尚介が博麗神社に居着いて数週間が経った。レミリアにそそのかされた尚介が選んだのは献身だった。尚介愛を知らない、そんな彼が出来るのは尽くすだけだった。別に恋仲になりたい訳では無い。ただ彼女の側で働いて、霊夢が笑う姿を見れればそれでよかったのだ。
そんな尚介の考えなどつゆ知らず、霊夢はこれまでの生活を振り返っていた。尚介が来てからは悪く無い、むしろ良い生活が出来ているのではなかろうかと。
鴉天狗の配った新聞により興味本意での来客こそ増えたものの、こうして縁側でお茶を啜っていれば神社は綺麗になるし、上手い飯は出て来るし、空いた時間で人里でボヤ騒ぎを解決すれば懐も増えるといい事尽くめである。
それに共にいて心地が良いというのがあった。もともと霊夢は尚介にシンパシーのようなものを感じていたという事もある。それは常にある孤独感。誰かといても、何を話しても、どこか違う。無論、人である以上誰かと全く同じなんてことは無いと、そんなことは分かっている。それはまた違う言い表せない孤独感を霊夢は感じており、同じモノを尚介も感じていると、半ば確信じみた考えを霊夢は持っていた。それ故か昼時ならば並んでお茶を啜り風を感じ、晩酌をすれば共に夜空に酔う。それだけの事で、さらにはそこに言葉は殆ど無い。しかし、馬が合うという奴だろう、全く苦では無かった。
宴会の時や魔理沙と飲んでいる時の様な騒がしい酒も悪く無いが尚介との酒はまた違った良さがあった。暖かいと言うか、勿論お酒により体は暖かくなるのだが、それと同時に心も暖かくなる。これの名前は分からないが心地良く、霊夢はこの暖かさが好きだった。
今日もしばらくすれば掃除の終わった尚介がお茶のお代わりと茶菓子を持って来て共に風流を感じる事が出来るだろう。それが霊夢にとっての平穏となりつつあった。
「霊夢さん!なんで恋に悩んでるなら私に声をかけて来なかったんですか!」
平穏の崩れる音を聞きながら霊夢は来客を尚介に伝え、とりあえず居間に上げるのだった。
「ほほぉ!忍者!じゃあやっぱりあれですか!影分身とか!変わり身の術とか!」
「いやぁ、そうゆうのはあくまで創作かなぁ」
鼻息を荒く、元気ハツラツといった感じで博麗神社に飛び込んで来た少女、東風谷早苗を宥め、誤解をとき、尚介の身の上の話をした後、早苗は外来人の忍者に興味深々な様で、質問攻めに合う尚介はたじたじになっていた。
「なんか拍子抜けですね、もっとこう、ドロン!とかシュシュシュ!みたいなの無いんですか!?」
そう言われて参ったなと困る尚介。昨今の創作でメジャーな忍者像と今の伊賀流はかなり掛け離れていた。ドロンと消える術はなく普通にスタングレネードを投げるし、クナイも合金で出来た万能ナイフといった方が近い。手裏剣なんかも拳銃の方が威力も弾速も桁違いである以上殆どというか、全く使われていないのが事実である。
でもなんだかそれを、目の前の忍者に目を輝かせる少女に伝えるのはなんだが悪い様な気がする尚介は曖昧な返事しか出来ないのであった。
「早苗、そこまでにしときなさい」
「はーい。でも霊夢さん!やっぱりナルトとか見て育った身としては気になっちゃうんですよ!」
「ふーん」
妙に興奮した様子の早苗を嗜める霊夢。やっと質問攻めが終わり一息付く尚介。ほっとした所で尚介は重要な事を思い出した。
「早苗さんだっけ、よかったら自己紹介とか」
「あ!」
「はぁ、、、」
東風谷早苗は自信の失態に気づき青ざめて謝る事になるのだった
「ごほん、改めまして守矢神社の風祝をしております東風谷早苗です。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「それでですね、今日来たのは尚介さんに聞きたい事がありまして」
「俺に?」
