王の帰還After──王の細道──   作:サマネ

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実録!魍魎の館STARRY

「す、すみませ〜ん…」

重い扉を開け、申し訳程度の挨拶を室内に零れ落とす。

 

その室内は…カウンターと幾つかのテーブル、そして奥に1段高い場所がある、それなりに広い空間。

内装…と言うか壁はみんな暗色で、全体は良く把握出来ない。

開けた扉のすぐ前には金属製の階段。…何かのトラップか?これ…

中には数名の人物が居る。

カウンターの椅子に座り、足を組んで横に居る女性をまるで睨みつけるような眼差しの金髪ロングの女性。…絶対カタギの人じゃ無いよ、この人。

その横に座り、金髪女性の藪睨みを一身に受けている女性。…何か、取材をしているみたいな。

その女性も…怪しい。物言いと見た目が明らかに合っていない。

見た目10代。しかしその物言いは老練さを感じさせる。まるで修羅場を潜り抜けて来たような。

「伊地知さん。もうすっかり名の売れたハコですねぇ。今でも出演依頼がひっきりなしでしょ?もうここは、聖地ですからねえ」

「あーもう迷惑してるよ!イチんち何回電話に出りゃ良いんだよ!い〜かげんにしてくれ!って感じだ」

そう文句を言う金髪女性に、カウンターから顔を出したこれも金髪の女性が言葉を掛ける。

「そんな事言ってお姉ちゃん、ウチに帰るとニヤニヤしてる癖に」

「うっせえ!あとここでは店長と呼べ!」

「はぁいはい!店長店長!…嬉しいんでしょ?」

「…別に嬉しくねぇとは言ってねぇ」

話し掛けた女性は、サイドテールを揺らしながら「アハハハ!」と笑っている。…この人だけは良い人そう。

でも…何やら馴れ親しんだ遣り取り。…仲良さそう。見た目もちょっと似てるし。

 

その横のテーブルを見る。ここにも女性が1人…2人?何故1つの椅子に2人で重なって座っているのか。

後ろの女性が前に座る女性に話し掛ける。

「ねぇねぇ、今度のツアー、なに食べ行こっか」

「最初は山梨でしたっけ?…郁ちゃんの好きなもので」

「も〜!そう言う所が可愛いんだから!」

…私は何を見せられているのか。

後ろに座る朱色の髪の女性は、桃色髪の女性にメロメロっぽい。

…ちょっと待って!朱色髪の女性の手…お腹から段々と上に上がっていくけど…

「い、郁ちゃん!ここはほら、お店ですから…あっ…」

「うふふ。ひとりちゃんの隠した宝物…みーつけた」

「あっ!だめ…」

………ホントに何を見せられているのか。

「…いーかげんにしろ!。そこの2人」

…ほら、サイドテールの女性に怒られた。

 

更に横を見る。機材ブースの机に突っ伏している黒髪ロングの女性。その耳に光るギラギラで、とても真っ当な人に見えない。

「はぁ〜、………病む」

…絶対マトモな人じゃない…

 

「…何してるの?」

「うひゃあ!」

突然階段下から声を掛けられる。まるで階段の下に隠れていたような行動。…何故草を咥えてるの!?

…絶対絶対!マトモな人じゃない!…でも凄い美人!青味がかった髪に、アンニュイなその瞳。…でも、咥えてるのは草。…ナニコレ。

 

「あ…あ…あの…バ…バイ、トの」

「あ〜!バイト募集に来てくれた人!良く来て下さいました!」

金髪サイドテールの女性がハツラツとした声で応対してくれた。…良かった。1番マトモな人が受け答えしてくれて。

「あ、あの…はい。まだ決めてはいないんですけど…面接を、受けてみようかなって…」

 

音楽は、常に聴いていた。そしてその発信源であるライブハウスに憧れもあった。客として来た事は無いんだけど。…ここはあの「結束バンド」の聖地。アルバムは何十回も何百回も聴いた。あの「ボッチ」が描く独特の世界観。そしてその詞をあの「リョウ」の手で極上の楽曲に仕立て、それをあの「喜多ちゃん」の天上ボイスで発信する。「虹夏」の安定感あるドラムも聴き逃がせない。つまり、私は結束バンドにどハマリしていた。

