東方霊恋帖   作:冷ヤクミ

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 最近霊夢がおかしい。尚介の最近の悩みのタネだった。顔を合わせる頻度が少なくなった、博麗神社は大して広く無いのもあってなんだか避けられている様に感じていた。

 

 かと思えばお茶や晩酌には誘って来る、しかしいつもより遠くに座る。気になって近づけば近づいただけ遠ざかる。この前は追いかけっこの末に縁側の端にまで霊夢を追い詰めて怒られてしまった。

 

 何かしただろうか、と尚介は思い悩む。考えれば霊夢の様子がおかしくなったのは風邪が治った後だった。あの夜の事を気に病んでいるのかも知れない。聞こうにも霊夢にあの夜の事を言おうとすると真っ赤にした顔で睨まれる為に聞けずにいた。

 

 どうにかしようにも件の霊夢は人里に出かけてしまい話す事も出来ず、尚介は困ったなぁと思いながらも普段通り家事をこなす事しか出来ないのであった。

 

 

 

 人里の甘味処。その一角は異様な雰囲気に包まれていた。『楽園の素敵な巫女』博麗霊夢。『普通の黒魔法使い』霧雨魔理沙。『完璧で瀟洒な従者』十六夜咲夜。『祀られる風の人間』東風谷早苗。幻想郷の実力者が揃い踏みであった。この様な面子が集まる事などそれこそ異変の様な場合であり、里の住人も何事かと緊張感が漂っていた。彼女達を集めたのは他ならぬ霊夢であった。

 

「そろそろ集めた理由を教えてくれないかしら。別に私は暇じゃ無いのだけど」

「おいおい自分だけが忙しいって訳じゃ無いぜ?アタシだって研究の途中なんだ」

「まぁまぁ、咲夜さんも魔理沙もいいじゃ無いですか!なんてったって霊夢さんの相談事ですから」

 

 3人を呼ぶ際に霊夢は内容を伝えなかった。ただ一言相談に乗りなさいと。そうして集まったはいいもののウダウダしている霊夢のせいで殆ど話は進まず相談事すら分からない状態が続いていた。

 

「霊夢、いつまでウダウダしてるんだ?とっととゲロっちまえ。おばちゃん!団子お代わり!」

「ちょっと魔理沙、」

「そんな顔したってお前が集めたんだろ?早く言わないとお前の財布空っぽになるぞ」

 

 魔理沙は団子を食べながら霊夢に言葉を促す。ここのお代は相談料代わりに霊夢が持つ事になっている。咲夜はそれなりに遠慮をし、早苗は最近のお腹周り事情で殆ど食べなかったが魔理沙は遠慮無しに次々と団子を平らげていた。

 

 それは魔理沙なりの気遣いでもあった。それなりに博麗神社に通っている彼女は霊夢と尚介の距離感の変化に気付いていた。その事を考えれば自ずと今日の相談事もなんとなく察するものだった。

 

「好きな人が出来た」

「!」

 

 たった一言だが湧き立つのはやはり彼女達も年頃の少女の証だった。

 

「お相手はどなたですか!」

 

 いの一番に食いついたのは早苗だった。焚き付けた本人である魔理沙はニヤニヤ笑って霊夢を見ているし、咲夜も察していたのか大して驚かずにお茶を飲んでいる。

 

「な、尚介、、、」

「Foooooooo!」

 

 早苗のテンションは最高潮にまで達していた。まさか幻想郷で恋バナが出来るとは思っても見なかったからだ。それに合わせて雰囲気も緩み、甘いものへと変化していた。それで察した里の住人達のなんだと安心していた。

 

「それで!?いつから意識したんですか?前、私が行った時はそんな雰囲気無かったですよね!?」

 

 こうなった早苗は誰も止められなかった。怒涛の質問攻めにより霊夢は答えざるを得なかった。最初は便利な家政婦程度にしか思って無かった事。存外に彼との時間が心地いい事。看病して貰った時に自身の気持ちに気付いた事。そして今は恥ずかしくてまともに話せなくなった事。

 

 流石に風邪を引いた時に尚介に甘えまくった事は博麗のプライドの為に伏せる事に成功したものの、ほぼ丸裸にされた霊夢は羞恥で顔を真っ赤にし、机にうずくまってしまった。

 

「いや〜、まさか霊夢さん春がくるとは!もしかして枯れてるんじゃ無いかと思ってましたが」

「そうそう、アタシも安心したぜ?」

「今、あんた達に相談したのを後悔してるわ。別に恋愛経験ある訳じゃ無いでしょう」

「失礼ですね!ワタシだって淡い恋の一つや二つ経験してますよ!」

「どうだかな」

 

 そう答えたる早苗の脳裏には外の世界の思い出が写っていた。最後の思い出になる筈だったのに、自分で捨てた筈なのに、今でも夢に見る一年間を。早苗はプリプリと起こっている様でその実後めたさを感じていた。

