東方霊恋帖   作:冷ヤクミ

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 朝、霊夢は炊事場の匂いで目を覚ます。暖かな味噌の匂いは食欲をそそるがそれと同時に疑問も残る。一体誰が調理をしてるのだと。

 

 あうんは料理が出来ないし、下に棲む悪魔も料理が出来る様には思えない、そもそも彼女はご飯を食べるのだろうか。訪れる妖怪達の中には作れそうな者もチラチラいるがそういった者は大体常識人であり台所を使う前に霊夢を起こしに来る様な者ばかりである。

 

 門番であるあうんが反応していない事もあり恐る恐る札を構えながら戸を開けばそこには料理中の尚介の姿があるのだった。

 

「尚介!あんた何してんのよ!足折れてるんでしょう!」

「ん?霊夢か、おはよう」

「おはようございます。じゃ無くて!何してんのって聞いてるのよ」

「いや、ただで置いて貰うのも如何なものかと思ってな。まずは朝食でも作ろうかと」

「朝食って、とにかく怪我人なんだから大人しくしてなさい!」

 

 この時、霊夢はふと思う。この男そう言えば全く痛がるそぶりをしていないと。今でこそ貸した着物に袖を通してある為あまり目立たないが、全身傷だらけであり足も折れてるのだ。よく考えれば昨晩、居間に移る時もお風呂場とトイレを教える時も何も言わずにスタスタと付いてきたもんだから気づかなかったが、普通に重傷人として寝たきりでもおかしくない筈である。

 

「あいつ何者?」

 

 尚介を押し除けて家事を引き継いだ霊夢は、面倒ごとを自ら引き入れてしまったのでは無いかという一抹の不安を抱えながら尚介の作った味噌汁を飲み、あまりの美味さに唸るのであった。

 

 

 

 美味い美味いといつもより箸の早いあうんを見ながら複雑な気持ちになりつつも朝食を終えた霊夢は早速尚介に疑問をぶつける事にした。

 

「単刀直入に聞くわ、アナタ何者?」

「何者とは?」

「アナタが何にも言わないからついスルーしちゃいそうになるけど、普通なら起き上がるのもやっとの怪我人でしょう?それなのになんとも無い様に歩き回ったりするし。あと、これは勘だけどウチに来たのもたまたまじゃ無いでしょ」

 

 霊夢は頬杖をしながら尚介を問いただす。これは例え尚介が悪意を持って襲いかかって来ても制圧出来るという強者の自信であり、実際霊力も魔力も無い尚介ならば簡単に制圧出来るのは事実であった。

 

 尚介も一介の忍としてその力関係は重々承知しており、霊夢の質問に対しては命の恩人として、そして想い人に対して不義理と感じた尚介は全てを話す事にした。

 

「質問はごもっともだ」

「そ、ぱっと見は霊力も魔力も持たないただの人、だけどただの人とはちょっと違う。でしょ?」

「その通りだ。白状すれば俺は忍者、現代を生きる伊賀流忍術その最後の後継者だ」

「忍者ってあの?」

 

 そう言いながらニンニンと構える霊夢に愛おしさを覚えながらも尚介は説明を続ける。

 

「俺は忍者としての訓練を幼少期から受けて来た。伊賀流忍術は時代と共にその流れを汲み、受け入れ発展しその形を保っている。少し前までは国政の為に動いてたけど、時の流れと共にそれも無くなり、今ではその形だけが残るのみって感じだ」

「へー、じゃあ足が折れても大丈夫なのも妖怪から逃れたのもその忍術のおかげってわけ」

「まぁ、おおよそは。折れた足は逃げる途中に真っ直ぐに直した。怪我の痛みに慣れる修行は忍者の基本。博麗神社に辿り付いたのが偶然じゃ無いって言うのもおおよそ当たりだな。木の間を飛び回ってるうちに一際高い所の神社を目指したら此処だった」

 

 尚介の話を聞いて若干引き気味の霊夢。彼女は幻想郷の平定者という立場上、荒事も経験するしその過程でケガをしたり骨を折ったりはした事もある。が、慣れるなんて事は無いのだ。痛いものは痛い、ましてや折れた骨を真っ直ぐに治すなど考えられない、そんな修行を幼少期からしていたと言う。

 

 霊夢は少し尚介に自身を重ねた。痛みに慣れるなんて修行はした覚えは無いが、幼少期から親の愛を受けれずに唯ひたすらに修行に打ち込む。同じ様な幼少期を過ごして来た霊夢は尚介に同情していた。

 

「それにしてもようやく合点がいったが、あれが霊力か」

「それもそうよ、アナタ霊力も魔力も持って無いでしょう?よく妖怪共の弾幕から逃れたわね」

 

