互いに異なる価値観と文化を築きながら、それぞれの道を歩んでいる。
力を誇る者、知を求める者、技術を磨く者、そして信仰に生きる者――。
北の国「ロードレー」
大陸随一の軍事大国。
世界中の屈強な戦士たちが一度はその軍旗の下に集うことを夢見る。
だがその力の裏には、厳格な身分制度と徹底した支配構造が存在する。
税によって階級が定められ、制度に背く者には
見せしめにその場で処刑さえも行われる冷酷な現実がある。
身寄りなき孤児たちは奴隷として扱われ、物のように売買される運命を背負う。
13代目国王のもと、法の網は粗くとも、
強さを求めてこの国に集まる者は後を絶たない。
その軍事力と人口は、今もなお大陸の頂点にある。
南の国「セルクシエ」
魔法の血を継ぐ者たちが築いた、知と神秘の国。
代々続く魔導一族が国の礎となり、
数々の魔法によってセルクシエを豊かな地へと導いてきた。
魔導士に憧れる若者たちが世界中から集うが、
その門は狭く、才能を持たぬ者にとっては残酷な現実も待ち受ける。
過去にはロードレーとの戦争で多くを失ったが、
ランスニュイアの仲裁によって停戦協定が結ばれた。
しかしその火種はいまだ燻り続けている。
東の国「ランスニュイア」
アテナたちが今、暮らすこの国は、技術と理想の国である。
かつては山の上に生まれた小さな村だった。
セルクシエを追われた無才の魔導士と、ロードレーの圧政から逃れた民が力を合わせ、
技術を発展させたことが国の始まりである。
その成長を妨げようとするロードレーに対し、
ギルド「蒼い月」が盾となり、国は独自の道を歩み続けた。
王は常に民と平和を重んじ、技術の投資を重ねて国を大国へと導いてきた。
西の国「イースルー」
大陸で最も古き国にして、謎多き宗教国家。
国交を断ち、通貨すら持たず、
砂漠の中で信者たちは神と自然に寄り添う原始的な暮らしを送っている。
資源は乏しく、文明の恩恵からは遠いが、
古より伝わる神伝書や禁断の魔法書を守る地でもある。
その教えと沈黙の中に、いまだ誰も知らぬ叡智と災いが眠っているという──。
こうして、四つの国が共存するこの世界で、
静かに、しかし確かに物語は動き出そうとしていた。
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『──コレカラ君タチニハ、幾ツモノ災イガ襲イカカルダロウ。』
ミカエルは静かにそう告げると、沈黙のまま天井を見上げていた。
部屋に重い空気が満ちる中、アテナは言葉もなく、ただ黙って考え込んでいた。
手に握った、母の形見の短剣。
その柄をぎゅっと握りしめる。小さな決意が、胸の奥で静かに灯る。
やがて、その光が声となってこぼれた。
「ミカエルさん…あの!」
ミカエルの視線が静かに降りる。
『……?』
張りつめた空気の中で、アテナは一歩、前に踏み出す。
「私に、その運命に抗える強さを!力をください!」
『其レガ……キミノ望ム願イ、トイウ事カ。アテナ。』
止められないこの気持ちを、アテナは更に言葉に乗せた。
「私、強くなって…パラスを守りたい。
そしていつか、パラスがパパとママに会えるように、
私がその運命を導いてあげたい!」
アテナのまっすぐな言葉に、パラスは顔を伏せ、再び涙ぐんだ。
そんな二人を見つめ、ミカエルは小さく息をついた。
そして静かに、うなずく。
『……器、カ。』
ヒビの入ったガラスケースをすり抜け、
ヒタヒタと裸足を鳴らしながら、アテナの元へ近づくミカエル。
パラスは怯えたまま、アテナの腕にしがみつき、背後に隠れていた。
ついには、手を伸ばせば届く距離。
アテナは、目の前の“天使”なる存在が
自分の知る“大人”をはるかに越える長身であることに、少したじろぐ。
「うわ…でっか……!」
ミカエルはアテナの目の前でしゃがみ込むと、
ほぼ骨と皮ばかりの右手を白いローブから抜き出し、
中指の爪で親指の腹を切り、血をぽたぽたと滴らせた。
その突飛な行動に、驚いた二人の目がギョッと見開かれる。
『アテナ・・・少シ痛ムガ、君モ同ジヨウニ指ヲ切レルカイ?』
「え…?あ、はい。やってみます……。」
アテナはミカエルの言葉に従い、目を瞑って恐る恐る自分の右親指を短剣で傷つけた。
『デハ、指ヲ重ネテ。』
差し出されたミカエルの親指に、アテナも自分の切った指をそっと重ねる。
血と血が混ざり合い、ぽたぽたと床に垂れていく。
するとミカエルはアテナの腕をしっかりと掴み、低く、呟くように呪を唱えはじめた。
『……汝ヘ、血ノ契約ヲ交ワス。』
その瞬間――
アテナの心身に、電流のような衝撃が走る。
体がビクンと仰け反り、指先から胸、頭へと激痛が突き抜けた。
何かを考える余裕はなかった。ただ、生への本能が苦しみに抗うように声を上げる。
「あああああ"あ"あ"あ"!!!!!」
パラスは心配そうに駆け寄ろうとするも、その光景の異様さに足がすくんでしまう。
叫び続けていたアテナは、やがて白目を剥き、体をピクピクと痙攣させながら虚脱していく。
「ぁ……ぁあ……ぁ…………」
「もうやめて!アテナが死んじゃう!!」
パラスの叫びも届かぬまま、ミカエルは儀式を続けた。
