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忘れさられた物が集まり、外界とは結界にて隔てられた妖怪達の楽園、幻想郷。今日も終わりを告げ、日が沈み、月が昇る。時は丑三、喧騒は消え木々のさざめきは安らぎから恐怖へと変わり、顔を出すのは妖怪達の姿。時には人の様な、時には言い表せぬ怪物の姿で獲物はどこだと森を彷徨う。
本来なら人里の人間は食ってはならず、そもそもこんな時間に人里離れた場所にいる人間など居ないのだが今日ばかりは都合が違う。
妖怪達が匂うは人間の匂い、見る姿は着物とは違う西洋の装い。見たものは口を揃えて言う。外来人だと。
里の人間は食ってはならない。これは規則など知らぬ存ぜぬの妖怪達でも絶対の法であった。これを破るものは楽園の巫女によって滅され二度と天を拝む事は出来ないからだ。
しかし外来人は違う。外来人とは意図せず幻想郷に入り込んだ者の事である。扱いとしては居ようがいまいが関係無しと、元から居なかったのであれば消えても問題無しと、そうゆう扱いである。これが意味するのは妖怪と外来人のデットレース。妖怪が外来人を食うか、外来人が人里に逃げ込めるか。
しかし外来人は人里の場所、ましてや存在など知る由も無い。だからこのレースは妖怪どもの出来レースに等しい。絶品の人間を貪る為に我が一番だと逃げる餌を追いかける。それがいつもの姿。ただ今回ばかりは勝手が違った。
(なんなんだコイツら?)
いつもの泣きじゃくり、傷を作りながら逃げ惑う姿はなく。まるで獣の様に木々を乗り移り、見かねて放った弾幕もまるで後ろに目が付いているかの様に華麗に交わす。
(とにかく逃げる、隠れる)
挙句の果てに何か投げたと思ったら耳をつんざく様な爆音と太陽より眩しい光を放ち姿をくらませる。
(東の方に神社が見えた、あそこなら人に会えるかも知れない)
妖怪達を翻弄するのはたった一人の男。彼は持っていた道具を使い切り百鬼夜行から逃げ延びる事となる。
男の名は伊賀尚介、現代に残る最後の忍者であった。
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「霊夢さ〜ん!起きて下さい!早く早く!人が倒れてます!」
「ん〜、あうん、うるさい、何時だと思ってるの、、、」
「いいから起きて下さい!早く!」
日が昇り始めた明朝。まだ若干薄くらい中、博麗神社で騒ぐのは神社の狛犬の高麗野あうん、寝巻き姿で引きずられているのは神社の巫女である博麗霊夢であった。
異変を感じたあうんは即座に飛び出し霊夢を呼びつけ、いつもより二時間程早くに叩き起こされた霊夢は機嫌が悪く、二人は神社の入り口に倒れる尚介の姿を見つけるのであった。
「ちょっとアンタ大丈夫?、、、生きてはいるし気絶してるのかしら。あうん!コイツ部屋に連れて行ってあげて。私ちょっと着替えてくるから」
「うい」
霊夢は若干面倒になりながらも あうん と介抱の準備を進める。なんだかんだ面倒見がよく、誰が相手でも態度を変えないのが博麗霊夢という女であった。
(しっかし運が良いわねぇ)
テキパキと着替えなら霊夢は考える。さっと見た感じだと所々怪我をしていたのが見てとれた、おそらく妖怪共から這う這うの体で逃げて来たのであろう。傷は塞いでやらないと行けないし、急に一人増えた為、焼く魚を一匹増やさなければならない。その分の労力を考えるとまた面倒な気持ちが上がって来るが、それでも見捨てる選択肢が出ないのが彼女の人なりである。
(反対側に走ってくれれば良かったのにねぇ)
博麗神社と人里を隔てる森は手入れがされておらず、昼間ですら若干薄暗く、ましてや月明かりともなればほぼ無いに等しい。そんな中走り回りこの博麗神社を見つけたのかと思うと案外頑張ったのだろうと霊夢は考えながら医療箱を手に取り、あうん が連れて行ったであろう部屋に向かって歩き始めた。
「あうん、お待たせ。具合はどう?」
「この人凄いですねぇ、こんなにボロボロでよく妖怪共に捕まらなかったですね」
尚介は あうん に背負われた辺りで意識が戻っていた。しかし人ならざる気配と人の気配、その両方を感じ取り、まずは様子を探ろうと体から力を抜き、辺りを探っていたのだった。
「まずは脱がすわよ、怪我してるみたいだし包帯巻くから手伝いなさい」
「あい」