 力を持たない者にはそれが何か感じ取れない。これは霊力だろうが魔力だろうがなんでもいいが、ちっぽけな妖怪の弾幕ですら霊力を持たない人間には感じる事はできない筈である。

 

「あぁ、それに関しては昔っから気配には敏感でな、例えば後ろっから脅かそうと近づいて来る女の子なんかも実は気が付いてたりする」

「げ」

「あら魔理沙じゃ無い」

 

 

 

 魔理沙を交えた三人はちゃぶ台を囲みながら談笑をしていた。最初、魔理沙の分の茶を用意しようとする尚介と止めに入る霊夢とで一悶着こそあったが、結局尚介が用意し、各自のんびりと過ごしていた。

 

「それじゃ改めて、アタシは魔理沙、霧雨魔理沙だ、よろしく」

「伊賀尚介だ。どうぞよろしく」

 

 自己紹介もほどほどに口火を切ったのは魔理沙だった。

 

「まさか霊夢に男が出来るとはなぁ」

「はぁ?何いってんのよ尚介はただの居候よ。足が治ったら出ていく予定なんだから」

「足?足ってコイツさっきもピンピンしてたじゃん?ってかさっきも霊夢は尚介が動こうとしたら止めてたけど」

「コイツこう見えて足が折れてるのよ」

「は!?」

 

 驚く魔理沙に尚介は自身の出自に付いて教える。忍者の事、修行の事、そして気配の事。それを聞いた魔理沙は怪訝な顔をしつつも指を顎に当てつつ考える素振りをする。

 

「いや、しょーじき修行云々に関してはキモいが」

「キモい!?」

 

 尚介も男である。同年代のしかも美人にキモいと言われるのはクルものがあった。そんな尚介の事は気にせず魔理沙は続ける。

 

「気配に関してあれだな『気配を当てる程度の能力』ってのはどうだ」

「程度の能力?」

 

 魔理沙曰く幻想郷の者は時折り霊力、魔力では説明の付かない事をする者が居ると言う。それらをまとめて『程度の能力』として呼んでいると。聞けば霊夢も魔理沙もその『程度の能力』を扱うらしい。

 

「それで『気配を当てる程度の能力』ねぇ」

「どうだ、あたらからずも遠からずって所だろ」

「おおよそはそんな所でしょうね」

 

 今まで才能だと言われて来た部分に名前が付きなんとも言えない気分の尚介だが郷に入っては郷に従えと気分を正す。

 

「じゃあさ、ちょっと試してみようぜ」

「試すって何をよ」

「尚介の能力の事だよ。尚介も自分の事は知っといた方がいいだろ?」

 

 霧雨魔理沙という女は実の所、研究者である。その身一つで家を飛び出し、ゼロから魔法の研究を進め身につけたのは正しく才能と言っても過言では無いだろ。

 

「別に試すのはいいんだが」

「なんだ厠か?」

「いやトイレじゃないんだが、後ろでカメラを構える妖怪は放っておいていいのか?」

「ほほう、『博麗の巫女に男出来る!?夜な夜な行われる爛れた生活に密着!』いいですねぇ!次の一面は貰いましたよぉ!」

「あ!こら!文!待ちなさい!」

「でわでわ皆様!アデュ〜」

 

 聞きずてならないセリフを吐く鴉天狗、射命丸文に霊夢達が気づいた時にはすでに写真は撮り終わったらしく、飛び立つ彼女とそれを追いかける霊夢は瞬く間に消え、博麗神社には呆気にとられた魔理沙と尚介だけが取り残されたのだった。

 

「えっと、さっきのは?」

「あれは天狗の文だな、『文々。新聞』ってのを書いて押し付け回ってるんだが、与太話だらけな割には嘘は書かんからな。あー、つまり、」

 

 言葉を濁す魔理沙に対して尚介は目で続きを促す。

 

「多分霊夢も追いつけないだろうから、明日には幻想郷中に尚介の事が知れ渡るんじゃないか?」

「はぁ」

 

 人事の様に煎餅を齧る魔理沙と首を傾げる尚介。事態に付いて上手く掴めて居ない尚介はこの気持ちが漏れるならいざ知らず、居候一人で何を騒ぐかと唸るがその答えは後日明らかになる。

 

 次の日の『文々。新聞』は文の乗りに乗った筆によりこう締めくくられる。

 

「最後にこれはあくまで記者の見解に過ぎないのだが、博麗の巫女もいい年頃であるからして、そろそろ次代に付いて考えてもおかしくは無いだろう」




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