 

 自分で捨てた癖に、未だに未練がましく縋ってなんと惨めだろうか。

 

「まぁそう騒がないの」

 

 そう嗜める咲夜の声でハッとした早苗は心のモヤモヤを引っ込めた。

 

「貴方達の事はいいのよ。私たちは霊夢に相談されてるんでしょう?こうやって駄賃も貰ってるんだから、乗るのがスジよ」

「確かに、じゃあズバッと言いますけど!ぶっちゃけちゃった方がいいですよ。こうゆうの時間をかければかけるほど言いづらくなりますし」

「それが出来れば苦労しないわよ」

 

 再度机にうずくまる霊夢。普段の飄々とした姿はどこにも無く、既にただの恋する乙女となっていた。

 

「じゃあ私が貰っちゃおうかしら」

「!?」

「お」

「え!」

 

 咲夜のとんでもない発言に三人の視線が集中する。特に霊夢からはどんでもない視線を浴びるが咲夜はそれをどこ吹く風と流しながら続ける。

 

「彼、結構料理上手だし、家事が出来るなら私の負担も減るし。足が治ったら出ていく予定なんでしょう?まだ住居も決まって無いなら拾おうかしら。そうね、彼と子供でも作れば更に」

「咲夜」

「あら、怖い怖い」

 

 冗談だと笑い飛ばす咲夜。対して魔理沙は咲夜の言葉が冗談に聞こえなかった。なんと無くこのまま霊夢が行動しなければ言った通りになる。そんな凄みが咲夜にはあった。

 

「咲夜の冗談はともかく、博麗神社に居る今がチャンスだぜ?」

「そうですよ!言葉はきちんと口に出す!そうしないと伝わらないですから!」

 

 魔理沙と早苗に押され霊夢は迷っていた。言葉に出す恥ずかしさと誰かに取られるかも知れない焦りが霊夢の心をかき乱す。

 

 完全に忘れていたが尚介が神社に居るのも残り少ないのだ。自分で作ったタイムリミットとはいえ、それがある事に焦りが加速する。

 

 それに咲夜の事もそうだ。今まで誰かに取られるんなんて思っても見なかった。

 

「それにさ、霊夢。お前今、尚介の事避けてるんだろ。向こうからしたら嫌われたって思うかもしれないぜ?」

 

 それを聞いてハッとする霊夢確かに今日も出かける旨を伝えたら少し悲しそうな顔をしていた。

 

 気持ちを伝える。

 

 博麗霊夢は決心をした。この気持ちを伝える。結果はどうなるか分からないがそうするべきだと。

 

「それでこそアタシのライバルだ」

 

 魔理沙は霊夢の肩を叩いて笑う。今夜は決起会ですねと早苗が言えば自然と酒場に足が向かうのだった。

 

 

 

 夜風に当たりながら霊夢達は人里を歩く。散々騒いだ4人は霊夢を励ましながら伝える時期について話し合っていた。

 

「明日です!時は金なり!早く言いましょう!」

 

 霊夢を励ます為、普段飲まない早苗も少し飲んでいた為かいつも以上にテンションが高い。

 

「アタシもそう思うぜ?さっさとゲロた方が楽になる」

 

 陽気に魔理沙が賛同する。咲夜はほとんど喋らないがずっと頷いていた。

 

 そんな4人の間を夜風は吹き抜ける。その瞬間、4人の酔いは既に冷めていた。

 

「あんた達」

「分かってるぜ」

「えぇ」

「はい」

 

 後ろから感じる巨大な妖気の塊。振り返れば道を埋め尽くす数々の妖怪。

 

火の玉が揺れる

 

猫又が踊る

 

提灯が笑う

 

壁は歩く

 

木綿が流れる

 

その姿、正に百鬼夜行であった。

 

 

 

「なんなの?これ」

「異変?なのか?」

 

 霊夢は判断しかねていた。別段人里に妖怪が入っては行けないというルールは幻想郷には無い。人を食おうとせず、少し脅かすだけであれば問題は無い。あくまで線引きは人を食べるか否かであった。しかし、だとしてもこの光景は異様であった。

 

「ちょっと小傘?なんのつもり?」

「、、、」

「ちょっと!もう!」

 

 列の中に見知った顔を見つけて呼び止める霊夢。しかし呼び止められた多々良小傘が霊夢の呼びかけを気にも留めずにすり抜けて行く。

 

 道のど真ん中に立つ4人には目もくれず、

道を埋め尽くさんと歩く妖怪達。その意図が読めず、立ち尽くしていると、

 

 

 

停止

 

 

 

そして

 

 

 

視線

 

「っ!回避!」

 

 爆発が大地を揺らした。




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