がって皆でお祝いすると言うので。
…しかし、郁ちゃんはウチの家系の顔に弱いみたい。お母さんには異様に懐いてるし、ふたりも溺愛している。
…わたしには、ねぇ。言うまでもなく。
「郁代姉、私…この制服に合う髪留め欲しいなぁ…」
縋るように下から覗き込むふたり。…この子、魔性の子だ…
「わかった!今からジュエリーショップ行こう!シルバー?プラチナ?やっぱりその髪色に合うのはゴールドかしら!?ダイヤ付きの!」
「郁ちゃん、ちょっと抑えて…」
郁ちゃんの肩を押さえて何とか落ち着かせようとすると、えらい剣幕で顔を寄せてきた。
「ひとりちゃん!これが我慢出来ずにいられるの!?…いえ無理!ふたりがこれだけ可愛いのよ!?それを更に飾って何が悪いの!?…いえ悪く無い!可愛いは正義なの!ひとりちゃんも解りなさい!」
…あれ?何でわたし、怒られてるんだろう。
「そ〜だよ〜、ひとり
「ね〜」
二人して手を胸で合わせて首を傾げている。
この連合軍に対しては、わたしの分が悪い。相当。
じっと自分を見る。いつものワークパンツに赤いシャツ。部屋の中だから脱いでるけど、外では黒のトレンチコート…可愛いの要素が1ミリも無い。
まあ、自ら「ソレ」を回避してるんだけど。
「あーあ、ひとりちゃんも可愛いを解ってくれればなぁ…」
郁ちゃん。その後ろ手で、更に上目遣いで来るの…わたしに効き過ぎるから止めて…
「…可愛いのは、郁ちゃんだけで充分です」
「…もう、ひとりちゃんったら」
見つめ合う。徐々に距離が近付く。そして…
「はいはい!お店に行くわよ〜!」
…リビングに入って来たお母さんに阻止された。
「ひとり姉、思春期のジョーソー教育に悪いから、そーいうのは私の前では止めて」
「…はい、スミマセン」
…やっぱりわたしが悪いのか?
☆
お寿司屋さんにやって来た。回らないやつ。と言うか和食屋さん?…寿司割烹って言うのかな?ここは。
個室に入ると、もう予約していたからか続々と料理が並ぶ。
「喜多ちゃんはお酒、飲めるんだっけ?」
「はい!そこそこには!」
お父さんに問われて郁ちゃんが答える。わたしは予防線を張る為にお父さんに耳打ちする。
「…郁ちゃんは………ザル」
「…おぉ………そうか」
「それじゃあふたり、進学おめでとう!」
「「「おめでとう!」」」
お父さんの合図で乾杯!
「ありがと〜!」
ふたりも満面の笑みで答える。
「ひとりちゃん、これ美味しいわ!」
「ひとりちゃん、こっち食べた?」
「ひとりちゃん、お口にケチャップ付いてるよ」
「ひとりちゃん!ひとりちゃん!」
「ひとりちゃんと喜多ちゃんは相変わらず仲が良いわねぇ〜」
お母さんの生温かい笑みがわたしに刺さる。
家族の前でも…いや、家族の前だからこそ…恥ずかしい…
「郁代姉、私も!」
ふたりが対抗するように口周りをソースで染め、郁ちゃんに「構って攻撃」を仕掛ける。
「も〜、しょうが無いんだからふたりは」
郁ちゃんも満更では無いみたいで、優しい笑みでふたりの口を拭いてあげている。
「喜多ちゃん、僕も!」
「…直樹さん?」
「…いだだだだ!」
笑みを貼り付けたお母さんに腿を抓られているお父さん。
…なんか良いな。こう言うの。ここに居る皆は「本当の家族」だ。
後藤家と郁ちゃんが本当の意味で家族になったような気がする。
つい瞳が潤んで…
「もう、ひとりちゃん何ウルウルしてるの?」
郁ちゃんが頰を撫でてくれた。…うへへ。
「郁代姉!私も!」
ーーーーーーーーーー
「ふふ〜ん、ふんふんら〜♪」
お店を出て、その帰り道。郁ちゃんは終始ご機嫌で、今も鼻歌を聴かせて貰っている。
それ程はお酒、飲んで無いけど…皆と居るこの空間がリラックスを生んでいるんだろう。
先頭にお父さんとお母さん、その後ろにふたりが続きわたしと郁ちゃんは最後尾で手を繋いで。
月がとても美しい夜。
「ね!郁代姉、後で歌を教えて!」
ふたりが振り向きざま、郁ちゃんに問い掛ける。
「ん?なぁにふたり、歌を歌いたいの?」
郁ちゃんの瞳が途端にキラキラとし出す。自分の本分に興味を持つのが嬉しいんだろう。
「あのね?私、中学に行ったら合唱部に入りたいの!」
…え、軽音部とかじゃ無いんだ…あるかどうか知らないけど。
「軽音部とかじゃ無いの?ひとりちゃんのギターを聴き続けてたんなら、楽器演奏に興味が向くと思ったんだけど」
郁ちゃんも同じ疑問を持ったんだ。ま、まあ…わたしの妹だし?わたしも一部で「ファントム」とか「魔王」とか言われてるし?…褒めてるのか?ソレ。
「あのねぇ…ひとり姉を見てたから、ギターやりたく無いって思ったの!」
……………
ショック!