その結束バンドの聖地!メンバーの顔は生で見た事無いんだけど(実家に居た時は、画面の小さなスマホしか無かったので配信でしか聴いてなかった)、どんな人達なんだろ。…まあ、ここにはメンバーもう来ないんだろうけど。

メタル好きな友達に勧められて、現在超メジャーバンドであるシデロスも聴いた。良いと思うけど、私はやっぱり結束バンド!

 

「ごめんなさい!今、店長が取材受けてて…もう少し待って貰えないでしょうか」

「あ、はい!大丈夫です!」

「こっちのテーブルに座ってて。今コーヒー出しますね」

「あ、お構い無く」

サイドテールの女性は、カウンターに走って行った。…バイトの人かなぁ?

 

テーブルに向かいその椅子に座る。隣で重なり合って座っている人達と目が合う。

「…ど、どうも」

「バイト募集で来てくれたんですか?ここはとても働きやすい、良い所ですよ!」

朱色髪の女性が話し掛けてくれる。行動はいかがわしいけど、明るくて良い人っぽい。…ほら、今も桃色髪の女性のお腹をサワサワしてる。

「あ、あの…音楽、好きなんですか?」

今度は桃色髪の女性に聞かれた。…何故顔を赤らめているの!?後ろの人に何されてるの!?

「あ…はい。今年大学に入って、やっと自由な時間が出来たので。それまで勉強漬けで…音楽もマトモに聴いてなくて。けど、初めて聴いた結束バンドに凄くハマッてしまって。ここが聖地だと聞いて。まだメンバーの方を生で見た事無いんですけど、凄い人達なんだろうな…って。ここでバイトしてれば…いつかは逢えるかなあって思って」

…あれ?二人して顔を見合わせてる。…何故か桃色髪さんがどんどん照れていく。朱色髪さんの方は、ニヤリと笑って。

「そうですか!逢えると良いですね!」

「あ、はい。楽しみです。お二人は、バイトの方なんですか?」

「はい!そんな感じです!」

ハキハキしていて、とても可愛らしい女性だなぁ。世の男共が放って置かない感じ。桃色髪さんは「…やっぱりカリスマ性が足りないから気付かれないんだ…」なんてブツブツ言ってるけど、どうしたんだろ。

 

そんな事をしていると、お店の扉がバン!と開く。あの重たい扉、そんな勢いで開くんだ。

そちらを向くと

「後藤ひとり!」

と勢いのある良く通る声。声がデカい!

「あ、あれ?大槻さん!?」

桃色髪さんが答えると、そっちに向かってノシノシと歩いて来る。

ベレー帽に眼鏡。一見とても大人しそうな女性。でも声がデカい。

そのベレー帽さんは桃色髪さんの前に来ると、ダン!とテーブルを叩く。

「あんた!嫌味なの!?私達がビールのタイアップしたすぐ後に、清涼飲料のタイアップ決めるとか!当てつけ!?自分達の方が上だって思ってるの!?所詮私達は酔っ払い相手にしてれば良いと思ってるんでしょ!…姐さんじゃあるまいし!」

一方的に捲し立ててくるベレー帽さん。…ん?何か凄い話してない?

「大槻さん、まあ落ち着いて。どっちが上とか無いですから。ただ、ひとりちゃんが凄いだけで」

「い、郁ちゃん…恥ずかしいよ」

「あら、本当の事よ?」

「後藤ひとりだけかと思ったら、貴女も相当なものね!」

憤慨するベレー帽さん。…あのさ、朱色髪さん。何故話してる間、ずっと桃色髪さんのお腹…サワサワしてんの!?

しかし…この店内、皆の情緒が乱高下してるんだけど…もしかして、ライブハウスって…素人が来ちゃイケナイ場所なの!?魑魅魍魎が跋扈する場なの!?

