オフィスの一角で、武内Pが静かに報告を終えた。
「と言う事で、なら100年会館で國鉄のイベント会場に決定することに」
その言葉を聞いた瞬間、イヤミPが目を剥いて飛び上がる。
「オイオイオイオイオイ! 何勝手に決めちゃってんだよ!」
彼の声が部屋中に響き渡り、近くの書類がビクッと震えた(気がした)。
「しかし、南紀白浜は既に鹿島乃亜側の事務所に取られて」
武内Pが冷静に説明を続ける。
イヤミPは腕を組んで一瞬考え込むが、すぐにニヤリと笑った。
「ならゲスト出演扱いで済むことじゃないか? ま、なら100年会館の件は君自身で処理しろよ」
「ハイ」
武内Pはいつものように素直に頷く。
「よし! 早速決行だ!」
イヤミPが突然拳を振り上げ、勢いよく宣言する。
「何をです?」
武内Pが首をかしげて尋ねると、イヤミPは目をギラつかせて答えた。
「南紀白浜だ」
「……え?」
武内Pの頭に一瞬クエスチョンマークが浮かぶ。
「(今、なら100年会館に決めたばかりじゃ……?)」
イヤミPの思考回路がまたしても常人離れした方向に突っ走っていることを感じつつ、武内Pは内心ため息をついた。
「ゲスト出演ってことは、鹿島乃亜のイベントに乗り込むつもりですか?」
「その通り!」
イヤミPが指をパチンと鳴らす。
「向こうが主役なら、こっちは脇役で目立ってやる。鷺沢文香の知性と気品で、鹿島乃亜の派手さを食っちまうんだよ!」
武内Pは一瞬言葉に詰まる。
「(文香さんにそんな派手な対決、似合うのかな……?)」
頭に浮かぶのは、本を手に静かに微笑む文香の姿と、南紀白浜のビーチでド派手に踊る鹿島乃亜の対比。
だが、イヤミPの勢いは止まらない。
「なら100年会館はお前が抑えて、南紀白浜は俺が仕掛ける。二正面作戦だ! 分かったな?」
「ハイ……」
武内Pは渋々頷きつつ、内心の混乱を抑え込んだ。
こうして、346プロのアイドル戦争は新たな局面へ。
奈良の古都で文香が静かに輝きを放つ一方、南紀白浜ではイヤミPの無謀なゲスト出演作戦が動き出す。
果たして、この二正面作戦は成功するのか――それとも、ただのドタバタ劇に終わるのか!?
翌日、和歌山県西牟婁郡白浜町。
南紀白浜の青い空とキラキラ輝く海が、346プロの一行を出迎えた。
「いや~っ、ここが南紀白浜か!」
イヤミPが大きく両手を広げ、潮風を胸いっぱいに吸い込む。
「宿泊先も事前に予約してありますので」
武内Pがいつもの落ち着いた口調で補足する。
「それにしても泳ぎたくなりますね」
ちひろが海を眺めながら、ちょっとウキウキした声で呟く。
「は……はぁ」
武内Pは曖昧に返しつつ、内心(仕事で来たのに泳ぐのか……?)と困惑。
「いや~、そうだね、ちひろちゃん。後で僕と一緒に泳ごう!」
イヤミPがニヤリと笑って誘うと、
「は、はい……」
ちひろは少し引き気味に頷くしかなかった。
そこへ、控えめに声を上げたのは鷺沢文香。
「あ、あの……」
彼女は手に持った本をぎゅっと握り、少し緊張した様子でイヤミPを見上げる。
「ライバル事務所のやる事は事前に分かってるさ」
イヤミPが自信満々に胸を張る。
「場所は……白良浜だ」
「!」
文香の瞳が一瞬大きく見開かれる。白良浜――南紀白浜を代表する美しいビーチ。その名を聞いただけで、鹿島乃亜の華やかなイベントが脳裏に浮かんだ。
「視察に行くぞ、武内!」
イヤミPが勢いよく指を差し、武内Pを引っ張るように歩き出す。
「はい」
武内Pは静かに頷き、文香とちひろを振り返る。
「お二人も準備を」
文香は小さく頷きつつ、内心で呟く。
「(白良浜……私に似合う場所とは思えないけれど、プロデューサーがそう言うなら……)」
一行は宿泊先の荷物を置くと、早速白良浜へと向かった。
白い砂浜に打ち寄せる波の音、遠くで響く観光客の笑い声。そして、どこからか漂ってくるイベントの準備らしきざわめき。
イヤミPはサングラスをかけ直し、ニヤリと笑う。
「鹿島乃亜の舞台をこの目で確かめてやる。そして、ゲスト出演でぶちかましてやるぞ!」
武内Pは隣で静かに息をつき、文香は本を手に持ったまま、少しだけ不安そうな目を海に向けた。
南紀白浜での戦いが、いよいよ幕を開けようとしていた――!