やがてアテナの腕をそっと離し、ひとつ息を吐く。
口から泡を吹いてその場に倒れるアテナへ、パラスは駆け寄った。
「アテナ!しっかりして!死んじゃやだよ!!」
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そこは…
とても薄暗く、美しい世界。
輝く青いクリスタルに囲まれ、ガラスの道がずっと続いている。
「あれ、私...?何してたんだっけ...?」
ぼんやりと辺りを見渡しながら、私は足を進める。
なぜ"そこへ"行くのかはわからないが、これだけはわかっていた。
「行かなくちゃ。」
高鳴る鼓動。次第に小走りになっていく。
すると、やがて見えてくる。
ロッキングチェアに腰かけた女性が、
近づく私に気がついて立ち上がり、地に膝を落とし両腕を広げた。
ついには息を切らし、その人のもとへ無我夢中で走っていた。
「ママ!!」
私と同じ、肩まで伸びた栗色の髪。栗色の瞳。
知っている。このとっても優しい香り。
胸に飛び込むと、その人は私を抱きしめ、
何度も、何度も頭を撫でてくれた。
本当はずっと逢いたくて…想い焦がれた人…。
しばらく幸せを噛みしめた後、私は伝えたいことを口にする。
「あのね!聞いてママ!わたし!将来ママのような強~い人になりたいん!」
その人は微笑みながら、ただ静かにその話を聞いている。
「んでね!パラスやオルファリスをず~~っと!守っていくの!」
「だからね!ママも…私…っと見守っ…」
――
・・・
・・
・
アテナが目覚めると、
そこはパラスと共にやってきた研究所の地下だった。
悲しいわけでもなく、どこか虚無感が広がる。
アテナの瞳からは、無意識に涙が溢れ流れていた。
体を動かすより先に、眼球をキョロキョロと動かし、周囲と現実を確認する。
次第に耳が聞こえるようになり、パラスの泣き叫ぶ声が届いた。
「アテナ!?うぅ…大丈夫!?」
体の痺れは若干感じるものの、何が起こったのかよく覚えていないアテナ。
混乱した頭の中で起き上がり、抱きついてきたパラスに不思議そうに答えた。
「パラス…?どしたの…?」
「どうしたのって…アテナ、死んじゃいそうだったからビックリしたのよ!?」
パラスの言葉で、アテナは少しずつ記憶を思い出し始める。
薄い靄が晴れていくかのように、断片的な場面が蘇ってきた。
「そう…だったんだ?確か…親指の傷を合わせたら…」
アテナは切ったはずの親指を確認すると、傷はすっかりふさがっていた。
「あれ…?」
不思議そうにその指を見つめ、ぼんやりとしていると、
ミカエルが静かに口をひらく。
『アテナ。私ハ君ヘ、今チカラヲ授ケタ。
ソノチカラデ、パラスノ願ウ運命ヲ導キナサイ。』
「運命を…導く……?」
アテナはそう答えると、自分の体には何の変化も感じられないでいた。
その静寂の中、
突如として地響きが大地を揺るがし、空気が震えた。
「のぁっ…何!?揺れてる!?」
アテナが叫ぶと、パラスも驚き、二人は身を寄せ合って周囲を見回す。
驚く二人に、ミカエルはさらに遠くを指差し、再び忠告した。
『二人トモ早々ニ、コノ村ヲ離レ、東北東ノ山ヲ登ッテ行キナサイ。』
恐怖する中、パラスはこわばった表情で言った。
「東北東って首都の方向…今からこの村に何が起こるの!?」
『言ウナレバコレハ、愚カナ人類ヘノ見セシメ。間モナク…神ノ裁キガ行ワレル。』
そのミカエルの声は、先ほどの優しさを失い、到来する危機を淡々と告げていた。
更に混乱したパラスは腰が抜けたのか、アテナにもたれかかる。
「パラス!?大丈夫!?」
「ごめん、腰が……立てない……。」
今にも崩れ落ちそうに、どんどんとヒビが入っていくコンクリートの天井。
『サア、早ク走レ!アテナ!!!』
アテナはパラスを抱きかかえ、ミカエルの忠告通り無我夢中で研究所を飛び出した。
そして、村を抜けるとミカエルの示した方角へと駆け出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ……はぁ……」
パラスを背負い、どれだけ走ったのか…。
アテナはもう考える気力すらなかった。
豪雨はまるで嘘のように止み、空には無数の星が瞬いていた。
ついに限界を迎えたアテナは、山中でよろよろとぬかるんだ斜面を踏み外し、
パラスごと泥に倒れ込んだ。
「キャア!・・・アテナ!?大丈夫!?」
走り抜いた素足は、小石でマメが潰れ、草木に切り裂かれて血に染まっている。
だが、その痛みすら今はもう感じられなかった。
二人はミカエルの言葉の意味を確かめようと、山道で振り返り村を見下ろした。
そこには…
覆い尽くす業火が、村を赤く照らし出していた。
茫然と見つめる二人の瞳は、驚愕と絶望に染まり、赤く輝いていた。
『ソレデイイ。ココカラ運命ハ…動キ出ス。』
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ようやくファーストエピソードの"始動"が完結しました。
書き直ししてるうちに、ちょっとだけ違うストーリーに出来たりして楽しいです。
次回は私の大好きなキャラが登場です。
みんな大好きななんですけどね。