なんで?なんでなんで!?
「え〜なんで?ひとりちゃん、ギター弾いてる時あんなに格好良いのに!」
郁ちゃんの疑問にふたりは顰め面で答える。
「私…あそこまで狂った人になりたく無い!」
…
………
……………
ちょっ…え…くるっ………え!?
思わず道路に突っ伏してしまう。
わたし…そんな風に思われてたんだ…実の妹に………
ふたりが郁ちゃんにこっそりと呟いているのも気付かないまま、地面を涙で濡らすのでした。
「…あのね、郁代姉」
コソリと
「…なぁに?」
「私…どれだけギターやってもひとり姉には絶対敵わないだろうなって思っちゃったんだ…」
「…そっか」
ーーーーーーーーーー
「ただいまー!」
ふたりの元気な声と共に無事帰宅。…無事じゃ無いのはわたしだけ…
「まぁまぁひとりちゃん。元気出して?」
郁ちゃんが慰めてくれるけど…わたしの視線は床と友達のまま。
「今晩、慰めてあげるから、ね?」
郁ちゃんのその耳打ちを聞いてバネ仕掛けのように頭を上げる。だ、誰も聞いてないよ、ね?
上げた視線の先には…眉間に皺を寄せたふたり。
「ピピーッ!郁代姉は今晩ふたりと寝るの!」
…な、何かファールをしたんだろうか…あ、実家で「そういう」事をするのがファールですか…そうですね。はい。
郁ちゃんを見ると、さも可笑しそうに手で口を押さえている。
「フ…アハハ!」
実際笑われた。
ひとしきり笑った後、わたしにコソッと耳打ち。
「じゃあひとりちゃん、向こうに帰ったら…ね?」
「………あ、はい…」
貴女には敵いません…
皆で順番にお風呂に入…ろうとしたら
「私、郁代姉と入る!」
ふたりが声高に宣言。
…別にわたしも、実家で郁ちゃんと入ろうとは思って無いよ?うん。だからふたり、わたしに挑戦的な目を向けるのはヤメテ。
郁ちゃんもクスクス笑わないで…わたし、そんな残念そうな顔してたかな…
ーーーーーーーーーー
二人で背中を洗いっこして、髪も洗ってあげて、そのまま湯船へ。
後藤家のお風呂って広くて良いのよね。
「ねぇ、郁代姉」
「ん?なぁに?」
「…肩のソレ…ひとり姉とお揃いの。…後悔…しなかった?」
かなり遠慮しながら聞いているのが解る。世間のタトゥーに対する認識がまだまだ宜しくないのを考慮してるんだろう。…でもね?ふたり…
「入れた時は「イタァーイ!」って…ちょっと後悔したかな。でも…入れた気持ちは、少しも後悔してないわ」
「………そっか」
「だって、ひとりちゃんとずっと一緒に居られる「証」だから。…覚悟って、言っても良いかも」
「…かくご…私にはまだ解らないな…」
ふたりは俯いて何かを考えてる風。
ふたりもやっと中学生。まだまだこれから色々な経験をして、色々な感動や色々な後悔をして…それからやっと見えて来るものがある。貴女は…貴女の人生はこれからなのよ?