 

「も〜ヨヨコちゃん、ウルサイ!」

サイドテールさんがコーヒーを持って帰って来た。

………

…ヨヨコ?さっき桃色髪さんが大槻って…いやいやまさか!

世の中に「大槻ヨヨコ」なんて何千人も居るよ。多分。

 

「はい、どうぞ」

「…ありがとうございます」

私と、大槻ヨヨコさん(仮)の前にコーヒーを置くサイドテールさん。

「…私はいいのに」

「友達でしょ?」

あ、この大槻(仮)さんとサイドテールさんは友達なんだ。

照れた様子でコーヒーを啜る大槻(仮)さん。

 

「…で、最近どうなのよ、後藤ひとり」

「…ぁえ!?…どう、とは?」

なんで動揺してるの桃色さん。なんかボッチを思い出すなぁ。ライブ配信でも噛みまくってたなぁ。

 

「大槻さん。ひとりちゃんには「どう?」は通じません。「何時何分何十秒に何がどうした」って聞いてあげないと、可哀想じゃないですか!」

「…貴女、私を馬鹿にしてる?」

「…てへ」

「〜〜〜〜〜っ!」

 

見てておもしれーなぁ、この2人。というか、朱色さん、声が喜多ちゃんに似てるなぁ。多分性格は似ても似つかないんだろうけど。喜多ちゃんはこんな性格悪そうな痴女じゃないだろう。…まだサワサワしてるよ。桃色さんも「あっ…」とか言うな!

 

「大槻さん…ご飯奢って」

テーブルの下からヌッと生えてきた青髪さん。仮大槻さんは「ひいっ!」とか言ってる。

「…何よ、貴女また何処かで散財したの?」

「…来ると思ったんだけどなぁ。3枠6番」

「幾ら賭けたの?」

指を3本出す青髪さん。仮槻さんは「え?」とひと言。

「3万くらいで…」

「さんじゅうまん」

「………バカじゃないの!?とことん大バカね!」

 

…冗談だよね?

 

そんな冗談を聞いていると、また扉が開く。

「う〜い、おはよ〜!」

「…もう午後ですよ、姐さん」

「あれ?大槻ちゃんじゃん!アナタのカリスマ、廣井ですよ〜!」

フラフラとしながら店内に入って来る酔っ払い。…なんなの、この店。なんでもあり?

三つ編みにスカジャン。足元は下駄。…歩く無秩序。

「あれ?お姉さん、今日はシクハック…ライブ無いんですか?」

桃色さんが問う。三つ編みさん、シクハックのファンなのかな。私も友達からアルバム借りたけど(初シクハックはコレ!と2枚目のアルバム)、独特の世界観で惹き込まれたなぁ。…いやいや、私は結束バンド一筋!

 

「うん、銀ちゃん怒らせ過ぎてひと月出禁になっちゃった!」

「…姐さん…お客さんのカツラ取って燃やしちゃうのはダメですよ…」

ファンキーな人だなぁ。シクハックのフロントマンの人も凄くファンキーだって言うけど、ファンもつられるのかなぁ。

しかし、この店でバイトするの…どんどん不安になっていく。

 

ヤンキーにロリババアに病みに痴女に操り人形に激昂に酔っ払い…なんだこれ。情緒不安定のオンパレードか。

唯一マトモなのはサイドテールさんだけ。天使か!

 

「で、この人だ〜れ?」

三つ編みさんに指を指される。

「わ、私は…バイト募集で…」

「あ〜一般人かぁ!…楽器はやってないの?」

「はい…主に聞き専で」

「そっかぁ〜」

三つ編みさんは腕を組んでウンウンと頷いている。そしておもむろに私に顔を近付け

「楽器演ってみな。人生変わるよ」

真剣な表情で語ったと思ったら「なんちゃって〜」といきなりおちゃらける。

…なに、今の格好良いの!ホントのバンドマンみたい!