二人は尚介を介抱する為に服に手を着ける。上下真っ黒のジャージは幻想郷では珍しい類の服装であり、着物とは全く違う構造であるが霊夢の天性の勘によりジッパーを下げれば脱げるだろうと手をかけた瞬間の事だった。
「その必要は無い。自分で脱げる」
「きゃぁ!」
「わぁ!」
尚介は目を開き霊夢の手を止める。二人に悪意がない事が分かり、二人の手間を省く為に起きる事にしたのだった。
「すまな、い、、」
「びっくりしたぁ〜、ちょっと起きてたんなら言いなさいよ、ちょっと?もしも〜し」
「え、あ、すまない、包帯は自分で巻くのでそこに置いといてくれればいいので」
「そんな事言わないで、手伝うからさっさと脱ぎなさい、あうん水汲んで来てくれる?」
「ガッテン」
「そうだ。すまない、硬い棒か何かを持って来てくれないか?足が折れてるんだ」
「は?足が折れてるって」
突然の覚醒に驚く二人。すぐさま切り替え怪我の為にとせっせと動き始めた二人に更なる爆弾を投下する尚介。驚きと焦りと心配に若干恐怖を混ぜた二人を尻目に尚介は全く別の事を考えていた。
(綺麗だ。)
絹の様なサラリとした黒髪。クリクリとした黒目に艶やかな唇。年頃の女性しては大胆と言わざるを得ない脇の出た奇抜な巫女服も完璧に着こなす姿。最初に目があった時には天使の迎えかとも思ってしまった。高まる心拍数を抑え、その黒い瞳にこの気持ちが見透かされて無いかとドキドキしていた。
簡単に言えばこの男、博麗霊夢に一目惚れしたのだ。
聞けば肩も外れたが自分で直したという発言により更にドタバタする事になったものの、なんとか治療を終えた。一旦落ち着こうと言う霊夢の一言により朝食を済ませ、あうん は狛犬の業務に戻り、残る二人はちゃぶ台を挟んで向かい合っていた。
「この度は助けて貰って感謝しています。伊賀尚介と申します。どうぞよろしく」
「私は博麗霊夢。この神社で巫女をしているわ」
向かい合って礼をする二人。尚介の方は二人っきりの空間にドキドキを隠すので精一杯だったが、対する霊夢はのんびりとお茶を啜りながら責務である幻想郷についての説明を始めた。
外界と結界により隔たれた世界、幻想郷。ここに流れ着く者は、忘れ去られた者、境界の揺らぎに巻き込まれた者、自ら結界を通って来た者。そして最後の様な力ある者以外に当てはまる者のはこの幻想郷からは二度と出れないと言う事。
ここまで聞いた人間の反応は殆ど二通りに別れる。一つは外界に未練なく第二の人生を歩もうとする者、もう一つは逆に外界に置いてきたものを嘆く者である。
尚介は前者だった。両親は既におらず、友人もおらず、仕事もしていたが雇って貰った以上の恩は無く、行方不明か失踪か、外ではどの様に扱われるか分からないが今の尚介には関係無かった。
(どうすれば彼女の、霊夢の側にいられるだろうか)
何故ならば尚介の心は既に外界への興味は無く、彼は人生初の春に浮かれまくっており、全て過去のものとなっていたのである。
そんな事はつゆ知らず霊夢は幻想郷のアレコレを尚介に伝えていた。文化、妖怪、霊力、弾幕ごっこ、外界ではまず関わる事のない様な事に興味を示す尚介。小気味良く話に食いついて来る尚介に調子を良くした霊夢は遂に幻想郷の見取り図を取り出し、こと詳細に幻想郷について語り出す。
紅魔館、冥界、永遠亭、地獄、妖怪の山、その他様々、各所で起こった異変とその解決に付いて語る霊夢とその様子を楽しく見守る尚介の構図は太陽が隠れ、一向に晩飯が出来ずに痺れを切らした あうん によって止められるまで続いたのだった。
「尚介、今日は泊まって行きなさい」
「いいのか?」
「いいのいいの、ってかその足が治るまで居ていいわよ。あうん もいいでしょ?」
「はい、家主は霊夢さんなので」
尚介は内心小躍りしていた。想い人と同じ屋根の下で暮らせるなどなんたる幸運かと。この感じだと足は治るまで2、3ヶ月はかかる目算である。その間彼女に尽くそうと尚介は考えていた。
「それじゃあ部屋はさっきの部屋を使ってちょうだい。あとはお風呂とトイレね、後で教えるから」
「分かった、何から何まで申し訳ない」
「そんなに謝らないでちょうだい。これも何かの縁よ。あうん、私は尚介に場所教えてるから、お風呂の準備しといて」
「あい」
(ちょっとは騒がしくなるのかしら)
こうしていつもより遅い晩飯を終えた博麗神社に新たな住人が加わったのだった。
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