「…そのうち解ると思うわ。中学に入っていろんな人と会話をして、高校に入っていろんな人と触れ合って。…それから「あぁ…人と向き合うって、こういう事なんだ」って」
ふたりは私に真剣な表情を向ける。
「私にも…解るかな…?」
可愛いなぁ…まだ何者にも染まってない、その瞳。無垢で真剣なその瞳を見てると、やっぱりひとりちゃんの妹だなぁって思う。
「必要になれば解るよ。それはいつ必要になるか解らないけど…でもね、いつかは「自分の道」を決めなきゃならなくなる。その時は、絶対「覚悟する」必要に迫られるの」
ふたりは複雑な顔をしてる。まだ自分の中の「判断材料」が少ないから、しょうが無い。まだまだこれからよ。
「まだ…難しくて、わかんないや」
「フフ…ゆっくり大人になりなさい」
頭を撫でてあげる。…そう言えば…
「ふたり、やっぱり楽器は気が向かない?ギターじゃ無くても、ベースでもドラムでも…或いはピアノとかのキーボードなんか」
別に無理に楽器をやって欲しい訳じゃ無いんだけど。でも、ふたりがそれを志してくれれば、一緒に楽しめるしね。
そう言うとふたりは苦笑を浮かべて。
「あのね?私の中の楽器をやる人の基準って…「結束バンドの皆」なの。そうすると…あそこまで出来る気がしないの。…そこまで行かなくても…っては思うんだけど、でも…私の中で「そこまで」って言うのが出来ちゃったの。とってもすっごい基準。郁代姉のお歌だって凄いんだけど、でも…お歌なら、何とか楽しめる気がしたの」
そうポツリと零す。
「…そっか。…でも、何でも楽しめるのは良い事。それでもし、楽器が楽しそうだな〜って思ったら、言ってね。バンドの皆が誰でも協力してくれるわ」
…リョウさんはお金取りそうだけれど…
「…うん、ありがと!」
…それにしても…
…やっぱり、大きい…いや、まだまだひとりちゃんには程遠い。…けど、確実に…育つ!
敢えて「どこが」とは言わない…
あ…何か嫌な事思い出した…
「ねぇ、ふたり」
「なーに?郁代姉」
「2年くらい前かな…私ふたりにイジメられた事があったんだけど」
それを聞いて「え!?」とふたりは途端に狼狽える。
「私が郁代姉をイジメるなんて事、無いよ!ひとり姉相手じゃ無いんだから!」
…ひとりちゃんになら良いんだ…それは置いといて。
「丁度今みたいに一緒にお風呂入ってる時…ふたりが言ったの。私の「お胸が硬い」…って。それってさ…ち、小さい…って事だよね…」
それを聞いた途端、ふたりはすう〜っと顔を明後日の方向に向ける。
「し、知らない。てか憶えて無い…」
ふたり。さっきから汗の量が尋常じゃ無いよ。しっかり憶えてるわよね。…逃れられると思うなよ。
「ふたり〜、白状しなさい!」
「知らなっ…ちょっ!郁代姉!その手!」
「そう言う子はぁ〜、こうだ!」
コチョコチョ
「あっ、まっ!ごめっ!キャーッ!」
ーーーーーーーーーー
…何でふたりは郁ちゃんとお風呂入ると嬉しそうなんだろ…
今もキャーキャー言ってるし。
すっかり姉の座を奪われた哀れな女、後藤ひとり…
…いいんです。この感情を歌にすれば。
聴いて下さい。…哀れな姉のエレジー
ジャラ~ン
♪わたしの〜、姉の〜威厳はぁ〜、今正に地に落ちてぇ〜………
「…ひとりちゃん?」
…あ
「すみませんすみません!わたしが哀れな女なんです!全てはミジンコみたいなわたしの!………あれ?ふたりは?」
スライディング土下座をかました所、リビングに入って来たのは郁ちゃんだけ。
「…?ふたりは自分のお部屋に行ったわよ?」
「あれ?通った?」
「うん。ひとりちゃんを見て呆れた顔しながら階段上がってった」
………また黒歴史がぁーっ!