尚介は困惑していた。彼女と出会ったのは今日が初めてであり、幻想郷に来てから数週間この博麗神社からも一歩も出て居ない。なので誰かに因縁の様なものを作った覚えが無く、一体何事かと考えて居た。
「実は外の世界について教えて欲しくて」
「外の?」
聞けば早苗は数年前に信仰している神社の神の力が弱まった為、避難する様に幻想郷に引っ越して来たと言う。勿論、早苗は相当な覚悟を持って外界を捨て幻想郷にやって来た。それは彼女も自信を持って言えるだろう。
そして彼女は幻想郷に適応した。非日常を日常とし、常識を捨て、なお幻想郷への好奇を止めない。そんな彼女の姿はまるで元からいた妖怪達の様であった。
だがそれと同時に彼女も年頃の少女である。ふとした瞬間に外界の事を思い寂しくなる時があるのだ。以前同じ外来人である十六夜咲夜に話しかけたが、彼女は幻想郷に来る前から人里から離れて過ごして居たらしく、殆ど外界についての話は出来なかった。
「だから、知りたいんです。私の捨てた世界がどんなに綺麗だったか」
彼女も完全に外の世界へ心残りがある訳では無い。家族、友達、読みかけの漫画、部活に入ってみればよかったな、成人式はどんな感じだったんだろう。ふとした瞬間に考えてしまう。だがそれ以上にあの二柱が大切だった、ただそれだけだった。
東風谷早苗はどちらかしか選べなかっただけで、どちらも愛して居たのだ。
だから知りたいんです。と、尚介に語るのだった。
「そうゆう事ならいくらでも」
「はい!」
そこからまた早苗の怒涛の質問攻めが始まった。あの漫画はどうなった、あの高校を知っているか?確か強豪だった、あの番組はどうなった。先ほどと違って尚介は快く答えた。人生の半分以上を俗世から離れて暮らしていた為に全ては答えれなかったが、それでも早苗が満足出来る様に答えるのだった。
「、、、」
霊夢はそんな尚介の様子を肘を立てて見ていた。自分には関係無い話をしている以上、自分がここにいる必要は無い。縁側にも出て二人が話し終わるまでのんびりとお茶でも啜っていればいいのだ。
しかし霊夢にはそれが出来なかった。今、尚介から目を離すのはなんだかモヤモヤして堪らなかった。早苗の話は初めて聞いた、幻想郷で生まれ育った霊夢には理解は出来なかったが同情はした。同族の居ない世界に一人で飛び込むのはさぞ勇気が要るだろう。あの二柱のことを思えば理解はしてくれても役には立たないだろうと思う。だから早苗の気持ちも分からなくもない。なんせ初めての同類である。
だとしても、早苗の立場を分かったとしても、霊夢はなんだか尚介と早苗が知らない話で盛り上がっているのが面白くなかった。
霊夢は自分の気持ちが理解出来ないでいた。この胸を刺す痛みが分からなかった。怒りの様な、悲しみの様な、寂しさの様なこの気持ちが分からなかった。ただ、たまに尚介と目が合えば笑いかけてくれる。その瞬間だけ心が霧の晴れた様に軽くなる。だから我慢してやろうという気持ちになるのだった。
結局二人に話は空が赤くなるまで続いた。「また来ますね!」と尚介に笑いかける早苗を見てまた心にモヤがかかる。
「晩飯にしようか」
「今から作るのは面倒ね」
「だから手伝ってくれないか?」
「いいの?」
見ていて気づいたが尚介はどうやら料理が好きな様だった。霊夢の半分勘で作る料理とは違い毎日凝った料理を作る。聞けば外の世界にいた頃からの趣味らしい。それもあってか台所は殆ど尚介の空間と化していた。
「俺は霊夢の作った飯も好きだけどなぁ」
その一言で霊夢の心のモヤは全て消えてしまった。
「いいでしょう、この博麗の巫女が直々に料理を振る舞ってあげます」
「ハハッ!なんだそれ!」
こうして博麗神社に笑い声が響きながら夜は老けるのであった。
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