 

 

「あ〜おまたせ。悪かったね。私が店長の伊地知星歌だ」

「あ、はじめまして。バイト募集の広告を見て来ました」

「そっか。…最近は結束バンドのメンバーに近付きたいが為にバイト募集に来るヤカラが多いけど、貴女は大丈夫みたいだね」

「…え?」

私だって結束バンドの大ファンだ。ソレ目当てと言われれば否定出来ない。…何を見て大丈夫だと思うんだろう。

「え…何で…」

店長は首を傾げる。何言ってるの?って表情。

「…だってよ、この状況で騒がないんだから…大丈夫だろ?」

「…この状況って?」

それを聞いて店長、プハッと吹き出す。

「おーい虹夏。お前等まだまだだぞ!」

サイドテールさんに話し掛ける。………え?にじ、か?

「もぉーお姉ちゃん!うるさい!」

「お前等武道館まで行ったのに、まだこんな近くに知られてない人が居るんだからまだまだだろ?」

 

…え、武道館…って………え?

 

「あ〜ウルサイウルサイ!さあ皆、練習行くよ!ほらリョウ!ぼっちちゃん!喜多ちゃん!練習!」

「はいはい」

「あ、はい」

「はーい、わかりました!」

 

サイドテールさん…「虹夏」に声を掛けられ、各々「リョウ」「ボッチ」「喜多ちゃん」が立ち上がる。

その表情は…先程の腑抜けた表情じゃ無く…一流ミュージシャンの「本気」の顔。

 

え、ええ、えええ〜〜〜!!!

 

驚き過ぎて表情が抜け落ちた私に、店長がほくそ笑む。

「なんだ、本気で気付いて無かったんだ。アイツ等、オンオフのスイッチが激しいからな。あれで楽器を持たせりゃ凄い音を出すんだ。…どうだ?履歴書も問題無いし、本気でバイトすんならサービスでスタジオ見学させてやるけど」

 

「ぜ、ぜぜぜ是非!!!!!」

 

 

その後の事は、まるで夢を見てるみたいで。

 

練習とは言え…いや、練習だからこそ色んなチャレンジをして、凄まじい音を皆で鳴らす。

そこに「シデロスの大槻ヨヨコ」と「シクハックの廣井きくり」が私の横に居て。

さっき取材をしていた人も、ギタマガ等で歯に衣着せぬコラムで名を馳せている佐藤愛子らしい。

 

「あの…大槻さん。今のリフ、どう思います?」

「どうもこうも後藤ひとり、貴女また腕を上げたわね。…そうね、それなら、そのリフの直前にこういう音を入れたら面白いんじゃないかしら」

「ボッチ」からギターを借りて「大槻ヨヨコ」が掻き鳴らす。

「ああ…良いですね。それじゃ、その繋ぎ以降はこんな感じで…」

「ボッチ」のギターが炸裂する。一部で「ルシファーズハンマー」と称されたそのギターソロ。私、これ無料で聴いていて良いの!?

しかし…超メジャーバンドのフロントマンとボッチの生ギター!涙が出そう!

その横では「リョウ」が「廣井きくり」にアドバイスを求めている。

「山田ちゃん。今の、凄く良いね!」

「廣井さんならどう表現します?」

「そおだねぇ〜、あ、ちょっとベース貸して?」

あのシクハックの廣井きくりが私の前でベースを掻き鳴らす。…うそでしょ!?…いつもバチ持ってるんだ!

視線を戻すと、「喜多ちゃん」が喉の調子を確かめている。

「ア、ア〜〜〜〜〜ァアーーーーー!」

極低音から高音まで、淀み無く天上の歌声を響かせる。なんでそんな音が喉から出るの!?どんな天界の楽器!?

その後ろでは、「虹夏」がドラムのセッティングを煮詰めている。

「う〜ん、クラッシュ、あと3ミリ下げるか…ペダルもあと5ミリ後ろ…でもなぁ…音の響きがなぁ…」」

…どんな精密機械!?なんかの宇宙事業!?

 

…凄まじい体験をさせて貰った。

 

 

結束バンドに一生付いて行こうと思った。

 

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