郁ちゃんは、蹲ったわたしの横でスキンケアしてる。…何故か郁ちゃんのスキンケアって、ずっと見てられる。
「なぁに?じっと見てられると恥ずかしいよ」
「あ、ごめんなさい。…郁ちゃん、今夜はふたりと寝るの?」
化粧水を塗る手を止め、わたしに目を向ける。
「…寂しいの?」
イタズラっ子の笑顔で。
「べ!…別にそう言うんでは…」
わたしの真意がバレてるのか、郁ちゃんは満面の笑み。
「ごめんね?…あ、あのね…「ひとり姉は来るな」って」
…行動しようとしてた事がふたりにバレてる…
「…わたしは姉失格…わたしは姉失格…」
呟きながらソファーに横たわって丸まる。もう、ここで寝てしまえ。
目を瞑る。暫くして、スキンケアが終わったらしい郁ちゃんに動きがある。
フワリと暖かいものが掛けられる。…毛布、持って来てくれたんだ。…と同時に、更に近付いて来たと思ったら…唇にしっとりと柔らかい感触。…え。
離れ際、郁ちゃんはひと言。
「好きよ。…おやすみ」
パチリという音と共に暗闇が訪れる。
「…おやすみ。…うへへ」
目を瞑りながらニヤニヤするわたしでした。
ーーーーーーーーーー
「郁代姉、いらっしゃい!」
「おじゃましまーす」
ふたりの部屋に入る。昔のひとりちゃんの部屋。部屋全体にフローリング風のラグが敷いてある。そして、傍らに勉強机があり、端に置いてあるベッド。すっかり様変わりしてる。
「久々にこの部屋入ったけど、随分変わったのね」
「うん。洋風にしたかったんだ」
確かにひとりちゃんが居た頃は純和風だったものね。
「…でもね、ここだけは…変えられなかった」
そう言って押し入れをスラリと開ける。…そこには。
「…懐かしい」
まるでひとりちゃんが居た頃のまま。機材は無くなってるけど、壁に貼ったポスター、よれよれで付箋だらけのスコアブック、小さなライト。ここだけ時が止まったよう。
「ここはね…触れなかった」
そう零す。
ふたり…やっぱりお姉ちゃんが大好きなのね。
「うん。…ありがと」
「…なんで郁代姉がお礼言うの?」
…何でだろ。でも、言葉に出来るものじゃ無い…かな。
「…何となく…かな。とにかく…ありがと」
「…ヘンなの」
そう言ってふたりはフフッと笑う。私もフフ…と笑う。
「さ、寝るわよ!睡眠はカワイイを作る上で大切なのよ?」
「あはは!…うん、寝よ?」
電気を消して、二人してベッドに潜り込む。
「随分大きなベッドにしたのね」
セミダブルのベッド。シーツと上掛けは暖色のもの。
「うん、ベッドにしたい!って言ったら、お父さんが張り切っちゃって」
直樹さんらしいな。
少しの間、静かな時が流れて。
「…ねえ、郁代姉」
「…ん?なぁに?」
「ウチのお父さんの事…「お義父さん」って呼ぶの?」
そう、未だに「直樹さん」「美智代さん」と呼んでいる。ふたりも気にしてたのか。
「いずれは呼びたいな…って思ってる。…ふたりは、嫌?」
「ううん!?是非呼んであげて!。「お義父さん」「お義母さん」って!」
目を丸くしながら捲し立ててくる。…嬉しいな。
「ありがと。ふたりに認められたようで、凄く嬉しいな」
それを聞いたふたりは、眉間に皺を寄せて怒り出す。
「最初から認めてるよ!少なくても、ひとり姉より!」
「…それはどうなの?」
ロンドンから帰って来た時、鬼の形相で私を睨んでたのはふたりの中で無かった事にしたらしい。
「…ふたり、ありがとね」
ぎゅっと抱き締める。小さな身体が擦り寄ってくる。
「郁代姉、お姉ちゃんになってくれて…ありがと」
ふたりも抱き締めてくれる。
「うん。こちらこそ」
そのまま二人で微睡みに落ちていった。
ーーーーーーーーーー
「…おはようございます…」
朝起きてリビングに顔を出すと、あからさまにひとりちゃんが拗ねていた。頬にソファーの跡がくっきりと付いている。
「おはよ、ひとりちゃん」
まだ誰もリビングに居ないのを確認して、ひとりちゃんを抱き締める。
「…ふたりの匂いがする…」
「…もう!」
膨らんだままのほっぺにキスをする。そうするとほっぺはプシューッと縮んでいった。
「…口が、良い…です」
まだ尖らせたままのひとりちゃんの唇に…この可愛い生き物の唇に狙いを定める…と、
「おはよ!二人とも!」
二人してビクリと肩を跳ねさせる。ふたりがもう起きて来ちゃった。
「…おはよ、ふたり」
「も〜!ひとり姉、向こうに帰れば好きなだけイチャイチャ出来るでしょ!?」
「…そう言う問題じゃ無い」
まだブーたれているひとりちゃん。…ちょっと待って!
「ふたり!…制服!」
「…郁代姉、昨日も見たじゃん?」
ふたりは早朝から制服を着ていた。…かわい!
「昨日のふたりと今日のふたりは違うの!ちょっと待って!写真撮らせて!はい、ターン!」
「またぁ〜?」
パシャパシャと写真を撮りながら横目でひとりちゃんを見る…と、苦笑している。
結局、ひとりちゃんもふたりが大好きなのよね。仲良し姉妹なんだから。
「あ、そうだ!メアとレヴィにふたりの写真送ってあげよ!」
「え〜、あのすっごく綺麗な人達ぃ〜?。恥ずかしいよぉ〜」
「良いじゃない!えーと…「これが私達の可愛い妹です」…と」
程無く返信が届く。
「はやっ!えーと?…メアは「すっごく可愛いー!」だって!。レヴィは「ヒトリにとても似てるね。将来凄い美人になるぞ」だってさ。良かったね、ふたり」
「もぉ〜、いい加減にして!郁代姉!」
ふたりは頰を両手で隠して、俯いちゃった。
ひとりちゃんを伺うと、とても嬉しそう。なんたって私達の自慢の妹が褒められたんだものね。
「ほらほら、朝ご飯よ〜!」
美智代さんにご飯を促される。
「ありがとうございます!「お義母さん」」
「…!…ほら、食べなさい。「郁代ちゃん」」
「………はい!」
そこに直樹さんが現れる。
「皆、おはよー」
「あ、おはようございます!「お義父さん」」
「………!」
…あら、号泣しちゃった…
「ほら、あなたも泣いてないで食べて」
「…だって…だってさ美智代さん!「お義父さん」って!うぉぉぉぉ!」
快哉を叫ぶお義父さんは、お義母さんに首根っこを掴まれて着席させられていた。
「さ、それじゃ…」
「「「「いただきまーす!」」」」
「郁ちゃん」
「…なぁに?」
「…ありがとう」
「…だって、家族だもの」
「うん…そうだね」
☆
「ふたり、忘れ物無い?」
お義母さんにチェックされて、ふたりは「…ヨシ!…ヨシ!」と身の回りを確認。
今日は入学式。ふたりの新たな門出だ。
お義父さんもお義母さんも一緒に家を出ると言っていたが、ふたりは「初めては1人で向かいたい」との事で後から行くらしい。
「郁代姉はもう帰っちゃうんだよね」
「ごめんね。今日はお昼から取材なの。凄く悔しいけど。…すっごく悔しいけど!」
「あはは…そっか、残念。…ひとり姉は…まぁ良いや」
「え…、わたしの立場って…」
ひとりちゃんガックリ。ひとりちゃんは予定無いのにね。
ふたりはしたり顔で言葉を繋ぐ。
「だってさぁ、郁代姉と離れるの…嫌でしょ?」
「それは…まあ…はぃ…」
フフ…ひとりちゃんの事、良く解ってる。
「二人共仲良くね!それじゃ…」
ふたりは玄関を出て、2、3歩歩み出る。そしてもう一度こちらを振り返り。
ーーいってきまーす!ーー
大きく手を振り、前を向いて駆け出して行った。